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これ、ホントに呪いの指輪なの?  作者: 彩田(さいた)
二章 カタアギロ到着編
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2-1:西へ

第二部です。よろしくお願いします。


 広大な麦畑を貫く道をゆっくり走る三台の幌馬車。所々に見える仮小屋に農夫の気配は無く、畑の先にチラホラと見える雑木林も静けさを漂わせていた。隊列中央を走る馬車からは弦楽器の音が漏れていた。暇を見越してドートルが持ち込んだ楽器を警護部の男達は代わる代わる演奏し、先頭の馬車に乗る二人と後方で御者を務めるサーブはその音を楽しんでいた。だが、サーブが操る馬車の荷台にいる四人は楽器の音など気に留めていなかった。

荷台後方で外を向いて座るカトラはミラテースにうなじを掴ませ、真剣な顔で馬車の外に右手を水平よりやや上向きにかざしていた。息を止めて集中するカトラの右手の前に氷が現れ、その氷の大きさが拳大程になった所で塊は人が下投げで軽く投げた程度の速さで馬車後方へと飛び、放物線を描いて馬車二台分程度後方の路面に落ちた。カトラは僅かに赤くなった顔に笑みを浮かべながらミラテースに目を向ける。


「ねぇ、もっと瞬間にドバっと一点に風が起こる感じで力を流してくれない?」


「ドバって、無茶言わないでよ、私だってそんな事やった事ないのに」


「だーいじょうぶだって♪やった事ないって割りには良い感じに飛ぶようになってるから。次いくわよ、次♪」


「いいけど……あんた、体大丈夫なの?ラトサリーなんて少しやったらあんななのに」


 ミラテースの視線の先のラトサリーは汗ばんだ体で荷物にもたれ掛かり、荒い呼吸をしながら虚ろな目を二人に向けていた。そんなラトサリーを肩越しに見てカトラは鼻で笑う。


「まぁ……彼女とは経験値が違うのよ。宮総研の分室長を甘く見ないで頂戴♪」


「経験って……どんな経験よ、変態なのアンタ……」


「……誉め言葉として受け取っておくわ♪良いから次!あなたも良い練習になるんだから良いじゃない♪これも可愛いアドエルの為と思ってグワっとブワっと頼むわよ♪」


 そう言われたミラテースは振り向いてアドエルに目を向ける。アドエルはラトサリーの横に座り、ラトサリーが床に倒れないように彼女に手を添えていた。そんなアドエルに温かい眼差しを向けたミラテースは向き直ってカトラの首を掴む右手の力を強める。


「言ってくれるじゃない……それじゃぁ、お言葉に甘えて存分に練習させてもらうわ♪」


 その言葉の後、馬車の後方の麦畑が激しく揺れた。






 王都西側の街道口を出立したラトサリー達。手を振って見送るフレール達が見えなくなり席に座ろうとしたラトサリーだったが、馬車の急な揺れで体勢を崩した。ミラテースは手を伸ばしてラトサリーを支えたが、その時アドエルも同じく手を伸ばしてラトサリーを掴んだ。倒れなかったラトサリーはアドエルに掴まれた事に硬直して息を飲み、カトラも気付いて目を見開き凝視した。動きを止めた二人の様子を怪訝な顔で伺うミラテース。ラトサリーはゆっくりと顔をアドエルに向け、僅かに笑みを浮かべて口を開いた。


「支えてくれてありがとうアドエル」


 震える様が全く無いラトサリーを見てカトラは立ち上がり、驚きを隠す事無くラトサリーの背中を叩いた。出立までの数日、ラトサリーがアドエルに触れる事を躊躇している事に気付いていたカトラ。出立までの数日、アドエルに触れない事をカトラがあえて指摘せずにいる事に気付いていたラトサリー。互いに肩を掴んで嬉しがる二人を目の前にしたミラテースは少し首を傾げながらも笑顔で見守った。もしかしたら男性恐怖症の症状が改善されたかと淡い期待を抱いたラトサリーだったが、馬車を停めての休憩の際にその期待は脆くも崩れ去った。

 その後、ラトサリーはアドエルとの距離を縮める事に努めた。多少熱が入るラトサリーにアドエルは躊躇いを見せたが、術式の練習を一緒にする度にその距離は徐々に縮まっていった。練習でグッタリするラトサリーを助けてあげたいと言う様子でアドエルから距離を詰めてきたからだ。





 小さい体でラトサリーを支え続けるアドエル。ラトサリーの息遣いが落ち着いてきた様に感じたアドエルはラトサリーに声をかける。


「ラトサリー、大丈夫?」


「……えぇ、随分楽になったわ。ありがとうアドエル、支えてくれて」


 ラトサリーの感謝の言葉に笑顔を見せるアドエル。二人の会話が耳に入ったミラテースはカトラの首から手を離し、振り向いてアドエルを呼ぶ。


「アドエル、もう大丈夫なら続きをやるわよ。こっちにいらっしゃい」


 アドエルはラトサリーの顔を心配そうに覗き込む。ミラテースは肩をすくませ、呆れた様子でアドエルに呼びかける。


「アドエル、ラトサリーはまだ休ませておきなさい。さぁ、いらっしゃい」


 呼びかけられたアドエルは尚更心配そうな顔をラトサリーに向ける。ラトサリーは無理に笑みを浮かべてアドエルに頷いて応える。するとアドエルは笑みを浮かべてラトサリーに頷き返し、ミラテースの元へゆっくりと向かった。ミラテースはカトラを左手で追い立て、不満気に立ち上がったカトラはミラテースを睨む。


「アドエルが済んだら続きをヤルわよ、いいわね!」


 吐き捨てる様にそう言ったカトラは向かってくるアドエルを避けてラトサリーの横に移り、息を吐きながら座る。ラトサリーはカトラに声をかける。


「お疲れ様、カトラ」


「まだ疲れてないわよ。まったく……良い所だったのに……」


「あれだけ派手にやって……本当にどんな経験してきたの?」


 カトラ右人差指を立てて口に当て、愛らしい微笑みをラトサリーに向ける。


「それは秘密♪」


「なによソレ……それでカトラ、見ていて思ったんだけど」


「ん、何?」


「術式で作った氷の塊を風の術式で勢い良く飛ばしたいのよね?」


「えぇ。勢い良くってより、物凄い勢いで飛ばしたいのよ」


「そうよね。それで、氷の後ろに突風を発生させて飛ばしていたわよね?」


「えぇ。そうよ」


「それだったら、風を長い筒みたいに発生させて、風の筒の中に氷を出して押し出すって言うのはどうかしら?吹き矢みたいな要領で」


 身振りをしながら説明するラトサリーにカトラは驚きの目を向ける。


「……悪くないわね。ぶっ倒れていたのに良く思いついたわね♪でも……」


「でも何よ?」


「筒を風の術式で作っても、圧縮した風が筒を抜けてしまって圧力が氷に伝わらないんじゃないかしら?それに、氷がそれなりの大きさになる前に外に出てしまいそうよ?」


「そうね……それは……筒の風の向きを筒の内側に向けるとか、両端は筒の内側に吹かせる感じにするとか、螺旋状に吹かせるとかで解決できないかしら?氷も少し細長くして、先端を尖らせて回転を加えれば直進性も良くなると思うわよ」


「……面白そうね。やってみるわ♪でもラトサリー」


「何?」


「よくそんな事思いついたわね。直進性の向上なんて発想、宮総研でも聞いた事なかったわよ」


「そう?母が教えてくれた事を思い出しただけなんだけど」


「そうなの?……あなたの母親、凄いわね。どこでそんな知識を得たのかしら?」


「そうよね……ノート様の教室に通っていた時に得たんじゃないかしら?」


「そうだったら副所長が既にやってるわよ」


「……それもそうね。それだと教室に入る前って事になるけど……」


「そうだと、あなたの母親の実家で、って事になるかしら。そういえば、あなたの結婚式に母方の親族いなかったわね」


「えぇ。私が生まれてすぐ位に家ごと消えたと聞いているわ」


「っ!家ごとって!って、あなた、そんな重い話をよくもまぁシレっと話せるわね」


「え?でも昔の話だし、詳しい事は教えて貰ってないし」


「そう……そうなってくると謎は解けそうにないわね。残念だわ」


 カトラはそう呟くとミラテースに顔を向けて呼びかける。


「ねぇ、まだ?もう良いんじゃない?アドエルを休ませてあげなさいよ」


 ミラテースは振り向いて苦笑いをカトラに向ける。


「アンタ……自分が早く続きをやりたいからって……アドエルの訓練が終わったら休憩よ!私のね♪」


「えー!ミラテースの根性無しー!!」


 カトラの罵声が麦畑に響いた。




 隊列を組む三台の馬車は麦畑の間を貫き続ける街道を西へと進んだ。そして、進む先に大きな雑木林が見えると先頭の馬車は止まり、御者は後方に耳を向けた。後方の馬車から鐘の音が響いた事を確認すると御者は馬車を出発させ、後続も続いた。





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