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これ、ホントに呪いの指輪なの?  作者: 彩田(さいた)
三章 カタアギロ横災編
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3-29 死力




 ダラウンカタの大木の隙間から月明かりが零れる中、大木の傍らで夜を過ごすサーブとカトラ。先に休息を取るカトラの横でサーブは大木の幹に寄りかかりながら見張りをしていた。森の生物は何故か寄って来る気配を見せず、サーブは翌日の行程をボンヤリと考えながら見張りをしていたが、


《 ドーン 》


 サーブの耳は野太い音を捉えた。サーブはかなり遠くで鳴ったであろう音に首を傾げると剣に手を伸ばし、音が聞こえた方に顔を向けて様子を伺った。すると、


《 ドォーーン 》


 先程の音より大きい音をサーブの耳は捉えた。倒木とも落石とも違う音が町の方向から鳴った事にサーブは顔をしかめて立ち上がり、大木を登れる所まで登って町の方向に目を向けた。


「……っ?光?」


 月とも星とも違う光の球が夜空で輝き、光の球は高度を下げる事無く夜空に留まり輝きを放ち続けていた。サーブは目を丸くさせると急いで大木を下り、ぐっすり寝ているカトラの肩をポンポンっと叩いて声をかける。


「カトラさん、起きて下さい、カトラさん」


 カトラはピクっと体を震わせ、身を起こさずに半開きの目で周りの様子を伺いながら口を開く。


「なに?どうしたの?」


「町の方から音が二回して、町の上空付近に光の球が浮いているんですけど、何の現象か分かったりしますか?」


「ひかり?…………って!」


 カトラは目をパッと見開くとガバっと飛び起き、大木を駆け登って町の上空に目を向ける。


「…………思った以上に良く見えるじゃない」


 カトラは苦笑いしながらそう呟くと大木を駆け下りながらサーブに向かって声を張る。


「サーブ!帰るわよ!荷造り急いで!」


「分かりました!」


 既に荷造りを始めていたサーブは大声で返事をする。着地して荷物に駆け寄るカトラにサーブは荷造りを続けながら尋ねる。


「それで、あの光は何なんですか?」


「緊急連絡用の信号弾よ。って、何で知らないのよ。何年か前に王都で実験したじゃない。結構な騒ぎになったはずよ」


「そうなんですか?多分、俺が引越してくる前なんだと思います」


「あぁ……そうかもしれないわね。まぁ、あれは、森に入った組を緊急で呼び戻す時に使おうって事で、改良版の検証も兼ねて王都から運ばせたのよ。本当は引越しの時に持っていけたら良かったんだけど、あの時は別任務の妨げになるから止めておいたのよね」


「そうだったんですか。それで、二回音が鳴ったのに、光の球は一個なんですか?」


「えぇ。本当は二個なんだけど、出来るだけ早く手元に置きたいって言ったらそうなったのよ。後からもう一個送られて来る予定だったんだけど、その前に使う事になるなんて思ってなかったわ。それでサーブ、音の聞こえ具合はどうだった?」


「聞こえ具合?そうですね……遠くで重い音が聞こえたって感じですけど、変な雑音が混ざってなくて純粋な重い音だったので普通の音ではない感じでした」


「そう、そんな感じね♪それで?大きさは?音の大きさはどれ位だった?」


「大きさ……結構小さかったですね。森の中で聞いた事がない音だったので気付けたんだと思います。街中であの音量だったら聞き逃していたかもしれません」


「その小さかったっていうのは、例えるならどんな感じ?」


 リュックを背負ったサーブは辺りの確認をしながら困り顔で口を開く。


「たっ、例えるですか?……そうですね……えーっと……あれは……練習場……王都の練習場の端で練習してる時に、反対側の端で砂袋を持ち上げる訓練をしてる人が砂袋を投げ捨てた時の……その音が空気を震わせて重く長く響く感じ……って言って分かります?」


「とても分かりやすいわ♪この距離だとそれ位なのね♪実際に聞けなかったのは残念だけど♪ありがとうサーブ♪」


 カトラは嬉しそうにそう言うとリュックを背負い、立ち上がって町の方向に体を向けると表情を一変させる。


「つまらない用事だったら只では置かない……」


 不穏な言葉を漏らしたカトラの背中に漂う只ならぬ気配にサーブは背筋を震わせた。

 準備を終えたカトラは左手で自分の首の後ろを掴み、右掌を前に突き出した。すると、カトラの前方に拳大の淡い光を放つ球が幾つか現れ始めた。現れた十個の光の球は大人の歩幅四歩分程度の等間隔でカトラの前に並び、カトラの前方を淡く照らした。光の球はカトラの右手が動くと位置を変え、木の幹に当っても消えず、木の幹も燃えたりする事はなかった。カトラは準備を終えた様子のサーブに呼びかける。


「サーブ。並んだ光の球の先を目指して走りなさい。私はあなたの後ろを走るから。進行方向に障害物があったら排除して進んで。止まったり、速度を落としたりするんじゃないわよ」


「はい、わかりました」


 腰を捻りながらそう答えたサーブは剣を抜いてカトラの右斜め前に移り、カトラに目配せする。カトラは息を軽くフゥっと吐き、サーブに向かって声を張る。


「それじゃぁ行くわよ!」


 地面を蹴って走り出すカトラとサーブ。行く手を遮る木の大枝はサーブが切り払い、木の幹は避け、根上がりや落ちた大枝を軽やかに避けながら二人が夜の森を駆け抜ける間、森の生物達は何故か二人を襲う気配を見せなかった。休みなく走り続けても速度も覇気も衰えを見せないサーブにカトラの口角が上がる。

 更に走り続け、ひと際大きな木の横を通った所でカトラはサーブに呼びかける。


「サーブ!休憩よ!」


「っ!ハイ!」


 サーブは足を止めると剣を収め、先に止まったカトラに歩み寄る。カトラは右手を降ろし、発生させていた光の球を消してからリュックを降ろして水筒を取り出してガブガブと飲み始めた。月明りが木々の隙間から漏れる中、口元から零れた水がカトラの首筋を伝って胸元を濡らし、半分程飲んだ所でカトラは水筒から口を離して残りの水を頭にかけた。サーブもリュックを降ろして水を飲み、カトラが頭に水をかけたのを見るとカトラに自分の水筒を差し出す。


「要りますか?」


「大丈夫よ。あなたは足りたの?」


「はい、問題ありません」


 疲れた様子を感じさせないサーブを見てカトラの口角が上がる。


「そう?それじゃぁ、行きましょうか」


 カトラはそう言うと立ち上がってリュックを背負い始めた。


「カトラさん、休憩はもう良いんですか?」


 サーブはそう尋ねると慌てて水筒をリュックに仕舞い、リュックに手を伸ばす。リュックを背負ったカトラは左手で髪を拭い、左手で自分の首の後ろを掴むと右掌を前に突き出して口を開く。


「えぇ、私は大丈夫よ。あなたも大丈夫そうだし」


 そう言ったカトラの前に光の球の列が再び現れ、サーブが所定の位置で剣を抜いた所でカトラはサーブに声をかける。


「サーブ。この後は森を出てオグマと合流するまで止まらず行くから、そのつもりで頼むわよ」


「はい、分かりました」


「それじゃぁ、行くわよ!!」


カトラの掛け声と共に二人は再び走り出し、二人の走る速度は落ちる事が無かった。





 屋根の上でラトサリーが特訓を始めた頃より位置が高くなった月は周囲を照らし続けていた。月明かりに照らされた旋風の輪郭は濃くなり、圧縮されたかの様な濃密な旋風に接した地面は凹み始めていた。特訓を始めた当初より風の術式の威力は増し、力の流れを見る能力の向上はするものの人の居場所を感知出来る予兆すら感じない事にラトサリーは焦りを覚え、目に涙を滲ませていた。

襲ってくる無力感と戦いながらラトサリーが特訓を続けていると、突然、宮総研の敷地の方から光る何かが音を上げながら空へと上がっていった。ラトサリーは思わず手を止め、火の球の様な光を追って空を見上げる。夜空のはるか上空で光の球が消えそうに見えた次の瞬間、輝きが夜空に広がると共に、


《 ドォグォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン! 》


 町全体を震わせる重低音に襲われたラトサリーは体勢を崩し、咄嗟に棟に手をかける。どうにか屋根から落ちずに済んだラトサリーが慌てて夜空を見上げると、夜空を覆った火花が煌めきながらハラハラと舞っていた。


「っ!って!こっ、これって……これが連絡手段?」


 思わず言葉を漏らしたラトサリーは森の方に目を向けるが、待っても返事のようなモノは何も起こらなかった。夜空で煌めいていた火花はハラハラと舞い落ち、輝きを失っていった。


「……これで伝わるの?」


 そう呟いたラトサリーの肩は落ち、ラトサリーの頬に涙が伝った。すっかり力が抜け落ちたラトサリーが肩を震わせていると、宮総研の敷地から光の球が再び空へと上がった。気付いたラトサリーは慌てて棟に手をかけて身構え、先程より高く昇っていく光の球を目で追った。そして、


《 ドォグゥォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン! 》


先程より大きい爆音が響いたと共に光の大玉が夜空に現れた。月と並ぶかの様にして夜空に浮かぶ光の大玉を見上げながらラトサリーは思わず呟く。


「これが連絡手段……」


 光の大玉の輝きは衰える気配を一向に見せず上空に留まり続けた。空を見上げるラトサリーは頬を濡らす涙を拭い、棟に座り直すと町を囲う外周の防壁の少し上方に向かって両手を再びかざした。





 アドエルは建物を震わせる程の重低音に肩をビクッと震わせた。ミラテースを弄んでいた男は大慌てでミラテースから離れ、ミラテースを見て楽しんでいた男達は顔色を変えて剣を手に取ると外に出て行った。遅れて服を着終えた男はテーブルに剣を置き、苛立った様子でコップに水を注いだ。床に放置されたミラテースは肩で息をしながら部屋の様子を伺った。アドエルが無事な事に安堵の息を吐いたミラテースだったが、扉の見張りとアドエルの見張りが持ち場を守り続けている事に奥歯を噛んだ。アドエルだけでも脱出させる手段は無いかとミラテースは改めて部屋の様子を探るが、


《 ドォグォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン! 》


 再び部屋を震わせる重低音がミラテースの思考を妨げた。二回目の轟音の後、ミラテースの耳は部屋の外で男達が何やら酷く騒がしく動く音を捉えていた。状況を探るべくミラテースは部屋の外から微かに聞こえる話し声に聞き耳を立てたが、疲弊したミラテースの耳は状況を把握出来るだけの情報を聞き取る事が出来なかった。もどかしさでミラテースが歯噛みしていると、様子を見に部屋を出て行った男が戻って来て状況を仲間に伝え始めた。


『宮総研が空に光の球を放った。用途は不明。暫く警戒する事』


 そんな説明を雑に終えた男はミラテースに物惜しげな目を向けながらテーブルに着き、溜め息をつくとコップに水を注いで飲み始めた。その他の男達も椅子に座り、外の様子に耳を傾けた。男達は警戒しながらも時々ソワソワした様子でミラテースに不埒な目を向け、時が進む毎に目を向ける頻度は増していった。やがて、ミラテースの顔は諦めで曇り、男達は我慢出来ずに再びミラテースに手をつけ始め、部屋は再びミラテースから漏れる声と男達の卑猥な声で満ちた。

 アドエルはミラテースの言いつけを守り続け、ミラテースの方に目を向ける事無く壁に体を向けていた。歯を食いしばって涙を零すアドエルは不意に両手を壁につけると無音の声を漏らす。


「カトラぁ……」


 男達が発した『宮総研』と言う言葉はアドエルの脳裏にカトラの横顔を浮かび上がらせていた。アドエルは両手に加えて額を壁に付け、ギュッと目を閉じた。




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