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これ、ホントに呪いの指輪なの?  作者: 彩田(さいた)
一章 王都編
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31:拝領



31 拝領




 フレール達を出迎える為に勝手口から外に出たラトサリーとカトラ。ラトサリーはゆっくり歩くカトラを置いて早足で門へと進む。ラトサリーは馬車より先に着いたトレダールに声をかける。


「お帰りなさい、お父様。フレール様達はどうなされたのですか?」


 トレダールは馬から降りてラトサリーに少し困った顔を向ける。


「カトラさんに話があるらしいのだが、お前達とも話がしたいとの事だ。私は馬を戻してくるから、お二人を居間にお通ししてくれ」


「は、はい、わかりました」


 返事をしたラトサリーにトレダールは微笑みを向け、馬を引いて厩舎に向かう。トレダールの背中を見送ったラトサリーは近づいてくる荷馬車の方に向き直り、荷馬車に向かって礼をする。門の前で荷馬車は止まり、フレールは荷馬車から飛び降りてラトサリーに微笑みかける。


「元気そうね、ラトサリー♪」


 ラトサリーは頭を上げて微笑み返す。


「フレール様もお元気そうで何よりです。それで、今日は私達に話があるそうですが?」


「えぇ、そうなんだけど……」


 フレールは廻りを見回しながらそう言うと、首を傾げてラトサリーに顔を向ける。


「ラトサリー、サーブは何処行ったの?」


「サーブですか?サーブならカトラの準備が整った頃合いで帰りました」


「そう……まぁいいわ、サーブには後で話せば良いし」


 少し残念がるフレールにラトサリーは手で家を指しながら声をかける。


「フレール様、一先ずお入り下さい。父から案内するように言われておりますので」


「そう?分かったわ。お邪魔するわね♪ウヌカ、馬車は任せたわよ」


「分かりました」


 ウヌカは御者席から答えると荷馬車から飛び降り、ラトサリーに歩み寄る。


「ラトサリー、井戸はどこですか?」


「あ、家の裏です。あちら側に回り込んで直ぐの所にあります」


「そう、ありがとう」


 ウヌカは笑みを浮かべながら彼女の肩をポンっと叩き、ラトサリーが手で指した方へ向かう。ウヌカを見送るラトサリーの後ろでカトラはフレールにまとわりつく。


「それで所長、私に話って何ですか?」


「話の順序があるから、とりあえず家の中に行きましょう」


「えー!じゃぁ、歩きながらザックリと話して下さいよ♪」


「だからラトサリーの返事次第だから、ちょっと待って頂戴」


「そーんな勿体ぶらないで言って下さいよ、先に聞いても減るもんじゃないですよね♪」


 家へ進みながらフレールに絡むカトラを見てラトサリーは頬を引きつらせて笑った。




 フレールを居間に通してお茶を出すラトサリー。フレールはテーブルに置かれたカップに手を伸ばすとカップを口元まで運び、目を閉じて香りを確かめる。ゆっくりと目を開けたフレールはカップに口をつけ、ホッと息を吐くと口角を少し上げて口を開く。


「アイナの……あなたの母に入れて貰ったお茶そのものだわ」


 ラトサリーは目を細めて会釈する。


「母と同じ味を保てていた様で安心しました」


 フレールは笑みを浮かべたまま更にお茶に口をつける。その隣で紅茶を飲み干したカトラがラトサリーに向かってカップを振って見せる。


「ラトサリー、おかわり頂戴♪」


「もう飲んだの!?……熱くないの?」


 ラトサリーが呆れ顔でカトラのカップにお茶を注いでいると扉が開いた。開いた扉からトレダールが現れ、フレールに歩み寄って礼をする。


「フレール様、お待たせ致しました」


 トレダールは頭を上げるとフレールの向かいの椅子に座る。ラトサリーがお茶を入れたカップをトレダールの前に置くと、トレダールはラトサリーに顔を向ける。


「お前も座りなさい」


 促されたラトサリーはトレダールの隣に座る。ラトサリーが座ったのを見てフレールはお茶を飲み干してカップを置き、トレダールに向かって口を開く。


「ランダレア卿、まずはあなたの家の事からラトサリーに話して頂戴」


「承知致しました」


 トレダールはそう答え、ラトサリーに体を向ける。


「今日、陛下の執務室に呼ばれて内示を受けたのだが……新たな土地を賜る事になりそうだ」


ラトサリーは目を丸くして息を飲み、フレールに視線を送る。フレールが頷いて応えるとラトサリーは座ったまま横を向き、ぎこちない笑顔をトレダールに向ける。


「お、おめでとうございます、お父様」


「あ、ありがとう……それで…………この話を受けた場合、賜った土地にサーブとお前が行く事になる」


「……え?」


 ラトサリーは目をパチクリさせて首を傾げる。トレダールは娘の様子を察して急いで口を開く。


「いや、それが、私は城での仕事を継続する事になってな。結婚式を終えて準備が整い次第向かってもらうそうだ」


「はい……それで、その土地とは何方ですか?」


「それが……あぁ、そうだ、お前が言っていた通り給金を上げて貰える事になった。しかも二倍だぞ♪これで借金の返済に目途が立った」


 ラトサリーは溜め息をついて冷笑をトレダールに向ける。


「そうですか。それで、どんな辺境なんですか?別の話を持ち出してないで早く言って下さい」


「いやー……それが……」


 トレダールが目を逸らして言い淀んでいると、フレールが神妙な顔で口を挟む。


「ランダレア卿、そこからは私が話すわ」


 その言葉を聞いたトレダールとラトサリーはフレールに目を向け、フレールに向き直って姿勢を正す。二人が体勢を整えた所でフレールは神妙な顔のままラトサリーに向けて口を開く。


「ラトサリー。あのお茶を出したと言う事は、それ相応の話をされると予期しているって事で良いわね?」


「はい」


「そう……そうよね」


 フレールはそう呟くと目を閉じて笑みを浮かべ、息を軽く吐いてから目を開き、ラトサリーに目を向けて口を開く。


「ラトサリー、あなた達に与えられるのは……ダラウンカタよ」


 トレダールが目を閉じて険しい顔をする横でラトサリーは首を傾げて目を左上に向ける。


「……西の大森林ですか?」


 その問いにフレールは顔を曇らせ、軽く息を吐いてから口を開く。


「えぇ……そして、サーブは森の手前の町の警護責任者を兼任して、切り開いた森を領地とする。そして、ある程度開拓が進むまで王都に戻る事を禁止する……と言う事だそうよ」


「切り開く……ですか」


 そう呟いたラトサリーは目の前のフレールの顔色が曇っている事に首を傾げる。


「それでフレール様、何故そのような落ち込んだ顔をなさっておられるのですか?」


 フレールはラトサリーから目を逸らし、申し訳なさげに口を開く。


「この話は……陛下の意向を執政部が考慮して出した話なの」


「陛下の?」


「えぇ……あなたをエミアルから出来る限り遠ざけろとクラウに迫ったそうなの。それでクラウと彼の部下達が会議を開いたんだけど……」


 ラトサリーは神妙な面持ちでフレールの言葉に耳を傾ける。


「王都から離れた町にサーブを赴任させて、あなたと共に移動させるって案が出て。幾つか候補地を絞って陛下にお見せしたら、『戻って来られないようにしろ』と突き返されたそうなの……」


 フレールは益々顔を曇らせて言葉を続ける。


「それで考えた挙句に出したのが、開拓出来ずにいる大森林を拝領させて現地に縛り付けると言う案だったの。それはあんまりだと思ってクラウの所に行ったんだけど、『廷臣達の不安や不満を鑑みての事』と言われてしまって……」


 そう言って肩を落として俯くフレール。ラトサリーはやや引きつった顔でフレールに問いかける。


「あのぉ、フレール様……もしかして私って、そんなに危険な存在として認識されてしまったのですか?」


 フレールは俯いたまま眉間のしわを濃くして口を開く。


「それが……薬の副作用だとしてもあんな重傷を負わせる程の力が出せるのは異常だ、だそうよ」


 その言葉にラトサリーは引きつった笑みを浮かべる。


「ま、まぁ……そうなりますよね……」


 ラトサリーはそう言って立ち上がるとケトルを取り、フレールの元へ行く。ラトサリーがフレールのカップにお茶を注ごうとすると、カトラはニンマリとした顔でカップをラトサリーに振って見せる。


「私にも入れて♪」


「っ、もぅ……どれだけ飲む気よ」


 ラトサリーは呆れたように笑いながらそう言ってからフレールのカップにお茶を注ぎ、カトラの横へ移る。


「そんなに飲みたかったら自分で入れたら良いじゃない」


「だって、変に動くと所長に怒られそうなんだもん♪」


「そう言う事は気にするのね……」


 ラトサリーは呆れながらも口元を緩め、カップの淵すれすれまでお茶を注ぐ。


「ちょっと……そんなに入れたら持てないじゃない!」


 口を尖らせるカトラに向かってラトサリーは満面の笑みを向ける。


「沢山飲んでね♪」


 カトラは口を尖らせたままカップに手を添えてゆっくり引き寄せようと試みる。ラトサリーはその様子を横目で伺ってクスっと笑い、別のカップにお茶を入れながらフレールに声をかける。


「それでフレール様、サーブがカタアギロの警護を任されるのは良いのですが……」


 カトラを見て呆れていたフレールは目をラトサリーに向け、軽く咳払いをして口を開く。


「っ、何かしら?」


「大森林は森の民の土地ではありませんでしたか?そんな場所を領地だと言って大丈夫なのですか?」


「それが……『耳長』共の領有を何処も認めていないから問題ない、だそうよ。開拓が進んだら衝突するかもしれないけど、災害級の獣まで生息するあの森を開拓出来るとは思っていない、とも言っていたわ」


「そ、そうですか……それと、森に隣接する他国から文句を言われたりしないのですか?」


「え、えぇ……ずいぶん前に他国が同じ事をした記録があるから問題ない、だそうよ。全然開拓出来なかったみたいだし、どの国も開拓出来るとは思っていないだろうし大丈夫だろう、と言っていたわ」


「そうですか……つまり、開拓出来ない森に私を縛り付ける、と言う事ですか?」


「っ……えぇ。でも、クラウは辞退しても構わないって言ってるわ」


「そっ……そうですか……ですが、辞退した場合、私とサーブはどうなるのですか?」


「まず、サーブはエミアルの警護とは関係が無い場所を受け持つ事になるそうよ。そして……」


 フレールは額のシワを濃くさせ、息を整えてから言葉を続ける。


「あなたは……自宅から外に出る事が禁じられて、監視が付く事になる……そうよ」


「……そうですか」


 ラトサリーは呟く様に返事をするとフレールは困り顔で口を開く。


「で、でもねラトサリー。ある程度の期間我慢してくれれば、軟禁が解かれると思うの。私もそうなるように働きかけるから、ずぅーっとって訳じゃないわ」


「そっ、そうですか……それで、どちらかを選べ、と言う事ですね?」


「……えぇ」


 ラトサリーから顔を逸らしてそう答えるフレール。ラトサリーはトレダールに目を向け、父親の困り顔を見て息を軽く吐くとフレールに顔を向ける。


「フレール様。少しだけ考える時間を頂いても宜しいでしょうか?」


「えっ、えぇ。良いわよ」


「ありがとうございます」


 ラトサリーはお茶を入れたカップを持って自分の席に戻り、カップをテーブルに置いて椅子に座る。お茶を一口飲んだラトサリーは左手の平を左頬に当て、左人差指で頬をポンポンと叩きながら目を伏せる。トレダールは娘を横目で見ると顔を強張らせて口を開こうとするが、その動きを察したフレールは手をパッと出して彼を制する。トレダールが驚きと共に口を噤んだのを見たフレールはホッとした顔をして座り直し、ラトサリーを黙って見守る。



カトラがお替りのお茶をケトルに入れて部屋に戻って来た所でラトサリーの指は止まり、彼女は目を開きながら大きく息を吐く。


「……そうですね」


 ラトサリーはそう呟くと左手を頬から離し、顔を上げて座り直すとフレールに笑顔を向ける。


「そう言う事でしたら領地の件、喜んでお受け致します♪クラウ様に格別な御配慮感謝致しますとお伝え頂いてもよろしいでしょうか?」


 フレールは驚きを隠さずにラトサリーに問いかける。


「ラトサリー?カタアギロがどんな町か分かっているの?」


 ラトサリーは笑顔のまま口を開く。


「はい。治安は相当悪いと聞いていますが、サーブなら問題無いと思います」


 フレールは驚きに焦りを加えて声を張る。


「そうじゃなくて!あなたはそれで良いの?」


 ラトサリーはシレっとした顔で答える。


「はい。王都近郊に留まる方が危険なようですし、サーブと新たな土地で暮らす方が楽しそうです♪それに、父の御給金を随分と上げて頂いたのですから、クラウ様の案に従うのが筋かと存じます」


 フレールは目を丸くしてラトサリーをまじまじと見ると、呆れたように溜め息をついてラトサリーに微笑みを向ける。


「あなたって人は……分かったわ、クラウにはその言葉をそのまま伝えておくわよ。これであなたへの話はおしまいよ。次は……」


 フレールはそう言って隣のカトラの方を見ると、カトラはお茶を入れ過ぎたカップをテーブルに置いたままお茶を啜っていた。フレールは失笑するが、それに気付いたカトラはカップから口を少し離してフレールに目を向ける。


「こぼすと勿体ないじゃないですか。それで、そろそろ私への話になりますか?」


「えぇ、待たせたわね。ラトサリーとサーブの行き先は聞いていたわね?」


 カトラは頭を上げてフレールに顔を向ける。


「はい、サーブがカタアギロに赴任して、ダラウンカタを開拓するんですよね。良いですよね、資源と謎の宝庫に行けるなんて」


 カトラの言葉にフレールは笑みを浮かべてカトラの肩に手を置く。


「あら、あなた、ダラウンカタに行きたそうね?丁度良かったわ♪」


「はい?」


 カトラは目を丸くしてフレールを見つめた。


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