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これ、ホントに呪いの指輪なの?  作者: 彩田(さいた)
三章 カタアギロ横災編
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3-32 合流




 ラトサリー達が隠れた路地の入口で馬を止めた乗り手の女は馬を降り、もう一人の男に馬を預けて路地の奥へと歩き出した。足音を耳にしたラトサリーは奥歯を噛みしめ、大剣をゆっくり抜いて鞘を地面に置いた。女は左手を首筋に当てながら剣に手をかける事無く路地をズカズカと進み、二人が隠れている建物の角に向かって呼びかける。


「ラトサリー、ガンド、出て来なさい」


「っ!カトラ!?」


 ラトサリーは思わず声を漏らすと大剣を捨てて建物の陰から飛び出し、カトラに駆け寄る。


「カトラ!本当にカトラなのね!?合図、分かったのね!良かった!♪」


 ラトサリーに飛びつかれたカトラは汗だくの顔をゲンナリさせる。


「何が良かったよ。こっちは大損害なんだから……」





 朝から日が暮れるまで歩いて進んだ森を休憩一回で駆け戻ったサーブとカトラ。森の入り口で待機しているはずのオグマの気配が無い事にサーブは動揺して速度を緩めるが、カトラに追い抜かれると慌ててカトラの背中を追った。森を駆け出て平原に突入したカトラは蛇行する道を無視して町の門に向かおうとするが、平原の安全圏の杭付近で焚かれた火が目に入ると向きを変えた。

 オグマは森の入り口でカトラ達の帰還を待っていたが、信号弾が放たれた後にやってきたカリフの情報を受けて待機場所を平原の杭の横に変更していた。カリフが連れて来た二頭の馬の横でカトラ達を待っていたオグマは森の入り口付近のざわつきに気付くと馬に乗り、草原に二人が出て来たのを察知したカリフは松明を掲げて左右に揺らした。

 松明に照らされたオグマの顔が分かる程の所まで来たカトラは走りながらリュックを捨て、馬に乗るオグマ目掛けて速度を上げた。カトラはオグマに向かって飛び上がり、オグマは松明を投げ捨ててカトラを受け止めると自分の前に座らせながら馬の腹を蹴った。カリフはサーブに馬に乗るようにと叫び、サーブは走りながらリュックを投げ捨てるとカリフに何も尋ねる事無く指示通り馬に飛び乗ってオグマの後を追った。二人を見送ったカリフは捨てられた松明を拾って火の後始末をしてから二人が投げ捨てたリュックを回収して町に戻る支度に取り掛かった。


 オグマは馬の速度を少し落としてサーブを待ち、サーブが追い付いた所で二人に状況を伝えた。早急に別邸に向かうようにと告げたオグマは手綱をカトラに渡し、サーブを一瞥すると馬から飛び降りた。カトラは右手で手綱を握り直し、馬に鞭を入れながら左手で首の後ろを掴んで索敵術式を発動させた。サーブは手を上げてオグマに礼を伝えるとカトラに続いて馬の速度を上げた。

 西側の町の森へと通じる門でカトラ達の到着を待っていたエサンカ組のカサック。カサックは馬の音を察知すると門衛に声をかけ、門衛達は急いで門を開けた。カトラとサーブは速度を落とす事無く門を通過して町に入り、二人の通過を見送ったカサックは閉門作業に加わった。

 街を分断する川にかかる橋の門ではバッサとコゴエスが、町の内周防壁の門ではエサンカが二人の到着を待って門を開けさせた。通常であれば夜に門を開ける事は無いが、通過するのが警護部部長のサーブと宮総研分室長のカトラだと聞かされた門衛達はサーブに対する敬意とカトラに対する恐れから難色を示す事無く門を開けた。

 町の内周防壁の門を通過した二人は当初別邸を目指していたが、カトラは突如左を指差すと大通りを曲がって町の東側へと馬を走らせた。サーブはカトラが左を指差した事に眉をピクっと動かす程度で、交差点を曲がる事を知っていたかの様な速度でカトラの後に続いた。





 カトラに飛びついたラトサリーはカトラの首元に顔を埋める。カトラはゲンナリした顔のまま右手でラトサリーの襟首をつかんでラトサリーを引っぺがす。


「暑苦しい。それと、そんな悠長な事してて大丈夫な状況なの?」


 涙目のラトサリーは恨めしそうな顔をカトラに向ける。


「……大丈夫じゃない」


「それならラトサリー、あなた、何処に向かっていたのか言いなさい」


 カトラは呆れ顔でそう言うとラトサリーの襟首から手を離し、顔の汗を拭う。ラトサリーは両手で目を拭きながら口を開く。


「……昨日まで修理に来てた大工の親方さんの家に向かっていたの」


「……っ?大工の?って、アズーロって人の事?」


「えぇ。変な術式の流れが見えたから探りを入れに行こうと思って」


「変な?って、どんな……移動しながらにしましょう」


 カトラはそう言うとガンドに顔を向ける。


「ガンド。馬を中央の衛兵詰所に連れて行って水を飲ませておいて頂戴。その後は誰かが迎えに来るまで待機。大剣はラトサリーに渡して」


「わっ、わかりました」


 慌てて返事をしたガンドは回収した大剣をラトサリーに渡すとサーブの元へと走り、サーブから馬を受け取ると大通りを西に向かった。馬をガンドに渡したサーブはラトサリーに駆け寄るが、呆れ顔のカトラはサーブの行く手を遮って口を開く。


「夫婦揃って悠長って、やめてくれない?移動するから付いて来なさい」


 足を止めて渋い顔をするサーブに背を向けたカトラはラトサリーに声をかける。


「ラトサリー、案内しなさい」


「わ、分かったわ、付いて来て」


 ラトサリーはそう言うとサーブに目配せしてから走り出した。ラトサリーは大剣と短剣から音が出ない様に注意して走り、並走するカトラとサーブに状況の説明をした。適格に要約された説明を聞き終えたカトラはラトサリーに尋ねる。


「それで?変な力の流れって、どんな感じなの?」


「それが、空に向かって弱い力の流れが上っていく感じなの。あっちの方よ」


 ラトサリーが指差した方に目を向けたカトラは首筋を掴む左手の力を強め、目を丸くさせるとラトサリーにニヤリと笑みを向ける。


「ラトサリー。大手柄よ♪その力の流れの下にアドエルが……ミラテースもいるわ」


「っ!本当に?!よかった……それで、二人とも無事なの?」


「えぇ。いるって分かるって事は生きてるって事だから。それじゃぁラトサリー。パラマカッディをサーブに渡して頂戴」


「えっ?えぇ、わかったわ」


 ラトサリーは足を止めて腰から短剣を外し、サーブに差し出す。受け取ったサーブはラトサリーに寂しげな笑みを向けてからカトラに声をかける。


「カトラさん。行きましょう」


「えぇ、そうね」


 ラトサリーはサーブに焦った顔を向ける。


「サっ、サーブ?行くって?」


 サーブが少し困った顔でラトサリーから目を逸らす横からカトラはラトサリーに笑みを向ける。


「ラトサリー。音を立てずに付いて来られたら戦力に加えてあげるわ♪」


 意地悪げにそう言ったカトラは道路を強く蹴り、カトラの動き出しを見抜いたサーブはカトラの後に続いて走り出した。足音すら立てる事無くみるみる離れていく二人に驚いたラトサリーは二人を追いかけるが、距離が縮まるどころか益々離れていった。ラトサリーは慌てて速度を上げようとするが、足音やら鞘鳴りやらを気にして速度を上げる事が出来なかった。二人の背中が豆粒程の大きさになって緩やかに曲がる大通りの先に消え、呆気に取られたラトサリーは足を止めて手を膝についた。


「……な……何なの……あの二人……」


 そう呟いたラトサリーは息切れしていた。あっと言う間に引き離された事に対する焦りと音を立てずに走る事の難しさがラトサリーを一気に疲弊させていた。ラトサリーは改めて実感した二人の高みに口元を緩ませるが、ハっと我に返って呼吸を落ち着かせると顔を上げて目的の建物へと再び走り出した。






第三王子の件以降、走る訓練を怠っていた模様……

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