2-12 二択
朝食後に侯爵家の処遇について打ち合わせをする事にしていたサーブとドートル。ドートルは庁舎に用意してもらった部屋に現れたサーブの顔を見るなり怪訝な顔で疑問をぶつける。
「おい、サーブ。その頬はどうした?」
「いえ……ちょっと……」
言い淀むサーブの後ろで笑いを堪えるカトラと呆れ顔のラトサリー。ドートルはサーブに更なる疑問をぶつける。
「それに、お二人はどうしてこちらに?」
「そっ、それは、案を考えてくれた二人にも会合に参加してもらって詳細を詰めた方が良いと思いまして」
「そうか!考えついたのか♪」
ドートルはカトラとラトサリーに顔を向け、部屋の中央にあるテーブルを手で指しながら口を開く。
「それではお二人もお掛け下さい。会合を始めましょう」
ミラテースに左頬を思いっ切りつねられたサーブ。トボトボと席に戻ったサーブは会合への参加をカトラに依頼した。当然の様に断るカトラ。サーブは三度立ち上がり、ミラテースのご機嫌を伺いながらゆっくりとカトラとの距離を詰めようとした。色々察したカトラは悪い笑みを浮かべて立ち上がるとミラテースの傍に移動した。近寄る事を躊躇するサーブに勝ち誇ったような笑みを向けるカトラ。眉間にシワを寄せ始めるミラテース。見かねたラトサリーはカトラに取引を申し出た。
三人の対面に座ったドートルはサーブに顔を向ける。
「サーブ。先に白状しておくが、俺は何も思いつかなかったからな。この場での俺の役割は、出て来た案にアレコレ言う事だからな」
「え?……マジっすか……」
サーブは露骨に顔を引きつらせる。ラトサリーは僅かに眉をひそめ、ドートルに顔を向ける。
「あの、コンデッド様。お尋ねしても宜しいでしょうか?」
「お、何でしょう?何でも気兼ね無くどうぞ」
「ありがとうございます。では……コンデッド様はサーブから良い案が出て来なくても、何ら問題無い様に何か案をお持ちだったからサーブにこの件を任せた、という訳では無いと言う事ですか?」
「あぁ。全くな」
ラトサリーは僅かに動揺を顔に浮かべながら更に尋ねる。
「ではなぜ、コンデッド様はサーブにこの件をお任せになられたのですか?」
「いや、それが……」
ドートルは決まりが悪そうな笑みをラトサリーに向ける。
「俺は、最初から今回の件をサーブに任せようと思っていたんですよ。新任の治安維持責任者として厳正に対処すれば、表立って見下してくる輩の数も減ると思いましてね。ですが、当主は全く関わっていないし、当主があそこまで素直に頭を下げて来るなんて線は全く考えてなかったんですよ。挙句に、サーブは一晩とか言って時間を切ってしまうし……」
ラトサリーは苦い顔でドートルに頭を下げる。
「サーブが状況を悪くして申し訳ありません」
「いや、頭を上げて下さい。その御陰で、お二人の力をお借り出来たのですから」
ラトサリーが頭を上げるのを待つドートル。二人の会話が途切れた隙間にカトラはムスッとした顔で割って入る。
「お二人さん、社交辞令はそろそろ終わりにしてくれない?早くして欲しいんだけど」
ドートルは目を丸くしてカトラに顔を向け、苦い顔で口を開く。
「そっ、そうですね。それでは始めましょう」
ドートルは仕切り直すかのように息を軽く吐き、サーブに顔を向ける。
「サーブ。どんな案を出してもらったか教えてくれ」
「はい。まず、カトラさんの案ですが……」
サーブはカトラに顔を向ける。
「カトラさん。カトラさんの案をお話し下さい」
カトラは誰もいない方に目を逸らしながら口を開く。
「私の案は……条件を満たしていないの。当初の予定通り、人質を取られて加担した人達以外の裁きは粛々と行う。ケルマーと加担した者達は処刑、侯爵家は全て没収で取り潰し。領地は王家直轄で管理。当主と子供達はフレール様の名の下、宮総研の庇護下に置いて用意した土地で謹慎。没収した資産は当主達の生活費と被害者への補償に当てる、って、こんな所ね……当主の爵位は守れないのよ、私の案ではね」
説明を終えたカトラはラトサリーに顔を向け、怪しく微笑む。
「それじゃぁ、ラトサリー。あなたの案を聞かせてもらうわよ。約束通りにね♪」
ラトサリーは少し困った顔でカトラを見返す。
「そうね……でも、笑わないでよね。あなたに聞かれたら物凄く馬鹿にされそうって思ったから言わないでいたんだから……」
「大丈夫よ。言ったじゃない、『笑う訳ないでしょ』って」
鼻で笑いながらそう言うカトラに不安を覚えつつラトサリーはサーブに顔を向ける。
「サーブ。宜しくお願いします」
「え?ラトサリー、君が話してよ。その方が早いし確実だから」
「え?でも……」
困り顔のラトサリーにドートルは笑みを向ける。
「ラトサリーさん、サーブの言う通りです。お話し下さい」
二人から笑顔を向けられ諦めたラトサリーは軽く息を吐き、姿勢を正して口を開く。
「私が思いついた案は……今回捕縛されたケルマー侯爵は替え玉で、本物は替え玉によって既に殺されていた事にする、と言うモノです。そうすれば、侯爵家の者は悪事に一切関与していないと言い張れますし、裁定を当主様自ら行う事も出来ます。国から多少の制裁を科される可能性はありますが、爵位剥奪は回避出来ると思います」
言い終えたラトサリーはドートルとカトラの様子を伺う。ドートルは口を半開きにして目を泳がせていた。カトラはラトサリーに体を向け、満面の笑みを浮かべていた。カトラはラトサリーと目が合うと嬉しそうに口を開く。
「良いじゃないラトサリー♪あなた、悪い女ね♪」
「……褒めてないわよ、それ」
「え?褒めてるって♪大絶賛よ♪ご褒美に撫でてあげる♪」
「やめてって、ちょっと♪」
抵抗しながらも嬉しそうなラトサリー。ラトサリーの髪がボサボサになった頃、ドートルは自分の顎をつまみながらラトサリーに声をかける。
「ラトサリーさん、宜しいでしょうか?」
ラトサリーとカトラは動きを止め、カトラは満足気にラトサリーから離れる。ラトサリーは髪を整えながらドートルに体を向ける。
「はい、コンデッド様。何でしょうか?」
「ドートルとお呼び下さい。それで、その……その嘘を通すのは難しいと思うのですが」
「私のことも『さん』付けせずに『ラトサリー』とお呼び下さい、ドートル様。ドートル様がそう仰るのも無理はありません。ですから、無理を通す為に各自がしっかり役割を果たす必要があります」
「そうですか。その様子だと既に考えは巡らせてある、と言う事ですか」
ドートルはそう言うとサーブに顔を向ける。
「サーブ、詳細に関しては十分把握しているのか?」
「はい、昨晩しっかり説明してもらいました」
サーブの自信に満ちた態度を見たドートルはラトサリーに目を向ける。ラトサリーが無言で頷き返してきたのでドートルは笑みを浮かべて立ち上がり、サーブに声をかける。
「そう言う事なら、行こうか。ルイーゼ様も気を揉んでらっしゃるだろうし。詳細は向かいながら教えてくれ」
「はっ、はい!」
サーブの返事に頷いたドートルはカトラに顔を向ける。
「カトラさん。あなたも御同行頂けますか?」
「えーっ!嫌ですよ、面倒くさい」
「いや、そこを何とか。宮総研の名が出てきますし、当主への挨拶のついでって事で」
「あぁ……挨拶ね……まぁ、そう言う事なら」
カトラが渋々了承した事に安堵したドートルはラトサリーに顔を向ける。
「ラトサリー。あなたも御同行頂けますか?サーブが返答に困った時に補助して頂きたい」
「そうですか……承知致しました」




