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これ、ホントに呪いの指輪なの?  作者: 彩田(さいた)
一章 王都編
5/99

5:出発準備

ちょっとアレなので、R15系の内容をお好みではない方はこの章を飛ばして下さい。

次の章の前書きに前章のあらすじを記載致します。


「あ、待つ間にお手伝い出来そうな事は何かないですか?」


 歩き出してすぐ、何かウキウキしながらサーブはラトサリーにそう持ちかける。


「お手伝い……そこまで時間はかからないと思いますが……そうですね……」


 彼の想いを察して何か頼める事が無いか必死に考える彼女の目は納屋の薪置き場を捉える。


「……もし大丈夫そうでしたら、大きい丸太を割っておいて頂けると助かるのですが」


「薪割りですね♪お任せ下さい!!」


 満面の笑顔で答えたサーブは井戸へ瞬時に移り、水が入っていないかのように軽々と汲み上げ始める。彼の身体能力の高さに羨望の眼差しを向けながらラトサリーは小走りで家に入るが、自室へ向かう途中で足を止める。


(あの服は戻っていなかった……)


 父の名代として赴く時等、普段は一人で着る事が出来るフロントボタンのドレスを着用していた。しかし先日手直しを依頼して手元に無い事を思い出し、行き先を母親が使っていた部屋に変え、駆け込むとクローゼットを開ける。

 用向きに一層適した礼装が必要な時、ラトサリーは母親が遺した服から大きさの合う服を見繕っていた。前もって分かる用事の際は使用人に予定を調整してもらい着替えの手伝いを頼むのだが、今回は余りにも急なので一人で着替える事になる。だがラトサリーが何度見ても、誰の手も借りずに着られそうな礼服は喪服とイブニングドレスしか無かった。

 唖然としながらイブニングドレスに袖を通すが、姿見で見ると彼女は頬を赤らめ愕然とする。脹脛よりやや上丈、腰回り、淡い青の肌触りの良い生地、そこまでは丁度良かったが、ホルダーネックで胸元の深い切れ込み、大胆なベアバック。母親より発育が良かった事も重なって、谷間が大胆に露わになり横からも膨らみがはみ出している。


(……お母様、攻め過ぎ…………)


 母親の趣味嗜好を恨んで動きを止めていると外から薪を割る豪快な音が聞こえ出したので、彼女は慌てて別のドレスを取り出し着替え始める。



 斧を軽々と振るって丸太を次々と割るサーブ。そんな彼を呼ぶ声が聞こえたサーブは手を止めて声のする方へと顔を向ける。すると、ラトサリーが勝手口から顔だけ出していた。サーブは斧を置いて勝手口へ駆け寄るが、サーブが勝手口に近づく前にラトサリーは大きめの声を発する。


「サーブ様!!あの!……」


 速度を緩め勝手口の手前で立ち止まったサーブは多少困惑した顔で尋ねる。


「どうされましたか?」


「あの……その……」


 ラトサリーは勝手口から少し身を出し、青いオフショルダーのドレスの胸元を左手で強く押さえながらサーブに呼びかける。


「その……お願いしたい事がありまして……」


 顔を赤らめ言い淀んだ彼女は覚悟を決めるように息を大きく吸う。


「後ろの……後ろの紐を結んで下さいませんか?!」


「かしこまり…………ま?……ま!!!!!!」


 内容を正確に理解した途端、大きな声をあげたサーブの顔が一気に紅潮する。ラトサリーはサーブから少し目を逸らしながら口を開く。


「こんなお願いをスミマセン!でも…………この服しか無くて……早く出立したいし……お願いします」


 耳まで赤くさせ、最後の方は小声になるラトサリー。彼女の消え入りそうな声が辛うじて耳に入ったサーブは、彼女の決意を感じ取り覚悟を決める。


「わ……わかりました」


 そう言ってサーブは勝手口に歩み寄ると一歩だけ入る。ラトサリーは右手に持っていた紐を彼に渡し背を向ける。紐通しの穴の位置は肩甲骨の出っ張りより指三本程度外側の位置。白く綺麗な背中がサーブの前で露わになり、彼は息を飲む。ラトサリーは背筋を伸ばし両手を胸元に当て、耳を赤らめたままサーブに指示を出す。


「上の通し穴から下へ順にお願いします。上の方は……少しきつめに絞めて下さい」


 そのラトサリーの声で、理性を失う寸前だったサーブは我に返り紐を通し締め始める。


「はっ、はい……こんな……感じですか?」


「もう……少しきつく……して下さい……」


「っ、……そこはもう少し緩めて……下さい」


 彼の指や紐先が背中に当たる度に、ラトサリーの肩甲骨と肩がピクっと動く。彼女に言われるままに穴に紐を通しサーブは下へと手を進める。サーブ自身の異常な心拍が彼の思考を狂わせ始め、あらぬ方へ手が動きそうになった時、ラトサリーから声がかかる。


「最後は解きやすく結んで下さい、部屋に戻って仕上げてきますので」


「っ!わ、わかりました!」


 彼女の声でサーブは理性を取り戻し、紐を軽く縛ってから二歩程離れてから口を開く。


「でっ、では、その間に薪を仕舞っておきます」


 彼は動揺を隠す為にハキハキとそう言うと速足で薪の山へと向かう。サーブの足音が遠くなった所でラトサリーは呼吸を乱す。肩が大きく上下し顔も耳も赤くなり少し苦しそうな彼女は壁に向かってよろけ、壁に右頬と両手をついて呼吸を整えようとした。




 薪を片付け終わり井戸で手を洗っているサーブにラトサリーは声を掛ける。


「サーブ様、お待たせ致しました」


 サーブは振り向き、息を飲み見惚れる。

 髪は念入りに櫛を入れたからだろうか、艶のある輝きが増していた。化粧は控えめに口紅だけで、それが却って彼女自身の美しさを引き立てていた。ネックレスには彼女の目と同じ色の石が施され、首廻りを彩っていた。

 サーブの視線が首元から下へ移った時、彼は何か驚いたかのように一瞬止まり視線を横に逸らす。


「……とてもきれいです…………」


 恥じらいを含んだ声でサーブは彼女への賛辞を述べる。


「そう仰って頂けると嬉しいです♪」


 ラトサリーは素直に賛辞を受け入れるが、彼女の関心は研究所に行く事に向けられているので、彼が恥じらっている事に気付いていない。彼女は、自分が普段サーブと会う時と全く違う事に気付いていなかった。ドレスの胸元に膨らみと谷間がはっきりと見えている事、普段着では控えられている体の曲線が露呈している事、その曲線がサーブの想定を超えていた事。特に今はサーブの脳裏に彼女の背中の色艶が焼き付いている事に、彼女は気付いていなかった。


 ラトサリーは視線を逸らし動かないサーブを不思議に思い、改めて声をかける。


「……サーブ様?」


「っ!はいっ!とても綺麗です!」


 サーブは弾けるように彼女の前で姿勢を正し、大きな声で再び彼女への賛辞を述べる。ラトサリーは彼の声の大きさに目をパチクリさせ再びの賛辞に頬を染めるが、一刻も早く出発する為サーブに優しく声を掛ける。


「……サーブ様。準備が整いました、お連れ下さい」


 その呼びかけにサーブは目的を思い出す。


「そ……そうですね、参りましょう」


 そう言ってサーブは速足で馬車へと向かいだし、ラトサリーは慣れない靴で彼の後を速足で追う。

【 ティロン♪ 】

 荷馬車に乗り込む前に聞こえた音でラトサリーは冷静さを取り戻した。




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