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これ、ホントに呪いの指輪なの?  作者: 彩田(さいた)
三章 カタアギロ横災編
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3-39 願い




 ミラテースとカトラの話し合いが終わった三日後、宮総研の庭でアドエルは木の剣をガンドに向けていた。


≪ カツーン ≫


 ガンドに弾き返された剣はアドエルの手から零れ落ち、アドエルは手の痺れを我慢しながら屈んで木の剣を拾った。ガンドは膝立ちで取り分け用の大きな木のスプーンを剣の様に右手で構えながら心配そうな顔でアドエルに声をかける。


「あ、アドエル君、大丈夫?続ける?」


「う、うん!」


 額に汗したアドエルは剣を強く握って構え直し、強く踏み込む。


「ハァっ!」


《 カン! カン! カン! 》


 庭に打ち合う音が鳴り響く。ルイーゼの馬車の護衛の騎士達は厩舎の前から稽古を眺め、アドエルの直ぐ傍で見学しているレンマとアンナはアドエルに声援を送りっていた。声援を送るルイーゼの子供達の後ろでサーブはニコニコしながら稽古を見守り、サーブの横でラトサリーは胸元で両手をグッと握りしめていた。





 アズーロを庁舎に連行したサーブは衛兵達に指令を出し、買収された男達に口枷を付けて連行させた。庁舎内が騒がしくなり、仮眠していたロクリフは仮眠室から目を擦りながら警護部事務室に向かった。連行されてきたアズーロを見たロクリフは眠気が吹っ飛び、酷く慌てた様子でサーブに詰め寄った。サーブは秘匿しなければいけない家族の情報がある事をロクリフに相談し、ロクリフは立ち合いに自分が付く事を条件に被害者の関係者であるサーブが聴取を行う事を認めた。

 サーブの聴取にアズーロは何も答えず、聴取の途中に舌を噛みちぎって自死してしまった。

 買収された二人の衛兵は検品を見逃す程度で荷物の中身を教えて貰っていないと主張した。荷物の中身が誘拐した人達だと知っていればもっと見返りを要求していたとの弁明に呆れるサーブ。だが、少なからず弱みを握られていた節もあり、量刑についてロクリフと協議する事となった。

 結局、アズーロは誘拐の罪で処刑されたと公表される事になった。買収された男二人は減刑されて長期の懲役に処された。『他にもやっている奴らがいる』と言う男達の主張があったからだ。衛兵買収問題に関しては領主のルイーゼを交えて改めて対策を検討する事となった。

 アズーロの部下達を殺した事に対してラトサリーとカトラは聴取を受けたが、不問となった。誘拐された被害者の救出で突入した際の出来事であり、サーブがアドエルを退避させる為にアズーロ邸を離れた後の出来事に関する聴取で二人が絶妙な供述をしたからだ。

 宮総研でミラテースの緊急処置を終えたカトラは聴取を受けてから仮眠を取り、午後遅くなってから庭に設置された連絡用の砲台の使用状況の調査を行った。配備されて直ぐ使用してしまった事に文句を言われるか怯えていたカリフだったが、カトラは上機嫌で調査を行った。





 アドエルが稽古する音が微かに聞こえる母屋の居間でルイーゼは対面に座るカトラに笑みを見せる。


「では、良いのだな?」


カトラはお茶をクイっと飲み干し、カップをテーブルに置くとイーゼに笑みを見せる。


「えぇ。それでは取引成立、と言う事で♪契約書は後日お渡しします」


 そう言って立ち上がったカトラにルイーゼは声をかける。


「なぁ、カトラ。お主、アドエルの稽古を請けたのなら、レンマの稽古も頼まれてくれないか?」


「えっ……い……サーブに依頼されたら如何ですか」


「いや、それなのだが、ラトサリーの奴が止めとけと言うものでな。それに、ミラテースもお主に頼んだと言うではないか」


「いや……そこまで時間に余裕が無いので」


「そう言うな。レンマがアドエルと一緒にいる時だけで構わない。先程の件を譲歩した分と言う事で、どうだ?」


「んー…………そうですね、『ついで』で良いなら良いですが、私のやり方に文句は言わないで下さいね?」


「うむ、承知した。時にお主、師匠は誰なのだ?」


「師匠ですか?………………兄です」


「そうか。お主がそこまで強いのだ。兄上は名だたる戦士なのであろうな」


 ルイーゼの言葉にカトラは目を泳がせ、物悲しげな笑みをルイーゼに見せると無言で部屋を後にした。扉が閉まった所でルイーゼの後ろで控えるエリーが呆れ顔で口を開く。


「ルイーゼ様。踏み込み過ぎです」


 ルイーゼは肩をすくめ、自嘲気味な笑みを浮かべてエリーを見上げる。


「仕方無かろう。知りたいと言う欲求には敵わん。それに、彼奴の口から直接聞きたいのだから」


「そう言う事でしたら、信頼関係を築く所から始めたら如何です?」


「っ……そ、そうだな」


 少しバツの悪い顔でエリーから顔を背けたルイーゼはカップに手を伸ばし、お茶に口をつけた。




 勝手口から表に出たカトラは稽古をしているアドエルに目を向けながらラトサリー達の元にゆっくり歩いて向かった。


《 カン! カン! カン! 》


 ガンドはスプーンが折れない様にアドエルの攻撃を受け続ける。アンナは握りしめた手を更に強く握り、声を張る。


「アドエルー!しっかりー!」


 頬を紅潮させて声援を送るアンナを横目にレンマは少し笑みを浮かべ、レンマも負けじと声援を送る。声援に触発されたアドエルは三歩下がって剣を背負う様に構え、力一杯踏み込んで剣を振り下ろす。ガンドは腕の伸縮を上手く使ってアドエルの剣を受け流す。


「うわっ!」


 よろけたアドエルは声を上げ、


《 ドンっ!ゴロゴロっ 》


 ガンドの右後方に倒れて地面に転がるアドエル。ラトサリーは慌てて駆け寄ろうとするが、サーブは右腕を横に突き出してラトサリーを制止する。驚いてサーブに顔を向けるラトサリーの前にいたアンナは顔を青くさせてアドエルに駆け寄る。


「アっ!アドエルーっ!」


 アンナは服が汚れる事を構う様子を見せずに屈みこみ、アドエルを抱き起こすとアドエルの服や頭に付着したクローバーの葉や花を必死に払い始める。ある程度払い終えたアンナはホッと息を吐くとガンドに顔を向け、年齢にそぐわない殺気を漂わせながら声を張る。


「ガンドさん!ヒドいですっ!!やりすぎですっ!!!」


 アンナの眼力に怯んだガンドは顔を引きつらせて弁明する。


「いっ、いや、少しグラっとよろける位で済むと思ったんですよ……」


 弁明に全く納得していない様子のアンナはガンドを一瞥すると表情を一変させてアドエルに顔を向ける。打ち付けた左肩を摩りながらゆっくり立ち上がろうとするアドエルの背中や頭には付着した葉っぱがまだ残っていた。アンナは立ち上がりながらアドエルの頭に付いた葉っぱを優しく払い、アドエルの顔を覗き込む。


「アドエル?大丈夫?」


 アドエルが返事をする前にカトラの声が庭に響く。


「アドエル。そんなだと、ミラテースを守れないわよぉ♪」


 アドエルはピクっと体を震わせるとアンナを振り払うかのように勢い良く立ち上がり、手から零れ落ちた剣を拾うと再びガンドに向かって剣を構えた。アドエルの肩の打撲を心配したガンドが困り顔をカトラに向けると、カトラは呆れ顔で口を開く。


「ガンド。もっと加減を考えないと駄目じゃない。何であなたにそんなモノを武器として持たせたのか、考えなさい♪」


「っ!……はい」


 益々困った顔になるガンドに苦笑いしたカトラはアドエルに目を移し、アドエルに負傷の気配が無い事を確認してから口を開く。


「アドエル。よろけて飛ばされた時は受け身をとって直ぐに立ち上がって体勢を整えるのよ。その練習は次回って事で、休憩にしなさい。少し休んだらミラテースと術式の練習をするわよ」


「はい!わかった!」


「わかりました、でしょ?」


「はい!わかりました!」


 言い直したアドエルは母屋の玄関ポーチの日陰にある椅子に座っているミラテースの元に向かい、レンマとアンナはアドエルの後を追った。笑みを浮かべたまま腕を降ろしたサーブにラトサリーは口を尖らせて尋ねる。


「サーブ、何で止めたの?」


「だって、止めなかったらカトラさんに怒られてたよ」


「っ!えっ!?」


 驚くラトサリーにサーブは説明しようとするが、カトラが何か言いたげな様子だと気付いて口を噤む。口を止めたサーブに怪訝な顔を向けるラトサリーの横で足を止めたカトラは残念そうな顔で口を開く。


「サーブ。あそこでラトサリーが駆け寄ったら水の球をぶつけてやろうと思ってたのに。何してくれてるのよ、私の楽しみを奪わないで頂戴」


 サーブは苦笑いをラトサリーに向ける。


「ほらね?」


 ラトサリーは不満気な顔をカトラに向ける。


「なんで駄目なのよカトラ」


「何でって、あなた、ガンドが相手の時に甘える事を覚えたら、私が直接訓練する時に逃げ出しちゃうじゃない」


「あっ……」


 言葉を失うラトサリーにカトラは軽く溜め息をつき、苦笑いする。


「まったく……これから術式の練習をするから、あなたも参加しなさい」


「えっ、えぇ、分かったわ」


 ラトサリーの気が抜けた返事に肩をすくめたカトラはサーブに声をかける。


「サーブ。例の準備は任せるわ。頼んだわよ」


「はい。任されました」


 カトラは笑みをサーブに返すとミラテースの元に向かった。ラトサリーは少し寂しそうな顔でサーブに声をかける。


「サーブ。何でカトラが怒るって分かったの?」


「え?っとねぇ……何となくかな……王都にいた時に練習に呼ばれる事が多かったから、こういう時はこうだろうって何となく分かるんだよね」


「そうなんだ……それに……サーブはカトラから……とても信頼されているのね」


「えっ、ま、まぁ、森に入る事に関してはね。それより……ラトサリー」


「ん?何?」


「そ、その……ごめんね」


「えっ?……何が?何で急に謝るの?」


「いや……君を……家族を危険から守る事が出来なくて……ごめん」


「っ!なっ、何言ってるのサーブ!あなたは!あなたは森から戻って来て助けてくれたじゃない!」


「いや、俺とカトラさんが直行出来ない時の警備体制をもっと考えておくべきだった。そうすればミラテースさんもアドエルもあんな目に遭わずに済んだかもしれないし……君が人を殺める事も無かった……」


「サーブ。あれは誰かがヤる以外無かった事よ。それに、悪いのは誘拐なんて事をした人達なんだから、あなたが気を病む必要なんて全く無いわ」


「でも……カトラさんから聞いたんだけど、君に……ラトサリー、君を戦わせる事になった挙句に、君に……君に……」


 後悔を更に吐露しようとするサーブの右腕をラトサリーは両手で掴む。驚いて口を止めたサーブにラトサリーは笑みを向ける。


「あの時……サーブ、あなたが戻って来てくれて、あなたの姿を見た時、私、すごく……安心したの。そうで……なかったら、私…………本当にありがとう、サーブ」


 ラトサリーは震えを必死に堪えながら笑顔をサーブに向ける。目を丸くさせて硬直したサーブの頬に涙が伝い、そよ風が涙を冷ました感触で我に返ったサーブは左手で頬を拭いて笑みを浮かべる。


「……わかった。わかったよ、ラトサリー。だから、もう離していいよ」


 ラトサリーは伏し目がちに手をサーブから離し、震える手を胸元で握りながら口を開く。


「ごめんなさいサーブ。本当はギュってしてあげたいんだけど……これが精一杯で……」


 そう言ったラトサリーは赤らめた顔を握った両手で隠す。サーブも頬を赤らめて目を泳がせるが、急にハッと目を見開くと嬉しそうな顔で口を開く。


「ねぇラトサリー。こう言うのはどう?これは試した事なかったと思うんだ」


 ラトサリーは手を少しずらしてサーブに目を向け、右拳をラトサリーに突き出しているサーブに尋ねる。


「さ、サーブ?それは?」


「拳をコツンって当て合うんだよ。これだと剣を握ったまま出来るから、戦の時に戦友とやったりするんだ。それで、どうかな?これなら触れる時間も少ないし」


「そ……そうね」


 ラトサリーは悩み顔でそう答えると左手を胸に当てて呼吸を整え、握りしめた右拳を恐る恐るサーブの拳の前に出す。


「こ、これで良い?」


「うん。それじゃぁ、いくよ」


 ラトサリーは息を止めて体を強張らせる。


《 コツン 》


 サーブは拳を優しく当て、不安と期待の混ざり合った顔で尋ねる。


「ど、どうかな?」


「……うん…………大丈夫……みたい」


 目をパチパチさせて答えるラトサリーにサーブは満面の笑みを向ける。


「っ!本当?!ヨッシャー!!」


 左右の拳をグっと突き上げて喜ぶサーブ。ラトサリーは嬉しそうに自分の右拳を見つめ、顔を真っ赤にさせてサーブに声をかける。


「さ、サーブ……」


「ん?何、ラトサリー?」


「…………もっ……もう一回……して?」


 上目遣いで右拳をサーブに向けるラトサリー。サーブは目を丸くさせて右拳をラトサリーの前に差し出す。


《 コツン 》


「……もう一回」


《 コツン 》


「これで、私たち、戦友ね?」


「……うん、そうだね」


《 コツン 》


 繰り返す度にサーブの頬の赤みは濃くなっていった。そんな二人の様子を玄関ポーチの下でウキウキした顔で眺める子供達にミラテースは悲し気な顔で声をかける。


「アンタ達、そろそろ見るの止めなさい」


「「えーーっ!やだーっ!」」


 声を揃えるレンマとアンナに歩み寄ったカトラは二人の襟をつまんで持ち上げ、ニヤリと笑みを浮かべてミラテースに声をかける。


「ミラテース、中でやりましょう♪」


「……そうね」


「「やだー!」」


 嫌がるレンマとアンナを横目にミラテースはアドエルを抱き上げ、ミラテースとカトラは母屋に入って居間へと向かう。途中、ミラテースは眉をひそめながらカトラに尋ねる。


「ねぇ。あの子のあれ、どうにか治せないの?」


 カトラは足を止め、少しムッとした顔をミラテースに向ける。


「治せるなら治してるわよ」


「っ……そ、そうよね……ごめんなさい。見ていて余りにも痛々しくて……つい……」


「……まぁ、そうね……所長達が治療法を調査してくれているし、暫くは見守る事しか出来ないから。我慢しなさい」


「そ……そう……っ、そうだ、指輪を外せれば良くなったりしない?あの指輪が悪さをしてるとか」


 カトラは真面目な顔で口を開く。


「……そうだとしたら更に難しいわね。それこそ調査待ちよ。私も検証を続けてるけど、手がかりの端すら……」


「っ……そ、そう……そうなのね……」


 申し訳なさそうにそう呟くミラテースにカトラはニヤリと笑みを向ける。


「ねぇ、あなたがアドエル以外をそこまで心配するなんて、どうしたの?もしかして、あの子に惚れた?」


「っ!そんな訳ない!って!どうしてそうなるの!……全くアンタは……行くわよ!!」


「はいはい♪」


 カトラに摘み上げられている二人がミラテースにワクワクした顔を向ける。


「「ねぇ、惚れたの?」」


「っ!惚れてない!!変な事言わない!!」


 侯爵家の子息と令嬢を怒鳴りつけたミラテースは再び歩き出し、鼻息荒く居間の扉を開ける。すると、ルイーゼとエリーが窓に張り付いてラトサリー達を凝視していた。


「……もどかしいのぉ……だが……そこがまた……」


「全くです……でも……もう少し…………っ」


「っ、行かんではないかっ、ん?いや?っ、そうだサーブ、もう一度……」


 聞こえて来た会話にミラテースは顔を引きつらせ、アドエルをそっと降ろすとこめかみに青筋を浮かび上がらせて二人の元へ向かった。




第三部 完




第三部、ここまでお読み下さりありがとうございます。

第四部、『カトラ苦衷編』になります。投稿された暁には御覧頂ければ幸いです。

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