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これ、ホントに呪いの指輪なの?  作者: 彩田(さいた)
二章 カタアギロ到着編
48/120

2-2:遭遇1


 三台の馬車はひたすら西へ向かった。幾つか宿場町を通ったが物資補給や短い休憩の為にだけ停留し、夜は町から離れた見晴らしの良い平原や畑の脇で野営した。

馬車を降りる機会を捉えてラトサリーは大剣の素振りに努めた。カトラに稽古相手を頼んだが『ウヌカに協力するみたいだからヤダ』と断られた。サーブに稽古を頼むと『短剣にしない?』と言われ、ラトサリーはフレールから渡された短剣を手に取った。だが、せっかくの頂き物の剣を稽古に使う事に心苦しさを覚え、大剣での稽古を求めた。しかしサーブから『その大きさの剣を受ける練習用の得物が無い』と難色を示され、ラトサリーは大剣の素振りで我慢する事にした。

一向が休憩で雑木林の横に停まった時、素振りをしていたラトサリーは頭上の太い枝に目を向け、剣を構えた。だが、遠くで見学していたドートルに止められた。生えている木を損なうと農夫達との揉め事になり得るので避けて欲しい、との事だった。ならば稽古に付き合って欲しいとラトサリーは頼んだが、ドートルは顔を引きつらせて『あのー、そのー』と言いながら目を逸らし、足早に馬車へ逃げていった。

素振りだけでは我慢出来なくなっていたラトサリーは何か剣を当てる事が出来る無難な対象物は無いかと周囲を散策した。草が生い茂る斜面を見つけたラトサリーは斜面の下に移り、剣で斜面を何回か軽く突いた。多少手応えを感じたラトサリーは剣を上段に構え、斜面に剣を振り下ろした。


《 ズン!! 》


 鈍い音を立て剣先が斜面にめり込むと同時にラトサリーの頭の中で【 ティロン♪ 】と鳴った。ラトサリーは笑みを浮かべながら剣を斜面から抜き、更に剣を斜面に向けて振り下ろした。何度か剣を振って調子に乗って来たラトサリーは更に深く振り下ろそうと剣を大きく振りかぶった。その時、様子を見に来たサーブは慌てて剣を抜きながら地面を蹴り、ラトサリーの前に飛び込んだ。


《 ギン!!! 》


 重い金属音が響き、弾き飛んだ大剣と共にラトサリーは後ろに体勢を崩した。驚いた顔をするラトサリーに向かってサーブは安堵した顔を向け、剣で足を傷つけない振り方を彼女に教えた。ラトサリーはその流れで手合わせを願ったが、サーブは大剣の刃こぼれを指差して彼女をたしなめた。残念がるラトサリーにサーブは困った顔をするが、カタアギロに着いて落ち着いてから練習に付き合うと約束した。




 旅路はカトラの術式練習以外は順調に進み、一向は急げば半日程度でカタアギロに着く辺りに到着した。大きな雑木林が見えた所で先頭の馬車は止まり、御者は後方に耳を向けた。御者が後方の馬車からの反応を待っていると鐘の音は鳴らず、サーブが駆け寄ってきた。御者は残念そうに溜め息をついて馬車の中に声をかけ、もう一人の男と先頭の馬車に移っていたドートルは馬車を降りて二台目の馬車に移った。サーブは先頭の馬車の御者に情報を伝え、戻る途中で二台目の馬車に移ったドートルに声をかけた。後方の馬車に戻ったサーブは御者席に座ると鞄から手拭を取り出しながらカトラに声をかける。


「カトラさん、手筈通りだそうです。宜しくお願いします」


「ハイハイ、分かってますよ。面倒臭いわねぇ……」


 面倒臭そうに黒い手袋を嵌めるカトラにラトサリーは心配そうな顔で声をかける。


「ねぇカトラ?何があったの?」


「ん?っとねぇ、今からお客様の相手をするのよ。全く……面倒臭い……」


 呟きながらカトラは荷物から大剣を引っ張り出す。ラトサリーは引きつった顔をカトラに向ける。


「お客様って……それじゃぁ、あなたが『三十二、馬三、左』ってサーブに言ったのは……」


「そうよ、お客様の総数よ。それを『全員殺さず戦闘不能にしろ』だなんて。本当に面倒臭い……」


 二人の会話を聞いていたミラテースはカトラを睨みつける。


「アンタ、ラトサリーの護衛役じゃないの?護衛対象を放り出して良いの?」


 カトラは意地悪そうな笑みを浮かべてミラテースの顔を覗き込む。


「あらぁ?ラトサリーの事、気遣ってあげるんだぁ♪優しいじゃない♪」


 ミラテースはカトラから顔を逸らして頬を紅く染める。


「っ!あ、当たり前でしょ、アドエルの将来に関わる事なんだから。それで?」


「安心なさい。護衛は布陣を工夫して対応する事になってるから。本当に面倒臭い……」


 再び面倒臭い気配を漂わせ始めるカトラ。ミラテースは再びカトラを睨みつける。


「それで?アドエルはどうするのよ?護衛対象外とか言ったら怒るわよ」


「そんな事言って……アドエルの護衛なんて、あなたがさせてくれないでしょ?」


 呆れ顔でせせら笑うカトラに言葉を失うミラテース。カトラはその様子を見て満足したような笑みを浮かべて口を開く。


「あなた、アドエルと一緒に姿を消す事はできるわよね?」


「っ……えぇ、出来るわよ」


「良かったわ♪それじゃぁ、あなた達は姿を消して御者席の後ろで屈んでいて頂戴。荷物で囲いを作ってあるから流れ矢で怪我をする心配は無いわ」


「囲ってあるのに姿を消す必要ある?」


「アドエルの姿を見られたら人質にしようとして群がられるわよ。まぁ、そうならないような作戦を立ててあるんだけど。一応ね」


「分かったわ。ちなみに、一緒だと姿を消せないって言われたらどうするつもりだったの?」


「その時は、ラトサリーと同じ動きをしてもらう予定だったわよ」


「へぇ……結構考えてるじゃない。でも……」


 ミラテースは口を止め、カトラの全身に目を向ける。視線に気付いたカトラは不意に腕で胸を隠す素振りを見せながらミラテースから視線を逸らす。


「やだ、そんな情欲に満ちた目で全身を舐められると恥ずかしいわ♪」


「っ!何バカな事言ってるの!!アンタがこれっっぽっちも強そうに見えないから……って、アンタ、アドエルの前で変な事言わないで頂戴!!!」


 怒り狂うミラテースを見てケタケタ笑うカトラ。見かねたラトサリーは軽く溜め息をついてミラテースに声をかける。


「ミラテース、心配する必要は全くないわ、安心して」


 思わぬ高評価にミラテースはラトサリーに顔を向けて固まる。ラトサリーはミラテースに微笑みかける。


「弱くてこんな口をきく人だけの人にサーブ達が持ち場を任せると思う?」


 益々目を丸くして固まるミラテース。ラトサリーはミラテースの目を見て頷くとカトラに呆れ顔を向ける。


「カトラ……あのねぇ、緊張をほぐしてあげたいって気持ちは分かるけど、アドエルの前では内容を選んで頂戴。教育に良くないから」


 カトラはバツの悪い顔で肩をすくめる。


「分かったわよ、少し自重するわ」


「……実験に付き合ってあげないわよ」


「二度とアドエルの前で如何わしい事は言いません!!!」


「宜しい♪」


 ミラテースはラトサリーを見ながら言葉を漏らす。


「ラトサリー……アンタ、やっぱり良い根性してるわ……」


 ラトサリーは苦笑いを浮かべながらカトラに声をかける。


「それでカトラ。どういう計画か教えてくれる?」





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