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これ、ホントに呪いの指輪なの?  作者: 彩田(さいた)
一章 王都編
17/120

17:薬


 今までと違い謙虚に頭を下げるエミアルを目の前にして慌てるラトサリー。


「頭をお上げ下さいエミアル様、分かりましたから」


 エミアルは頭を下げたままラトサリーを覗き込む。


「では飲んでくれるのだな?」


「はい……色を見て少し気が引けただけですので。折角エミアル様が御用意下さった物なのですから、試させて頂きます」


「そうか、そう言ってくれると嬉しいぞ♪」


 ラトサリーの返答を聞き、頭を上げ笑顔を見せるエミアル。ラトサリーが小瓶に手を伸ばそうとするとエミアルは右手をかざして静止する。


「あぁ、それな、少し苦いかもしれないと術師が言っていた。口直しを用意させているからもう少し待ってくれ」


「そうですか、お気遣い重ねて感謝致します」


 ラトサリーが手を戻して座り直すと扉が開き、先程の男と配膳台を押す使用人の女が部屋に現れる。使用人はテーブルの横に配膳台を止めてお茶の準備を始め、男はエミアルが座る長椅子の右横で立ち止まってラトサリーを見下ろす。


「あの、エミアル様。そちらの方は?」


 先程同様不愉快な視線を投げて来る男が気になったラトサリーは硬い表情でエミアルに尋ねる。


「あぁ、こいつか。サーブから聞いてないか?従者のモリスだ。ここではサーブの上司になるかな」


 紹介されたモリスはラトサリーに向かって仰々しい礼をする。彼女は立ち上がり礼を返す。


「サーブ様がお世話になっております」


「こちらこそ」


 モリスの何か含んだような口調に違和感を覚えたラトサリーだったが、エミアルの横槍がその正体を露呈させる。


「お世話どころの話ではないぞ。こいつ、サーブと試合して五秒ももたずにボロ負けし続けてるもんで上級騎士になれないでいるんだ。アイツに代わって謝っておけ♪」


 笑うエミアルの横で明らかに不愉快そうな顔を見せるモリス。自分の従者への気遣いを見せる素振りも無くエミアルはモリスに顔を向ける。


「モリス、彼女がアイツと結婚してくれる御陰で上級騎士になる目が出るんだ。この機会に彼女にお礼でも言っておけ♪」


 忌々しい二つ名の名付け親であろう男を笑顔で睨みつけるラトサリー。モリスも屈辱的な事実を女性の前で暴露された苦々しさを滲ませラトサリーを睨み返すが、直ぐに表情を和らげラトサリーに頭を下げる。


「そうですね、御結婚おめでとうございます」


 頭を上げたモリスの顔は不愉快な笑みに戻っていた。その顔を見たラトサリーは不気味に思いながら礼だけ返して座り、モリスから目を逸らす。そんな二人を見て楽しむ様子のエミアルはお茶に口をつけるとラトサリーに目を向ける。


「香りの強いお茶と甘いお茶請けを用意させた。これで準備は整った、さぁ、一気に飲んでくれ」


 エミアルにそう促され、一呼吸ついてから小瓶に手を伸ばすラトサリー。蓋を開け匂いを確認してみると、特に何も香ってこないにも関わらず【 ティロン♪ 】と彼女の頭の中で音が鳴る。少し思い悩む素振りを見せるラトサリーに気付いたエミアルはカップをテーブルに置く。


「どうした?変な匂いでもするのか?」


「いえ……匂いは大丈夫です」


 そう言ってラトサリーは呼吸を整えてから小瓶の中身を一気に飲み干し、蓋を閉めて瓶をテーブルの上に戻す。口の中に苦味を少し感じた彼女はカップを手に取り口に近づける。するとお茶の香ばしさを感じると同時に【 ティロン♪ 】と音が鳴り、ラトサリーは手を止める。ラトサリーがお茶に口をつけないのを見たエミアルは眉を少しひそめる。


「どうした、そのお茶の香りは苦手か?」


 返答に困ったラトサリーは軽くお茶に口をつけ、少量口に含ませエミアルに笑顔を向ける。


「いえ……そうですね……初めての香りだったもので、つい香りを楽しんでしまいました」


「そうか、それなら良かった。お茶請けも食べてくれ、香りも良いし旨いぞ」


 促されたのでカップを置いて菓子が乗せられた皿に手を伸ばすラトサリー。ドライフルーツが入ったスポンジケーキを一欠片フォークに取って口に近づけると、果実酒の良い香りと共に【 ティロン♪ 】と音が鳴る。ラトサリーが菓子を口の前で止めている事に気付いたエミアルは再び眉を少しひそめる。


「どうした、食べないのか?」


 エミアルはそう尋ねると菓子に手を伸ばし頬張る。エミアルが更にもう一口頬張ったのを見て杞憂と判断したラトサリーは少し申し訳なさそうな顔をエミアルに向ける。


「申し訳ありません……ここまで香るケーキも初めてだったもので」


 そう言ってからラトサリーは菓子を口に入れ、果実酒の豊潤な香りとドライフルーツの強い甘さに目を丸くさせる。思わずもう一口食べようとするも音が聞こえた事に疑問を抱いたラトサリーは皿をテーブルに戻し、お茶を飲む振りをしながら様子を伺い始める。

 エミアルは空になった小瓶を取ると、ゆったり座り直しラトサリーに目を向ける。


「小瓶の中身の効き目が出るまで少し待つ事になるそうだ。体に何か反応が出たと感じたら言ってくれ」


 そう言ってエミアルはモリスに視線を向け小瓶を差し出す。小瓶を受け取ったモリスが使用人に顔を向けて頷くと使用人は部屋から出て行く。給仕中に退出する使用人を不審に感じたラトサリーは使用人が出て行った扉に視線を向ける。彼女の目の動きを察したエミアルは少し困った様な顔をラトサリーに向ける。


「いや済まない、出したお茶と菓子が口に合わなそうに見えたのでな。別の物を用意させているから少し待て」


 ラトサリーは驚いて目を泳がせる。


「いえ……その……申し訳ありません。そういう訳では無かったのですが」


 ラトサリーは慌てて菓子に手を伸ばし口に入れる。その様子を見てエミアルは意地悪そうな笑みを浮かべる。


「無理する事はないぞ。それに、待つ時間を考えるとこれだけでは味気無いだろ」


 カップを片手にそう言ったエミアルはお茶を飲み干しカップを置く。その時、先程玄関で不審な視線を向けて来た使用人の男が部屋に入って来てモリスに何やら紙を渡す。モリスは内容を一瞥するとエミアルにその紙を渡し、エミアルは紙に目を通すと軽く溜め息をついて立ち上がる。


「済まない、急用で席を外させてもらう。直ぐ戻るから適当にゆっくりしていてくれ」


「……承知致しました」


 ラトサリーがそう答えると、エミアル達はゾロゾロと部屋を出て行く。部屋に一人残されたラトサリーは耳を澄ませ、足音が遠のいた事を確認してから改めてカップのお茶の匂いを嗅ぐとやはり【 ティロン♪ 】と音が鳴る。ラトサリーはカップを置いて左手を左頬に当て、カップを睨みつけると人差指で頬をポンポン叩き始める。


(……なぜ…………何の為に……?)



 暫く経ち、扉が開きエミアルとモリスが部屋に入ってきたのでラトサリーは頬から手を離して座り直す。エミアルは座っていた長椅子に戻りながら含みのある笑みをラトサリーに向ける。


「待たせたな。どうだ、様子は何か変わったか?」


「いえ、特に変わりはありません」


「そうか……まだか」


 エミアルはそう呟くと長椅子に座りモリスに目線を投げる。モリスはエミアルのカップにお茶を入れ、ラトサリーに目を向けポットを差し出しお替りを促す。ラトサリーは仕草でそれを断りエミアルを注視する。エミアルはお茶を飲み菓子を口に入れて呟く。


「さすがに冷めてるな、まぁ良い」


 それを見てラトサリーは怪訝な顔をエミアルに向ける。モリスは彼女が露骨に険しい顔をエミアルに向けている事に気付き眉をひそめる。


「おい、どうした?王子に対してそれは無礼だぞ」


 モリスの言葉を無視するかの如くエミアルを、正確にはエミアルの持つカップを凝視するラトサリー。モリスは暫く待っても険しい表情を変えない彼女に我慢出来ず、大きな声を出そうと息を大きく吸う。その時、ラトサリーは両手を膝の上で握り、作り笑顔をエミアルに向ける。


「エミアル様。お教え頂きたい事があるのですが、宜しいでしょうか?」


「なんだ?」


「……このお茶に何を入れたのですか?」


 エミアルは思わず目を逸らす。モリスは見て分かる程に動揺し目を泳がせるが、直ぐに我に返ったように瞬きをしてから蔑みを感じさせる目でラトサリーを睨む。


「貴様!無礼にも程があるぞ!!王子に向かってそんな」


「待て!!」


 モリスの言葉をエミアルは一喝して遮り、カップを置いてラトサリーに挑戦的な笑みを向ける。


「お前、なぜそう思った?」


 ラトサリーは握りしめた手の力を強め、口角を上げエミアルを見据える。


「そうですね……この指輪が教えてくれた、と言う事になるでしょうか?」


「ほぅ、指輪が?」


 面白そうに聞き返すエミアルを見据えたままラトサリーは言葉を続ける。


「はい、この指輪が外せなくなってから、体調に変化を及ぼす物の匂いを嗅ぐと頭の中で音が鳴るようになったようなのです。このお茶とお菓子の香りを嗅いだ時に音がしたと言う事は、何か特殊な物が入っている事になります」


 モリスが焦りを顔に浮かべながら口を挟む。


「王子もお前と同じお茶と菓子を口にされておられるのだぞ!」


「ですから率直にお尋ねしたのです。もし王子を狙った毒であれば、今から処置すれば間に合うかもしれません」


 そこまで言ってラトサリーは言葉を止め二人の反応を伺う。毒を盛られた可能性を危惧して焦る顔ではなく隠し事を言い当てられ悔しい顔を二人が、特にモリスがそう言う顔をした事を見て取ったラトサリーは大きく溜め息をつく。


「……ですが」


ラトサリーはそう強めに言葉を発してエミアルに笑みを向ける。目の奥が笑っていないラトサリーと対峙するエミアルは息を飲む。ラトサリーはその笑みを崩す事なく口を開く。


「いえ……何でもありません。では、化粧直しに行かせて頂きたいので失礼致します」


 そう言って立ち上がり扉へと歩き出すラトサリー。彼女が扉に手をかけようとした時、エミアルは大きな声で呼び止める。


「分かった、済まない!正直に話すから戻ってくれ!」


 ラトサリーが振り返ると、苦い顔をしながら右手で首を押さえるエミアルと、動揺を隠す事なく二人を交互に見るモリスの姿があった。




次の話を飛ばしたい方は22話のあらすじを御覧下さい。

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