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これ、ホントに呪いの指輪なの?  作者: 彩田(さいた)
三章 カタアギロ横災編
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3-36 実直




 太陽が昇り切ろうとした頃、宮総研の客室のベッドで目を覚ましたミラテース。ベッドの横の椅子でジーナは薄目を開けて座り、抱えたアドエルをユラユラ揺らしていた。ミラテースは小声で呼びかける。


「ジーナ?」


 眠っているアドエルを抱えていたジーナはアドエルに向けていた目をパッと開くとミラテースに顔を向け、ホッと息を吐いて微笑みかける。


「おはようミラテース。どう?大丈夫そう?起き上がれる?」


「そうね……っ!」


 慌てて耳に手を当てたミラテースは就寝用の帽子で耳が覆われている事に安堵の息を吐くとゆっくり上半身を起こし、寝巻の上から腹部を摩りながら首を左右に三回程曲げてからジーナに顔を向ける。


「まぁ、ゆっくりだったら大丈夫そうね。それで、どれ位経ったの?」


「丸一日よ。あなた、施術で気を失って、体を拭いても着替えさせても起きなかったのよ。ねぇ、カトラさんの施術って、そんなに大変だったの?」


 ミラテースは腹部を摩りながら身震いすると苦笑いをジーナに向ける。


「あ、あんまり話したくないわ……それで……」


 ミラテースは口を止めると急に真顔になり、アドエルに目を向けながら不安げに口を開く。


「アドエルはどうなの?怪我はしてなかった?ちゃんと食べてる?しっかり寝られてる?歯は磨いてる?」


 立て続けに質問をぶつけてくるミラテースに気圧されたジーナは少し目を泳がせつつを開く。


「そ、そこら辺は大丈夫よ。今日も朝御飯はしっかり食べさせたから」


「そう……良かった……」


 ホッと胸を撫で下ろすミラテース。ジーナもホッと一息つき、アドエルを抱え直すと、


「ん……」


 アドエルの口から息が漏れ、モゾモゾし始めたアドエルは目を薄っすらと開いた。ジーナはアドエルの頭を撫でながら優しく声をかける。


「おはようアドエル。ミラテースが目を覚ましたわよ♪」


 アドエルは目をパっと見開いて嬉しそうな顔をジーナに向けるが、体をピクっと震わせると顔を強張らせて目をギュっと閉ざし、ジーナにしがみついた。





 ミラテースがアズーロへの報復に満足する前に支度を整えたカトラ。アズーロは服の端切れの口枷を嵌められ、紐と帯で拘束された手首から伸びた帯の端を持ったカトラは帯を引っ張って歩き出した。歩けないアズーロは地面を引きずられながら痛みでうめき声を上げ、段差を越える時は一層大きな声を上げた。ラトサリーはフードを被ったミラテースに肩を貸しながらカトラの後ろに続き、ガンドとサーブが待つ衛兵詰所に向かった。

 喧騒に気付いた住民がチラホラと道に出て来ていた。住民達は先頭を歩く女性が宮総研のカトラだと気付くと先程の爆音について詰め寄ろうとしたが、口を塞がれて悶える男をズリズリと引きずるカトラの姿に恐怖を感じて思い止まった。

 カトラ達が衛兵詰所に向かってくるのが見えたサーブはアドエルを抱えたまま詰所を飛び出して皆を迎えた。詰所に着くまでラトサリーは良案を模索していたが、コレと言った案を思いつけなかった。

ラトサリーはサーブにアズーロから聞き出した情報を伝えると共に取り調べによりミラテースの素性が広まる事への懸念を伝えた。サーブは真剣な顔で聞き終えるとミラテースに尋ねた。


『上手く事が進んだらアドエルと共に留まってくれますか?』


 神妙な顔でミラテースが頷いたのを見たサーブは満面の笑みで『頑張ります!』と声を張り、抱いていたアドエルをラトサリーに渡すと衛兵と共にアズーロを庁舎に連行した。

 ラトサリーの腕の中でアドエルはパンパンに腫れた目を閉じて寝息を立てていた。ラトサリーはミラテースを馬に乗せると馬を引いて別邸に戻ろうとしたが、カトラの強い要望により宮総研へと向かった。宮総研に向かいながらラトサリーはカトラから何をするか聞くとガンドを貸して欲しいとカトラに頼み、ガンドはラトサリーの言付けを預かって別邸に向かった。

 宮総研に辿り着いたカトラは待ち構えていたオグマとカリフに『緊急事態要綱第十六項の二を発動』と真顔で伝えた。二人は途端に物悲しい顔をミラテースに向け、目を逸らすと黙ってカトラの後に続いた。ミラテースはカトラとラトサリーの手で母屋の地下へと運ばれた。アドエルとオグマは別棟に入って呼ばれるまで待つ様に言われ、カリフは門で待機して指示があるまで誰も敷地に入れない様にと言われた。別邸からジーナとガンドが宿泊用具一式を運んで宮総研に到着したのは侵入禁止が解除されて暫く経過してからだった。

 地下室に運ばれたミラテースはカトラより緊急避妊処置を行うと告げられた。『妊娠し難い種族だから多分大丈夫』と言うミラテースを説得したのはカトラだった。意外すぎるカトラの必死さに気圧されたミラテースは承諾したものの、処置方法の説明を受けると顔を引きつらせた。『自分で試したから問題ない』と何食わぬ顔で言うカトラに呆れたミラテースは諦めて全てをカトラに委ねる事にした。施術用の服に着替えたミラテースは『防音用』と言う枕を渡され、施術台に乗せられた。背中を上に向け上半身だけ施術台に乗せられたミラテースは口元に枕を押し当て、縄で施術台に固定された。ラトサリーはミラテースが動かないように施術台ごとミラテースを押さえつけた。カトラはミラテースの後ろに回り込んで密着し、左手を下腹部に当て、一声かけて右中指を挿すと水の術式を発動させた。ミラテースの悲鳴は防音用の枕では消えず、縄が切れるのではないかと言う程に悶えたミラテースは防音が追いつかない程の悲鳴を幾度か上げた後、白目をむいて意識を失った。





 ラトサリーはミラテースが休んでいる客室の扉を開け、部屋に入りながら口を開く。


「ジーナ、お待たせ。御陰でしっかり食事をとれ……」


 ジーナの向こう側でミラテースが起きている事に気付いたラトサリーは口を止め、ベッドへと歩みながら笑みを浮かべる。


「おはよう、ミラテース。どこか痛い所は無い?」


「それは……大丈夫だけど。ねぇ、アドエルはどうしちゃったの?」


 酷く狼狽えて尋ねるミラテースにラトサリーは困り顔を見せる。


「それが、分からないのよ。ずーっとこんな感じで、あなたの方を見ようとしないのよ」


 ラトサリーの言葉を聞いていたジーナは体の向きを変えてアドエルをミラテースに向けるが、アドエルはジーナの胸に顔を押し当てる。ミラテースはアドエルが自分の方を見ない姿を目の当たりにして寂しそう俯く。


「私のせいで酷い目に遭ってしまったから……もう、私の事は見たくもないって事かしらね……」


 ミラテースの言葉にアドエルはジーナの胸に目を押し当てたまま首を横に振る。ジーナは心配そうにアドエルの頭を撫でながら口を開く。


「そうじゃないみたいよ。首を振ってるし。それにこの子、あなたの傍を離れようとすると嫌がるから」


「そ、それじゃぁ、何で……」


 戸惑うミラテースにジーナはアドエルの顔を覗き込みながら口を開く。


「それとね……何でか分からないんだけど、しゃべってくれないのよ」


 ミラテースは不安げな顔をジーナに向ける。


「えっ?しゃべらない?いつから?」


「それが……私がここに来てアドエルと会って、その時からアドエルがしゃべっているのを聞いてないの。聞こえているのは確かなんだけど……」


 ミラテースはアドエルに目を向け、悲壮感で顔を歪ませるとラトサリーに目を向ける。


「ねぇ、しゃべってないって、アンタ、何時からか覚えてる?」


 ジーナの横でラトサリーは腕を組んで首を傾げながら口を開く。


「それなんだけど、突入してサーブからアドエルを渡された時からアドエルの声を聞いた記憶が無いのよ。私も気になって少し試してみたんだけどね……お手洗い行く?とか聞いたりしてね。首を振って応じてくれるから分かるんだけど、全然声を出してくれないのよ……極度な心痛を味わった子供が言葉を話せなくなる事があるってカトラが言っていたから、暫く様子を見ようと思っているんだけど……」


「そっ!そんな……」


 ミラテースは慌ててベッドから降りるとジーナの腕からアドエルを譲り受け、ベッドに腰をかけてアドエルを優しく抱き締めると悲しげに囁く。


「アドエル……怖い思いをさせちゃって……ごめんなさい……」


 ミラテースの言葉にアドエルは目を閉ざしたまま首を横にブンブンと振ると体を震わせ始め、心配したミラテースはアドエルの顔を覗き込む。ミラテースの服を両手で掴んだアドエルは固く閉じた目から涙を流し、口をギュッと閉じていた。ミラテースはアドエルの頭を撫でながら優しく囁く。


「アドエル……話すのが嫌なら、無理して話さないでも良いのよ。話が出来るようになるまで待つから。だから、あなたが話したいって思ったら話しても良いけど、それまでは無理して話そうとしないで良いわよ」


「……はなして……いいの?」


 目を閉じたまま小声で尋ねてきたアドエルにミラテースは目を丸くさせる。


「っ!?アドエル?あなた……話せるの?」


「……うん」


「でっ、でも、それならどうして今まで話さなかの?」


「だって……ミラに、言われるまで声をださないでって言われたから……」


 ミラテースは目を大きく見開き、震えを我慢しながらアドエルに尋ねる。


「ね……ねぇアドエル?あなたが目を開けないのって……何で?」


「うん……ミラがいいって言うまでミラのことを見ないでって言われたから……」


 ミラテースの目から涙が零れ、ミラテースはアドエルをギュッと抱き締めると嗚咽しながらアドエルに囁く。


「アドエル……も……もう良いのよ……もう見ても……しゃべっても……良いわよ……良く我慢したわね……偉いわ、アドエル……」


 ミラテースの言葉を聞きながらアドエルは目を少しずつ開け、その様子を目の当たりにしたジーナとラトサリーは涙を浮かべる。アドエルは目に涙を滲ませながら哀しげな声を出す。


「ミラ……ご……ごめんなさい」


 ミラテースは酷く驚いてアドエルの両肩を掴み、アドエルの顔を覗き込む。


「何で!?何で謝るの!?あなたは何も悪い事なんてしてないのに!」


 アドエルは俯き、肩を震わせながら口を開く。


「ぼ……ぼく…………つかまれて……声だしちゃった……だから、ミラが……ぼくのせいで……あんなに……」


 アドエルの告白にミラテースは首を横に振りながら顔を歪ませる。アドエルは目から大粒の涙を零しながら言葉を続ける。


「……くるしそうで…………ごめ……」


「アドエル!」


ミラテースはアドエルを強く抱き寄せてギュッと抱きしめる。アドエルは号泣し始め、ミラテースはアドエルの頭を撫でながら穏やかな声を捻り出す。


「あなたは何も悪くない……あれだけ我慢してくれたんだから……」


 ジーナは涙を流しながらミラテースの横に座り、アドエルの背中を優しく摩る。


「ミラテースの言う通りだよアドエル!アドエルは全然悪くないんだからね!」


 ラトサリーもアドエルに顔を寄せて優しく声をかける。


「そうよアドエル。悪いのはあの人達なんだから。そんな事言わないで」


 三人はアドエルを泣き止ませようと声をかけ続けるが、アドエルは一向に泣き止まなかった。そうしていると扉が開き、部屋に入って来たカトラはミラテースの元に向かいながら面倒臭そうな顔で口を開く。


「あなた達、何なのよこの状況は……」




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