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これ、ホントに呪いの指輪なの?  作者: 彩田(さいた)
一章 王都編
12/120

12:観察


「……ノート先生、スゴイですねコレ」


「……あぁ、そうじゃの。凄いとしか言い様がないわぃ」


 二人の前に浮かぶ水の板に映し出された指輪の表面には、不規則に並んだ文字のような紋様が隙間なく全面に刻まれていた。向きも大きさも違うように見える紋様を前に二人はそれ以上の言葉を発する事が出来ずに固まる。ラトサリーは取り残されている事を不安に思い、二人に声をかける。


「あの!文字って、どうなっていますか?」


 呼びかけられたノートはラトサリーに苦い笑顔を向ける。


「いやいや、スマンのぅ、思わず見入ってしまったわぃ。文字だと思うのじゃが、それがビッチリ刻まれておってのぅ♪」


「それで、お二人はその文字に心当たりはあるのでしょうか?」


 ノートは首を傾げて渋い顔をする。


「請願術式の文献で似た文字を見た気はするのじゃが……所長はどうじゃ?」


 ノートに声をかけられてフレールも硬直を解き、背を伸ばして困った顔で水面を睨みつける。


「そうですね……確かに似た文字列を見た気はするのですが……対象に応じて文字が少しずつ違うのでどの現存者に準ずる文字か……」


 そう言って再びしゃがみ込み水面を注視し始めるフレール。研究室の扉が開く音がするとフレールは立ち上がって二歩横に移動する。研究員が筆記用具を持ってなだれ込んでくる足音を感じたノートは左手をかざしたまま立ち上がって一歩横に移り、研究員達に声をかける。


「みんな、水板の前に来てこれを見るのじゃ」


 研究員達はノートに言われた通りに水板の前に集まり、映し出された紋様を見ると全員顔を引きつらせる。


「なんですかコレ……」「やばくないっすかコレ……」「どーするんですかコレ……」


 研究員がそれぞれ声を漏らした所でノートは彼らに向かって口を開く。


「見てもらった通りの難題じゃ。ワシと所長は請願術式に関係する文字と推測したが、知っての通りその種類は多岐に及び現段階での特定は無理じゃ。とりあえずコレを全て書き写して後日調査する事とする。ワシは術式を維持しながら全体の補助に回る。書き写す作業の指揮は……ガウル、お主に任せる。頼んだぞ。ウヌカは嬢ちゃんの腕の治療を頼む」


 そう言われ立ち上がったのは請願術式の水を持ってきた研究員だった。ガウルは指示を出し、それぞれ粛々と配置につく。ウヌカがラトサリーの右側に移動し始めたのでラトサリーは少し身構える。ウヌカはラトサリーに優しく微笑みかける。


「大丈夫ですよ、縛りませんから♪しばらくそのまま動かないでいて下さい」


 その言葉にラトサリーは安堵の表情を浮かべる。ウヌカは両手の平をラトサリーの右前腕に当て、軽く息を吸い集中力を高めるかのように目を細める。


「どうですか?腕に何か感じますか?」


ラトサリーは腕に体温以上の熱を感じ、目を丸くしてウヌカを見上げる。


「その感じだと反応あるようですね、良かったです♪」


 そう言って微笑むウヌカにラトサリーは微笑みを返す。フレールはそれぞれが役割を受け持った事を確認するとノートに声をかける。


「ノート先生、私も準備していた事があるので試して良いですか?」


「ほぅ……その顔はろくでもない事を思いついた時の顔じゃのぅ……まぁ仕方ないのぅ」


 渋々と了承するサーブに向かってフレールは神妙な顔でお辞儀をして顔を上げると、手持無沙汰で辺りを眺めているサーブに声をかける。


「サーブ、頼みがあります」


 サーブは立ち上がりフレールの方を向く。


「はい!何なりとお申し付け下さい」


「騎士団長と副団長に手筈通りこちらに来るように言ってもらえますか?今日は訓練場で待機するよう言ってありますので」


「は、はい!わかりました!!」


 そう言ってサーブは駆け足で部屋を出ていく。扉が閉まる音と共にノートは大きな溜め息をつきフレールに鋭い視線をぶつける。


「……所長よ、ろくでもないにも程という物があろぅて。相手はお嬢ちゃんじゃよ?限度を考えんと」


 フレールは真面目な顔でサーブを見返す。


「……その通りだと思います。ですから最終判断は彼女に委ねます」


 フレールはそう答えラトサリーに顔を向ける。


「ごめんなさいね、先に謝らせて頂戴」


 頭を下げるフレールに困惑するラトサリー。


「謝らないで下さい、全ては私の指輪を外す為なのですし、何も聞かされずに謝られましても困ります」


「そうよね……ラトサリー、しっかり聞いて頂戴」


 フレールがそう言って話し始めようとした時、扉が開いてサーブが姿を現す。フレールは不思議な顔でサーブに尋ねる。


「っ?サーブ、忘れ物ですか?」


「いえ……それが……」


 フレールの問いに困惑しながらサーブは入ってきた扉の方に視線を向ける。すると、先程部屋を飛び出していった女性研究員が部屋へ入って来てフレールに怪しい笑みを向ける。フレールは思わず声を漏らす。


「あら、カトラじゃない……ではなくてサーブ、なぜ戻ってきたのですか?」


「いえ……だからそれが……」


 サーブはさらに困惑して入ってきた扉の方に視線を向ける。すると、三人の男性が部屋に入りフレールの方へ進んで行く。その内の二人は背が高く、筋肉質の男は金の文字の様な紋様の装飾がなされた赤い鞘の剣を、細身の男は銀の文字の様な紋様の装飾がなされた黒い鞘の剣を持っていた。もう一人の男は他の二人と比べると背が低く、華奢な体を質の良い服で包んでいた。フレールは華奢な男を見て眉をひそめる。


「エミアル?なぜあなたがここへ?」


 怪訝な顔で尋ねるフレールに優男は笑顔で答える。


「いやだなぁ義母上、そんなに邪険にしないで下さいよ♪さっきまで団長たち一緒だったから付いて来たのですよ」


 ラトサリーはフレールが『義母上』と呼ばれた事に驚き優男に目を向ける。エミアルは大きいテーブルへ進みながら部屋の端にいる使用人に仕草でお茶を催促し、全体を見渡せる位置の椅子に座る。フレールは明らかに不機嫌な様子でサーブを睨みつける。


「サーブ、説明して頂戴。これはどういう状況?」


「それが……自分が中庭に出たら皆様がこちらに向かって歩いて来られまして。自分にも何が何だか……」


「私が説明しましょう」


 動揺しながら答えるサーブの言葉をカトラが遮り、怪しい笑顔をフレールに向ける。


「所長、端的に申しますと、私の案と所長の案が同じだった、という事です。王子は訓練場で団長たちと居られまして、御同行なさると仰られましたので案内致しました」


 カトラの説明にエミアルは軽い口調で言葉を挟む。


「二人で籠って何やってるのか問い詰めたら、例の指輪絡みと聞いて面白そうだったからね♪」


 フレールはエミアルに厳しい目線を向ける。


「『面白そう』だなんて!仮にも今回の件の原因はあなたが……」


そこまで言ってフレールは言葉を止め、眉をひそめて目線を下に向け、怪訝な顔をカトラに向ける。


「カトラ。同じ案と言いましたか?」


 フレールの問いにカトラは一層怪しい笑みを浮かべた。




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