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これ、ホントに呪いの指輪なの?  作者: 彩田(さいた)
一章 王都編
32/119

32:挙式1


32 挙式・壱




 ラトサリーとサーブの結婚式当日、町の広場は二人を祝福する為に集まった人達で賑わっていた。ノートは大人しく椅子に座り、列席者への挨拶回りで奔走するサーブを温かい目で見ていた。広場にある集会所に併設された舞台は白を基調とした装飾が質素に施され、台に置かれた大きな花瓶には色とりどりの花が生けられていた。

舞台袖の奥の部屋でラトサリーは純白のオフショルダーのロングドレスを纏い、姿見の前で身なりを確認していた。その横で、若草色を基調としたトラペーズラインで長袖のワンピースを着たカトラは椅子にダラっと座り、ラトサリーの様子をぼんやりと眺めながら呟く。


「……一度は着ておいた方が良かったかしらね」


 ラトサリーは振り向いて少し怪訝な顔をカトラに向ける。


「なにもう結婚出来ないみたいな事を言ってるの?」


「だって……」


 カトラはふくれっ面をラトサリーに向ける


「あんな町でまともな相手を見つけられる訳ないじゃない……」


カトラはフレールからカタアギロ行きを告げられていた。





ラトサリーを遠方で野放しにするのは危険だと言う一部の者達への配慮で監視役をつけると言う話が出た。そう言う事なら護衛込みでとカトラを推したフレール。だが、『単なる監視や護衛としてカトラ程の強者をつけると変に勘ぐられて話がややこしくなる』と難色を示され、何か良い案は無いかと協議がなされた。その結果、ラトサリーがカタアギロ行きを受けた場合、以下の内容が公表される事となった。


・ダラウンカタ大森林の調査の為に宮総研の分室をカタアギロに設立する

・宮総研分室の室長としてカトラを派遣する

・分室は町の護衛責任者の敷地に併設する


 危険が伴う異動を承諾してもらう作戦を思いついていなかったフレール。そこでフレールは場の勢いだけで首を縦に振らせようとした。だが、カトラはフレールが呆気に取られる位の笑顔で良い返事を返した。大森林への好奇心が想定し得る不利益を上回ったようだが、特に『室長』という肩書が気に入ったようだった。『これでウヌカを顎で使える♪』などと呟いて目を怪しく光らせて周囲を呆れさせていた。




 だがラトサリーの花嫁衣裳を眺め続けたせいで、承諾した時には思いもしなかった不利益に気付いてしまったカトラ。そんなカトラに視線を向けられたラトサリーは引きつった笑みを浮かべる。


「まぁ……確かにそうね……でも、万が一って事もあるし……」


「万が一ってほぼ無いって事じゃない……」


 そう食い気味に答え益々不貞腐れるカトラ。ラトサリーは苦笑いを浮かべて姿見に向き直り、右手で髪を整える振りをしながら気になった事を尋ねる。


「でもカトラ?今までそう言う話は無かったの?縁談とか」


そう聞かれたカトラは目をパチっと開いて宙を眺めると、苦笑いを浮かべて口を開く。


「まぁ……あった事はあったんだけど……ちょっとね……」


「え?何その反応は……何があったの?」


 ラトサリーは少し驚いた顔でカトラの方を向く。カトラは苦笑いを浮かべたまま左手で髪をいじり始める。


「いやぁ……それが……」


 躊躇しながらも話始めようとするカトラだったが、不意に視線を扉へと向けると同時に立ち上がって扉へと歩き出す。扉の前で立ち止まったカトラはラトサリーの方に顔を向ける。


「その話は気が向いたら話すわ」


 カトラが扉の方に向き直ると扉を叩く音が鳴る。


「どーぞー。なんですかー?」


「失礼します」


 カトラの呼び掛けに応じて扉の向こうから声がすると同時に扉が開き、集会所の係の女性が部屋を覗き込む。


「準備が整ったので舞台袖へお越し下さい」


「わかったわ、ありがとう♪」


 カトラは笑顔で係りの女性にそう言いながら扉を大きく開き、ラトサリーに顔を向ける。


「時間だそーよ、行くわよ♪」




 舞台中央に町長が立ち、式を見守りに来た人達に向かって呼びかけを始める。町長の隣でサーブは遠目で見て分かる程に緊張していた。舞台袖で呼び込みを待つラトサリーの横で父のトレダールは目を泳がせながら深呼吸を繰り返していた。カトラはラトサリーに顔を寄せて囁く。


「ラトサリー。男性陣、ガチガチみたいだけど。あなたは大丈夫?」


 ラトサリーはサーブとトレダールの様子をチラッと見て笑みを浮かべる。


「そうね……そこまでは緊張していないわ」


「そぅ。なら大丈夫ね、しっかり支えてあげるのよ♪」


 カトラがそう言ってラトサリーから顔を離した時、町長の大きな声が響き渡る。


「それでは新婦、舞台へお越し下さい!」


 ラトサリーはカトラを笑顔で一瞥するとトレダールの腕を取るが、何かに弾かれたかの様に手を離す。驚いた顔で自分の手を見るラトサリーにトレダールは驚いた顔を向ける。


「どうした?大丈夫か?」


「え、えぇ、ごめんなさい」


 ラトサリーはそう言って再び父の腕を取る。鼓動が高まっている事に気付いたラトサリーはブーケを持つ手に力を込めて息を吐き、トレダールに顔を向ける。


「参りましょう、お父様」


トレダールは娘の目を見て頷くと舞台へと向き直り、ラトサリーと共にゆっくり歩き出す。ぎこちない父と共に一歩、一歩と進むにつれ、ラトサリーの鼓動はさらに強く速くなっていく。純白の衣裳を纏う花嫁の姿に感嘆の声を上げる人達の賑わいをかき消す程の鼓動にラトサリーは動揺を覚える。


(こんなに緊張するなんて……落ち着かないと……)


 舞台中央に辿り着くと、トレダールは小声でラトサリーに声をかける。


「……顔色が悪いぞ、大丈夫か?」


 ラトサリーは不快な動悸を隠すように作り笑顔をトレダールに向ける。


「……少し緊張したみたい。大丈夫よ」


 ラトサリーはそう言ってトレダールから手を離す。


「……そうか」


 トレダールそう言って心配そうな顔をしたまま町長とサーブの方を向いて礼をし、広場の方を向いてさらに礼をしてから舞台を降りていく。町長はトレダールが席に座った事を見て一歩下がり、サーブとラトサリーに視線を送る。二人がそれに呼応して町長の方を向くと、町長は軽く咳払いをして口を開く。


「それでは、これより結婚式を執り行う」




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