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これ、ホントに呪いの指輪なの?  作者: 彩田(さいた)
一章 王都編
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4:翌日 二週間経過



4 翌日 二週間経過




 仕事から帰って来たトレダールは娘のラトサリーが出迎えに出て来ない事に首を傾げ、馬を柵に仮止めして家に入る。


「ラトサリー?」


 返事が無いのでトレダールは居間と台所を覗くが、そこにもラトサリーの姿は無かった。トレダールはラトサリーの部屋に向かい、扉を叩いて呼びかける。


「ラトサリー、入るぞ」


 返事が無いのでトレダールは扉を開け、ラトサリーが椅子に座って左手を頬に当てている姿を見て苦笑いを浮かべる。


「ラトサリー」


 呼びかけられたラトサリーは無反応で、ラトサリーの左頬をポンポンと叩く左人差指は動きを止めなかった。トレダールはラトサリーに歩み寄り、ラトサリーの肩に手を乗せて大きく揺する。


「ラトサリー」


 パッと目を開いたラトサリーにトレダールは呆れた様な笑みを浮かべて声をかける。


「また考え事かい?今度はどうした?」


「お、お父様。おかえりなさい」


 ラトサリーは目をパチパチさせながら返事をすると腰と背中と肩の痛みに顔を少し歪める。ラトサリーの肩から手を離したトレダールは娘の様子に呆れながら口を開く。


「お前、いつからそうしていた?」


「えっ……日が落ち始める少し前から……」


 ラトサリーはそう言いながら窓の方に目を向け、外が依然明るい事に顔を引きつらせる。


「……って、あれ?」


「全くお前は……夜通しを越えて丸一日考えていたのか……何があった?」


「それが……これなんですけど、外れなくて」


 困り顔でラトサリーが差し出した左手にトレダールは顔を近づける。


「ん?指輪?どこで手に入れたんだ?」


「サーブが任務中にひ……手に入れた物なんですけど、付けてから変な音が聞こえるようになって……」


「変な音?ちなみに、今はその音は聞こえているか?」


「いいえ。どうやら体を動かしている時に鳴るみたいなんですけど、そんな指輪とか、似た話を聞いた事は無いですか?」


「うーん……いや……無いなぁ。そもそも、お前は我が妻から知識を叩き込まれた自慢の娘だ。お前が知らない事を私が知る訳無いじゃないか♪」


 笑顔で諦めの言葉を述べるトレダール。ラトサリーは苦笑いしながら立ち上がり、体を捻りながらトレダールに声をかける。


「仕方ないですね♪それで、食事はどうされますか?」


「あぁ。頂こう、って、疲れてないか?私が準備するよ」


「大丈夫ですよ、お父様はゆっくりなさっていて下さい」


「そうか?分かった。そう言う事なら、馬の世話を終わらせてくるよ」


 トレダールは笑顔でそう言うとラトサリーの頭を撫で、部屋を出て行く。ラトサリーはトレダールの背中にムスッとした顔を向ける。


「……もぅ、そうやって子供扱いするんだから」


「ハッハッハッ♪結婚するまでは私の、いや、私達の可愛い子供なんだよ♪」


「…………もぅ」


 トレダールの足音が遠のいていくのを聞きながらラトサリーの口角は若干上がり、ラトサリーは呆れ気味に息を吐いて台所に向かった。台所に入り、ラトサリーは釜戸の横にある薪を釜戸に入れ、右掌を釜戸に向ける。


「どうせ鳴るんでしょうけど…………まったく……」


 ぼやいたラトサリーが向けた右掌の先の釜戸の中にスイカの種ほどの大きさの光の玉が現れる。光の玉が薪に触れると煙が一筋立ち上り、次第に煙の量は増してゆき、やがて火が起こった。


*******

 ラトサリーが使用したのは世間で火の術式と呼ばれ、空間に漂う力を集めて利用する自然術式と呼ばれる手法の一つだ。他にも水や風等の多くの術式があるが、得意不得意は人それぞれで全く出来ない人もいる。

 彼女は術式を扱えるがその力は弱い。水を発生させる事が出来る水の術式も出来るが、彼女が行うと小さい手桶に一杯溜めるのに小一時間かかってしまうので井戸で汲んだ方が効率的だ。

*******


【 ティロン♪ 】【 ティロン♪ 】【 ティロン♪ 】

 彼女の予想通り頭の中で音が軽快に鳴り始め、火が重ねた薪に燃え移った頃合いで【 テテテッテーテーー♪ 】と大きく鳴り、再び軽い音が断続的に鳴り続ける。


(やっぱり……火球を維持していると鳴り続けるわぁ……)


 予想通りに音が鳴る事に苦笑いを浮かべ、薪の火が安定した所で手をかざすのを止めると鳴り続けていた音も止まる。鳴り止み方を鼻で笑ったラトサリーは釜戸の前蓋を閉めて立ち上がり、水瓶から小鍋に水を入れ、小鍋を火口に置いて食材の調理を始めた。

 簡単なパセリスープと黒パンとチーズを食卓に用意しながらラトサリーは今後について思案していた。


(…………さて……どうしたものでしょう)





 それから二週間。

 ラトサリーは朝食のパンにパセリペーストを塗り、口に運ぶでもなくボンヤリと見つめる。


(…………どうしたものでしょう)


 彼女はこの二週間、指輪を外す為に努力を重ねたが上手くいかずに悩んでいた。



 帰宅途中に立ち寄るサーブを捕まえ事の次第を伝えたが、彼は申し訳ないと詫びてくるだけで、彼の口から指輪を外す手がかりとなる情報が出てくる事は無かった。城に行ったら本部に相談すると言ってくれた事は彼女にとって有益だったが、その後何回か立ち寄ったサーブから朗報がもたらされる事は無かった。


 当然、使用人からも街の人達からも良い策は何も出てこなかったし、行商に指輪の情報を聞いたが何も知らなかった。街の雑貨屋では浸透率が高いと噂される特殊な油を出してもらったがダメだったし、金物屋では荒業だと言って金ヤスリで削ってもらったがヤスリの方が削れてしまった。 


 朝、起床時に穏やかな笛のような音が【 ティーリーリーッティー♪ 】と鳴る事にラトサリーは目を丸くさせたが、その音は残念ながら心地良かった。そして、この二週間で彼女にとって救いだった事は、軽い高音が聞こえる回数が減った事だ。時々鳴るファンファーレのような音の正体が見当つかない事に苛立ちを覚えていたが、軽作業の際に鳴る回数は確実に減っていた。

 ただ、一度だけ一晩中鳴り続けた事があった。彼女の父親がお土産でキノコを持って帰ってきた時だ。夕食でスープにして匂いを嗅いだら何故か音が鳴り、一口食べる度に鳴り、不思議に思いながら片付けていたら音の連打が始まった。

【 ティロロン♪ 】【 テテテッテーテーー♪ 】【 ティロロロン♪ 】【 テテテッテーテーー♪ 】【 ティロロロロン♪ 】【 テテテッテーテーー♪ 】【 ティロロロロロロン♪ 】………………

 鳴り始めたと同時に指の先から痺れて来た事でモドキヤヤシビレタケが混ざっていた事に気付いたラトサリー。致死性は無いキノコだしと動けなくなる前にベッドに潜ったが、寝付くまで音は鳴り続けた。朝になり目を覚ますと例の心地よい音はしたが、音の連打と体の痺れは無くなっていた。ちなみに父親は昼まで寝込んでいたが、食べた量が違ったのだろうと彼女は思っていた。




 音が煩わしい以外の実害は無いが、ラトサリーにとって好ましい事でもない。


(どうにか…何か……)


 ようやくパンを口に運び、味わうでもなく食べ終え片付けていると外から大きい荷車のような音が聞こえ始め、その音は彼女の家の前で馬の嘶きと共に止まった。来訪の予定を特に聞いていないラトサリーはエプロンを外して衣服の汚れがないか確認し、窓ガラスに写る自らを見て髪を軽く整えると急いで外へ向かう。

 荷馬車から降りて馬をなだめている人物がサーブだったので、彼女は目を丸くする。朝から、しかも荷馬車で来る事など今まで無かったので不思議に思いつつ彼の前で止って息を整える。


「サーブ……どうなされたのですか?しかも馬車で」


 怪訝な表情でラトサリーが尋ねると彼の顔に笑みがあふれる。


「おはようラトサリー!今日は良い知らせを持って来たんだ♪……です」


 婚約が決まってから丁寧な言葉使いを心がけているサーブが見事に言葉を乱し訂正するのを前にして、彼女の顔には二週間振りに屈託の無い笑みが浮かぶ。


「フフフっ♪『です』だなんて♪今は丁寧な言葉使いでなくても大丈夫ですよ♪」


 彼女にそう言われサーブは照れ笑い浮かべる。彼の可愛い反応を見て悦に入ったラトサリーは微笑みながら彼の本題に話を移す。


「それで♪?良い知らせとは何ですか?」


「そっ、そうです!指輪の件なのですが、本部に相談したら何故かかなり上まで話が行ったみたいで、宮廷総合技術研究所が調べてくれる事になったんです!!」


「きゅっ?!宮総研?!!!」


 サーブの話を遮るようにラトサリーは驚きの声を上げる。驚くラトサリーにサーブは興奮を抑えずに話を続ける。


「そうなんです!!それで本人を連れて来るように言われましたので荷馬車を借りて迎えに来たんです♪さぁ、乗ってください!!」


そう言ってサーブは意気揚々と彼女を御車席に乗せようと手を差し出すが、ラトサリーは後ずさる。


「い、今すぐにですか!?」


 狼狽えるラトサリーにサーブは手を差し出したまま笑顔を向ける。


「勿論です♪所長も是非早くと仰っているそうなので」


 ラトサリーは困った顔をサーブに向ける。


「いえ、その……宮総研って確か王宮に併設されていましたよね?……身支度を整えてきますので、少々お待ち頂けますか?」


 王宮に行くとはいえ赴く要件からして正礼装していく程ではないが、作業着ではサーブと家名に恥をかかせる事になる。ラトサリーにそう言われた所でサーブは申し訳なさそうに口を開く。


「そ……そうですよね。すみま……申し訳ありません。お待ちしていますのでご準備下さい」


 そう言いながらサーブは差し出していた手で頭をおさえ、軽く頭を下げる。ラトサリーはホッとした顔をサーブに向ける。


「ありがとうサーブ。お待ち頂いている間に馬に水をおやりになって下さい、井戸と水やり用の桶はあちらにありますので」


 ラトサリーはそう言って家の裏にサーブを案内した。




次の章を飛ばしたい方は6章の前書きからお読み下さい。

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