2-21 執行
文書21 執行
ラトサリー達がいる部屋へと続く廊下を塞ぐ様にして留まり続けていたジーナは、扉が開く音に気付いて振り向いた。予想以上に早く部屋から出て来たサーブに眉をひそめるジーナ。サーブは廊下を早足で進み、小言を言おうと待ち構えるジーナに声をかける。
「ジーナさん。勾留中の人達の御家族全員に、中庭に集まるよう伝えて頂けますか?衛兵の皆さんには俺から言いますが、何か聞かれたら俺からそう頼まれたと言って下さい」
「えっ?はっ、はい!」
ジーナは慌てた様子でその場を離れ、サーブは衛兵の待機部屋へと向かった。
中庭に集まった一同は二階のベランダに姿を現したサーブに目を向ける。サーブは皆がある程度静まった所で息を軽く吐き、声を張る。
「皆さんにお伝えする事があります。まずは、本日夕刻、ケルマー・ガイヒア侯爵を名乗る男は処刑されます。罪状は強盗を組織して行われた全ての罪と、ケルマー・ガイヒア侯爵を殺害した殺人罪です」
中庭はどよめきで包まれる。サーブは皆がある程度静まるのを待ち、再び声を張る。
「この男は、ケルマー侯爵が暗殺対策で用意した替え玉でしたが、あろう事にも本人を殺し、ケルマー侯爵になりすまし、悪行を重ねてきました。ここに勾留されている皆さんはこの男の被害者ですが、強盗に加担した事に関しては以下の刑罰が執行されます」
中庭の一同は静まり、息を飲む。サーブは息を整えてから声を張る。
「加担した者とその家族が領地から転出する事を禁じます。加担した者の孫の代からこの禁は解かれる事とします。加えて、国からの要請に応じて最大年に二回、無報酬での労働を課する事とします。この禁を犯す者や要請に応じない者は投獄され、然るべき罰が与えられます。やむを得ず転出する必要が発生した場合は速やかに行政に相談する事。皆さんに関する刑罰は以上となります。文句がある人にはケルマー侯爵を騙った男と同じ罰が下される事になりますが、文句がある人は名乗り出て下さい!」
中庭は人がいないかの様な静寂で包まれる。サーブは安堵の息を吐くと再び声を張る。
「では、次に、皆さんの勾留を解除する日程をお伝えします。この集まりが終了した後からお帰り頂いても構いません。ですが、本日夕刻以降、強盗に積極的に加担した者達の処刑が順次行われます。その影響で身に危険が及ぶ事を心配なさる方はこちらに留まって下さい。一度お帰りになって、身の危険を感じた方は遠慮せず戻って来て下さい。一カ月程度は対応する用意があります。この件はエサンカさんに窓口になってもらう事になっていますので、質問がありましたら後程エサンカさんに尋ねて下さい」
中庭はどよめきに包まれるが、変に声を上げる者がいない事に安堵したサーブは更に声を張る。
「では、最後にもう一つお伝えします!」
中庭は静けさを取り戻す。サーブは表情を和らげ、声を張る。
「強盗に積極的に加担した者達の処刑が夕刻以降に行われる事をお伝えしましたが、侯爵家や公職に関わっていた者が多く、現在、働き手を必要としています。関心がある方は七日後、庁舎にお越し下さい。集まりは以上となりますが、質問や要望がありましたら、エサンカさんに伝えて下さい。彼が声をまとめて自分の所に持って来る事になっています。では皆さん、お疲れ様でした!」
暫しの静寂の後、中庭は喧騒に包まれる。サーブは部屋に入って窓から離れると床にへたり込み、大きく息を吐く。長椅子に座ってアドエルと共に一部始終を見ていたミラテースはニヤっと笑ってサーブに声をかける。
「最後にソレだと息子に示しがつかないわよ、しっかりなさい」
「そう言われても、知らない人達に厳しい話をするのがこんな大変だなんて思ってなくて……」
「そうね。まぁ、アドエルに見せても問題無い位の出来だったから、良かったと思うわよ」
「そっ、そうですか♪ありがとうございます!」
サーブはそう言うと立ち上がり、ミラテース達の元に歩み寄るとしゃがみながらアドエルに声をかける。
「アドエル。俺、どうだった?格好良かったかな?」
「うんとね…………よくわからない」
「そっ……そう……そうか」
ションボリするサーブにミラテースは笑いを堪えながら声をかける。
「まぁ……まだあの状況を理解しろって言うのは早いと思うわよ。大きくなったら分かると思うから、その時まで我慢なさい♪」
サーブは立ち上がりながら苦笑いをミラテースに見せる。
「そ、そうですね。それじゃぁ、俺、庁舎に戻りますね」
「そう。それで、ラトサリーはどうしたの?」
「ラトサリーは……別室で休んでますよ」
「そう……分かったわ。行ってらっしゃい」
サーブはミラテースに頭を下げ、アドエルの頭を撫でてから部屋を出て行った。ミラテースはアドエルを抱えて立ち上がり、部屋を出た。
カタアギロは侯爵を騙る男が処刑されるとの一報で揺れていた。悪行に関与していた者達の捕縛が完了した街中は、安堵する声と町の今後を憂う声が入り乱れていた。侯爵の悪行を知らない振りをして利益を得ていた者達は慄き、処刑されるのが侯爵を殺した偽物だと言う話を酒の肴に盛り上がる男達は酒場で大いに羽目を外した。
サーブは庁舎に戻る前に別邸の地下牢に足を運んだ。そこには処刑される者達の家族が収監されていた。サーブは衛兵の責任者に声をかけ、収監されている者達に危害を加えようとした者は捕らえるよう厳重に言い渡し、侯爵家別邸を後にした。
住民にまだ顔を覚えられていないサーブは邪魔される事無く庁舎に戻り、ドートルと警護部部長前任者と共に地下の牢屋に向かった。捕縛されたケルマーと配下の者達はサーブとドートルの姿を見ると恨めしそうに睨んだ。二人はその視線を気にする事無くケルマーの前で止まり、サーブが罪状と処刑執行の旨をケルマーに告げると収監された者達は互いに目を合わせて大笑いし始めた。爆笑しながら蔑みに満ちた目をサーブとドートルに向ける男達に構う事無くサーブは衛兵に指示を出した。衛兵は粛々とケルマーを牢屋から出し、手枷を嵌めて口に大繩を噛ませると廊下の外で待っていた衛兵に引き渡した。ケルマーは何か大声を出していたが、何を言っているか聞き取れた者はいなかった。廊下の奥に連行されるケルマーの声は次第に小さくなり、ひと際大きな声が響いた後、廊下からケルマーの声は聞こえなくなった。牢が静寂に包まれる中、ドートルはサーブの腕を叩いて次の指示を出すように促した。だが、一向に声が聞こえないのでドートルはサーブの様子を横目で伺った。サーブは苦悶で顔を歪ませ、今にも泣き出しそうだった。見かねたドートルは頭をかきながら衛兵に声をかけた。
「……次!」




