3-25 凶報2
応接室に呼ばれたエサンカ組の四人とトルビヤ組の四人。稽古着のエサンカはラトサリーに声をかける。
「済まない、遅くなった。三人が裏門の警備を交代してもらうのに手間取ってな」
ラトサリーは座ったままエサンカに体を向ける。
「大丈夫ですよ。急に呼びつけて御免なさい。エサンカさん達にお願いがありまして」
「そうか。何でも言ってくれ♪」
笑顔で答えるエサンカとそれに合わせて頷くエサンカ組の一同。ラトサリーは立ち上がってエサンカに顔を向ける。
「今から宮総研に行って、留守番のカリフさんと協力してサーブとカトラを森から呼び戻してきて下さい」
「おぅ♪……って、森から?」
顔を引きつらせるエサンカにラトサリーは言葉を続ける。
「えぇ。森からです。それで、あなた達が抜けた分の警備はトルビヤさん達で埋めて下さい」
「え!で、でも、こいつ等、外から見える所に出せないんだよな?」
「えぇ。だから変装してもらいます。それに、外から見えてはいけないって言うのは近隣への配慮と刑罰の体裁を保つ為ですから、誰だか分からなければ問題ないと思います」
「……わ、分かった。それで、森から呼び戻すって、アイツら、今回は二泊するんだろ?カリフさんと一緒でもそんな奥まで行けないぞ」
「それも多分大丈夫です。この前カトラが『森に入らないで呼び戻す道具が揃った』って言っていましたから。その道具が上手く使えなかったら、その時は覚悟を決めて下さい」
「そっ、そうか……わ、わかった」
「それでは、警備の配置変更は玄関詰所の担当者に任せて今すぐ向かって下さい」
「あぁ、行って来る」
エサンカはそう言って三人を引き連れて扉へと歩き出す。ラトサリーは四人を見送る事無くトルビヤに声をかける。
「トルビヤさん。普通の賊程度なら打ち倒せる程度には回復していますよね?」
「ん?あぁ、奥様の言う『普通の賊』って言うのがどの程度なのかにもよりますが」
「そんな事を言えるなら大丈夫そうですね。それで、最悪の場合、トルビヤさん達四人だけでここの警備をしてもらう事になりますので、宜しくお願いします」
「あぁ、分かりました。だが、その場合、門の開閉はどうするんです?」
「そうですね。基本的に正面は封鎖、ルイーゼの使いと警護部以外の来訪は裏手に回ってもらって用件だけ聞いて後日にしてもらう。これでどうですか?」
「んー……それなら……大丈夫……だな。了解した」
「それでは、玄関詰所の担当者の所に行って話を詰めて下さい。しっかり変装して下さいね♪」
「あぁ、女房が見ても分からない位に変装してやりますよ♪」
トルビヤはニヤっとしながらそう言うと向きを変え、三人を引き連れて部屋を出て行った。ラトサリーはエリーに体を向けて尋ねる。
「エリーさん。ルイーゼ様はこの後どのようなご予定ですか?」
「はい。警護部の副部長に使いの者をこちらに向かわせるように言付けてあります。その方が到着したらあなたと共にここで打ち合わせをして頂こうと思っています。勝手に決めてしまって申し訳ありませんが、宜しいでしょうか?」
「はい、それはとても助かります」
ラトサリーはそう答えると膝を付いて屈み、ルイーゼに顔を向ける。
「ルイーゼ様。少々席を外しても宜しいでしょうか?」
「え?あ、あぁ……」
力なくそう口にしたルイーゼは困り顔をエリーに向ける。エリーはルイーゼに頷いてみせてからラトサリーに顔を向ける。
「構いませんが、どちらに?」
「使いの方が来られるまでに今後の準備を整えておこうと思いまして」
「そうですか。分かりました。それでは先に使いの方が到着されましたら打ち合わせを進めておきます」
「ありがとうございます。それでは」
礼を述べたラトサリーは立ち上がり、ジーナに声をかける。
「ジーナ。ルイーゼ様を頼みます」
「え、えぇ、わかりました」
ジーナの返事を聞いたラトサリーはルイーゼに礼をして足早に部屋を後にする。ラトサリーを見送ったルイーゼは少し困惑した様子でエリーに尋ねる。
「なぁエリーよ。あやつ、大丈夫だと思うか?」
「大丈夫、とは?どのような意味合いでしょうか?」
僅かに首を傾げて尋ね返すエリーにルイーゼは困惑した様子のまま口を開く。
「あやつ、的確な指示を出しておったが、私の手を取ってくれた時……手が震えておったのだ……一人にしても大丈夫か?」
「そう言う事ですか……」
伏し目がちにそう呟くエリーにルイーゼは言葉を続ける。
「なぁ、誰か……そうだ、ジーナを向かわせた方が良いと思わぬか?」
エリーは右手で顎を触りながら口を開く。
「いえ。今は一人の時間を取って頂いた方が良いかもしれません」
「っ、な、なぜだ?」
「彼女は……これは私の見立てですが、人の前で弱みを見せるのを嫌う傾向があると思います。ですから、少し一人になる時間を取って頂いた方が良いかと」
「そ、そうか……でも、あんなに震えておったし……」
「そうですか……それなら益々一人にしてあげた方が良いと思います」
「っ、な、何故だエリー?」
驚きを見せるルイーゼにエリーは眉間にシワを寄せながら口を開く。
「この現状で的確な指示を出せる程の冴えを見せる彼女が、場を離れて一人になる事を選んだのです。そうであれば、彼女の意向を尊重するのが良いかと」
「そ……そうか…………」
弱々しくそう言ったルイーゼが項垂れると、ジーナは唐突に扉へと歩き始める。エリーは目を丸くさせてジーナを呼ぶ。
「ジつ、ジーナ!どうしました?」
ジーナは足を止めずに肩越しにエリーへと視線を投げる。
「そんな事聞いたら一人にしておくなんて出来ません!」
「っ!いやっ!ちょっと待てジーナ!」
ジーナはエリーの制止を無視して駆け出し、部屋を出て行った。開け放たれたままの扉に厳しい目を向けるエリー。ルイーゼは寂しげな笑みを浮かべてエリーに声をかける。
「エリーよ、そんな顔をするな」
「ですが……ジーナはルイーゼ様のお世話を託されたと言うのに……」
憤然とした様子で呟くエリーにルイーゼは苦笑いを見せる。
「そう言うなエリーよ。ジーナは私の気持ちを察して動いたのだ。世話の一環と思えば良かろう?」
「…………そうですね」
納得していない様子のエリーにルイーゼは微笑みかける。
「それにエリーよ、…………いや、何でもない。茶を入れてくれるか?」
「っ……はい、畏まりました」
エリーは返事するとルイーゼの前にあるカップを取り、その中身が減っていない事を指摘する事なく配膳台に向かった。




