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これ、ホントに呪いの指輪なの?  作者: 彩田(さいた)
三章 カタアギロ横災編
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3-24 凶報1



 西の空が朱色を帯び始めた頃、ラトサリーは二階の自室の窓から外を見てアドエル達の帰りを待っていた。やがて、道の向こうから馬車の一団が向かって来るのを見つけたラトサリーは小走りで玄関へと向かい、外に出て門の方に目を向けた。門衛は一団を止める様子を一切見せずに門を開け、八騎の騎馬に守られた二台の馬車が門を通って玄関前で止まった。先頭の馬車がルイーゼ専用の馬車である事にラトサリーは首を傾げながら馬車の横に駆け寄り、御者が馬車の扉を開けるのを待った。

 足台の準備を終えた御者が馬車の扉に手をかける前に扉が開き、飛び出してきたルイーゼは勢いそのままラトサリーに駆け寄り彼女の両肩を掴んだ。目に憂いを湛えて顔を歪めるルイーゼにラトサリーは恐る恐る声をかける。


「ル、ルイーゼ様?……どうなされたのですか?」


 ルイーゼは言葉を出そうとするが、呼吸が荒くなり目を泳がせ始める。目に涙を浮かべたルイーゼはやっとの思いで声を出す。


「っ、すまない……」


 そう言ってルイーゼは膝から崩れ落ち、俯いて肩を震わせ始める。ルイーゼを受け止める様にして屈んだラトサリーは狼狽えながらもルイーゼの頭に手を添えて抱き寄せる。ルイーゼの頭を優しく撫でながらラトサリーは顔を上げ、ルイーゼの後ろに控える侍女のエリーに声をかける。


「エリーさん、何があったのですか?……何か言い難い事なのは承知しましたから……話して下さい。アドエルとミラテースは?あちらの馬車に乗っているのですか?」


 無理に笑みを浮かべてそう言ったラトサリーにエリーは青ざめた顔を向け、目を逸らしながら口を開く。


「帰りの馬車が襲撃され、連れ去られました……」


 ルイーゼの頭を撫でていたラトサリーの手が止まる。ラトサリーの体が強張った事に気付いたルイーゼは声を捻り出す。


「っ、すまない……責は我にある……」


 ルイーゼはそう言うとラトサリーから体を離し、涙目をラトサリーに向ける。


「本当に……すまない……」


 ラトサリーは目を泳がせながらも優しくルイーゼに言葉を返す。


「ル、ルイーゼ様は悪くないですよ、悪いのは連れ去った者達ですから。それより、とりあえず中に入りましょう、ここでは何ですから。状況を詳しく教えて下さい」


「わ……わかった」


 ルイーゼはラトサリーとエリーに支えられながら立ち上がり、三人は建物の中に入った。




 応接室に向かう途中、ラトサリーは衛兵にジーナへ来客対応の連絡をするように頼み、更にエサンカ組とトルビヤ組を応接室に呼ぶように依頼した。応接室にルイーゼを通したラトサリーはエリーと共にルイーゼを長椅子に座らせ、エリーは着座を固辞してルイーゼの後ろに控えた。ルイーゼの隣に座ったラトサリーはエリーに尋ねる。


「それで、二人が連れ去られたと言うのは確かなんですね?」


「はい、お二人を送りに出た御者が酷い顔色で戻って来て、犯人達から「子供を返して欲しければ警護部を動かすな」と伝えるように言われた、との事です」


「っ!それで、要求は?」


「いえ、今の所は「警護部を動かすな」と言う事以外は何もありません」


「それで!ミ……ミラテースは……」


「彼女も連れ去られたとの事です。ここに来る途中に現場に寄りましたが、っ……血の跡は二人分程度しか無かったので、生きたまま連れて行かれたのは間違いないと思います」


「ち……血の跡……あの、どなたかお怪我を?」


「いえ……護衛が二人殺されました」


 顔を歪めるラトサリー。ルイーゼは憔悴した顔をラトサリーに向ける。


「この町の中で……私の馬車を襲う奴などいないだろうと……護衛は二人で十分だと油断していた私の落ち度だ……」


「っ、何を仰られますか」


 ラトサリーはそう言うとルイーゼの手を取り、包み込む様に優しく握ってルイーゼの目を見ながら微笑みかける。


「ルイーゼ様もお子様達も乗っておられない馬車に護衛をつけて下さったのですから、どこに落ち度なんてあるのですか」


 涙ぐむルイーゼにエリーは呆れた様子で声をかける。


「だから申し上げたではありませんか。ラトサリーならそう言うと」


「だ……だが……」


 涙目でエリーを見上げるルイーゼにラトサリーは更優しく言葉をかける。


「そうです、それに、ルイーゼ様達がいつもお越しになられる時も護衛の騎馬は二騎ではないですか」


「だ、だが、此度は八騎で来た……」


「「っ!それは有事だからです!」」


 エリーとラトサリーの言葉が見事に重なり、ルイーゼは目を丸くさせる。ラトサリーはフゥっと息を吐き、握っていたルイーゼの手をルイーゼの腿に置きながらエリーに尋ねる。


「それでエリーさん。け……警護部には伝えていないのですか?」


「いえ。それが、そうはいかない状況になっていたので、動かない様にと念を押す形で伝えてあります。要求は『伝えるな』ではなく『動かすな』でしたので」


「そっ、その状況と言いますと?」


「現場に馬車が置かれたままだったせいで何人か集まって来ていまして。彼らの口止め等色々あったので仕方なく」


「馬車が置かれたまま?それで、御者さんはどうやって戻られたのですか?」


「馬車から降ろされて、伝えに行けと言われたそうです。それで、少しでも早く伝えようと必死に走ったそうです」


「あぁ……そうだったんですか。それで、その御者さんは?」


「彼は、現場へ案内してもらう為に同行してもらいました」


「そうですか。あと、その……襲われた護衛のお二人の……ご遺体は……」


「……御者が馬車に入れるように要求されたそうです。そのせいと言うか御陰と言うか、現場の人だかりが少なかったんだと思います」


「そう言う事は……ご遺体は今……」


「…………はい」


 部屋が沈黙に包まれた。そこに扉が開く音が鳴り、ジーナが配膳台を押して応接室に現れた。ラトサリーはジーナに顔を向けて微笑みかける。


「ありがとうジーナ」


 神妙な顔のジーナは無言で頷き、長椅子の横に配膳台を止めてお茶を入れながらラトサリーに尋ねる。


「それで、何があったんです?」


「それが……アドエルとミラテースが攫われたそうなの」


「っ!そっ、それで犯人の要求は?」


「犯人は『警護部を動かすな』と言う伝言を残してそれ以上の要求をしていないそうなの」


「っ!……それで?どうするんです?動くなら早くした方が良いと思いますけど?」


 ルイーゼとエリーの顔が一気に強張る。ラトサリーは二人の緊張に気付いた素振りを見せずに視線をテーブルに向け、口を開く。


「確かにそうね。でも、闇雲に動いても上手くいかないだろうし、二人の命を危険に晒すだけかもしれないから」


「っ、それはそうですけど……」


 決まりが悪い顔をするジーナにラトサリーは微笑みかける。


「心配してくれているのよね、ありがとうジーナ。そんなあなたに謝らないといけない事があるの」


「っ?何です?改まって」


「えぇ……今からエサンカさんに危険なお願いをしないといけないの。ごめんなさい」


 ジーナはホッと息を吐き、呆れた様な笑みを浮かべる。


「何だ、そんな事ですか。あの人はアンタに命を救われたんです。だから謝る事はないですよ、好きに使って下さい!」


「……ありがとう、ジーナ」


 ラトサリーがジーナに笑みを返していると、扉を強く叩く音が響き、返事を待つ事無く開いた扉からトルビヤ達四人とエサンカ達四人がゾロゾロと部屋に入って来た。


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