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これ、ホントに呪いの指輪なの?  作者: 彩田(さいた)
一章 王都編
20/120

20:始末 *

この話を飛ばしたい方は22話のあらすじを御覧下さい。


 扉へと走り出した直後ラトサリーの頭の中で【 テテテッテーテーー♪ 】と鳴ったが、彼女はその音を気にしている場合では無かった。必死に床を蹴り、ラトサリーはモリスの手を間一髪逃れて扉を抜ける。

 体の火照りと服が擦れて伝う異様な痺れを我慢しながらラトサリーは懸命に廊下を駆け抜ける。階段を駆け下りる途中でモリスの叫び声を耳にしてラトサリーは眉をひそめるが玄関扉まで一気に駆け抜ける。勢い余って扉に軽く衝突しつつラトサリーは取っ手に手をかけ扉を開けようとする。


「っ!開かない!!」


 施錠された扉を揺すりラトサリーはそう吐き捨てると、肩で大きく息をしながら扉から数歩下がって広間を見渡し逃げ道を探す。一階の廊下の奥の方から足音が聞こえ始めて焦るラトサリーの目は玄関扉横の窓を捉える。

 ラトサリーは下枠が腰高の窓に駆け寄り打掛錠を外して開け放つ。多数の足音が大きく聞こえ始め焦りの色を濃くするラトサリーは左手で服を押さえ直す。窓枠に右手を掛けるとラトサリーは窓枠に向かって飛び上がり、窓枠に腰を掛けるように乗ると勢いに任せて足を浮かせて外へと身を投げ出す。


《 スタン! 》


 上手に着地出来た事にラトサリーは安堵の表情を浮かべ、逃げる方向を考えながら服を押さえ直して立ち上がる。すると邸宅の扉が勢いよく開き、扉から従者の装いをした男が三人現れる。彼らはラトサリーを視界に捉えると下卑た笑みを浮かべ、ゆっくりと彼女との距離を詰める。城門のある方向から馬車がかなりの速さで迫って来るのが見えたラトサリーは庭園へと駆け出し、先だってサーブが指差した城壁を目指して懸命に走る。

 従者達は走り出したラトサリーに焦り追いかけるが、追いつけない所か引き離される事に表情を曇らせ始める。


「……くそっ!!何て速さだ」


 悪態をついた従者が剣に手をかけると、別の従者は慌てて止めようと声をかける。


「おい、何する気だ!殺すのはマズイぞ!!」


「大丈夫だ、そんな物騒な事はしない」


 そう言って剣を腰から外して左手で剣を抜き、鞘をラトサリー目掛けて投げようと振りかぶる。その時、従者達の前方の空間が揺らいだと同時に彼らは大人の背丈を超える程の高さに吹き飛んだ。



 後方で突如発生した突風で体勢を崩したラトサリーは転びそうになるが踏み止まる。何が起きたかと彼女が後方に目を向けると、従者達が地面に倒れて苦悶の声を上げていた。その光景にラトサリーは安堵の息をつこうとするが、従者達の後方から馬車が迫って来ている事に恐れを感じ再び走り出そうとする。その時、馬車から彼女を呼ぶ声が上がる。


「ラトサリーーー!!」


 聞き覚えのある女性の声にラトサリーは振り返り、御者を見て不思議そうな顔をする。


「フ……フレール様?」


 馬車が追手では無かった事に安堵するラトサリーだったが、従者達が痛がりながら起き上がるのが目に入り怯えて後退りする。従者達は体を摩りながらラトサリーに近づこうとするが、彼らは突如落下するかのように地面に肩まで沈んだ。

 地面に沈んだ従者達の横で馬車を停めたフレールは馬車から飛び降り、ラトサリーに駆け寄り両肩に手をかける。


「ラトサリー!無事?」


「……はい、どうにか」


 伏し目がちに答えるラトサリーの肩をフレールは軽く揺する。


「本当に?本当に何処も何ともないの?」


「……っ、フレール様、手を……離しっ……手を離して……ください」


 ラトサリーが震えながら顔を赤らめ何か我慢している様子にフレールはハッとして手を離す。フレールはこめかみに青筋を浮かばせ、肩から離した両手を胸元で握りしめると目に涙を滲ませ唇を震わせる。呼吸を落ち着かせたラトサリーは気丈にも口角を上げフレールに顔を向ける。


「フレール様、私は大丈夫です。それよりもノート様を止めた方が良さそうなのですが」


「それよりもだなんて!……え?」


 フレールが振り向くと、ノートは地面に沈んだ従者達の後ろで屈み、従者が落とした剣を手にしていた。ノートは剣の腹で従者の耳をペチペチ叩きながら異様な笑みを浮かべて口を開く。


「お主ら……特にお主、ワシの可愛いラトサリーに物騒な物を投げつけようとしたのぅ……おぅ?」


「ひぃーーーー!!おやめ下さいノート殿――!!」


「それで……右耳と左耳、どっちが大事じゃ?」


「勘弁して下さいノート殿―――!!!」


 どこぞの拷問官のような言葉で従者達を震え上がらせるノートを見て呆れ顔を浮かべたフレールは溜め息をつく。


「……ノート先生。それは後にして、マントをお貸し下さるかしら?」


「後じゃと?そんな悠長な……マントか?……そうじゃな」


 そう言ってノートは立ち上がりながらマントを外し、フレールに背を向けて差し出す。受け取ったフレールはラトサリーの肩にマントを優しく掛ける。マントでしっかり身を包んだラトサリーは安心した顔を二人に見せて頭を下げる。


「ありがとうございますフレール様、ノート様」


 ラトサリーが頭を上げると、ノートは馬車の後方を睨みつけていた。モリスが肩を押さえながら迫って来るのが目に入りラトサリーは怯えた顔を見せる。しかしノートがモリスの方に指を向けた瞬間、モリスは落とし穴に落ちたかのように地面に沈んだ。ラトサリーは思わずノートに尋ねる。


「ノート様、あれはどの様にすると出来るのですか?」


「あれか?そうじゃのぅ……対象の性質を詳細まで把握して術式を掛け合わせると言った所かのぅ」


 ノートはラトサリーの方を向いてそう答えると、ニカっと笑い右親指をグッと立てる。


「後は根性じゃ♪」


 ノートはそう言うと向きを変えて沈んだモリスへと歩を進め、フレールもノートに続く。二人は肩まで沈んだモリスを睨みつけ、ノートはモリスの頭を右足で踏む。


「何か言い残す事はあるかのぅ?モリス」


「変な事を言わないで下さいノート殿!そいつが王子に重傷を負わせたのです、邪魔しないで下さい!!」


 重傷と聞きノートは顔を強張らせるが、フレールは怒りで顔を歪ませる。


「この期に及んで……いい加減な事を言うと許しませんよ!!」


「本当です!!そうだ、ノート殿は回復術式を使えますよね、至急王子の元に向かわれて下さい!!!」


 フレールは顔を曇らせる。


「…………本当に怪我を?」


「だから本当だと申しているではないですか!!」


 黙って聞いていたノートは首を傾げるとモリスに乗せていた足をグリグリと捩じらせる。


「それで、その話が本当だとしてじゃ。お主ら、嬢ちゃんに何をした?」


「わ、我々は王子に危害を加えた女を捕らえようとしただけ……」


 ノートはモリス言葉を遮るように頭に乗せた足に体重を加える。


「そうか、ならば質問を変えよう。お主ら、嬢ちゃんに何を飲ませた?」


「そ、それは……指輪を外す為の請願術式をかけて頂いた水です」


 そう聞くとノートは溜め息をつく。


「所長、三歩程離れて下さるかのぅ」


 ノートはそう声をかけるとモリスの頭の上に乗る。


「それで、お嬢ちゃんにそう言って何を飲ませたのじゃ?地面に沈んで白状出来なくなる前に答えてくれるかのぅ?」


 ゆっくり沈み始めた感触に恐怖したモリスはノートの足を掴んでノートを振り落とそうとする。


「フォッフォッ、良い揺れじゃ♪平衡感覚の訓練に持って来いじゃ♪」


「馬鹿な真似はおやめ下さい!王子の従者を殺しては流石の貴方とてタダでは済みませんよ!!」


「気遣い大いに結構♪お主ら四人は追跡中に宮総研の花壇付近で消息を絶ったと言う事にするから問題ないぞ♪情報を聞き出せないのは残念じゃが、安心して沈め♪」


 ノートはモリスの頭に乗りながら足踏みを始める。


「主人への忠義を重んじた事は褒めてやるぞ。上級騎士の称号が墓に刻まれるように手配してやるぞ♪」


 首まで沈んだモリスは青ざめた顔に涙を浮かべて口を開く。


「……飲ませたのは痺れ薬です」


「種類は?」


「……シビレタケです」


ノートはモリスの頭の上から飛び降りてモリスの手を蹴り払い、屈みこんでモリスの顔を覗き込む。


「それで、更に何を飲ませたのじゃ?」


「…………媚薬です」


 ノートは浮かない顔をして立ち上がり右手を軽く上へ振る。するとモリスの体は地面から引き抜かれるように上昇し、解放されたモリスは茫然と地面に座り込む。モリスが抵抗してこない事を確認したノートはフレールに顔を向ける。


「所長、お嬢ちゃんの事は任せて良いかのぅ?」


「分かりました。それでノート先生はどうなさるのですか?」


「本当に重症かどうか見に行って、動けるようなら国王陛下の元に連れて行くつもりじゃ」


「そうですか……感情を爆発させないように注意して下さいね」


「分かっとるわぃ」


 口を尖らせたノートはモリスの襟を雑に掴み引っ張る。


「モリス、行くぞぃ」


 立ち上がったモリスを押し出して前を歩かせ、ノートはその場を去っていく。フレールはノートを暫し見送ってからラトサリーへと歩み寄る。


「待たせたわね。宮総研に行くわよ、乗って」


 手を差し出したフレールの手助けを受けラトサリーは馬車の荷台に乗り込む。フレールが御者席に乗り込もうとした時、地面の方から声が掛かる。


「フレール様!我々も解放して下さい!!」


 見下ろして溜め息をついたフレールは冷たい目を三人に向ける。


「あなた達はラトサリーを怖がらせた罰として放置します。助けが来るまで何も無いと良いわね」


 そう言ってフレールは御者席に乗り込み馬車を発車させる。残された従者三人は落胆で顔を曇らせた。




彼女が窓を飛び越えた時の動きですが、手を添えて背面飛びの要領でってイメージです。動きを文字にするのって難しいです……

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