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これ、ホントに呪いの指輪なの?  作者: 彩田(さいた)
一章 王都編
2/99

2:指輪


「今回の演習は北の森だったのですが、休憩で木の根元に腰をかけていたら何か光ったように感じて見てみたら、この指輪があったんです」


 指輪を乗せた左手を自らの顔の前に移しつつサーブは言葉を続ける。


「王子に報告して指輪を御覧頂いたのですが、少し眺めるなり『お前がもらっておけ』と言われてしまいまして。そう言われても困るので隊長に相談しましたら、隊長も少し眺めるなり『王子がそう仰るのだからもらっておけ』と言ってきたんです」


 指輪を上にポーンポーンと軽く放りながら笑顔で話すサーブ。ラトサリーは相槌を打ちながら更に耳を傾ける。


「隊長にそう言われたとはいえ任務中の取得物だし、と困っていたら王子が『そんな事はどうにでも出来るし気にするな。あぁそうだ、なんならお前の婚約者にでも持って行ってやればいい』と笑いながら仰られて。隊長も先輩もそれがいいと笑いながら王子の提案に同意されて」


 その段でラトサリーのこめかみに僅かに浮いた筋にサーブは気付く事無く話を続ける。


「みんな俺達の事を気にかけてくれてるんだと思ったら嬉しくなって。皆様に感謝して頂戴する事にしたんです」


 満面の笑顔をラトサリーに向けて話すサーブを見て彼女は出そうとした言葉を飲み込み、別の言葉を捻り出す。


「…………皆様に気遣われて、サーブは幸せですね」


 サーブの心象に合わせた不本意な表情で顔を覆ったラトサリーは気になっている事へと話を誘う。


「……それでお怪我はどのような経緯で?」


「あぁそうでしたね……今話した休憩の前だったのですが」


 少しバツが悪い顔になったサーブは指輪を持ったままの左手を荷車の持ち手に置いて話し始める。


「あの森にはミドルラビットという獣が住んでいるのですが、そいつに遭遇したのです。遠目で見たら通常種のように見えまして、爪が重宝される獣なので演習の一環で仕留める事になったのですが……」


 そこまで語ったサーブの顔が少し強張る。


「間合いを詰めるのは爪の確認をしてからと説明をする前に王子が『この程度の大きさの相手なら一人で十分だ』と言って走り出してしまったのです。慌てて追いかけたのですが、そいつが戦闘態勢になった段になって変異種だと気づいたのです」


 引きつった笑顔に悔しさを加えサーブは話を続ける。


「そいつは石つぶてを飛ばしてくるヤツでして。ヤツが石つぶてを繰り出す寸前で王子に追いついたので、王子の腕を引っ張ってどうにか王子の前に体を出して攻撃を受け止めたのですが、尖った破片があったようで少し腕に傷が」


 そう言ってサーブは自らの上腕に目を落とし、彼につられてラトサリーも彼の腕に目を移す。


「ですが」


 そう言ってサーブはラトサリーの方に顔を向けて話し出すが、その言葉に反応した彼女の目線を真正面から受けとめてしまい、固まる。ラトサリーも息を飲むが、頬を僅かに赤らめるも視線を逸らさず首を左に少し傾げながら口を開く。


「……ですが?」


 彼女の問いかけにサーブは顔の火照りを感じながらも必死に言葉を紡ぐ。


「……………ですが」


 辛うじて言葉を捻り出したサーブは目線を僅かに逸らし、気を取り直したかのように話しを続ける。


「王子が無傷で済んだのは幸運でしたし、王子に変異種を仕留めて頂く事も出来ました。北の森でここまで体験できるとは隊員の誰も思っていませんでしたし、素材の質も良かったし今回の演習は成功だと隊長もご機嫌でした」


 サーブの顔は赤くなったままだが先程までの悔しさは消えていた。にこやかに語るサーブに彼女は笑顔を向ける。


「フフッ♪そんなに良い人をしていると、この先苦労しますよ」


 そう言った彼女の頬も赤く染まったままだった。『良い人』と言われた事にだけ反応したサーブは満面の笑顔で応える。


「はい、ありがとうございます♪」


 ご機嫌になったサーブは指輪を握った左手に目をやりながら言葉を続ける。


「ミドルラビットの処理と傷の手当を兼ねて休憩する事になった時に見つけたのがこの指輪なのです」


 サーブはここで一呼吸つき、唐突に左手を再び開いてラトサリーに差し出す。


「もっ、もらっ、もらって頂けますか? 」


 サーブは何らかの決意が伺える笑顔をラトサリーに向ける。ぎこちなさと善意で物事を受け止める姿勢に爽やかさを感じたラトサリーだが、この指輪を貰ってどうしたものかと目線を少し下に向けて考える。良い反応ではないと見受けたサーブは慌てて口を開く。


「……あ、本部でも『王子がそう仰ってるなら諦めて貰っておけ。一応記録は残しておく』と言われ事務処理済です。盗んだとか言われませんので安心してお受け取り下さい♪」


 そう言ってサーブは必死な笑顔をラトサリーに向ける。


(そう言う事ではないのだけど……)


 本音が口から零れそうになるのを堪え、何と言って断ればサーブを傷つけないかと思案しながら彼女は視線を荷車前方に移す。彼女の視線はラトサリーの家の門を捉える。


(受け取るのを遅らせて門でお別れすればどうにかなるかも)


 彼女の頭の中に拙い作戦が浮かんだが、サーブが何故か立ち止まった事により企ては瞬時に打ち砕かれる。仕方ないのでラトサリーも立ち止まり彼の方を向くと、彼は必死な笑顔のまま詰めてくる。


「王子からも婚約者にプレゼントするように言われていますし、結婚指輪は改めて用意します。それに任務で得た記念品として是非あなたに受け取って欲しいのです」


 王子という文句を出されると流石に断れないと諦めたラトサリーは彼の元に歩み寄る。


「そこまで仰られるなら頂戴致します」


 そう言いながら内心を悟られないようにラトサリーは笑顔を浮かべ、指輪を彼の手から取る。


(本当にどうしたものでしょう……)


 右手で摘まんだ指輪を低く評価した罰が彼女に下ったかのように、サーブは笑顔を振りまきながらラトサリーに勧める。


「つけてみてください♪」


「えっ!?」


 流石に声が漏れ口元が引きつるラトサリーだが、受け取ったという事実が彼女に圧力としてのしかかる。彼の笑顔が断る事を許してくれなそうな空気を漂わせ、挙句にサーブは足を止めたまま荷車から手を放してくれない。これは嵌めてみせないと帰れそうにないと諦めたラトサリーは口元が笑顔に見えるように顔に力を込めサーブを一瞥する。それから手元に視線を移した彼女は左手に指輪を持ち替えて右薬指に指輪を嵌める。


(少し緩い♪ これなら大きさが違うからと言ってお返しできる……)


 ラトサリーがそう思ったその時、指輪が丁度良い大きさに縮んだように感じたと同時に今まで聞いた事の無い大きな重低音が彼女を襲う。


【 デロデロデロデロデン 】





続きをお読み下さりありがとうございます。

第一部完了まで書きあがっていますので、もし宜しければそこまでお付き合い頂けると嬉しいです。

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