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これ、ホントに呪いの指輪なの?  作者: 彩田(さいた)
一章 王都編
29/119

29:帰還


 執務室から出たラトサリーはフレールとノートの後に続いて廊下を進み階段を下りる。ウヌカはラトサリーの後ろで落ち込んでいた。その様子を気にしたラトサリーは階段を降り切った所で振り返り、ウヌカに申し訳なさそうな顔を向ける。


「ウヌカ、術式の事を言わなかったのは謝るわ。あなたにはどうにかして伝えるべきだったわ」


 ウヌカは立ち止まってラトサリーの目を見て生返事をすると、ラトサリーを置いて直ぐに歩き出す。ラトサリーはウヌカを追いかけて横に並んで見上げる。


「あなたの事を信用していなかった訳では無いのですよ。使える位の強さに出来るか確信を持てなかったからなんですよ」


「……?それは重々承知していますよ」


「それでしたら、何故先程からそんなに落ち込んでいるのですか?」


「それは…………個人的な事なので言えません」


「個人的?」


 その受け答えを耳にしたフレールは振り返りラトサリーに笑いかける。


「ラトサリー、放っておいて大丈夫よ。ウヌカは残念がっているだけだから♪ね、副所長?」


「そうじゃな。全く、物騒な奴じゃ」


「ノート様?物騒とはどう言う事ですか?」


 ウヌカは慌てて声を上げる。


「副所長!……言ったら怒りますよ」


「ヒョーっホッホ♪お主に怒られるなんて嬉しいのう♪嬢ちゃんよ、こやつ……」


「毎日激辛料理出しますよ、副所長……」


「うっ……」


「激辛料理に先日完成した『深紅雷』たっぷりかけますよ、副所長……」


「…………嬢ちゃんよ、まぁ気にしないで大丈夫じゃよぉ…………」


 ノートは冷や汗を流して逃げる様に足を速めて廊下の奥へ消える。ウヌカはホッと一息ついてからラトサリーに顔を向ける。


「そういう事なので、あなたは何も気にしないで大丈夫ですよ。それより凄いですね、あの部屋に入ってから短時間でそこまでの風を出せるまでになるなんて」


「そ、そうですね。この指輪、本当に何なのでしょうね?『時に備え』……でしたっけ?」


「えぇ、解読出来たのはその一文だけですけど。解読が進んで『時』とは何か分かれば良いのですが」


「そうですね。それで、どの現存者に属する文字だったのですか?」


「それが……」


 ウヌカは困った顔をして言葉を続ける。


「大地に関わる現存者の文献でチラッと出て来た文字と文脈から、空気か何かに関連した現存者だと思われるのですけど……その現存者に関する文献に未だ辿り着けていないの」


「そうなんですか……それで、『備え』とあるなら色々な能力を向上させるようにした方が良いのですかね?」


 その言葉を聞いてフレールは振り返り、後ろ向きで歩きながらラトサリーに顔を向ける。


「そうとは言えないわ。能力を向上させた反動が来る時に備えよ、って事かもしれないし。何にせよ解読が進むまで訓練は控えて欲しいの」


「はぁ」


 生返事をするラトサリーを横目にウヌカは残念そうな声を出す。


「それは残念ですね。術式だけでなく、剣術があの短時間であそこまで上達したのも指輪の力なのでしょうから」


 そう言ってからウヌカはラトサリーに顔を近づける。


「ねぇラトサリー。もう少しだけ鍛錬を重ねて、一度本気で手合わせしてみませんか?」


 何か嬉しそうな顔で誘うウヌカの気配に背筋を冷やすラトサリー。


「か……考えておきます……」


「前向きにお願いしますね♪」


 笑顔の目の奥に只ならぬ気配を漂わせるウヌカ。フレールは口をすぼめてウヌカをたしなめる。


「ウヌカ、その悪い癖は出さないで頂戴」


 フレールはそう言うと前に向き直って足を速めた。




 さらに廊下を進んで玄関ホールに出ると、先に着いていたノートと共にカトラが待ち構えていた。カトラはラトサリーと目が合うと玄関扉を親指で指しながら呼びかける。


「ラトサリー、お疲れ様。お待ちかねよ♪」


 カトラはそう言うと扉に手をかけ一気に開ける。ラトサリーはカトラに促され外に出ると、その先に馬車が止まっていた。ラトサリーを先頭に玄関前の階段を降りると、豪華な造りの馬車の戸を開けて待ち構えるサーブがいた。サーブはラトサリーに気付くと笑顔で手を振りながら声を上げる。


「ラトサリー!」


 ラトサリーは安堵を顔に浮かべながらサーブに駆け寄る。サーブは駆け寄ってきたラトサリーの頭に右手を優しく乗せ抱き寄せる。その時、ラトサリーは体をビクッと大きく震わせ、サーブの胸を両手でドンっと押してサーブから離れる。ラトサリーは体を小刻みに震わせながら腕を抱え、困惑した表情をサーブに向ける。


「サ……サーブ?私……何で……」


 サーブは心配そうな顔をラトサリーに向ける。


「ラトサリー、大丈夫ですか?……それに、服はどうしたのですか?何があったのですか?」


「え……えぇ、色々ありまして……」


 ラトサリーが右手で左肘を握りながら言い淀んでいるのを見たフレールは彼女の横に移り、ラトサリーの肩に優しく手を置く。


「ラトサリー、無理しないで良いわ。私が説明するから」


フレールはそう言ってラトサリーの肩から手を放し、サーブに顔を向ける。


「色々あったのよ。それで、カトラからどこまで聞いているのかしら?」


「カトラからは、ここに馬車を回していつでも出せるようにしてラトサリーを待つように、としか言われていません」


「そう……それでは何があったか誰からも聞いていないのね?」


「はい。それでフレール様、何があったのですか?」


 フレールは少し困った顔をして目を下に向けるが、直ぐに顔を上げる。


「そうね……話すと長くなるから馬車の中で言うわ。サーブ、乗って頂戴」


「は、はい。ですがフレール様、報告の為に一度警護部に戻らせて頂きたのですが」


「それは大丈夫よ、宰相が調整して下さる事になっているから」


「え!クラウ様が!……分かりました。それではフレール様、お乗り下さい」


 フレールはサーブの手を借りて馬車に乗り込むと、振り向いてウヌカに声をかける。


「ウヌカは御者をお願い」


「はい、承知しました」


 ウヌカは馬車の戸の横に移るとサーブに乗り込む様に促す。続いてフレールはカトラにも声をかける。


「カトラ、一緒に来て頂戴。暫く護衛としてラトサリーの家に留まって欲しいの」


「えー……仕方ないですね、わかりました。着替えとか後で手配して下さいね」


 カトラが馬車に乗り込もうとする後ろでラトサリーは焦ってフレールに呼びかける。


「フレール様、護衛だなんて大げさすぎます」


「エミアルの配下が何もしてこないと確認出来るまでよ。それに、今のあなたを一人にしておく訳にはいかないわ」


 そう言われたラトサリーは右手で左肘を更に強く掴み、神妙な顔をフレールに向ける。


「そ、そうですか……ありがとうございます。ですが、護衛と言う事ならウヌカではないのですか?」


「カトラは広範囲の索敵が出来るの。あなたの家で護衛をするならカトラが適任よ」


「索敵って……凄いですね。でも、カトラにそんな危険な事をさせて大丈夫なのですか?」


「まぁ、カトラの心配をするなんて、優しいわね♪でもカトラはウヌカと同じ位強いから大丈夫よ、安心して♪」


「そうですか……えっ!では副団長が負けたもう一人って……」


驚いてカトラの背中に目を向けるラトサリーに向かってフレールは柔らかい声で呼びかける。


「ラトサリー、帰るわよ。乗って頂戴」


 フレールの言葉に合わせるようにノートはラトサリーの前に進み出て、ラトサリーに向かって笑みを見せる。


「では、ワシはもう少し王子を回復させに行くとするかのぅ。嬢ちゃん、気を付けてな」


 ラトサリーはノートに深く頭を下げる。


「ノート様。本当にありがとうございました。御陰で死なずに済みました」


「そうじゃな、本当に無事で良かったわぃ♪」


 そう言ってノートは手を振りながらラトサリーの元を後にする。ラトサリーは頭を上げて見送るが、ノートは数歩進んだ所で振り返り、ラトサリーを指差しながら笑顔で口を開く。


「そうじゃ、何かあったら何時でもワシらを頼るのじゃぞ♪遠慮したら怒るぞぃ♪」


 ノートはラトサリーの返事を待たずに向き直り、その場を去って行った。




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