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これ、ホントに呪いの指輪なの?  作者: 彩田(さいた)
三章 カタアギロ横災編
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3-23 修理




 別邸中庭の東屋の修繕工事の片付けが終わった翌日の朝。柵の前で屈み込んで細部に鋭い目を向ける白髭の男にラトサリーは歩み寄り声をかける。


「お疲れ様です親方さん。点検は昨日なさってましたよね?何か気になる所がありましたか?」


「あ、あぁ、奥さんか。済まないな。昨日は少し暗くなっていたものでね。領主様のご用命だし、憂い無く出立したいからな」


「そうでしたか。それにしても、あの金額で本当に良かったのですか?」


 親方は背中にしがみついた男の子が落ちないように左手を男の子の腰に回してから口を開く。


「あぁ。処分する予定だった材料の中にほぼ加工無しで使える材料があったからな。丁度良く壊すなんて運が良かったな♪」


 笑顔の親方にラトサリーは苦笑いを返した。





 東屋の柵が破損した翌日、訪れたルイーゼに散々笑われたラトサリー。腕の良い職人を紹介するとの話になり翌日現れたのは、宮総研の工事に携わる大工の親方の師匠だった。東屋の修理は宮総研の工事の合間を縫って行われた。その間、子供達が見学に来たり邪魔しに来たり遊びに来たりで工程は延び、子供を無下に出来ない師匠の悪い癖も相まって一週間で終わる工事は二週間程延びる事となった。

 東屋破壊の件でサーブに怒られると思っていたラトサリー。だがサーブは、子供達が巻き込まれない体制を取っていたかをトルビヤに確認し、素振りの軸線上に遮蔽物を配置するようにと告げて話を終わらせた。

 サーブはこの二週間でカトラへの報酬となる獲物の捕獲を完了させていた。カトラの『まだ私が手にした事が無いモノを獲って来て♪』と言う我儘に応えてブリットラビットの亜種を捕獲したサーブ。別邸の皆の為に普通のブリットラビットを二匹余計に捕獲したサーブだったが、『狩り一回分って事はそれ全部って事よね♪』とカトラにごねられ、急いで森に戻ったサーブの帰宅は翌日の早朝となった。





 柵の継ぎ目を指でなぞる親方にラトサリーは声をかける。


「今請けている仕事が全て終わったら遠方に移転なさるんですよね?宮総研の修繕の方も終わりなんですか?」


「いや、もう少しだが、残りは簡単な箇所だから別の職人に頼んでもらう事になったんだ。その打合せが今日で終わるから、出立は二日位後だ」


「そうなんですか。皆様には子供達の相手までして頂いていたので、みんな寂しがります。もし都合が宜しいようでしたら皆様をお食事に招待させて頂きたいのですが、御都合の良い時はありますか?」


 親方は頭に登った女の子が落ちない様に右手を女の子の背中に回しながら口を開く。


「そう言って貰えると嬉しいな。だが、先行して明日出発する奴らもいるし、そう言う食事とか差し入れとか何やら出立まで予定がビッチリなんだ。だから気持ちだけ受け取っておくぞ」


「そうですか、わかりました」


 少し残念そうな顔をするラトサリー。親方は女の子を降ろし、女の子の頭を撫でながらラトサリーに声をかける。


「そうだ、今日は旦那は庁舎かい?旦那には挨拶しておきたいと思ってるんだが」


「え、っと、サー……主人は朝一番で森に行きました。今回は二泊するとの事でしたので……」


「そ、そうか……あの森で二泊なんて出来るモンなのか?ま、まぁ、そう言う事だと挨拶は無理そうだな。それで、森には一人で?」


「いいえ、カトラ……宮総研の方と一緒です」


「カ……あぁ、あの人か。そうだよな。流石に一人で二泊は無いよな♪」


「あ……それが、サーブは一人で何泊かした事があると言ってました」


「っ……本当か?……聞けば聞く程とんでもない人だな」


 親方はそう言うと頭まで登ってきた男の子を両手で掴み上げながら口を開く。


「それにしても、そんな親の子にしては大人しいな、あの子は」


「え、えぇ……アドエルは……そうですね、大人しいですね」


 親方は男の子を抱きかかえ、男の子の頭を撫でながら口を開く。


「だろ?中庭に出て来ても乳母の隣から離れないし、はしゃいだり走ったりも余りしないし、旦那としては物足りないと思ってるんじゃないか?」


「そ、そうですね。でも、主人はアドエルがそれで良いなら無理強いしない方が良いと言っていましたので」


「そうなのか。旦那、あの年で懐が深いな……そう言えば、今日は息子さんと乳母さんの姿が見えないな」


「えぇ。二人はルイーゼ様の所にお出かけの日で、さっき出ました」


「そうか。じゃぁ、息子さんと乳母さんにも挨拶は出来なそうだな。宜しく伝えてくれ」


「はい、分かりました」


 親方はラトサリーに笑みを向けると振り返り、列を作って待っている子供達に笑顔を向ける。


「待たせたな♪」


 親方はそう言って男の子を降ろし、腕を大きく開いたと同時に子供達は一斉に親方に群がって登り始めた。ラトサリーは引きつった笑みを浮かべて東屋から離れ、部屋に戻りながら呟く。


「もう少し運動させた方が良いかしら……」



 部屋から大剣を持ち出したラトサリーは裏庭で行われているエサンカの訓練に合流した。延々と続く素振りのせいでいつも通り発狂したエサンカがクシスに吹き飛ばされ休憩となった。ラトサリーは手の汗を裾で拭いたり水を飲んだりしていたが、ふとトルビヤの元に向かい、ためらいがちに尋ねる。


「ね、ねぇトルビヤさ……トルビヤ。アドエルなんだけど……もう少し運動させた方が良いと思う?」


 トルビヤはラトサリーに意地悪げな笑みを向けて口を開く。


「ふっ♪……そうですね……そう思いますが、あれ位の子供に好きでない事をさせるのは難しいですよ。でも見てる感じ、乳母が多少は体を動かす遊びをさせているし、気にするのはもう少し大きくなってからでも良いんじゃないですか?」


「そう……分かったわ、ありがとう」


 納得していない様子のラトサリーにトルビヤは肩をすくめて尋ねる。


「どうしたんです?息子さんに運動させないといけない事情でも出来ましたか?」


「いえ、そう言う事では無いんだけど……」


「……そんなに気になる様なら、乳母と相談したらどうです?」


「……そうね……そうした方が良いわね……ありがとう、トルビヤさん」


 ラトサリーが言い直さない事にトルビヤは静かに笑みを浮かべ、手をパンパンっと叩くとエサンカに向かって声を張る。


「休憩は終わりだエサンカ!起きろ!」


 ゲンナリした顔のエサンカはクシスによって強制的に立たされ、タラデカに差し出された剣を渋々受け取る。ラトサリーはクスっと笑みを零すとエサンカの隣に向かった。




 エサンカが剣を持ち上げられなくなった所で稽古は終わり、ラトサリーは剣を片付けて家の用事に取り掛かった。そうして、東屋に本館の影が近づいてきた頃、雑務を終えたラトサリーは執務室でお茶を飲みながらミラテースにどう話を切り出すか考えていた。だが、お茶を飲み終え、いつもであれば帰って来る頃合いになってもアドエル達は帰って来なかった。





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