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これ、ホントに呪いの指輪なの?  作者: 彩田(さいた)
二章 カタアギロ到着編
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2-18 短剣

この話は血の臭いが強いです。




 母屋に逃げ込んだラトサリー達。ラトサリーは扉にカンヌキをかけ、壁にかけてある剣に手を伸ばす。ミラテースは部屋の奥に進みながらラトサリーが大剣を手にしたのを見て呆れ顔で口を開く。


「アンタ、そんな大きな剣、部屋の中で振れないでしょ!そこの短剣にしなさい!」


 ミラテースが顎で指した先の壁にはもう一振り、フレールから渡された短剣が飾られていた。ラトサリーは困り顔をミラテースに向ける。


「えっ?でも、この剣はフレール様達から頂いた物だし、傷つけたくないし……」


「いいからそっちにしなさい!振れない剣なんて害悪以上の悪よ!」


 叱り付けてくるミラテースの勢いに負けたラトサリーは不満気に大剣を壁に戻し、短剣を取る。手にした短剣の軽さに不安げな息を吐くラトサリー。部屋の奥の扉を開けたミラテースは振り向いてラトサリーに声をかける。


「部屋から剣を取って来るから、どうにか耐えていて」


 そう言ったミラテースは扉を閉めずに自室へ向かう。一人になったラトサリーは玄関扉に駆け寄り、外の様子に聞き耳をたてる。すると、走って近づいてくる足音が聞こえ、足音は益々大きくなり玄関の前で止まる。


《 ドゴンッ!! 》


 扉を襲う衝撃と音にラトサリーは後ろによろける。


《 ドゴンッ!!ドゴンッ!! 》


 加わり続ける衝撃に扉の蝶番とカンヌキの金具が軋み、少しずつ歪み始める。ラトサリーは慌てて扉に飛びつき、左手で短剣を持ったまま体をカンヌキと扉に押し当てて扉を守ろうとする。


《 ドゴンッ!!ドゴンッ!!ドゴンッ!!ドゴンッ!! 》


 衝撃による金具の歪みは収まったが、代償としてラトサリーの体は激しい衝撃に襲われる。衝撃がラトサリーの臓腑を揺する度に彼女の頭の中で【 ティロン♪ 】と音が鳴る。ラトサリーは体を襲う衝撃に歯を食いしばって耐えながら扉を押さえ続ける。すると、一定間隔だった衝撃が不意に止まり、ラトサリーは眉をひそませる。


《 ドゴンッ!! 》


 今度は扉の左側に打撃が加えられ、金具が僅かに歪む。ラトサリーは扉を押さえる位置を左にずらすが、今度は扉の右側に打撃が加えられ、カンヌキの金具が大きく歪む。ラトサリーは焦りで顔を歪ませる。


《 ドゴンッ!!ドゴンッ!!ドゴンッ!! 》


 一撃毎に場所が変わる衝撃に金具は歪み、ガタツキ始めた扉がラトサリーに更なる衝撃を伝え始めるとラトサリーは焦燥感に襲われる。短剣を帯びて戻って来たミラテースはラトサリーの焦りを感じ取り、慌ててアドエルを降ろしながら口を開く。


「待たせたわね!手伝うわ!」


「ダメっ!もう壊れそう!アドエルを連れて逃げて!!」


「何言って……」


《 ドゴンッ!!ドゴンッ!!ドガッ!! 》


 蝶番部分が完全に破壊された音がミラテースの言葉を遮る。ラトサリーは顔を少しミラテースに向ける。


「あなたなら確実に逃げられるからっ!!」


 ラトサリーはそう叫ぶと押さえていた扉から離れ、部屋の奥の扉の前にいるミラテースへと駆け寄る。


《 ドゴッ!ドバンッ!! 》


 破られた扉は室内に音を立てて倒れる。ラトサリーはミラテースとアドエルを廊下へと突き飛ばして扉を閉め、玄関の方に体を向ける。薄暗い室内にゆっくり入って来た男は部屋を見回し、部屋の奥の扉の前で剣を握るラトサリーに目を留める。男は自分より頭二つ分ほど小さいラトサリーの手に握られた短剣に目を向け、ニンマリ笑うとラトサリーに呼びかける。


「武器を捨てろ。大人しく人質になってくれれば悪いようにはしないぞ」


 男はそう言うと足元に転がる扉を軽く蹴り、剣を抜くとゆっくりとラトサリーに近づく。ラトサリーは剣を抜いて鞘を部屋の端に投げ捨て、両手で剣を握ると男に向かって構える。男はその剣を見ると鼻で笑い、一間合い程距離を取った所で足を止めてラトサリーに剣を向ける。


「そんな変な剣でどうするつもりだ?怪我はしたくないだろ?武器を捨てろ」


 ラトサリーが握る両刃の短剣の剣先は偏心していて角度も鈍かった。男は蔑むような目をラトサリーに向ける。ラトサリーは男を睨み返して息を大きく吸うと歯を食いしばって床を蹴り、男の間合いに飛び込んで剣を右上に振りかぶる。男は余裕の顔で剣を上に構えて受け止めようとする。重みを全く感じさせないラトサリーの剣は勢いよく男の剣目掛けて振り下ろされる。


《 スンッ! 》


 ラトサリーの剣は軽やかな音と共に斜め下に振り下ろされる。ラトサリーは衝撃が手に伝わってこない事に戸惑い、一歩下がって剣を構え直すがそれと同時に、


《 トスッ 》


 床に物が落ちる音が鳴り、ラトサリーは更に一歩下がって男に目を向ける。男は怪訝な顔で綺麗に切られた自分の剣の断面と床に落ちた剣身に目を向けていた。だが、男の目にラトサリーの姿が入ると、男は短くなった剣を手に持ったまま不快な笑みを浮かべてラトサリーに飛びかかろうとした。その途端、男の体が先程のラトサリーの剣の軌跡を境にして斜めにズルッとずれ、胸から上が後ろに落ちる。男の胸から下の体は脈動と共に断面から血を吹きながらラトサリーに向かって突き進む。反射的にラトサリーは横に退いて男の体を紙一重で避けるが、断面から吹き出す血が服と髪を汚す。男の体は扉にぶつかると足を動かしながら床に崩れ落ち、壁と床を血で染める。ラトサリーは思わず目を逸らすが、その先の床に転がる男は白目をむき、口から血と泡をこぼしながら痙攣していた。目を強張らせて後ろによろけるラトサリー。ラトサリーの背中が壁にドンっと当たると同時に、


《 ガフっ 》


 男の口から血が音を立てて吹き上がり、男の腕が不自然に震える。ラトサリーの目の前の光景は彼女の限界を超えた。


「い…………イヤ……」


「…………イヤァァーーーーーッ!!!!」


 ラトサリーの絶叫が部屋の外まで響き渡る。肩で息をしながら天井を仰ぎ見るラトサリー。壁に寄りかかり茫然とするラトサリーだったが、外から話し声が聞こえると玄関の方に顔を向ける。カトラの声だと気づいたラトサリーはおぼつかない足取りで声がする方へと歩き出した。





 母屋から姿を現したラトサリーの服と髪は血で染まり、右手には短剣が握られていた。カトラと対峙していた男はラトサリーの後ろに目を向け、誰もいない事に焦りを顔に浮かばせる。カトラも同様にラトサリーの後ろに目を向け、眉間にシワを寄せる。涙目のラトサリーは右手の剣を強く握り、震えを堪えながらカトラに問いかける。


「カ……カトラぁ……この……この剣、何なの?」


 カトラはその言葉で状況を察し、ラトサリーへと歩み寄りながら意地悪げな笑みを浮かべる。


「あなた、所長から聞いて無かったの?それ、パラマカッディよ♪」


「パ?パラ……?なんて?」


「だから、パラマカッディよ。パ・ラ・マ・カッ・ディ♪」


 カトラが陽気に答えていると、男は先程飛ばされた剣を拾いに走り出す。カトラは男の動きに目を向け、玄関に着くと困惑するラトサリーに手を差し出す。


「ちょっとその剣、貸して♪」


「えっ?えぇ」


 素直に剣を渡すラトサリー。受け取ったカトラは剣を持つなり嬉しそうに口を開く。


「聞いていた通りとはいえ、この軽さは異常ね♪凄いわね、パラマカッディ♪♪」


「カトラ?その、パラマ……カッディ?どんな剣なの?」


「どんな剣って……あなた……」


 不安げに尋ねるラトサリーにカトラは悪い笑みを見せる。


「あなた、一度見た事あるでしょ。思い返してみなさい♪」


 カトラはそう言うと向きを変え、剣を拾った男の方に歩き出す。ラトサリーは眉をひそめながらカトラの背中を見送る。男はカトラが先程までと違って緊張感を全く感じさせない事に怒りを覚え、駆け出してカトラに切りかかる。振り降ろされた男の一撃を躱したカトラは一歩踏み込んで無造作に剣を横に振る。男は横に飛び退きながら剣で横薙ぎを受けようとするが、


《 スンッ! 》


カトラの剣は何も無かったかのように振り抜かれる。男の剣は綺麗な切断面を見せながら地面に落ちていく。男は手元に残された剣に目を丸くさせながら着地する。男の靴底が地面を捕らえたその時、


《 ズリッ 》


カトラの横一閃の軌跡より上部の男の体が粘り気のある音を立てて横にズレる。横薙ぎと同時に後ろへ大きく飛び退いたカトラは母屋の玄関へと歩き出し、ラトサリーに声をかける。


「どう?思い出した?」


 そう口にしたカトラの後ろで男の胸部から上が傾き、切り離された体は切断面から血を拭き上げながら崩れ落ちる。太陽の下、鮮明に赤く染まる地面の上で男の下半身が不自然に動く光景にラトサリーは目を背けて震え出す。カトラはラトサリーの様子を見て呆れ顔で口を開く。


「予想の範疇でしょ?見ないか覚悟するかしなさいよ。何よ、その反応は」


「……予想?……出来る訳ないでしょ!本当に何なのその剣!!そんな短剣、知らないわよ!!!」


 怒気が宿った目を向けられたカトラは呆れ顔のまま溜め息をつくが、ふと目を上に向けると立ち止まって苦笑いを浮かべる。ラトサリーは怒った勢いそのまま口を開く。


「どうしたのよ!何よその笑いは!!」


「……ごめん、ラトサリー。あなたが見た事があるのは、剣が長い時だったわ」


 珍しく申し訳なさそうな顔をするカトラの言葉にラトサリーは目を丸くする。


「っ?……長かった?」


「そうそう、長かったのよ。本当にゴメンなさいね♪切れ味を目の当たりにした直後に銘が付された剣だと聞けば、あなたなら直ぐに気付くと思って♪」


 苦笑いしながらカトラは頭を下げると再び歩き出し、ラトサリーの横を通って母屋に入る。ラトサリーは目を泳がせながら再び記憶を辿り始める。

母屋から鞘を手にして出て来たカトラは鞘の中を覗き込みながら呟く。


「中は大丈夫そうね……」


 そう言って剣を鞘に納めたカトラにラトサリーは引きつった顔で尋ねる。


「ね……ねぇカトラ……宮総研って、金属の加工ってどれ位出来るの?」


「その質問をしてきたって事は、気付いたようね♪まぁ、町の鍛冶屋と同じ位の設備は整えているんだけど、この剣に限って言えば、試しに加工したら出来ちゃったって言うのが正直な所ね♪」


 にこやかに答えるカトラとは対照的にラトサリーは顔を益々引きつらせる。


「それじゃぁ……この剣は、あの時の……」


「正解よ、ラトサリー♪手にした者に重さを感じさせず、望めば鉄さえ音を立てずに切り裂くと云われる剣の名前はパラマカッディ。あの時折れた聖剣を仕立て直したのがその剣よ♪」





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