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これ、ホントに呪いの指輪なの?  作者: 彩田(さいた)
一章 王都編
28/119

28:流用


 モリスは憔悴した面持ちで廊下を歩いていた。足取り重く辿り着いた執務室の扉が開けられ、モリスは兵士に促され部屋に入る。部屋に入ってすぐの所で立ち止まったモリスに部屋の奥で座るクラウが声をかける。


「モリス、こちらへ来なさい」


 重い足取りでクラウの椅子の手前まで来たモリスにユリシエルが声をかける。


「モリスよ、座るが良い」


 その言葉にモリスは驚いてクラウに顔を向ける。その様子に気付いたクラウは椅子を手で指して着座を促す。怪訝な顔をしながら座ったモリスにクラウは体を向ける。


「モリスよ、お前とエミアル様は彼女の指輪を外す為の薬を手配していたのだな?」


「……はい?」


 モリスは不思議そうな顔で言葉を漏らすが、クラウは構わず言葉を続ける。


「指輪を外す為に用意した薬が上手く効かなかった。その薬のせいで彼女は錯乱して王子を負傷させてしまった。それで間違いないな?」


「あの……クラウ様?」


「エミアル様とお前は彼女の為に力を尽くしたが、薬の副作用と言う不慮の事故でエミアル様は負傷された。こういう事でよいか?よいであろう?」


 モリスはハッとしてラトサリーに険しい顔を向ける。ラトサリーはモリスに目を向ける事無く組んだ手を胸元に押し当てていた。その様子を見たモリスはラトサリーを暫し睨むが、溜め息をついて目を伏せてから穏やかな顔をクラウに向ける。


「は……はい……私達の力及ばず指輪を外す事は出来ませんでした……」


「そうか。では、エミアル様は臣下の娘の為に名誉の負傷をされた、という事で良いな?」


「そ、その通りです、クラウ様」


「そうか。そうであろう。しかし……不慮の事故とはいえエミアル様をお守り出来なかった事に関しては、申し訳ないが護衛の責任者として少々責任を問う事になる。それは理解してくれるな?」


「責任……そ、それは……」


「モリス、少々だ。処刑されるより良いだろう?理解してくれるな?」


「そうですが……」


 モリスが戸惑いを見せた所でユリシエルが口を開く。


「モリスよ……配置転換するだけだ。それ以上は問わん。エミアルの為に少々耐えてくれ」


「っ!陛下……」


 モリスは眉間にシワを寄せて目を閉じ、歯を食いしばってからユリシエルに頭を下げる。


「……承知致しました」


 モリスが話を聞き入れた様子を見たクラウは安堵の息を吐き、眼鏡を左手で触ってからモリスに顔を向ける。


「ではモリス、異動に備えて準備する事を命じる。異動先と日程は後日改めて通達する。以上だ。下がって良い」


 モリスは立ち上がりユリシエルに深く礼をしてから扉へと歩き出す。曇った表情で扉へと進むモリスの背中に向かってラトサリーは一言投げつける。


「貸し一つですよ、モリス様」


 モリスはイラっとして振り返りラトサリーを睨むが、ラトサリーは無表情で窓に顔を向けていた。モリスは暫しラトサリーを睨んでいたが、舌打ちをすると足早に部屋を出て行く。扉が閉まる音を聞いたラトサリーはホッと息を吐いて胸元に当てていた手を下ろし、左手で額の汗を拭う。フレールはラトサリーが気を緩めた事を見て取り、声をかける。


「ねぇラトサリー、本当にこれで良いの?」


「はい。指輪の件と王子を負傷させた件が世間に知られる事を私への制裁とする、この程度で良ければ問題ありません」


「そうではないわラトサリー、エミアルとモリスに厳罰を望まないのかって事よ」


「……そうですね。望まないと言えば嘘になりますが、私も爵位を受けた家の者です。国益を考えれば我慢しなければならないと思いまして」


 国益と聞いたクラウは目を光らせ、ラトサリーに鋭い視線を向ける。


「ラトサリーよ、国益と申すか。その割にノート殿の名前を出して国を滅ぼそうとしていたが?」


「はい、国益を損なう決定をさせないようにする事は国益そのものです。その為の発言ですから問題無いかと」


 何食わぬ顔で言い放つラトサリーにクラウは絶句する。フレールはクラウの反応を見て笑い出す。


「アハハハ!言うわねラトサリー♪でもラトサリー、こんな案を短時間でよく思いついたわね」


 ラトサリーは不機嫌な顔をフレールに向ける。


「この案は、元は王子達が私の被害報告を誤魔化す為のものだったのです。そんな案を使う事になるなんて、本当に不本意です……」


「まぁ!そうだったの……そう言う事なら益々あなたが譲歩する必要がないわ。国益も大事だけど臣下を大事にする事も重要よ!」


 そう言ってフレールはユリシエルに体を向け、彼の目を真っすぐ見て口を開く。


「陛下、彼女はここまでの事をされたのにエミアルの名誉を守ってくれると言うのです。何か見返りがあっても良いのではないですか?」


 ユリシエルはフレールを横目で見てから眉間にシワを寄せて目を閉じる。暫し動きを止めたユリシエルは目を開くとラトサリーに目を向ける


「…………ラトサリー」


「は、はい!」


「エミアルに重傷を負わせたお前を許す事はどうしても出来ない」


 ラトサリーの顔に緊張が走る。フレールは割って入ろうとするが、その前にユリシエルは言葉を続ける。


「だが、お前がエミアルの名誉を守ってくれる事には感謝している……何か望みがあれば申してみよ」


 フレールは安堵してラトサリーに笑みを向ける。ラトサリーは息を軽く吐き緊張を解くと、少しモジモジしながらユリシエルに恥じらいを含む笑顔を向ける。


「国王陛下……よろしいのですか?」


「良い、何かあるなら申してみよ」


「ありがとうございます、では恐れながら申し上げます……」


 部屋にいる皆がラトサリーに注意を向ける中、ラトサリーは顔を赤らめて口を開く。


「……父の御給金を上げて下さい♪」


 その言葉は皆の動きを止めた。ユリシエルとクラウは呆気に取られ、フレールとウヌカは笑いを必死に堪える。クラウはどうにか気を取り直して咳払いをする。


「わ……分かった。前向きに検討しよう」


「ありがとうございます♪」


 満面の笑顔で返事をするラトサリー。フレールが笑いを堪えて苦しそうにしていると、窓が大きく揺れ出し、勢いよく開いて強風が部屋に吹き込むと同時に人影が部屋に飛び込む。ウヌカはラトサリーをフレールの方へ突き飛ばすとテーブルに飛び乗りフレールの前で体勢を低く身構える。侵入者は着地して大きな声を上げる。


「嬢ちゃん!無事かぁ!!」


 部屋の皆が目にしたのは激しい形相でナイフを構えるノートだった。ノートは部屋の様子を見ると解せない面持ちでウヌカに顔を向ける。


「ウヌカよ、嬢ちゃんは無事なのか?」


 ウヌカはテーブルから飛び降りてから溜め息をつき、ノートに呆れ顔を向ける。


「見ての通り無事ですけど……エミアル様の方は大丈夫なのですか?」


「王子なら死なない程度には回復させた大丈夫じゃ。そんな事より、あの風の術式はなんだったのじゃ?変な消え方をしたから飛んできたのじゃが」


「風の術式?何の事ですか?」


「いやぁ、王子の部屋から見ていたのじゃが、この部屋の窓の外で小さい風の術式の渦が発生したと思ったら次第に大きくなっていってのぅ。それが急に消えたから、お主に何かあったと思って飛んできたのじゃが……」


「私はそんな術式使っていませんよ?」


「そうなのか?てっきりお主がいつでも部屋を荒らせるように術式を控えさせているものかと……」


「私が風の術式が苦手な事はご存じですよね?」


「じゃが、この中で強い術式を扱えるのはお主だけじゃ……」


 互いに首を傾げるノートとウヌカ。その時、二人が思ってもいない方向から声が上がる。


「あのぉ……すみません……それ、私です」


「「「え!!」」」


 部屋の皆は驚きの声を上げラトサリーに顔を向ける。ラトサリーは困り顔で目を泳がせる。


「急に消えたのは必要がなくなったと思って術式を解いたからです……」


 ウヌカは不思議そうに首を傾げてラトサリーに尋ねる。


「ですがラトサリー、術式を行使する動きをしている様には見えませんでしたが?」


「それは……手を力一杯握って集中していました」


 そう聞いたクラウは多少不機嫌な顔をラトサリーに向ける。


「ラトサリーよ、何のためにそんな術式を?」


「それは……逃げられない状況になったら風に乗って逃げようと思いまして……」


 皆が呆れる中、フレールは苦笑いを浮かべてラトサリーに声をかける。


「ラトサリー、そんな事が出来るなら部屋に入る前に教えておいてくれないと」


「申し訳ありません。部屋に入る時はそんな大きな風は出せない状態でしたので」


「え?それなら何で……って、あなた、指輪の力でどうにかなると思ったの?」


「はい、いざ逃げると言う時までに術式の力をそこまで向上させる事が出来るかは賭けでしたが」


「なるほど、だから段々大きくなっていったと言う事か。嬢ちゃん、頑張ったのぅ♪」


 ノートが嬉しそうに語る横で、クラウは首を傾げてフレールに顔を向ける。


「フレール様、その指輪には術式を短時間で向上させる力があるのですか?外せない呪いがかかっているだけの指輪ではないと?」


「えぇ、そうみたいです。それに、経験を重ねる事で術式以外の能力も向上出来るみたいなのですが、宮総研ではどんな反動が来るか分からないから自重した方が良いと言う意見も出ているのです」


「反動が無ければ、国宝級の指輪ではないですか!」


「そうなのですが、指輪に小さく文字が刻んでありましてね。その言葉の意味が反動を意味するのか、何か使命を負わせるものなのか、まだ分からないのですよ」


ラトサリーは目を丸くしてフレールに呼びかける。


「っ?フレール様!指輪の文字、読めたのですか?」


「あら、言って無かったかしら?……あぁ、そう言えばこの騒ぎですっかり忘れていたわ♪昨日はそれを伝える為にあなたの家まで行ったのに……」


 フレールはバツの悪い顔をラトサリーに向けた。





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