表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
これ、ホントに呪いの指輪なの?  作者: 彩田(さいた)
一章 王都編
26/119

26:問答


 フレールに紹介されたラトサリーは緊張した面持ちで礼をする。クラウは右人差指で眼鏡を上げながらラトサリーを一瞥するとフレールに硬い顔を向ける。


「お連れ下さりありがとうございます王妃様」


 クラウは頭を下げてそう言うと椅子に戻り、座ってテーブルに手を置く。フレールはクラウとモリスの対面側に進みながらラトサリーを手招きする。ラトサリーはそれに応じてフレールの後に続く。フレールはテーブルの奥に座る男の隣に座るとラトサリーに顔を向け、手で隣の椅子を指して着座を促す。その仕草を見てモリスは強張らせた顔をフレールに向ける。


「王子をあんな目に遭わせた奴を座らせる気ですか!」


「彼女は被害者よ!……それを言うならあなたこそ、この子にこんな目に遭わせて何座っているの!!」


 フレールはそう言って持っていた服をテーブルの上に叩き置きモリスを睨みつける。モリスは一瞬目をそらすが、顔を上げてフレールに冷笑を向ける。


「そんなもの、ここに来る前に仕込んだのではないのですか?」


 フレールはこめかみに青筋を浮かべ顔を歪める。


「よくもまぁ、そんないい加減な事を言い続けられるわね……」


 睨み合う二人を見かねたクラウは手を大きく二回叩き声を張る。


「静粛に願います!!」


 フレールとモリスは互いを睨みつけたまま椅子に座り直す。二人が黙ったのを見てクラウは奥に座る男に声をかける。


「陛下、始めて宜しいでしょうか?」


 男が黙って頷いたのを見てクラウは話し合いを始めようとするが、それを察したフレールは眉間のシワを深くする。


「ユリシエル陛下!クラウ様!彼女は立たせたままですか!被害者にこの仕打ちとはどうかしています!!」


 息巻くフレールに対しクラウは冷静に答える。


「彼女は証人としてお越し頂いただけですから」


「それならモリスも立たせておくべきなのでは!」


「彼は王子の代理としての参加ですので」


「でも!!……」


「私は構いませんよ、フレール様」


 ラトサリーが発した言葉にフレールは慌てて振り返る。


「でもラトサリー!」


「大丈夫です。始めて下さい」


 余りにも静かに答えるラトサリーに驚きを隠せないフレール。しかし、ラトサリーの組んだ手が震えている事に気付き、フレールは息を飲みラトサリーを見上げる。


「……分かったわ」


 フレールは頷いてそう言うとクラウの方に向き直る。


「クラウ様、始めて下さい」


「それでは再開します。モリスの証言は聞きましたので、彼女の証言を聞かせてもらいましょう。えー……ラトサリーだったな。何があったか話したまえ」


 ラトサリーはクラウに目を向けてからクラウの背後に見える窓に目を移し、組んでいた両手を胸元に押し当ててから再びクラウに目を向ける。


「何があったかはフレール様が既にお話し下さった通りです」


 クラウは眉をひそめてラトサリーを睨む。


「君はフレール様が何を語られたか聞いていると言う事か?」


「いいえ。ですがフレール様は私を助けて下さった張本人ですし、私の症状も直に見ておられます。何が起きたかも馬車でお伝えしましたし、聡明なフレール様でしたら的確にお話し下さったと確信しております」


 クラウは視線を落として暫し悩む素振りを見せた後、視線を再びラトサリーに投げる。


「……それでは、君は王子に襲われ、振り解こうとした結果王子に重傷を負わせた。それで間違いないと?」


 ラトサリーは握る手の力を強め、曇らせた顔をクラウに向ける。


「……はい」


 クラウは困った顔をモリスに向ける。


「モリス。やはりお前の証言と全く異なるのだが、反論はあるか?」


「ありますとも。この女は自分が助かる為にフレール様を騙しているのですから」


「ほぅ。本人を前にしてそう言うという事は、証拠があっての発言だろな」


「証拠も何も、私はその場にいて一部始終をこの目で見ておりました!」


 モリスの発言を聞き、ラトサリーは皆に聞こえる程の溜め息をつき、軽蔑するかのような眼差しをモリスに向ける。ラトサリーの溜め息と視線を受けてモリスは顔を歪める。


「お前……偽りを述べて尚その態度とは何様だ!!」


「申し訳ありません。あまりにも軽率で浅はかな発言が聞こえましたので、つい……」


「なんだと!……」


 ラトサリーは組んだ手を胸に当てたまま、冷たい視線をモリスに向ける。


「人を陥れたいなら、もう少し整合性を考えられた方が良いと思いますよ?」


 ラトサリーの言葉に怒りの度合いを増したモリスは口を開こうとするが、クラウは手でモリスを制するとラトサリーに顔を向ける。


「整合性と言うからには、君はそれを指摘出来ると?」


「はい。そもそも、彼の話を聞いてその事に気付いたクラウ様だからこそ、私を呼ぶように進言されたのではないのですか?」


 そう尋ねられたクラウは目を右上に逸らして口を歪ませる。


「まぁ……そこまで言うなら実際に見せて頂こう」


「わかりました。それでは……」


 ラトサリーは冷めた目をモリスに向ける。モリスは怒りと侮蔑が混ざった顔でラトサリーを睨みつける。


「私の言う事が真実だ。悪あがきはよせ」


「ならばお答え頂きましょう。私が王子に拒まれた事に腹を立てて危害を加えたと証言されたそうですが、あなたはその一部始終を見ていた、そう仰られるのですね?」


「そうだ!お前が王子に瀕死の重傷を負わせたんだ!しっかり見ていた!!」


「護衛の任を果たさずに一部始終をしっかり見ていただけ。ですね?」


 ラトサリーのその言葉にモリスは言葉を失って目を泳がせ始める。ラトサリーは益々冷めた視線でモリスを刺す。


「任務を果たさず目の前の王子の命を危険に晒した……死罪に問われても仕方ないですね。一緒に処刑されましょう」


「いや!ちょっと待て!!……そうだ、私は王子に用事を頼まれて席を外していたのだ」


「その一部始終を見ていたと、言いましたよね?」


「っ!……気が動転して言葉を誤っただけだ」


「重要な局面で記憶を違え言葉を間違える無能、と言う事ですか……」


「この!無礼な!……何とでも言え。とにかく、私が大きな物音を聞いて部屋に入った時、王子は倒れていた。その事実は変わらないからな!」


「あなたに私のあられもない姿を見られた事実も変わりません」


「フンっ!見られて減るものでも無いだろう、被害者面するな!」


「肌が見える程に破れていた事はしっかり見て覚えておられるのですね」


 ラトサリーはそう言うと、握った右手を胸元に押し当てたまま左手でフレールの前に置かれた服を指し示し、呆れたような目をモリスに向ける。


「では、なぜ先程その服を見せられた時『ここに来る前に仕込んだ』と言われたのですか?それでは私が逃げた時、服は破損していなかった事になりますが」


「そ、それは……そうだ、より酷く見えるように細工した、と言う意味だ!」


「なるほど。それなら後程ノート様に確認して頂きましょう。ノート様も見ておられますし」


「ノート殿っ!……彼もそちら側の人間だ。そんな不公平な証言を採用されても困る」


 モリスは顔を引きつらせて答えるとラトサリーから視線を大きく逸らす。額に汗を滲ませたラトサリーは左手を胸元に戻して握り直し、クラウに顔を向ける。


「クラウ様。ノート様の事でお尋ねしたい事があるのですが、宜しいでしょうか?」


「ん?何だ?」


「ノート様は身内を贔屓して証言を捻じ曲げるようなお方でしょうか?」


 クラウは質問を聞いて怪訝な顔をするが、鼻で笑ったかと思うと引きつった顔をラトサリーに向ける。


「そうだな……お気に入りを贔屓する傾向はあるが……事実を曲げる事は一切しないお方だ」


「ありがとうございます」


 ラトサリーはクラウに頭を下げてから再びモリスに視線を向ける。


「では、この件はノート様が来られるまで保留にしましょう。次は私に飲ませた薬に……」


「待て」


 ラトサリーの言葉を遮った国王は立ち上がる。皆は息を飲み国王に注意を向ける。窓を揺らす風の音が部屋に響く中、国王はラトサリーに暫し顔を向け、息を大きく吸ってからモリスに顔を向ける。


「モリス。もう良い」


 モリスは不思議そうな顔を国王に向ける。国王はモリスを見つめ溜め息をつく。


「お前をエミアルに任せ続けたのは失敗だったようだ。この場を以ってお前を任から解く。それから、今回の件の処分が決まるまで謹慎を命じる。クラウ、良いな?」


「はい、承知致しました」


「そんな!!陛下!お考え直し下さい!私は……何もしていません!!」


 国王は手でこめかみを押さえながらモリスを寂しそうに見つめる。


「……お前の父は人格者だというのに……どう育てたらこんなになるのだ。もう良い、下がれ」


 モリスはがっくりと項垂れる。クラウはモリスの肩に手を置いて立ち上がらせ、モリスの背中を押して扉へと連れて行き扉を開ける。モリスを部屋の外に出したクラウは外の兵士と言葉を交わし、扉を閉めてから大きな溜め息をつき席へ戻る。クラウが座った所で国王はラトサリーへと歩み寄る。疲れた顔をした国王はラトサリーの目を見つめると、軽く息を吐いてから頭を下げる。


「息子が酷い事をした。済まない」


 ラトサリーは目を閉じて安堵の息を吐き、国王に向かって深く頭を下げる。


「王様……私を信じて下さりありがとうございます」


 国王は頭を上げると眉間にシワを寄せながらラトサリーに声をかける。


「頭を上げなさい。話はまだ終わっていないのだから」


 ラトサリーは国王の口ぶりに不穏な気配を感じつつ頭を上げる。国王はラトサリーに悲しみと怒りが混ざった目を向けて口を開く。


「お前が息子に重傷を負わせた事は別の問題なのだから」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ