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これ、ホントに呪いの指輪なの?  作者: 彩田(さいた)
一章 王都編
36/119

36:孤児院1


 カトラがフレールに手紙を送ってから四日後、ラトサリーとカトラを乗せた馬車は大きな門の前に止まった。いつも通り宮総研の制服を着たカトラは足台が用意される前に扉を開け、颯爽と飛び降りると振り向いてラトサリーに手を差し出す。略礼装の服を着たラトサリーは扉から身を乗り出してカトラに呆れた顔を向ける。


「もぅ、危ないわよカトラ」


「大丈夫よ、それより早く行きましょう♪」


 カトラは手を差し出して笑顔を向ける。ラトサリーは苦笑しながらその手を取り馬車から降りた。





 養子を取る話を聞かされたカトラがフレールに手紙を書いて二日後の早朝。フレールの接近を索敵術式で感知したカトラは馬車が到着する前に納屋に逃げ込み立て籠もろうしたが、ウヌカに引きずり出された。ラトサリーの家に襲来したフレールは門でサーブを待ち構え、異様な笑みでサーブの肩を掴むと居間に引きずり込んだ。ラトサリーを加えた三人は居間の椅子に並んで座らされ、フレールは三人に凍てつく笑みを向けた。カトラは視線でウヌカに助けを求めるが笑顔で躱された。

 カトラから『発案者はサーブ』と聞かされたフレールは不審に思いラトサリーに確認した。ラトサリーからも同じ事を聞かされ驚いたフレールはサーブに詰問を始めた。厳しい問いを幾つも繰り出したフレールだったが、サーブはその全てに明確に、しかも穏やかに答えた。次第にフレールは怒気を緩めてゆき、最後には諦めたかのように笑みを浮かべサーブを労った。

 落ち着いたフレールは友人が運営している孤児院の紹介状を作成しサーブに渡した。帰り際にフレールは思い出したかのようにカトラを捕まえ、報告内容について小言を述べていった。ウヌカはラトサリーとお喋りをしながら説教が終わるのを待つ事になった。





 馬車から降りたラトサリーは御者席に座るサーブに声をかける。


「ねぇサーブ?本当に一緒に見に行かないの?」


 サーブは笑みをラトサリーに返す。


「あぁ。俺は馬の世話をしながら待ってるよ。君がどんな子を選ぶか楽しみにしてるからね♪」


 ラトサリーは息を軽く吐き、吹っ切ったような笑みをサーブに向ける。


「本当にそれで良いのね、分かったわ。それじゃぁ、楽しみに待っててね♪」


 ラトサリーはそう言うと振り向いてカトラに声をかけようとするが、カトラはすでに通用扉を通って玄関へと向かっていた。ラトサリーは慌ててカトラを追いかける。カトラが玄関に辿り着く寸前に追いついたラトサリーはムスっとした顔をカトラに向ける。


「カトラ……何先に入ってるのよ!」


「まぁ、良いじゃない♪」


 あっけらかんと答えながらカトラは扉を四回強く叩き、辺りを見回す。すると二階の窓が開き若い女性が顔を覗かせる。


「今そちらに向かいます、少々お待ち下さい」


 彼女はそう言って窓から姿を消す。次第に扉の向こうから聞こえる足音が大きくなってゆき、扉が開くと先程の女性が呼吸を整えながら現れた。ラトサリーと同年代程に見えるその彼女は二人に目をやると僅かに笑みを浮かべ軽く頭を下げる。


「お待たせしました。それで、御用件は?」


 ラトサリーは女性に礼をしてから微笑みを向ける。


「宮廷総合研究所の紹介で参りました、ラトサリー・ランダレアと申します。院長様はいらっしゃいますか?」


「総合……どうぞお入り下さい」


 女性は少し顔を強張らせながらそう言うと扉を大きく開く。ラトサリーは軽く頭を下げてから扉を通り、ゆっくりと進みながら玄関ホールを見渡す。床は歩いてもホコリが立たず、曇りの無い窓ガラスから入り込む日の光が室内を優しく包んでいた。棚には人形や木の食器等が種類分けされずにビッシリと並べられ、それぞれの作風の違いが不思議と温もりを醸しだしていた。ラトサリーは歩みを止めて棚に目を向けるが、後ろを歩いていたカトラに肩を叩かれ振り返る。


「あっちだそーよ。行くわよ」


 カトラは棚の反対側を指差しながらラトサリーにそう言うと、指した方へと歩き出す。ラトサリーは名残惜し気にその場を離れ、カトラの後に続く。女性に案内され二人は廊下の奥の部屋に通される。大きなテラス窓から入る日差しで明るい部屋の壁には大きな棚が造り付けられ、玄関ホール同様人形や工芸品が棚一杯に飾られていた。女性は部屋の中央に据えられたテーブルと椅子の方を手で指しながらラトサリーに顔を向ける。


「あちらでお待ち下さい」


 そう言って女性は足早に部屋を出て行く。カトラは早速長椅子に身を投げ出し、肘を背もたれに乗せながら辺りを眺め始める。ラトサリーは棚の前に足を運びながらカトラに冷めた目を向ける。


「カトラ……行儀悪いにも程があるわよ」


「大丈夫よ、誰か近づいてきたら分かるし」


 カトラはそう言いながら真顔で辺りを眺め続ける。カトラがいつもと何か違う気配を見せる事を不思議に思いながらラトサリーは棚に目を移す。

 暫くしてカトラが突如姿勢を正して座り直すと、廊下から物音が聞こえ始める。ラトサリーは棚から離れカトラの隣に座ると、部屋の扉が開き女性が現れる。作業服で身を包んだ女性は二人の方に進みながら髪を手櫛で整える。二人は椅子から立ち上がり、ラトサリーは礼をする。女性はラトサリーの前で止まると礼を返し、笑みをラトサリーに向ける。


「お待たせして御免なさい♪院長のハンナ・リカヤです」


「ラトサリー・ランダレアと申します。こちらは宮総研のカトラです。突然の訪問に応じて下さり感謝致します」


「まぁ座って頂戴。堅苦しいのは好きではないの♪」


 ハンナはそう言いながら椅子に座り、促された二人も椅子に座る。


「それで、宮総研の紹介だそうだけど……」


 ハンナは二人を熟視しながらそう言うと、棚を手で指しながらラトサリーに笑顔を向ける。


「ここの棚は装飾用の商品を並べているの。食器とか実用的な物を仕入れたいなら言って頂戴、案内するわ♪」


「……え?」


 ラトサリーが思わず声を盛らしてカトラに目を向けると、カトラは少し呆れた顔でラトサリーに紹介状を手渡す。ラトサリーは受け取った紹介状をテーブルに置いてハンナに差し出す。


「あの……こちら、フレール様の紹介状です」


「あら、フレールの?……」


ハンナはそう言って紹介状を凝視すると、手を振りながら気恥ずかしげな顔をラトサリーに向ける。


「……勘違いしてごめんなさい♪宮総研の紹介って言うし、若い女性二人って話だったから、てっきりバザーの仕入れの話だと思って♪」


 ハンナは照れ笑いを浮かべながら紹介状を手に取り、封を確認する。


「確かに彼女のモノね……それなら玄関先でそう言ってくれれば良かったのに」


「申し訳ありません。入口で王妃様の御名前をいきなり出すのもどうかと思いまして」


「……対応したのがあの子となると……気遣いに感謝するわ」


 ハンナはそう言いながら開封して紹介状に目を通す。ハンナが二枚目に目を移した所で廊下からガラガラと音が聞こえ始める。扉が開くと、先程の女性が配膳台を押して部屋に現れる。女性が入れたお茶を配り始めると、ハンナは顔を女性に向けて微笑みかける。


「ありがとう、後は大丈夫よ。それで、サニアは今日どこにいるか分かる?」


「え、サニアさんですか?……今日は縫い物を皆に教えると言っていましたから、縫製棟だと思います」


「そう。それじゃぁ、『私が行くまで部屋の移動はしないで』と伝えてくれる?」


「はい。わかりました」


 女性はそう言ってからラトサリーとカトラに頭を下げ部屋を出て行く。ハンナはお茶を一口飲み、再び紹介状に目を移す。読み終えたハンナはお茶をもう一口飲み、カップを置きながら息を静かに吹くとラトサリーに顔を向ける。


「ラトサリー……だったわね?大変な状況だと言う事は分かったわ。でも……一つだけ聞かせて頂戴」


 ラトサリーは気配が変わった事に気付き、姿勢を整えハンナの目を見返す。


「っ、はい。何でしょう」


「なぜ……あなたの夫は一緒に来なかったの?」


 ラトサリーは少し気まずそうに口を開く。


「夫でしたら、外で馬の世話をして待っています」


「え?外?」


 ハンナは僅かに眉を動かすと、ラトサリーを睨みつける。


「馬の世話なら隣に座っている彼女に任せれば良いじゃない。なぜあなたの夫はこの場に同席しなかったのか聞かせて頂戴」


「えー!私やりませんよ馬の世話なんて。つまんない」


「カトラちょっと黙ってて……」


 ラトサリーは横を睨みつけてから溜め息をつき、ハンナに向き直る。


「ハンナ様。あなたがそう言われるのも当然だと思います。それなのですが……それは……」


 ラトサリーは言葉を詰まらせると顔を少し下に向け、頬を少し赤らめて上目遣いでハンナに向かってか細い声を出す。


「……笑わないで聞いて下さい」


ラトサリーは四日前の出来事を話し始めた。




「……夫は『楽しみにしてる』と言って馬の世話をしながら待っております」


 話し終えたラトサリーは耳まで真っ赤にして顔を真下に向けた。カトラがニヤニヤしながら三杯目のお茶を啜っている向い側で、ハンナは下を向いて肩を震わせていた。二人を気にする事無くカトラが四杯目のお茶に口をつけ始めた頃、ハンナは右手を口に当てた。


「…………ふっ♪」


 ハンナが吹き出した音を聞いたラトサリーは顔を上げると、彼女は肩を震わせ必死に笑いを堪えていた。ラトサリーは湯気でも出そうな程に紅潮した顔でハンナを睨む。


「笑わないでと言いましたよね……」


「……笑って……無いわよ…………ふっ♪……くっくっ♪」


 ハンナはそう言うと左手をお腹に当てて横を向き、椅子の背もたれに頭を押し当て体を震わせ始める。ラトサリーは真っ赤な顔のまま口を尖らせ恨めしそうにハンナを睨む。ラトサリーは一向に頭を上げないハンナの様子に溜め息をつくとカップに手を伸ばし、顔を紅潮させたままお茶に口をつけた




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