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これ、ホントに呪いの指輪なの?  作者: 彩田(さいた)
一章 王都編
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15:二カ月後 王子からの呼び出し


 宮廷総合研究所から戻り二ケ月。結婚式を二週間後に控えたラトサリーは台所で椅子に座り、作業台の向こうにあるスープの鍋に入ったレードルを見つめる。


(さて……今回はどうでしょう)


 指輪に刻まれた紋様を書き写す作業は完了し、分析・解読を待つ事になり帰宅したラトサリー。




 書き写す作業が完了したのはその日の夜更けだった。研究員が部分毎に模写した紋様を繋ぎ合わせて微調整する作業が難航したものの、精度良い仕上りに所長のフレールと副所長のノートは大変満足した。模写の指揮を執っていたガウルの統率力が無ければ翌日に持ち越されていた仕事量だったそうだ。


 腕を押さえる役割を務めたカトラはラトサリーの話し相手も務めた。カトラと話している内に、ラトサリーは彼女の知識欲が尋常ではない事に気付いた。カトラが時折猟奇的とも言える瞳を見せる理由を垣間見たラトサリーは彼女への警戒を解いた。

 回復術式をかけていたウヌカはラトサリーの首と腕を回復させた後は世話役を務めた。素早さと器用さを兼ね備えたウヌカはラトサリーの気配を察して動き、固定役のカトラが楽出来るよう補助したり、カトラの難しい話を分かりやすく解説したりしていた。

 話している内に良い組み合わせの二人だと感心したラトサリーだったが、二人組の欠点も思い知らされた。途中、ラトサリーは小声でウヌカにトイレに行きたい旨を伝えたが、彼女は普通の声量で「トイレですって」とカトラに伝え、カトラは模写する研究員達に聞こえるように「トイレ行くから中断ね!!」と言い放った。恥ずかしいからと表現に配慮を求めたが、次の機会に二人から出た言葉は「おトイレですって」「おトイレ行きますから中断ね♪」だった。繊細さの欠落ぶりにラトサリーは苦笑いするしかなかった。


 会話にはフレールとサーブも加わっていたが、サーブは聞き役に徹していた。言葉を挟む余地が無かっただけと言えば身も蓋もないが、三人から時折出て来るサーブのよもやま話に対する彼の反応はラトサリーを楽しませた。

 そんな中、サーブが会話の中心となる瞬間があった。剣が指を捉えた瞬間に握っているラトサリーの手の感触が変化したように感じた、と言った時だ。フレールとカトラは目の色を変えサーブに次々と質問をぶつけ出し、サーブは二人の勢いに目を回す程だった。ラトサリーの右手全体が少し硬い質感に変わった可能性がある、と言う所で話がまとまった頃にはサーブは涙目になっていた。


 途中でラトサリーは音が聞こえる回数が減っている事を二人に話した。フレールとカトラは未だ伝えられていなかった情報に目の色を変え詰めて来た。思いつく限りの質問をぶつけた二人は眉をひそめて悩みだし、フレールはノートに意見を求めた。ノートも渋い顔で悩みだし研究員達に意見を求めた。

『同じ経験を重ねた結果、鳴る回数が減るのでは?』

 一人の研究員が発した言葉を受け、一同はラトサリーが座ったまま何か出来ないかと検討し始めた。ラトサリーは火の術式で光球を出し続ける事になり、研究員の仮説は正しいと証明された。更に続けていると、別の研究員が声を上げた。

『光球が僅かに大きくなった様に見える』

 その発言により実験を止める事になった。

 この実験を元に、負荷を加え経験を重ねると能力が向上する可能性があるとの結論に至ったが、その是非に関しては意見が二分した。短期的に負荷を増大させて日常生活中に音が発生しないようにしたら良いのではと言う意見と、一定の回数の音の後に新たな問題が発生するかもしれないから自重した方が良いと言う意見。どちらもラトサリーの事を思っての意見だったが、ラトサリーが受け入れ実践する事にしたのは皆が猛反対したカトラの意見だった。



 宮総研から帰ってきてからというもの、ラトサリーは家事・雑務を行う際に余分な負荷を加えるように心がけた。

 身体面では、不得意な薪割りを優先的に行い、荷物もより負荷がかかるように持ったり、挙動を速める事を心がけたりした。結果、丸太を割る斧を片手で振れるようになり、家事全般も今までより四割程度早く終わらせる事が出来るようになっていた。

 術式面でも負荷を大きくするよう考えて務めた。例えば、お湯が欲しい際に薪を使わずに火の術式だけで沸かす事から試した。光球を鍋の底に当ててお湯を沸かせる事が出来たので、少量のお湯を沸かす事から始めた。音がする回数が減ったと感じたら光球を大きく出来るか試みた。すると光球は大きくなり、それと同時に鳴る音の回数が増えた。光球の大きさ・維持時間を次第に増やし、他の術式でも負荷を増す努力を重ねて二か月経過。現在、ラトサリーは手をかざす事なく離れた位置の鍋の下に光の玉を発生させ鍋のスープを温めている。



 ラトサリーは小さく息を吸い、鍋に入ったレードルに向かって手をかざす。するとレードルが動き出しスープを掻き混ぜ始め、手を下ろすとレードルは動きを止める。


(同時だと風の術式はまだ手をかざさないと駄目か……)


 ラトサリーは立ち上がり歩きながら息を吹く。すると鍋の下の火が消える。彼女は器とスプーンを取り鍋のスープをよそい、作業台に置いてからライ麦パンと皿を取り、置いた皿の上でパンに指をかざす。指に風の気配が纏わりついた所で指を下に振ると、パンの表面が僅かに凹むと共に表面の粉が舞う。


「ふぅ……切れる気配すら無いって……」


 ラトサリーは愚痴りながら包丁を取ってパンを切り分け、残りのパンを棚に戻してからパセリを刻んで器にパッと散らす。椅子に座り少々不本意な顔をしながらパンを玉ネギのスープに浸して食べ始め、食べながら洗面台にある桶に向かって手をかざす。すると桶の上に発生したラズベリー程の水の玉から水が流れ落ち始める。


(これもまだ上手くいかない……もっと負荷をかけないと)



 頭の中で絶え間なく鳴る音を聞きながら昼食の時間を過ごし、片付けを終えるラトサリー。すると外から大きい荷車のような音が聞こえ、その音は彼女の家の前で馬の嘶きと共に止まる。来訪の予定を特に聞いていない彼女はエプロンを外して衣服に汚れがないか確認し、窓ガラスに移る自らを見て髪を軽く整えから外へ急いで出る。

 豪華な馬車からサーブが降りて御者に声をかけているのを目にしたラトサリーは急いで駆け寄る。綺麗な馬車で来る事など今まで無かったと言うより有り得ないと不思議に思いつつ、ラトサリーはサーブの前で止まり怪訝な顔を浮かべる。


「サ、サーブ様、……どうなされたのですか?しかもこんな綺麗な馬車で」


「おはようございます、ラトサリー様」


 見て分かる高価な装いで身を包むサーブ。彼が余所行きの口調で挨拶するのを目の当たりにしたラトサリーは御者の視線を察し、表情を笑顔に作り替え挨拶の礼をする。サーブは礼を返すと硬い顔で口を開く。


「本日はエミアル様の使いとして参りました。指輪を外せるか一つ試したいので招きに応じて欲しい、との事です」


「エミアル様が?……フレール様でなく?」


 意表を突かれ怪訝な顔をしてしまうラトサリーにサーブは硬い表情のまま馬車の扉を開く。


「はい。それで、エミアル様は礼服不要と申しております。ラトサリー様、お乗りください」


 そう言って手を差し出すサーブにラトサリーは作った微笑みを向ける。


「お気遣いは有難いのですが、さすがにこの装いは無礼に当たります。すぐ済みますので少々お待ち頂けますか?」


 ラトサリーの返事にサーブは硬い顔を少し赤らめる。


「あの……ラトサリー様、先日のようなお手伝いは……」


 ラトサリーも先日の礼服の事が頭に浮かび少々恥じらいを見せ、サーブから目を逸らしながら口を開く。


「ご心配には及びません、先日手元に無かった服が戻って来ておりますので」


 そう言ってラトサリーは礼をして自室へと急いで戻った。




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