2-3 遭遇2
途中、血の匂いが濃くなります。ご注意下さい。
三台の馬車は街道を進み、大きな雑木林に差しかかった。左手に雑木林を見ながら暫く進むと、上等な衣服で身を包む男を乗せた馬が茂みから現れて一行の行く手を塞いだ。一行が馬車を止めると男は御者に声をかける。
「コンデッド様の御一行でしょうか?コンデッド様に伝言があるのですが」
先頭の馬車の御者はやや表情を硬くして答える。
「確かにそうですが、どちら様でしょうか?」
御者の問いかけに男は乾いた笑みを浮かべ、自らが出て来た茂みの方に顔を向けて声を張る。
「おい!」
男の声に呼応して木の陰や茂みから武器を持った男達がワラワラと姿を現し始める。前二台の馬車に乗っていた男達は武器を手にして馬車から飛び降り、二台目の馬車左側に集まって密集陣形を組み始める。手拭いで顔を隠したサーブは御者席に留まり、剣を手に取って周りを見回す。荷台の後方に座っていたカトラは馬車の中で剣を抜き、外に飛び出す体勢を整えた。
野盗達は二手に分かれ、一方は前列と後列に分かれて首守備陣形を整えたドートル達を囲み、もう一方は三台目の馬車の左側と後方を二列で囲った。馬に乗った男達は馬車の左側が見通せる位置に馬を進ませた。最初に姿を現した男は馬車の囲い具合を見て薄笑いを浮かべ、大きな声を上げる。
「馬以外は殺せ!」
二台目の馬車の横で剣の激突音が響き始める。サーブは御者席から飛び降りながら片刃の剣を振り、刃の無い側で男の首を打ち抜く。崩れ落ちて動きを止める男。焦った野盗達は一斉にサーブに襲い掛かる。サーブはそれら全てを軽く躱し、一振りする毎に一人の意識を刈り取りながら三台目の馬車後方へと進む。
三台目の馬車後方を囲んでいた野盗達は馬車から姿を見せるカトラに目を向け、前列の野盗達は下卑た笑みを浮かべる。
「おい、殺すのは後でも良いよな?」
「あぁ、そうしよう」
野盗の一人は振り返って後列に荒い声を投げつける。
「おい!お前達!逃がすなよ!分かってるな?」
前列の野盗達の意識が後方に向いた隙をカトラは見逃さなかった。カトラは声を発した男に向かって飛び降りながら右手で大剣を横に振る。男は慌てて受けようとするが、剣もろとも雑木林まで飛ばされ木の幹に衝突すると頭から地面に落ちる。軽く吹き飛ばされた男を目の当たりにした野盗達は驚いて動きを止める。体勢を低く着地したカトラは止まる事なく野盗へと踏み込み、地面すれすれを薙ぎ払う。剣は野盗二人の足首を切り落とし、切られた二人は悲鳴と共に地面に倒れ込む。野盗達は怯えてカトラから距離を取り始める。カトラは倒れ込んだ二人の男を横目で見ながら声をかける。
「死にたくなかったら、そこで大人しく止血してなさい」
二人が足首に手を伸ばして止血し始めた事を確認したカトラは馬車右後方にいる男へと踏み込み、剣を男の盾に目がけて斜めに振り下ろす。
《 ドゴッッ!! 》
男は受けた盾ごと地面に叩きつけられ、その体は痙攣を始める。野盗達は顔を青くしてカトラから更に距離を取る。カトラが馬車左後方で怯える野盗達との距離を詰めようとした時、
「カトラさん!待った!!」
大声でカトラに呼び掛けたサーブがカトラと野盗達の間に割って入った。サーブは野盗達に目を向けながら背後のカトラに声をかける。
「カトラさん、殺しちゃダメって言ったじゃないですか!」
カトラは不満気に口を尖らせる。
「殺してないわよ!良く見て。ちゃんと生きてるわよ♪」
「っ!まだ生きてるってだけで死にかけじゃないですか!もう少し加減して下さい!」
サーブはそう言ってから地面を蹴って野盗達との距離を一気に詰め、剣を野盗達に打ち込んでいく。カトラは首に手を当て、渋い顔で周囲を見回しながら呟く。
「もう少しねぇ……」
サーブが三台目の馬車を囲んでいた野盗達を倒し終わって二台目の馬車の方に駆け出すのを見送ったカトラは馬車から様子を伺うラトサリーに声をかける。
「ラトサリー、出番よ。降りてきて」
呼ばれたラトサリーは短剣を置いて馬車から降り、鉄の手枷が入った箱を馬車から降ろしてカトラの元に運びながら辺りを見回す。倒された野盗達はうめき声を漏らしていたり痙攣していたり、全く動かない者もいた。惨状に顔を歪めるラトサリーにカトラは声をかける。
「ラトサリー。見慣れておきなさい。あなたはこの先、もっと酷い光景を目にする事になるかもしれないんだから」
ラトサリーは言葉を返す事無くカトラの横で止まり、箱を地面に置く。カトラはラトサリーの様子を横目で伺い、口角を少し上げて口を開く。
「さぁ、捕縛にかかるわよ。それじゃぁ、見張りヨロシク♪」
カトラは剣をラトサリーに渡し、箱から出した手枷を地面に転がる野盗の位置に合わせてばら撒きながら息を大きく吸って口を開く。
「起き上がった奴がいたら、剣の腹で叩いて黙らせてね。殺しちゃダメよ♪」
カトラは遠くで倒れている野盗達にも聞こえるような大声でそう言うと、近くの野盗から手枷を嵌めていく。ラトサリーは痛みに耐えながら必死に足の止血をしている野盗を横目に呟く。
「……あなたがそれを言う?」
カトラは順調に手枷を嵌めてゆき、雑木林に吹き飛んだ野盗の元へと移る。ラトサリーは自分から離れていくカトラの背中に目を移す。その時、まだ拘束されていない野盗が起き上がり、痛みを堪えながら落ちていた剣を拾ってラトサリーに突進する。気付いたラトサリーは慌てて剣を右に振りかぶり、カトラに言われた通り剣の腹で野盗を狙う。野盗は剣を下段に構えてあざ笑う。
「ハッ♪これで形成逆転だぜぇ!!」
野盗は速度を緩める事無く大剣の横薙ぎの間合いに突進し、横薙ぎの大剣を弾き飛ばそうと剣を振り上げる。互いの剣が振れる寸前、ラトサリーの頭の中で【 ジャジャ!!! 】と音がなる。
《 ドゴッッ!! 》
野盗の剣は折れ、ラトサリーの剣は野盗の胴体にメリ込んだ。メリ込んだ剣を軸に野盗の体は曲がってはいけない角度まで大きく曲がり、口から血と泡を吐いてラトサリーの剣にぶら下がっていた。重みでラトサリーの剣が下に傾き、白目をむいた野盗の体はゆっくりと剣を這って地面に落ちた。野盗の口から吐かれた血の飛沫が服にピシャっとかかり、顔を青くするラトサリー。カトラは手枷を投げつけようと振りかぶった腕を降ろし、冷ややかな笑みをラトサリーに向ける。
「ちょっと。殺しちゃダメって言ったでしょ?ちゃんと手加減しなさいよ」
「だって!!……だって!!!わたし、ちゃんと剣の腹で……あなたが言った通りに……」
涙目で狼狽えるラトサリーにカトラは呆れたような笑みを向ける。
「分かったから。十歩位下がって良いから。誰か動いたら大声で教えて頂戴」
ラトサリーは涙目で頷くと言われた通り地面に転がる野盗達から離れる。カトラは木の根元で倒れている野盗に手枷を嵌めると石を拾って立ち上がり、手枷を嵌められ意識を取り戻している野盗達に声をかける。
「あなた達。意識を取り戻した奴がいたら、動かない様に声をかけてあげなさい。変な動きをすると……」
カトラは右腕を軽く振りかぶって木に石を投げつける。
《 グォボ!! 》
鈍い音を立てて木の幹がえぐれる。カトラは爽やかな笑顔を野盗達に向ける。
「こうなるって教えてあげてね♪それと、声かけを怠ったら、あなた達もこうなるから♪それでも動いたら」
カトラは無残に転がる亡骸を指差して言葉を続ける。
「あんな風になっちゃうって教えてあげなさい♪ヨ・ロ・シ・ク♪」
嬉しそうにカトラがそう言った後、手枷を嵌められた野盗達は意識を取り戻した野盗を制止する役目を進んで果たした。




