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これ、ホントに呪いの指輪なの?  作者: 彩田(さいた)
一章 王都編
25/120

25:召喚


 フレールは神妙な面持ちで宮総研へと戻っていた。回廊から渡り廊下へ進み、自らの宮殿に入ると何かが何度もぶつかるような音が聞こえ始め、フレールは表情を硬くする。廊下を進み、宮総研へ続く部屋に近づく程にその音が大きくなる事に焦りを覚えたフレールは足を速める。その音が重い金属音である事に気付いたフレールは顔を強張らせ走り出す。廊下を曲がりフレールが廊下の奥に目を向けると、扉の前で宮総研の服を着た男が立っていた。フレールは安堵の息をついて走る速さを緩める。

 廊下の奥の人影に気付いた研究員は腰の剣に手をかけ身構える。しかしそれがフレールだと気づくと安堵の表情を浮かべ、フレールに向かい礼をする。フレールは呼吸を整えながら研究員に歩み寄り、多少怪訝な表情で研究員に声をかける。


「見張りご苦労様。それで、この音は何?」


「それが……剣の訓練と言っていましたが……先程から音が益々激しくなっていまして……」


 当惑して答える研究員の言葉を遮るように大きな金属音が鳴り続く。フレールは研究員の肩に手を置いて労いを示し、恐る恐る扉を開けて部屋の中を覗き込む。フレールの目に映ったのは、長い棒を軽く振るウヌカと、長い剣を大きく振りかぶるラトサリーの姿だった。


《ギーン!!》


 強い音と衝撃にフレールは顔を強張らせ、目を丸くしながらウヌカに声をかける。


「ウヌカ!?これは一体?」


 フレールの声に気付いたウヌカはラトサリーが動きを止めた事を確認してから棒を肩に乗せ、フレールの方に体を向ける。


「フレール様、お帰りなさいませ。剣を振る練習をしてもらっていた所です」


「そ、そうなの?それにしては……ラトサリーにそんな大きな剣を持たせて……大丈夫なの?」


 フレールは唖然とした顔でラトサリーが両手で握る剣を指差す。ラトサリーは剣に目をやると苦笑いしながらフレールに答える。


「これは……最初は練習用の短剣を使っていたのですが、そのぉ……物足りなくなりまして……」


「物足りない?」


 ラトサリーの返事にフレールは首を傾げる。


「はい、途中から頭の中で鳴る音が少なくなってきたもので……もっと負荷をかけたいと思ってウヌカに持ってきてもらったんです……」


 気恥ずかしそうに左手を首に当てながら答えるラトサリー。大剣を床につけずに右手だけで持つラトサリーを目にしたフレールは頭を抱えながら引きつった笑みをラトサリーに向ける。


「まったく……そんな所は母親に似なくても良かったのに……」


 溜め息混じりで愚痴をこぼすフレール。困り顔で会釈して返すラトサリーを見たウヌカは軽く息を吐いてからフレールに声をかける。


「それで所長。話し合いはどうなりましたか?終わったのですか?」


 ウヌカの問いにフレールはバツの悪い顔をウヌカに向け、咳払いを軽くしてからラトサリーに真顔で声をかける。


「ラトサリー。申し訳ないけど、今から一緒に来てもらいたいの」


 フレールの言葉にラトサリーは当惑した顔を見せる。


「一緒に?……フレール様。何かあったのですか?」


「それが……動けない王子の代わりにモリスが来て……とんでもない事を言い出したのよ」


 モリスの名前を聞いてラトサリーの顔が強張る。ウヌカは露骨に不機嫌な顔をフレールに向ける。


「それで所長、とんでもない事とは?」


 フレールは言い淀み視線を落とすが、眉間にシワを寄せて溜め息をつくと顔を上げラトサリーに目を向ける。


「王子が大けがをした原因は……あなたが王子に拒まれた事に腹を立てて暴れたせいだと……」


 そう聞いたウヌカは鼻で笑ってフレールに鋭い視線を向ける。


「それで、陛下と宰相はそんな言葉を信じた、とでも言うのですか?」


「宰相は耳を疑うって感じだったの。でも、陛下はその言葉を信じてしまったみたいで……」


 状況の悪さに顔色を曇らせるラトサリー。フレールはその様子を察して言葉を速める。


「でもね、宰相が片方の証言だけで物事を扱うのは不公平だと言ってくれて。それで、あなたに来てもらう事になったの」


「……分かりました。参ります」


 神妙な面持ちで答えるラトサリーにフレールは頭を下げる。


「ごめんなさいねラトサリー。私の力不足のせいで……モリスの戯言をその場で叩き潰す事が出来ていればあなたを呼ぶ事は無かったのに……」


「謝らないで下さいフレール様。フレール様が助けて下さらなかったら、私はすでに殺されていたでしょうし」


 ウヌカはラトサリーが肩を落とす姿を見て隣へと歩み寄り、彼女の肩に手をポンっと置いてフレールに顔を向ける。


「所長、私も同席しても大丈夫でしょうか?」


「……そうね、大丈夫だと思うわ。もしもの時はラトサリーを連れて逃げて頂戴」


ラトサリーは曇らせた顔をフレールに向ける。


「フレール様……そこまで不利な状況なのですか?」


「そこまででは無いと思うけど……陛下の気持ち次第の部分があるから最悪の事態も想定しておかないと」


「そ、そうですか……そうですよね」


 ラトサリーが何故か気を取り直したのを見てフレールは表情を僅かに緩め、長椅子へと歩み寄る。畳まれたラトサリーの服を手に取ったフレールは息を大きく吐き、二人に声をかける。


「では行きましょうか」




 三人は回廊を進み城に入る。長い廊下を進み更に階段を上ると大きな扉が現れ、扉の脇に兵士が二人立っていた。フレールの姿を見た兵士達は扉を開けて礼をする。フレールは手を軽く振って労いを示し、ラトサリーとウヌカを率いて扉を通る。廊下を更に進み角を曲がり、続く廊下の奥にある扉の前に二人の兵士が立っていた。兵士達は三人の先頭の人物を見ると礼をしてから扉を叩き、兵士の一人は扉を開き中へと入っていく。もう一人の兵士は室内の会話を確認する素振りを見せてから扉の脇に移動してフレール達に向き直り、改めて礼をする。フレールは兵士に手を軽く振りながら扉を通ると振り向き、ラトサリーに手を差し出し部屋へと招き入れる。ウヌカは兵士に鉄の棒を預けてから部屋に入る。三人が部屋に入ると兵士は部屋の外に出て扉を閉めた。


 広い部屋の中央奥の窓の前には執務用の大きな机が置かれ、部屋の左右の壁面は書棚になっていた。片側の書棚の前には長テーブルと椅子、もう片側には長椅子が置かれていた。テーブルに着座した三人の男は部屋に入ってきたフレール達に顔を向けていた。

 部屋の奥の方に座る男は怒りに満ちた目をフレールの後ろに向けていた。その男の向かい側に座る二人の内の一人は眼鏡をかけ、値踏みするかのような視線をラトサリーに向けていた。もう一人の男はモリスだった。モリスはフレールの後ろにラトサリーがいる事に気付くと肩を震わせ始め、立ち上がってラトサリーに憎しみに満ちた顔を向ける。


「貴様……よくもエミアル様を……」


 モリスは小声でそう言うとラトサリーに向かって駆け出す。ウヌカはモリスの行く手を阻み仕掛ける。


「やめろ!!!」


 部屋を揺する程の大きな声がウヌカの動きを止める。眼鏡の男は立ち上がり、モリスを押し倒して腕を捻じ曲げた状態で動きを止めたウヌカに近づき彼女の肩を掴む。


「落ち着け!……っ、放してやれ」


 ウヌカはゆっくりとモリスの腕を離して二歩下がる。モリスは腕を摩りながら立ち上がり、ウヌカに向かって舌打ちしてから椅子に戻り、座り直してからウヌカを睨みつける。眼鏡の男はウヌカを睨みつける。


「お前はもう少し手加減という事ができないのか!」


「十分手加減したのですが宰相殿。それに、彼女に薬を飲ませて危害を加えた者達にこれ以上の手加減をしろと言われましても困ります」


 ウヌカが平然とした顔で放った言葉は椅子に座る二人を殺気立たせる。その二人の気配を上回るウヌカの只ならぬ気配に委縮する宰相。見かねたフレールはウヌカの横に歩み寄り静かに声をかける。


「ウヌカ、下がりなさい」


 ウヌカが小さく息を吐きラトサリーの横に下がるのを見送ったフレールは宰相に顔を向ける。


「クラウ様、連れてきました。ラトサリー・ランダレアです」




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