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これ、ホントに呪いの指輪なの?  作者: 彩田(さいた)
一章 王都編
38/120

38:孤児院3


 サニアに案内され作業棟を出て渡り廊下を進むラトサリーとカトラ。応接室のある建物に近づくとカトラは辺りを見回し始める。ラトサリーは不思議そうな顔をカトラに向ける。


「そう言えば、今日はよくキョロキョロ周りを見てるわね。どうしたの?」


「え?……そうか、まだそんなに見えないのよね」


 カトラはそう言うと歩幅を狭めてサニアから距離を取り、ラトサリーの耳元に顔を寄せる。


「この建物の回りだけ『力』の流れが変なの。どうやら中で誰かが何か……難しい術式を使ってるみたい。これだけの流れなら……今のあなたなら意識を集中すれば見えるかもよ♪」


 カトラは小声でそう言いながら二階の窓を控えめに指差す。ラトサリーは少し眉をピクっと動かすと、歩きながら指を差された二階の窓付近に意識を集中させる。すると、ラトサリーの目は小さい光の粒が開いた窓の周りに向かって漂ってゆくを捉えた。目を凝らす程に粒の数は増してゆき、やがて【 ティロン 】とラトサリーの頭の中で音が鳴る。目を丸くしたラトサリーはカトラの上腕を掴んで揺すりながら彼女の耳元に顔を寄せる。


「カトラ!何か白っぽい粒が見えるわ!!」


 声を押し殺しながらも興奮してそう言うラトサリー。カトラはラトサリーを押しのけながら意外そうな顔をラトサリーに向ける。


「へぇ……あなたにはそう見えるのね」


「え?あなたは違うの?」


 ラトサリーがカトラを見返して不思議そうにしているとサニアは立ち止まって振り返り、二人に視線を向ける。


「どうされましたか?」


 サニアは二人の視線の先に目を向けて不思議そうに眺める。ラトサリーは慌てて立ち止まると作り笑顔をサニアに向ける。


「なっ、何でもないです。ちょっとふざけていただけです♪あ、ちなみに、あの窓の所には何があるんですか?」


「え?えぇ、あそこは子供達の部屋ですね。今行こうとしている所ですけれど……何かありましたか?」


「え、いえ。ベランダが広くて良いなぁ、と思っただけです。ありがとうございます」


「そうでしたか。まぁ、小さい子達が落ちないように注意しないといけないのが難点なんですけどね」


 サニアは少し苦笑いを浮かべてそう言うと向きを変えて再び歩み出す。ラトサリーが安堵の息をついて歩き始めると、並んで進むカトラは再び彼女の耳元に顔を寄せる。


「二階に行ったら、誰が何処でどんな術式を何の為に使っているか分かるまで私から離れないでね♪」


 カトラは嬉しそうにそう言うと上着のポケットから黒い金属質の手袋を取り出して着け始める。建物の裏口に着いたサニアは扉を大きく開き、扉を押さえて二人を待っていた。カトラが扉を通ろうとした時、サニアはカトラの手袋に気付いて驚いた顔をカトラに向ける。


「っ!カトラさん?手はどうされたのですか?」


「気にしないで♪」


 カトラは笑顔で手袋をした手をサニアに振りながら通り過ぎる。普通ではない手袋を目の前で見せられたサニアはラトサリーの腕を掴んで歩みを阻む。


「ラトサリーさん!あの……あの手袋は?どうされたのです?」


 ラトサリーは一瞬顔を引きつらせるが、無理矢理笑顔を浮かべてサニアを見返す。


「えっ!あれは……あの……その……何でしょうね?」


「ご存じないないですか……すみません。用途によってはウチで扱わせてもらえないかと思って」


「そ、そうですか。それなら本人に聞いてみたらいかがです?」


「そうですよね、ちょっと聞いてみます!」


 サニアは意を決した顔でそう言うとラトサリーの腕を離し、小走りでカトラを追いかけて声をかける。二人は言葉を交わし、カトラは人差指を横に振る素振りを見せ、サニアは肩を落とす。交渉失敗の様子を見たラトサリーは顔を引きつらせつつ足を速め、二人の後を追う。

 廊下を進み、作品が並ぶ玄関に来たラトサリー。階段の手前で待っていたカトラはラトサリーの姿を見て階段を上り始め、ラトサリーも後に続いて階段を上る。先に二階へ上がっていたサニアは廊下の手前にある腰高の仕切戸を開けて待ち構えていた。


「お通りになったら、そちらで少々お待ち下さいますか?」


 サニアに促され仕切戸を通り立ち止まる二人。サニアは扉を閉めて重そうなカンヌキを掛ける。一仕事終えた様子で息を吐くサニアにラトサリーは声をかける。


「随分としっかりしたカンヌキですね」


「えぇ。頭の良い子が扉を開けてしまったり、大人が鍵を紛失してしまったりと苦慮して辿り着いたのがコレなんだそうです」


 サニアはうんざりした顔で答えると腕を摩りながら廊下を奥へと歩き始める。サニアは一つ目の扉と通り越し、廊下の奥の扉の前で立ち止まって扉を三回叩いて扉を開ける。


「お入り下さい」


 二人に顔を向けそう言ったサニアは部屋に入り扉を押さえる。カトラはラトサリーの肩に手を置いて目配せをしてから扉を通る。ラトサリーはカトラに続いて扉を通り、数歩進んだ所で待つカトラの横で足を止める。広い部屋は差し込む窓明かりで照らされ、木の床には玩具やぬいぐるみが散乱していた。二歳程の子から四歳程の子が五人、それぞれが遊んでいた所から見慣れぬ二人に視線を向けて動きを止めていた。サニアは部屋の奥へ進み、床に座って二歳位の女児の面倒を見ながら揺り籠を手で揺らしている女性に声をかける。


「ユミナ、本業よ。みんなを集めて」


 サニアはそう声をかけてから振り返ってラトサリー達に手招きをする。促された二人はゆっくりとサニアへと歩み寄る。座っていた女性は少し慌てた様子を見せながら膝立ちになり、優しい声で子供達に呼びかける。


「みんな、ちょっと集まって頂戴♪」


 ユミナが呼びかけると子供達は彼女の元に駆け寄る。ユミナは揺り籠から幼子を抱きかかえるとラトサリー達の方を向き、床に座り直して幼子を膝に座らせる。子供達が集まった所でユミナは子供達に声をかける。


「みんな、お客様よ。アイサツして♪」


「「「はーい♪こーんにーちはー!」」」


「みなさん、こんにちは♪ラトサリーと言います。こっちはカトラ。よろしく♪」


 ラトサリーは子供達に挨拶を返してからユミナに体を向けて頭を下げる。


「先程は玄関でご対応下さりありがとうございます」


 ユミナは目を泳がせると俯きがちにラトサリーに目を向ける。


「い……いえ」


 言い淀むユミナを見かねたサニアはラトサリーに声をかける。


「すみません、この子、その……『ある種』の大人に対して苦手意識が強くて」


 そう聞いてラトサリーは少し首を傾げるが、場の空気を察して笑顔をユミナに向ける。


「そう言う事でしたら無理しないで下さいね」


「す……すみません」


 少しホッとした顔でラトサリーに向かって頭を下げるユミナ。心配そうに様子を伺っていた子供達が緊張を解いたのを察したサニアはラトサリーに声をかける。


「幼い子という事ですとこの子達と、隣の部屋にいる子ですね。それで、術式の素養はどのように確認されますか?」


 ラトサリーはカトラに顔を向けると、カトラは無言で間仕切壁を指差す。術式を使っている者の所在を知らされたラトサリーは頷き返してからサニアに顔を向ける。


「サニアさん。水の術式を使っても良いですか?もちろん部屋は濡らさないので」


「水の……濡らさないなら良いですよ。それでは何か容器を持ってきますね」


サニアはそう言って動こうとするが、カトラはサニアの肩に手を置いて彼女を止める。サニアは驚いた顔でカトラを見るが、カトラは自信ありげな笑みを彼女に見せる。


「大丈夫よ、必要無いわ♪」


 カトラはそう言うと手をプラプラと振りながらラトサリーから二歩程離れた位置に移る。ラトサリーはカトラが移動した事を確認してから子供達の方を向いて笑顔を見せた。




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