2-11 翌朝
朝食を持って二階の部屋に現れたサーブ。テーブルを囲んで皆で食べ始めるが、女性三人の間に流れる空気の重さにサーブは戸惑う。サーブは三人の様子を伺い、ラトサリーとカトラの額をチラッ、チラッ、と見ながら二人に尋ねる。
「ラトサリー、カトラさん。二人とも、その……おでこはどうしたの?」
「「……ミラテースにぶたれた」」
しょんぼり気味に声を揃えて答えるラトサリーとカトラ。ミラテースは眉をピクピクさせながら二人を睨む。
「アドエルが寝てるのに騒ぐからでしょ……アンタ達、反省の色が全く見えないんだけど
……」
ミラテースが握る木製のスプーンが《 ミシッ 》と悲鳴を上げる。ラトサリーとカトラはミラテースから目を逸らしてパンを口に運ぶ。ミラテースはパンにジャムを塗りながら軽く舌打ちをして呟く。
「今日もここに泊まる様なら部屋を分けてもらおうかしら……」
ミラテースの漏らした言葉にラトサリーは慌ててミラテースに顔を向ける。
「もう騒がしくしません!一緒の部屋に居て下さい!!」
ミラテースは意外そうな顔でラトサリーに目を向ける。
「ヤケに素直じゃない。でもアンタ達、仲良さそうだし、二人で賑やかにヤッてる方が楽しいんじゃない?」
「いいえ!みんな一緒が良いです!一緒にいて下さい!!」
懸命なラトサリーにミラテースは冷たい視線を向けながら口を開く。
「アドエルが寝る時は静かにするのよ。分かったわね?」
「はい分かりました!!」
「まったく……しょうがないわね」
ミラテースは呆れながら笑みを浮かべ、アドエルにパンを渡す。アドエルは屈託の無い笑顔をミラテースに向ける。
「ありがとう、ミラ♪」
美味しそうにパンを頬張るアドエルの向いで胸を撫で下ろすラトサリー。隣のカトラは指でラトサリーの腕をツンツンと突きながら不満気な顔を向ける。
「なによラトサリー……私と二人っきりは嫌?……寂しいじゃない……」
ラトサリーは横目でラトサリーを睨む。
「あのねぇ……裸で襲ってきて肌着まで剥ぎ取ろうとする人と二人っきりなんて、そっちの気が無くても怖いわ……」
「えぇー!良いじゃない、寝具の肌触りの良さを共有したかっただけなんだから♪そっちの気なんて全く無い訳だし……」
「カトラさん!ちょっと!!」
突然サーブは声を張って会話を遮り、眉間にシワを寄せたサーブはカトラに冷たい目を向ける。
「何を……してるんですか……」
サーブは無機質な声でそう言うとゆっくり立ち上がる。カトラはサーブの異様な気配に寒気を覚え、椅子から離れてサーブからテーブルを挟んだ反対側に逃げながらサーブに呼びかける。
「サ……サーブ?どうしちゃったの?……ちょっと……とりあえず座ったらどう?落ち着きなさいよ」
サーブはゆっくりカトラへと向かいながら顔を小刻みに震わせカトラを睨む。
「本当に……何してくれてるんですか……」
カトラは顔を引きつらせ、サーブからテーブルを挟んだ反対側の位置を保ちながら呼びかける。
「いやっ……サーブ?何って……大丈夫よ、そう言う事をしようとした訳じゃ無いから……」
「全然……大丈夫じゃないですよ……ちょっとそこら辺、じっくり話をしましょうよ……」
サーブはそう言うと少しずつ歩く速さを上げていく。
「いやいや、話をしようって顔じゃないわよサーブ……」
カトラはそう言いながらサーブからテーブルを挟んだ反対側の位置を保ち続ける。二人は睨み合いながらテーブルの周りをグルグル回り続ける。ミラテースは呆れ顔でアドエルの世話を続けていたが、二人が一向に止まる気配が無い事に溜め息をついて立ち上がるとサーブの前に立ちはだかる。慌てて止まったサーブにミラテースは静かに微笑みかける。
「サーブ。アドエルが食事中なんだから。座って頂戴」
サーブは苦い顔をしてミラテースを睨むが、ミラテースの目が笑っていない事に戦慄を覚えてたじろぐ。気を削がれたサーブは溜め息をつき、トボトボと席へ戻ってゆく。サーブが座ってパンを手に取った事を確認したカトラは安堵の息を吐いて席へと戻った。ラトサリーはカップにお茶を入れ、カップをサーブの前に置きながら声をかける。
「サーブ。怒ってくれるのは嬉しいけど、そんなに怒らないであげて」
サーブは目を丸くしてラトサリーに顔を向け、ラトサリーは微笑みながら口を開く。
「侯爵夫人達の事、カトラも考えてくれたみたいなの。だから怒らないであげて。ね?」
サーブは目を益々丸くさせながらカトラに顔を向ける。カトラが少し気恥ずかし気にサーブから目を逸らすと、サーブは笑みを浮かべてカトラに声をかける。
「カトラさん!ありがとうございます!!」
サーブはそう言うと笑顔のまま立ち上がり、手を差し出しながらカトラへと歩み寄る。カトラは慌てて椅子から離れ、サーブから距離を取りながら不安げな顔で声を上げる。
「何?何よ?今度は何よ?」
サーブはカトラを追いかけながら笑顔で首を傾げる。
「え?何って♪感謝の握手をしようと……」
「イヤイヤ、いらないから、って、そうやって捕まえようって言う目論見でしょ!」
「そんな訳無いじゃないですか♪あんなに嫌がってたのに考えてくれたなんて、感謝を表したいじゃないですか♪」
二人がテーブルの周りを回る速度が徐々に上がっていく。
「だからって、そこまでしないでも良くない?言葉だけで十分よ!」
「それだと俺の気持ちが収まりません!!」
「収めなさい!!そもそも何なの!その感情の起伏は!怖いわよ!」
カトラは怯えた目をサーブに向けてそう言うと、ラトサリーに顔を向け呼びかける。
「ちょっと!ラトサリー!何とかして!!」
ラトサリーは呆れ顔でサーブに声をかける。
「サーブ。嫌がってるんだから止めてあげなさいよ」
サーブは聞こえていない様子で足を止める事無くカトラを追い続ける。止まる気配を見せないサーブに溜め息をつくラトサリー。すると、サーブの前にミラテースが再び立ちはだかる。慌てて止まったサーブにミラテースは殺伐とした眼差しを向けて口を開く。
「さっき言ったわよね……」
ミラテースはサーブに右手を伸ばした。




