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これ、ホントに呪いの指輪なの?  作者: 彩田(さいた)
三章 カタアギロ横災編
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3-30 視点




 夜の静寂を打ち破った爆音で叩き起こされたカタアギロの住民達。夜空に煌めき町を明るく照らし続ける光の球を見て慄いた住民達は衛兵の詰所に駆け込んで情報を求めた。やがて、犬の遠吠えや馬の嘶きが静まってきた頃、爆音と光の球の出所が宮総研である事が各詰所に報告された。住民達は朝になったら宮総研に苦情を言いに行くと呟きながら家に戻って行った。



 町が再び静けさを取り戻し、高く昇った月が傾き始めた頃、ラトサリーは屋根の上で眉間のシワをひと際濃くさせて町の方を睨みつけていた。ラトサリーの目は術式の力の流れを鮮明に捉える事が出来るようになっていた。自分が使う術式は勿論、屋根の上から見える町並で住民が使っている術式の力の流れもラトサリーの目はしっかりと捉えられる程になっていた。今も、ラトサリーの目は遠くの家から空へと上る微弱な術式の流れを確実に捉えているが、その家で術式を使っている人の輪郭や気配に関しては微かに感じる事すら出来ずにいた。奥歯をギリっと鳴らしたラトサリーは深い溜め息をつくと振り返って座り、町を囲う外周の防壁の少し上方に向かって再び両手をかざして旋風を発生させようとした。そこに屋根窓からジーナが顔を覗かせ、ラトサリーに呼びかける。


「ラトサリー。ちょっと良い?」


 ラトサリーは手を降ろして屋根窓の方に顔を向ける。


「っ?ジーナ?何?」


 ジーナは籠を持って屋根に上がり、ゆっくりとラトサリーに這い寄りながら口を開く。


「夜食をっ、持って来たのっ」


 少しよろけながら屋根を登って来るジーナ。ラトサリーはジーナに向けていた顔を防壁の方に戻すと両手をかざし直して口を開く。


「後で食べるから置いといて頂戴」


 ジーナはラトサリーの横に辿り着くとムスッとした顔をラトサリーに向ける。


「そんな事言って、食べる気無いわよね」


「そっ、そんな事無いわよ、ちゃんと食べるから。大丈夫よ、置いといて頂戴」


 ジーナに目を向ける事も無く旋風を発生させながら答えるラトサリー。ジーナは軽く溜め息をつくとラトサリーの隣にドカッと座り、足で籠を器用に挟んで抑えると冷たい笑みをラトサリーに向ける。


「手を休めて食べる気が無いって事は、よーーく分かりました!」


 吐き捨てるようにそう言ったジーナは籠からパンを取り出して一口大にちぎり、ペティナイフで小さく削いだチーズをパンにグニっと押し付けてラトサリーの口元にパンを差し出す。


「食べて!手伝うから!」


「っ!いっ、いいわよ、一人で食べられるから!」


 ジーナに横目を向けて嫌な顔をするラトサリー。ジーナは舌打ちして吠える。


「ガタガタ言って無いで食べる!!」


 ジーナはパンをラトサリーの口に押し当ててグリグリと口の中にねじ込む。ラトサリーは苦しそうに口をモゴモゴさせると旋風が歪んだ。それでもラトサリーはかざした手を降ろさず、どうにかパンを咀嚼して飲み込むと慌てた顔をジーナに向ける。


「ちょっと!ジーっムォゴ!」


 ラトサリーの抗議の声は再びねじ込まれたパンによって封じられる。ジーナは次のパンの準備をしながら口を開く。


「特訓しながらで良いから!食べて!」


 ラトサリーは涙目でジーナを睨み、パンを飲み込むとジーナから顔を背けて叫ぶ。


「水!水ちょうだい!」


 要求を捻り出したラトサリーがゴホッと咽るとジーナはハッとした顔でパンを籠に戻し、慌てて籠から水差しと出してコップに水を入れる。水をコップ半分位まで注いだジーナはサッとラトサリーの口元にコップを差し出す。手をかざしたままのラトサリーはコップに口をつけ、ジーナはコップをゆっくり傾ける。ラトサリーが程よく水を口に含ませた所でジーナはコップの傾きをゆっくり戻し、コップをラトサリーの口から離して声をかける。


「もう一口飲む?」


 ラトサリーは水を飲み込み、フゥっと息を吐く。


「と、とりあえず、大丈夫よ」


「そう、それじゃぁ、続けましょうね」


 ジーナは澄ました顔でそう言うと籠にコップを戻し、先程置いたパンに手を伸ばす。ラトサリーは慌てて声を張る。


「ジーナ!ゆっくり!ゆっくり食べさせて!」


 ジーナは必死なラトサリーの顔を嬉しそうに覗き込む。


「わかったわ♪」


 笑みを浮かべてそう言ったジーナはラトサリーの前にちぎったパンを差し出し、ラトサリーが大きく開いた口にパンをゆっくり優しく入れた。




 術式の特訓をしながらジーナの手からパンの欠片を更に幾つか食べたラトサリーは手を降ろして立ち上がり、左手で首の後ろを掴んで町の方に体を向けた。町並に向かって厳つい視線を向けるラトサリーにジーナは恐る恐る声をかける。


「な、何か、芳しくなさそうね?」


 ラトサリーは溜め息をつき、ションボリした笑みをジーナに向ける。


「そうなの。術式の力の流れはかなり見えるようになったんだけど、人の位置とか輪郭とかが全く見えないの」


「そっ、そうなんだ。それで、何で首なんて掴んでるの?」


「これ?カトラがそうしていたから……真似すれば見えるかもって思ってやってるんだけど……」


「そ、そうなんだ……って、カトラさんから何かコツとかやり方とか聞いてないの?」


 ラトサリーはジーナの隣に座り直し、ジーナからコップを受け取りながら答える。


「えぇ……何も……」


 弱々しく答えて水を飲むラトサリーにジーナは呆れた様子で顔を歪める。


「えっ?何も!?そんなんで、どうやったら出来る様になるって言うの!?」


 ラトサリーはムスッとした顔でジーナにコップを突き返す。


「そこを考えながら色々試してるのよ……出来る人がいるって事は、やり方が必ずあるって事なんだから。それに、カトラが言っていた力の流れが見える事っていう条件は達成したはずだから、もう少しだと思うの」


 呆れ顔でコップを受け取ったジーナは苦笑いを浮かべながら口を開く。


「えっ……たっ、確かにそうかもしれないけど、闇雲にやっても仕方ないんじゃない?」


「そうなんだけど、可能性が全く無いって訳じゃ無いし」


「え……で、でも、何か、出来るようになる足がかりとかは無いの?」


「えぇ……カトラが使っていた時と同じ様にすれば或いは、って思うんだけど……カトラが使っていた時みたいな球体が出ないのよ」


「きゅ?球体?」


「えぇ。でも、もう少しで町の端の方まで力の流れがハッキリと見える様になると思うの。そうしたら索敵術式の模索に専念して……絶対に諦めないんだから」


 ラトサリーはそう言うとジーナからパンの欠片を受け取って口に放り込む。ジーナはパンをちぎってチーズを塗り付けながら町の方に顔を向ける。


「でも、凄いわね。力の流れが見えるなんて……ねぇラトサリー、今、町のどこら辺で力の流れって見えるの?」


 ジーナはそう尋ねると目に力を込め、眉間にシワを寄せて町を見渡す。ラトサリーはパンを良く噛んで飲み込んでから呆れ顔をジーナに向ける。


「さっき見た時は、内周防壁の門の各詰所と、外周防壁の各詰所と、街中にある衛兵詰所と、外周防壁南門の二区画位離れた所にある建物から見えたけど……ジーナ、見えるの?」


「……そうね…………モノは試しにって思ったんだけどね。全然見えないわ♪」


「っ、でしょうね……」


 引きつった笑みを浮かべたラトサリーは向きを変えて座り直し、両手を付き出して旋風を発生させる。ジーナはラトサリーが告げた建物の方に目を向けると首を傾げて呟く。


「こんな夜中に何やってるんでしょうね。さっきまでの騒ぎも収まったって言うのに……その家、何かあったのかしら?」


「えっ?」


「だって、その位置に衛兵さんの詰所は無いじゃない。さっきの爆音で起きた人達も静かになったって言うのに、まだ術式を使って何かしてるなんて、何かあったのかって心配じゃない?」


「そ、そうね……言われてみれば……そうね…………」


「ちなみに、何の術式を使っているかとか分かる?」


「えっ、それは……そこまで気にして見てなかったから……」


 ラトサリーはそう言うと手を降ろして後ろに向きを変え、話題に上った建物の方に目を向ける。


「そうね……空に向かって術式の力の流れがフワって上っていく感じで……何の術式かしら……こんな弱く……」


「それって、どの術式を使った時みたいなの?」


「えっ……どうかしら……どの術式とも……ただ力が上に流れていく……感じで……」


「そ、そんな事って、どう言う時にそうなるの?」


「えっ?しっ、知らないわよ……どうやったら……こんな…………」


 口を止めたラトサリーは空に向かって上っていく術式の流れに目を向けながらジーナに声をかける。


「ジーナ……お願いしたい事が……あるの」


「っ?何?」


「トルビヤさんに、町の地図を持って来るように言ってくれる?」


「えっ、えぇ、分かったわ。地図ね」


 ジーナはコップを籠に仕舞い、籠を持ってゆっくりと屋根を降りて窓から部屋に入った。ラトサリーは件の力の流れに目を向け続け、屋根裏部屋から物音が聞こえたのを受けて屋根から降りた。




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