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これ、ホントに呪いの指輪なの?  作者: 彩田(さいた)
二章 カタアギロ到着編
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2-20 報告



 侯爵家別邸の門衛は向かってくる馬車に気付き、目を凝らして御者の姿を見ると首を傾げた。先程馬車で親子を送り届けて帰った男が違う馬車でやって来たからだ。御者の気配が先程の緩い空気とは違い緊迫している事に気付いた門衛は慌てて笛を吹いた。

 オグマが馬車を門の前に止めると門衛は御者席の横に駆け寄り、オグマは笛を吹いた門衛に宮総研が襲撃を受けた事を大きな声で伝えた。門衛は慌てて馬車を中へと通し、オグマは馬車を玄関前に進めた。

 笛の音に呼応して本館の玄関から外に出て来た衛兵達は馬車を待ち構えた。オグマが玄関前に馬車を止めようとしながら衛兵達に状況を伝えると、衛兵達に動揺が走った。馬車が完全に止まった所で馬車後方からカリフの介助を受けながらミラテースとアドエルが降り、続いてミラテースの手助けを受けながらラトサリーが降りた。血で染まったラトサリーを見て動揺する衛兵にミラテースは無傷である事を告げ、ラトサリーと共に本館に入った。オグマは衛兵に警戒を強めるように告げて馬車に乗り込み、急いで宮総研に戻っていった。



 庁舎で急報を聞いたサーブは仕事を放り投げて別邸に向かった。別邸に駆け込んだサーブはラトサリー達が二階の部屋に向かったと聞き、二階へと駆け上った。廊下の奥の扉の前で女性が立っているのを目にしたサーブは廊下を走りながら女性に声をかける


「あの!ラトサリーは、いえっ、運ばれて来た女性はこの部屋ですか?」


「はっ、はい、こちらですが、いま……」


 サーブは女性の言葉を最後まで聞かずに部屋に飛び込んで声を張る。


「ラトサリーっ!だいじょ……」


 カーテンが閉められた薄暗い部屋の中程のテーブルの前でラトサリーは立っていた。血で汚れた服は床に捨てられ、血が沁み込んだ肌着を脱いだラトサリーは肌を拭いていた。足を止めてラトサリーを凝視したまま固まるサーブ。ラトサリーもサーブに顔を向けたまま硬直した。介助していたジーナは二人より先に硬直を解き、テーブルの上の手桶を取って振りかぶった。


「なーにーしてんのよーーっ!!」


ジーナが放った手桶は水で部屋を濡らしながらサーブの頭を見事に捉えた。



 サーブと早く話をしたいと言うラトサリーの意向を受けてサーブは部屋に留まる事になったが、激怒したジーナはサーブを壁際に追いやり、壁の方を向かせて床に座らせた。サーブがほんの少し首を動かして声を出そうとすると、


「後ろ見ない!!壁を見てなさい!!!」


 ジーナの怒号がサーブを襲う。サーブは肩をビクっと動かし顔を戻す。素直に従うサーブの姿を見たラトサリーは頬を赤らめながらサーブに声をかける。


「サーブ。心配して来てくれたのは嬉しいけど、扉の前に女性が控えている時の入室は慎重になさって下さいね」


「……ごめん」


 笑みを浮かべたラトサリーはジーナが用意した肌着を広げて困惑するが、サーブに悟られない様に穏やかな声を出そうと試みる。


「それで……えっと、事後処理の方は大丈夫なの?」


「えっ?それは大丈夫。決める事は決めたし、ここに留まっているみんなに伝える事もあるし、ドートル部長も行ってこいって言ってくれたから」


 ラトサリーはジーナが用意した上着を広げて更に困惑するが、サーブに悟られない様に穏やかな声を出そうと再度試みる。


「そっ、そうですか……それで、ざ……残党の捕縛具合は如何です?」


「そうだね……別邸にいるみんなから教えて貰った関係者の捕縛は昨日の朝の時点で完了したよ。そこから更に情報を得て、今日で残党狩りは完了と思っていたんだけど……」


 ラトサリーはジーナに冷たい視線を向けるが、ジーナは何故か意気揚々と頷き返してラトサリーに着替えを促す。ラトサリーは諦めて上着に腕を通しながら口を開く。


「彼らの方が……一足早かった、という事ね?」


「そうなんだ……襲撃を止められなくて……申し訳ない」


「それは仕方ないわよ。それで、刑の執行までどれ位かかりそう?それまで別邸に避難するのはどうかってミラテースに言われてるんだけど」


「どれ位って、今日の夕方に侯爵が処刑されて、二日位で全て終わる事になってるよ」


「えっ?随分早いわね。少人数だったの?」


「いや、結構いたよ。通常だったら十日程度かかる位だよ。暫く人材不足が問題になると部長が悩んでいたよ」


「そうなの?何か急ぐ必要が…………って、まさか……サーブ?」


「……そのまさかだよ、ラトサリー。ルイーゼ様は君の案を選んだんだよ。それで急ぐ事になった」


「そんな……どうして……」


 困惑の色を深めるラトサリーに顔を向けようとするサーブの前にジーナが立ち塞がる。サーブは慌てて壁に向き直って口を開く。


「お……俺も驚いたんだけど、『子供には、あんな事をした男の血が流れていると思いながら成長して欲しくない』と聞いて、何か納得してしまったよ」


「そっ……そう……ね。言われてみれば、確かに……」


 そう言ったラトサリーは着終えた服の着心地を確認しながら苦笑いを浮かべる。ジーナはカーテンを半分開けてラトサリーの姿を見ると満面の笑みを浮かべ、サーブに声をかける。


「サーブ様、もう良いですよぉ♪お待たせしました♪」


 サーブは立ち上がってラトサリーの方を向いて話の続きをしようとするが、ラトサリーの姿を凝視して再び固まる。サーブの様子を見てジーナは得意げに頷く。


「正しい反応ですよ、旦那様♪」


 サーブの視線を受け続けるラトサリー。肌着が見えそうなスカートと、布地が極度に少ない腹部と、露出した肩と、パックリ開いた胸元。ラトサリーはスカートの丈と胸元を気にしてモジモジしながらジーナに顔を向ける。


「ねぇジーナ、やっぱりこの服は動き難いと思うの。別の服は無いの?」


 ジーナは極度に芝居がかった残念そうな顔をラトサリーに向ける。


「この服しか無かったの。今、あなたの身の丈に合う服は、この屋敷の特定の侍女の為の制服だけだったの♪本当に残念だわ♪」


「なんで嬉しそうなの、ジーナ……」


 ラトサリーは冷たい視線をジーナに向けるが、ジーナは正面からその視線を受けつつラトサリーに近づき、耳元で囁く。


「ラトサリー。大変だった事は旦那様に忘れさせてもらうのが一番よ♪暫くこの部屋には誰も近づかせないから、安心して頂戴♪」


 一気に耳まで赤くさせるラトサリーを放置してジーナは扉へ駆け出し、扉を開けると振り向いてサーブに声をかける。


「旦那様!暫くこの部屋には誰も来ませんから、しっかりラトサリーを慰めてあげて下さいよ♪」


 ジーナはそう言い放つと扉を閉め、扉の前にいる女性を連れて部屋を離れていった。部屋に残された二人は顔を赤くして言葉を出せずにモジモジしていたが、意を決したラトサリーが沈黙を破る。


「あ、あの……サーブ?」


「な……なに?」


「あの……ジーナなんだけど……彼女、私達の事情を知らないから……許してあげて」


「あ……あぁ、勿論」


「あとね……サーブ」


 ラトサリーはそう言うと俯いてサーブの前にゆっくり歩み寄る。


「な……なに、ラトサリー?」


「その……試してみない?」


「な……なにを?」


 耳を赤くさせたラトサリーはサーブの半歩前で止まり、俯いたまま口を開く。


「その……触っても大丈夫か……試してみない?」


「えっ……でも、昨日……いや、一昨日か、苦しそうだったし……」


「そ……そうね……でも、こういう状況では……試した事は無かったし」


「そ……そうだね…………わかった」


 サーブはそう言うと半歩前に踏み込み、ラトサリーの露出した両肩に手を置く。


「んっ……」


 ラトサリーの肩はピクっと上がり、俯いたままのラトサリーの呼吸は次第に速くなり、サーブの手に震えが伝わり始める。サーブは寂しそうな顔でラトサリーに声をかける。


「今日はこれで止めよう……頑張ってくれてありがとう、ラトサリー」


 そう言ってサーブは肩から手を離そうとするが、ラトサリーは右手でサーブの左腕の袖を掴むと上目遣いで口を開く。


「続けて……お願い」


 ラトサリーから潤んだ目を向けられたサーブは息を飲み、彼女の肩を強く掴んだ。





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