2-7 采配
サーブに倒された男達は手枷を嵌められた。男達は意識を取り戻した順に鎖で繋がれ、最後にケルマーが鎖に繋がれた頃、部屋に女性が飛び込んできて声を張る。
「ケルマー?!ケルマー?!!」
男の執事を引き連れ、質の良いドレスを纏った女性は部屋を見回す。拘束されたケルマーを見つけた女性は大きな足音をたてながらケルマーの元に向かう。ケルマーは女性に向かって声を上げる。
「ルイーゼ!どうにかしてくれ!」
執事が動こうとするのを手で制した女性はケルマーを拘束しているサーブの前で止まり、睨みつける。
「中央の部長と言うのはお前か?」
サーブの横からドートルはルイーゼに向かって口を開く。
「それは私です。ガイヒア家当主、ルイーゼ・ガイヒア侯爵閣下」
ルイーゼに目を向けられたドートルは深く礼をしながら口を開く。
「警護部部長、ドートル・コンデッドです」
ルイーゼは軽く息を吐き、再びケルマーに目を向ける。
「それで?なぜ其方は拘束されている?」
「知らん!私は何も知らん!何か勘違いをされているんだ!!」
ルイーゼは眉をひそめ、ドートルに体を向けて口を開く。
「頭を上げよ、ドートルとやら」
ドートルが頭を上げると、ルイーゼは強い圧を感じさせる目をドートルに向けていた。ルイーゼは眉をひそめたまま口を開く。
「どういう事か説明せよ」
「はい。この男、ケルマー・ガイヒアは盗賊を組織し、公金輸送隊を襲撃しました」
ルイーゼは眉間のしわを深め、ドートルに尋ねる。
「それで、ケルマーが盗賊を組織した証拠は?」
「はい。まず、捉えた野盗達の証言です。半数以上の者が家族を人質に取られ仕方なく従っていたと証言しました」
「それだけか?」
「いいえ。人質は侯爵別邸で監禁されているとの事でしたので、ここに来る前に立ち寄って解放しました」
「……それだけか?」
「いいえ。襲撃者は私が隊列にいる事を知っていました。今回の輸送者が私だと知っているのは中央の部長三名と、共に旅をした同行者、後は公金輸送の件を私が予め伝えたこの男だけです」
ルイーゼは顔を曇らせ始める。
「証拠と言うのはそれで終わりか?」
「いいえ。ここに来る前に捕らえた大将を軽く聴取しましたら、素直に答えてくれました」
ルイーゼは右手で頭を押さえながらドートルを睨む。
「それで、物証は?」
「物証、ですか……別邸を人質監禁に使用していた、と言うのは物証に当たると思いますが」
「別邸は自警団に宿舎として使ってもらっていた。彼らが別邸を根城にして悪事を働いていたのだろう。ケルマーの……当家の関与の証拠とはならないだろう。それで、物証はお主の手元あるのか?」
「いえ……それは……」
ドートルは言葉を詰まらせ、ルイーゼから目を逸らす。ルイーゼはホッと息を吐き、口を開く。
「ケルマーと当家が関わった物証が無い、と言うならこの件は当主である私に任せてもらおうか。そなた達、狼藉者を捕らえてくれて礼を言う。下がって良いぞ」
ドートルはルイーゼから目を逸らしたまま口角を上げて口を開く。
「それが……物証は別働隊が保管しておりまして」
ルイーゼは驚いた顔で言葉を漏らす。
「な……なんだと……」
「賊の大将の馬具一式と剣に当家の紋が施されておりました。本人共々中央に持ち帰り審議すれば、侯爵家が盗賊を組織して公金輸送隊を襲撃した、と言う結論に至るでしょう」
ルイーゼの顔から血の気が引いていく。ドートルは口を止め、ルイーズの反応を伺う。暫し動きを止めていたルイーズはゆっくりとケルマーの方を向き、冷たい目でケルマーを見つめる。ケルマーは狼狽えながら口を開く。
「おい、ルイーゼ、どうにかしてくれ。このままでは……」
《 ぺチンッ! 》
ルイーゼの平手打ちがケルマーの頬に当たる。驚いたケルマーはルイーゼに目を向ける。
「お、おい、ルイーゼ……」
《 ペチンッ! 》
「おい……」《 ペチンッ! 》「お……」《 ペチッ! 》「……」《 ペチッ! 》
《 ペチ! 》 《 ペチ! 》 《 ペチ 》 《 ペチ 》
ルイーゼは目に涙を滲ませ、肩で息をしながら悔しそうにケルマーを睨む。
「お父様の遺言で貴方の遊びに口を挟まないでいたのに……別邸で女を囲っている様なのも気付かぬ振りをしていたのに……人質って!火遊びの域を超えているではないか!!」
《 ペチ! 》
「しかも盗賊?!家紋が入った器具を使わせただと!!ここまで愚鈍だったとは!!」
《 ペチッ! 》
「何回か内々に処理した案件もあったが!こんなの!どうにか出来る訳ないではないか!!この家は終わりだ!!!」
《 ペチンッッ!! 》
目を赤くさせたルイーゼは大粒の涙をこぼし、肩を震わせながら泣き崩れる。狼狽える執事を手で制したドートルはルイーゼの横に屈み、穏やかな声で語りかける。
「今回の件は新任の治安維持責任者であるサーブ・ランダレアに任せようと考えています。この男は情に厚い男です。決して悪いようには扱わないでしょう」
ドートルはそう言ってサーブを手招きする。サーブはそれに応じてルイーゼの前に膝をついて屈み、頭を下げる。
「新たに赴任したサーブ・ランダレアと申します」
顔を両手で覆っていたルイーゼは手を顔から放し、クチャクチャになった顔をサーブに見せる。
「お前が……新任か?頭を上げ……上げよ」
言われた通りサーブは頭を上げ、穏やかな顔をルイーゼに向ける。ルイーゼは涙を拭う事無く口を開く。
「た……頼みがある」
ルイーゼは嗚咽を堪えながらそう言うと、サーブに向かって深く頭を下げる。
「子供達を、子供達を助けて欲しい!あの子達は何も知らないし、何も関係ない!!」
サーブは困り顔をドートルに向ける。ドートルは何も言わずニヤリと笑みを返して立ち上がり、鎖で繋がれた男達の連行準備を始める。サーブはドートルの背中に不満げな目を向け、小さく溜め息をついてからルイーゼに声をかける。
「ルイーゼ様、頭を上げて下さい。お教え頂きたい事があるのですが、宜しいでしょうか?」
ルイーゼは勢いよく頭を上げ、なりふり構わない様子で口を開く。
「何だ?何でも言うぞ」
サーブはルイーズの勢いに多少たじろぎながら尋ねる。
「ルイーゼ様は別邸の事をどの程度把握されておられたのでしょうか?」
ルイーゼは顔を歪ませ俯きながら答える。
「別邸は……自警団の宿舎にするから近づくなと言われていた。ケルマーが度々別邸で夜を明かすようになり……女を連れ込んでいるのだと思っていた。ある程度の火遊びと思って黙認していたのだが……まさま…………」
「言い難い事を教えて下さりありがとうございます。もう一つ、教えて頂きたいのですが」
ルイーゼは憔悴した顔をサーブに向ける。
「何だ?遠慮は無用だ」
「あなた様が真実を話す事を信じてお尋ねします……」
そこまで言ったサーブはルイーゼから目を逸らして口を開く。
「……ケルマー様とお子様達の関係は良好でしょうか?何か配慮が必要でしょうか?」
ルイーゼは目を丸くしてサーブの顔を見つめ、涙目で失笑する。
「お前……そんな事だと付け込まれるぞ。この町で治安維持責任者なんてやっていけるのか?」
サーブは目を逸らしたまま苦笑いを浮かべ、軽く溜め息をついてルイーゼに顔を向け直す。
「警護部の先輩達にもそう言われました。ですが、これがお……私の目指す所ですので」
「そうか……」
ルイーゼは柔らかい笑みをサーブに向け、頬を拭いながら口を開く。
「ケルマーは子供には良い顔しか見せていない。子供達はケルマーを慕っている……それに、子供達は侯爵家の者として育てられてきた。爵位を剥奪され蔑みの目を受けながら不便な生活を送らせると思うと…………だがサーブ。どうにか出来るのか?子供達の事をそこまで考慮する気概は有難いが……」
サーブは自信ありげな顔をルイーゼに向ける。
「一晩。一晩で妙案を持って参ります。安心してお待ち下さい」




