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これ、ホントに呪いの指輪なの?  作者: 彩田(さいた)
三章 カタアギロ横災編
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3-22 判決




 庁舎での審問と会合が終わった翌週、別邸の中庭でエサンカは剣の素振りをしていた。悲鳴混じりの荒い息で剣を振り下ろすエサンカの手が止まると、


「まだだ!エサンカ!!振り続けろ!!!」


 トルビヤの怒号が飛んだ。





 会合を終えたサーブは別邸に戻り、結果をラトサリーに告げた。

ラトサリーがマイラスを殺めた件は、

『正当防衛と言う観点からすると過度であると言わざるを得ないが、不慮の事故と言う側面もあり不問とする』と言う事になった。身内を贔屓しようする気配を見せないサーブの姿勢が皆に感銘を与え、そんなサーブの姿勢が結果に反映された事をサーブ自身は気付いていなかった。

 トルビヤ達四人がサーブを襲撃した件は、

『許しがたい悪行だが、首謀者ではなく、被害者が無傷であり、被害者本人とその家族が斟酌を望んでいる事と背景を鑑み、四人を禁錮刑に処す。身柄は宮総研の監視の下、ランダレア家が預かるものとする』と言う事になった。庁舎の人員不足とラトサリー達の作戦が話をこの結論へと導いた。

 マイラスの処遇は、

『サーブ殺害を画策した動機の捜索が済むまで屋敷と所有物は凍結、家族と侍従は調査が済むまで指定された家に幽閉』と言う事になった。動機に関してはトルビヤ達も聞いていなかったとの事だったので屋敷と庁舎の捜索が行われが、真相は明らかにならなかった。

 不在となったカタアギロ執政部部長の役は副部長が代理で行う事になり、新任に関しては王都執政部の決定を待つ事となった。


 トルビヤ達四人の禁錮刑は最短でも五・六年との事で、四人は別邸で刑期を過ごす事となった。杖を使えば歩ける程度に回復したトルビヤとサリットの治療はオグマが別邸待機任務の日に行われる事となった。カトラは『人並程度で動けない人員を手元に置くのは不毛。必要な時は言うからその時は箱にでも入れて目立たないようにして馬車で連れて来て』と述べ、不服を申し立てる事はしなかった。

 別邸で過ごす事になったトルビヤ達四人にラトサリーが最初に科した特別任務はエサンカの訓練だった。他の衛兵の訓練はエサンカの訓練の合間に行われた。別邸で住み込み警護を志願して専任となっていたエサンカ組の四人に目を付けいたラトサリー。通常任務はエサンカを抜いた三人で果たす事にしてもらい、エサンカには休日返上で訓練に専念してもらう事となった。





 中庭の長椅子に座ってエサンカに睨みを利かせるトルビヤ。エサンカは重りが付いた剣を杖の様にして地面に突き、肩で息をしながらトルビヤに顔を向ける。


「なぁ……少し…………休ませてくれ……」


「んー……そうだな、あと十回だ!そうしたら休んで良いぞ!数えてやる!!」


「じゅ……十回だな」


 エサンカはふらつきながら身を起こし、剣を構えて振り上げる。


「そら振れっ!イチ!……ニ!……サン!……」


 トルビヤの掛け声に続いて剣を振るエサンカ。歯を食いしばって剣を振るエサンカにトルビヤは悪い笑みを向けて声を張る。


「ハチ!……キュウ!……キュウ!……どうした!そんな振り方じゃぁ十にならないぞ!!振れ!エサンカ!!!キュウ!!!!」


 エサンカから吹き出る熱気と殺気が庭の空気を重くさせる。トルビヤは益々悪い笑みを浮かべて声を張る。


「何だエサンカ、まだ余裕ありそうじゃないか♪イチからやり直すか?」


 怒りに全身を支配されたエサンカは剣を振り上げ、半分白目をむいてトルビヤへと突撃する。


「あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁ!」


 不気味な雄叫びを上げるエサンカに大柄の男が体当たりを繰り出す。


《 ドゴンッッッ!!! 》


 見事に転がって立ち上がる気配を見せないエサンカ。トルビヤは肩をすくませ声を張る。


「そこまで。休憩だ!」


 トルビヤの声に呼応して水差しを持った坊主の男がエサンカの元に駆け寄り、エサンカを吹き飛ばしたクシスはエサンカの手から零れ落ちた剣を拾いに向かった。グッタリと地面に転がるエサンカの肩元で足を止めたタラデカは水差しを傾ける。


《 ピシャピシャピシャ 》


 顔に水をかけられたエサンカは体をビクっと震わせて目を開く。タラデカはエサンカを覗き込む様に見下ろして笑いかける。


「休憩だぞ♪飲むか?」


 そう言って水差しをエサンカの視界に入れるタラデカ。エサンカはだるそうに上半身を起こして水差しを受け取り、水差しに直接口をつけて飲み始める。トルビヤは顎を右手でつまみ、エサンカの持つ水差しが空になった所でエサンカに呼びかける。


「エサンカ、休憩は終わりだ!続けるぞ!」


 エサンカは恨めしい顔をトルビヤに向ける。


「おっ、お前なぁ、もう少し休ませろ。まだ腕がだるいんだ」


 トルビヤは渋い顔で鼻から息を吐き、長椅子の後ろに顔を向ける。


「どうします、奥様?」


 ラトサリーは布が巻かれた鞘付きの大剣に右手をかざしながら応じる。


「っ、そうでっ……そうね、私の準備が終わるまで休憩してもらって」


 トルビヤは会釈を返してエサンカに顔を向け直す。


「聞こえたか?もう少し休憩だ」


 エサンカは安堵の表情と共に深く息を吐いて地面に寝転がる。ラトサリーは横目でエサンカを覗き、クスっと笑みを浮かべると再び剣に目を移して右手に力を込めた。

 大剣が氷に覆われて四回り程大きくなった所でラトサリーは右手を降ろし、エサンカに顔を向ける。


「エサンカさん、お待たせしました。続きをやりましょう」


 そう言ってエサンカの元に向かうラトサリー。仰向けに寝転んでいたエサンカは顔だけ上げ、目を泳がせながらラトサリーに引きつった笑みを見せる。


「えっ……いやいや、もう少し……っ、ほら、その剣、もう少し表面の仕上りに拘って術式をかけ直した方が良いんじゃないか?」


 ラトサリーは剣を覆う氷の表面の凹凸に目を向け、少し口を尖らせる。


「今日は密着性重視だから良いんです!始めますよ!立って下さい!」


 そう言ったラトサリーはタラデカに顔を向け、察したタラデカはエサンカの元に駆け寄る。屈んだタラデカはエサンカの両脇に手を入れてエサンカを持ち上げ、エサンカを立たせると手を離してラトサリーに顔を向けた。ラトサリーはタラデカに笑顔を向け返す。


「ありがとう、タラデカさん♪っ……タラデカ」


 ぎこちなく言い直したラトサリーにトルビヤはニヤニヤしながら声をかける。


「奥様、無理して口調変えなくても良いんじゃないですか?俺達は構いませんぜ?」


「っ……そのうち慣れるから。余計な事言わないでくだ……言わないで!」


 ラトサリーは気恥ずかしげに口を尖らせてトルビヤから顔を背け、エサンカから二間合い程離れた隣で足を止める。剣を両手で握って構えたラトサリーはエサンカに顔を向ける。


「始めますよ、エサンカさん!」


 露骨に顔を引きつらせるエサンカはクシスから剣を差し出され、思わずたじろぐ。そんな様子のエサンカにトルビヤは不満げに溜め息をつき、エサンカに怒号を浴びせようと息を大きく吸い込もうとするが、


「アンタ!しっかりしなさい!!」


 トルビヤが座る長椅子の後ろから発せられた女性の大声が中庭に響き渡り、一同は声の主に顔を向ける。


「っ!ジ、ジーナ!」


 慌てるエサンカに向かってジーナは口を尖らせて声を張る。


「アンタ!サーブ様とラトサリーの役に立ちたいって、あれだけ張り切ってたのは何だったんだい!」


エサンカは決まりの悪い顔をジーナに向ける。


「すっ、少し……少しくしゃみが出そうになってただけだ!」


 エサンカはそう吐き捨てる様に言うとクシスが差し出す剣を雑に受け取る。ゲンナリした顔で剣を構えたエサンカにトルビヤはニヤっと笑みを浮かべ、声を張る。


「よし、エサンカ、良くぞ構えた!それじゃぁ、今日の練習の最後に奥さんに良い所を見せてやれ!全力素振り百回だ!始め!!」


 ゲンナリしていたエサンカは『最後』と聞いて剣をグッと握り直し、剣を大きく振りかぶる。


「いちっ!」「にぃっ!」


 エサンカが剣を振る毎にクシスの数える声が中庭に響く。ジーナは運んできた配膳台からコップを取り、冷たい水を入れてトルビヤの顔の前に差し出す。


「ねぇ、あの人、どうだい?少しは強くなったかい?」


 トルビヤはコップを受け取りながら口を開く。


「あぁ、悪いな。そうだな……初日と比べて、ほんの少しだけだが振れるようになったと思うぞ」


 ニヤニヤしながら答えるトルビヤ。にジーナは不安げに尋ねる。


「そ、それで?どうにかなりそうなのかい?」


 トルビヤは水を一口飲み、エサンカに目を向ける。


「まぁ……アイツ次第だ。俺達は俺達で出来る事をするから、お前は旦那の介抱をしっかり頼むぞ」


「えっ、えぇ、任せておくれよ。それで、サリットはどうしたんだい?」


「あぁ、あいつならアッチだ。素振りの方向に子供が来たら注意しないとだからな」


 そう言ってトルビヤが顎で指した東屋の裏側でサリットは弓の手入れをしていた。ジーナはサリットに目を向けて口角を僅かに上げる。


「へぇ、まさかの気遣いだねぇ♪」


「ふっ♪当然だ♪奥様から任されているんだからな♪」


「そうかい。それにしてもアンタ達、ラトサリーとどんな契約をしたの?禁固刑を受けてる真っ最中とは思えないわよ?」


「ん?まだ聞いてなかったのか?俺達は彼女の奴隷になる事を受け入れて、処刑を回避してもらったんだ」


「っ、奴隷って……その割に、奴隷って感じが全く無いわよ?」


「そうなんだ。まぁ、この先どうなるか分からんがな」


「っ……そう……まぁ、ラトサリーの事だから何か考えがあるんだろうけど、裏切って逃げたりするんじゃないわよ」


「そうだな。あの人からは気に食わなかったら逃げて構わないと言われているが、今の感じが続くならそうはならなそうだ。こんな好待遇が続くなら一生奴隷で構わん♪そんな訳で今後ともよろしく頼むぞ、ジーナ」


「っ……全く、ラトサリーったら……」


 ジーナは呆れ顔でそう漏らすとエサンカの方に顔を向け、苦しそうに素振りをするエサンカの横に目を向けてトルビヤに尋ねる。


「ねぇ。私が見ても分かる位に成長してるけど、この差は何なんだい?」


 エサンカの隣でラトサリーが剣を振り下ろす度に庭を覆う芝がブワっと揺れていた。トルビヤはラトサリーを見ながら苦笑いを浮かべる。


「それは俺が教えてもらいたい位だ。何なんだあの人は?そろそろクシスでも受けきれないぞ、あんなの」


 互いに苦笑いして素振りを見守るジーナとトルビヤ。そして、クシスが九十の声を上げた所でトルビヤは声を張る。


「よし!あと十回だ!最後の力を振り絞って死ぬ気で振れ!」


 露骨に嫌な顔をするエサンカを見てラトサリーはクスっと笑う。トルビヤはそれを見逃さず、ラトサリーに向かって声を張る。


「何だ奥様、余裕じゃないですか!それじゃぁ奥様はエサンカが一回振る度に全力で五回連続で振れ!」


 汗で首筋をシットリと湿らせたラトサリーは目を丸くさせ、トルビヤに目を向けて軽く頷き返す。調子に乗ったトルビヤは悪い笑みを浮かべてクシスに呼びかける。


「クシス!二人の後方に誰も来ないように見張れ!」


 頷いたクシスがラトサリー達の後方で配置についた所でトルビヤは声を張る。


「よし!待たせたな奥様!そら振れっ!」「イチッ!」「ニッ!」「サンッ!」


 トルビヤの掛け声に続いて剣を振るエサンカの顔が歪む。ラトサリーも歯を食いしばって大振りの五連撃を繰り出し続ける。トルビヤは悪い笑みをラトサリーに向けて声を張る。


「ハチ!……キュウ!……キュウ!……どうした奥様!そんなんじゃぁ十にならないぞ!!キュウ!!!!」


 汗を散らして剣を振り続けるラトサリー。隣のエサンカが地面に倒れ込んでもトルビヤの点呼は止まらない。


「キュウ!!速さを意識しすぎて踏み込みが甘くなってるぞ奥様!!キュウ!!」


 トルビヤの点呼は続き、ラトサリーの息遣いが荒くなり始める。ラトサリーが剣を振る度に【 ティロロン♪ 】と彼女の頭の中で音が鳴り、【 テテテッテーテーー♪ 】と鳴った次の振り下ろしで剣を覆っていた氷が限界を迎えて剣から剥離した。


《 ドゴゴンッ! 》


 氷の塊が東屋の柵を砕き、急に軽くなった剣に体勢を崩したラトサリーの体は地面に打ち付けられた。




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