2-5 発覚
ドートルは道の端で失神している野盗の前で屈み込み、野盗の頬を軽く叩きながら呼びかける。
「オイ、起きろ!」
うめき声を出して目を覚ました野盗にドートルは声をかける。
「おはよう。目を覚ましたばかりの所で何だが、聞きたい事がある」
野盗は慌てて逃げようとするが、手枷のせいで体勢を崩すと顔を歪めてドートルから目を逸らす。ドートルは構わず言葉を続ける。
「この集団の大将はお前だろ?それで、お前の主人は誰だ?」
目を逸らしたまま無言を貫く野盗の大将。ドートルは鼻で笑うと更に言葉を続ける。
「まぁ、言う訳ないよな。でも、教えてくれたら俺の権限で減刑できるか掛け合ってやっても良いぞ」
野盗の大将は冷やかな目をドートルに向ける。
「……権限って、何様だ?」
「王都警護部の部長様だ♪話したくなったら何時でも声をかけてくれ」
ドートルはニヤっと笑いながらそう言うと立ち上がり、部下の方へ歩きながら口を開く。
「おいシムノア。そいつはどうだ?」
「ダメです。落馬で首が折れたみたいで死んでます」
「そうか……」
残念そうに言葉を漏らすドートル。死んだ野盗の横でサーブは神妙な顔をして立ち尽くしていた。ドートルは笑みを浮かべながらサーブに声をかける。
「サーブ。馬に乗っていた二人の確保に成功したんだから、胸を張れ」
「こ……殺さず全員確保の命令を果たせず……申し訳ありません」
深く頭を下げるサーブ。ドートルは苦笑いを浮かべながらサーブの肩に手を置く。
「いやぁ……言い難いんだが……本来は『出来るだけ生け捕り』が目的だったんだ。でも、カトラを作戦に加えるとなると……分かるだろ?あいつに『出来るだけ』とか言ったらどうなるか……」
サーブは頭を上げ、引きつった顔をドートルに向ける。
「……考えたくありません」
「だろぅ?」
「ですが、それならそう教えて下されば良かったのに……」
「いやぁ、だってお前……隠し事しながら体を動かすの、苦手じゃないか……」
「……色々スミマセン」
サーブは改めてドートルに頭を下げる。そこへ馬に乗った部下が隊列後方からやって来てドートルに声をかける。
「部長、連行準備完了です」
「あぁ分かった。それでノルム、馬は大丈夫そうか?」
「はい、コイツともう一頭は擦り傷程度なので問題ありません。あとの一頭は駄目です。ここで楽にしてやった方が良さそうです」
「そうか……それじゃぁ隊列の見張りは任せた。もう一頭はアデルに任せる。アデルにそう伝えてくれ。駄目な馬は……出発直前に始末するか。カトラさんに簡単に処理出来ないか聞いてみてくれ。あと、シムノアと一緒にあの死体を二台目の馬車に運んでくれ」
「はい!」
ノルムはハキハキと返事をして馬から降り、先頭の馬車の荷台に手綱を固定してシムノアへと駆け寄った。ドートルは改めてサーブに顔を向け、捕縛された野盗の大将を指差しながら口を開く。
「サーブ、アイツを列に繋いだら出発だ。お前は馬車に……そう言えばその手拭い、もう取っても良いぞ」
「はい、分かりました」
顔を隠していた手拭いを外すサーブにドートルは言いかけていた指示の続きを告げる。
「馬車に戻って出発の合図を待て」
「はい。分かりました」
サーブはドートルに頭を下げてから三台目の馬車へと向かった。腰帯に手拭いを挟みながらサーブが拘束された野盗達の横を通ると、繋がれた野盗の一人がサーブに声をかける。
「お、おい!お前、サーブか?サーブだろ?」
サーブは驚きと共に足を止め、声をかけてきた野盗に目を向ける。野盗は必死さを感じさせる笑みをサーブに見せる。
「俺だよ、エサンカ、エサンカだ!」
サーブはそう呼びかけてくる野盗の顔に目を向け、怪訝な顔で野盗を見ると直ぐに顔色を変えて驚きの声を上げる。
「っ!エサンカさん!エサンカさんじゃないですか!!」
「サーブ!助けてくれ!妻を人質に取られて仕方無かったんだ!」
「っ!そんな……」
野盗は必死な形相でサーブに呼びかける。
「俺だけじゃない!この中の半数以上はそんな奴らだ!このままだと全員処刑されちまう!」
「っ……」
顔を歪めて目を泳がせ始めるサーブ。エサンカはサーブの顔を覗き込む様にして口を開く。
「思い出してくれ!積極的に襲い掛かった奴らの後ろで囲んでいた奴らの様子は何か違っただろ!囲むだけ囲んで及び腰だっただろ?!」
サーブは眉間のしわを深くして繋がれた野盗達に目を向ける。エサンカは声を大きくしてサーブに呼びかける。
「みんなこんな事やりたくなかったんだ!頼むサーブ!どうにかしてくれ!!」
額に脂汗を流して目を泳がせるサーブに他の野盗達も助けを求め始める。拘束した野盗達が騒がしくなった事を気に眉をひそめたドートルは大将の拘束を部下に任せて現場に急行する。騒ぎの中心にサーブがいる事に首を傾げたドートルは駆け寄りながらサーブに尋ねる。
「どうしたサーブ?騒がしいが」
呼びかけられたサーブは慌ててドートルの方に体を向け、困り顔で口を開く。
「それが……半数以上が人質を取られて仕方なく参加していたと……」
サーブの横で足を止めたドートルは野盗達を見回しながら溜め息をつく。
「やはりそうだったか……」
ドートルの言葉にサーブは驚き、目を見開いてドートルに尋ねる。
「部長は御存じだったのですか?」
「いや。その可能性が高いと思っていたんだ。だからお前に顔を隠してもらっていたんだ」
「そ……そうだったのですか……」
「それで?どうする?」
「っ?……えっ?!」
ドートルの思わぬ問いに言葉を失うサーブ。ドートルはニヤリと笑って言葉を続ける。
「サーブ。こいつらをどうする?お前がカタアギロに赴任して受け持つ最初の任務だ。考えろ」
ドートルはそう言って先頭の馬車の御者席の方に進み始める。サーブは硬い表情のまま野盗達に目を向ける。多くの野盗達がサーブに助けを乞い求める声を上げていた。彼らの目を見てサーブは歯を食いしばり、ドートルの背中に声をかける。
「部長!自分、みんなを助けたいです!知恵をお貸し下さい!」
ドートルは肩をすくめて振り返り、不敵な笑みをサーブに向ける。
「お前ならそう言うと思っていたんだ。それじゃぁ……まずは、こいつらから情報を集めようか」
サーブ、人が良すぎ、ですかね?




