2. TSものの最盛期と衰退
今回はこの『小説家になろう』のTS作品の傾向は時間によってどのように変わっていくか見ていきたいです。
なろうで毎年どれくらい作品が投稿されたか気になることですね。なのでまずは各年投稿されたTS作品の数を見てみましょう。
図2.1
2005年: 1
2006年: 10
2007年: 15
2008年: 60
2009年: 89
2010年: 112
2011年: 174
2012年: 389
2013年: 456
2014年: 568
2015年: 693
2016年: 785
2017年: 939
2018年: 947
2019年: 1053
2020年: 929
2021年: 954
この『小説家になろう』サイトは2004年から誕生したのですが、最古のTS作品は2005年のもののようです。この棒グラフでは小さすぎてちょっと見づらいかもしれませんが、1作あります。
それがどんな作品なのか気になるでしょう。せっかくだからちょっとその作品について調べてみましょう。
タイトル:
chose of life
作者名:
木と蜜柑
総合ポイント:
20
ブクマ数:
9
感想数:
6
初回掲載日:
2005-08-23 22:44:10
キーワード:
友情 恋愛 人生 性転換 青春 高校生 現代
総合ポイントもブクマ数も少ないので、恐らくこの作品を知っている人は少ないでしょう。しかもエタっていますし。
リンクはこちら
>> https://ncode.syosetu.com/n2177a/
『この連載小説は未完結のまま約16年以上の間、更新されていません。今後、次話投稿されない可能性が極めて高いです。予めご了承下さい。』って書いてあるところを見るのは今回初めてですね。16年って長い時間です。
実際にもっと古い作品があるかもしれないが、削除されたり、検索から除外されたりしたら調べるすべはないので、今検出できるのはこの作品だけです。
ちなみに一番古い完結のTS作品は2006年に投稿された『今日から私?!』という作品です。
私もすでに読んでレビューが書いてあります。
>> https://novelcom.syosetu.com/novelreview/list/ncode/3957/
次に、この作品数の数字と図2.1を見れば2005年から投稿されたTS作品の数はどんどん増えていって2019年に最大で、その後下がっていくとわかってきます。
これってまさか2019年の後TSは衰退していくということになるでしょうか? ちょっと待ってください。まだそうとは限りません。そんな結論を出す前にまずは全部の作品の数も見てみなければなりません。なろう作品全体は2019年から減っていくかもしれないでしょう?
ということでなろう全部の作品の数も調べてみました。
図2.2
2005年: 1380
2006年: 3925
2007年: 8252
2008年: 9606
2009年: 11996
2010年: 19524
2011年: 28555
2012年: 38528
2013年: 45986
2014年: 57371
2015年: 67454
2016年: 75358
2017年: 86271
2018年: 89610
2019年: 93291
2020年: 105113
2021年: 115211
図2.2で全部の作品の数を見ると、やはり毎年投稿された作品の数は増えていきますね。それなのにTS作品は減っていきます。それはつまり全体に対する割合から見てもTSものは減っていくということです。
毎年投稿されたTS作品は全部の作品のどれくらいの比率かも見ていきましょう。
図2.3
2005年: 0.072%
2006年: 0.255%
2007年: 0.182%
2008年: 0.625%
2009年: 0.742%
2010年: 0.574%
2011年: 0.609%
2012年: 1.010%
2013年: 0.992%
2014年: 0.990%
2015年: 1.027%
2016年: 1.042%
2017年: 1.088%
2018年: 1.057%
2019年: 1.129%
2020年: 0.884%
2021年: 0.828%
やはり本当に2019年はTSの最盛期のようですね。そしてあれから少しずつ衰退していくというのは現状みたいです。
一応累計の作品の数と割合も見てみましょう。
図2.4
2005年: 0.072%
2006年: 0.207%
2007年: 0.192%
2008年: 0.371%
2009年: 0.498%
2010年: 0.525%
2011年: 0.554%
2012年: 0.698%
2013年: 0.779%
2014年: 0.832%
2015年: 0.877%
2016年: 0.911%
2017年: 0.945%
2018年: 0.963%
2019年: 0.987%
2020年: 0.973%
2021年: 0.953%
累計はもちろん毎年増えていくのは当然ですが、TSものの割合を見ればこれもやはり2019年で最大です。
そして先回も書いた通り、今のところTS作品は全部の0.95%です。これからもどんどん減っていくかもしれません。
今の結論から言うと、やっぱり2021年のTS作品の傾向は『衰退』ですね。
しかし、これからもそうとは限りません。未来はわからないことですよね。
そしてこのTS作品の割合のグラフ(図2.3)から見ると来年や再来年はどうなるか予測してみたいと思います。
そこで私はちょっとこの傾向について機械学習の手法で分析してみました。
予測の手段は色々ありますし、結果はそれぞれ違うはずですが、今回使った方法は『ベイズ線形回帰』です。複雑な数学なので、ここで説明するのはきついですね。
興味があればgoogleとかで、それともこのリンクを参考に。
>> https://gihyo.jp/dev/serial/01/machine-learning/0014
ただしかなり専門なので、高校以上のレベルの数学の理解が必要だと思います。これを実装するにはPythonなどのプログラミング言語のスキルも必要です。
ここではそのベイズ線形回帰の予測の結果だけ載せておきます。
分析の結果はこれです。
図2.5
ここで桃色の点は図2.3の棒グラフと同じ数字、つまり本当に今持っているデータです。これは2005年から2021年までのTS作品の割合。画像の中の色はこの回帰の結果から予想できる確率を示します。紫色は確率0に近い値で、一番確率が高いところは一番白い部分で、破線が書かれています。
データは2021年までしか持っていないので、これから先は予測しかできません。今の傾向からやっぱり減っていくという可能性は高いです。
しかし白いところの分布がこんなに広いっていうのは、つまり不確定性が随分高いです。もしかしたら実際にまた増えるかもしれません。遠い未来ほど不確定性は高くなります。未来なんて誰も知らないものですね。何もかも断言はできいでしょう。
ここでベイズ線形回帰を採用した理由は、この方法はただ『予測値』を与えるだけではなく、その予測結果の『確率分布』まで得られるからです。計算できた結果はどれくらい信頼できるか知ることも重要です。
次に、『登録必須キーワード』のこともちょっと考察してみましょう。
まず『ガールズラブ』(つまり百合)と『ボーイズラブ』(つまりBL)キーワードが付いているものだけ見れば何かもっとわかるかもしれません。
試しにそのキーワードが付いているTS作品の割合を棒グラフにしてみたらこうなります。
図2.6
ここで書いてある『平均値』は先回で書いたのと同じものです。
まさかBLはどんどん減っていくみたいですが、百合はどんどん下がっていくようですね。
つまりTSものの中だけで見ると『TS百合』はずっと増えていくのということです。
ではこれは『TS百合』は繁盛していくということになるでしょう? これを見るとそう解釈する人もいるかもしれませんが、残念ながらまだそんな結論を出せるわけにはいきません。
確かに『TS百合/TS』は増えていきますが、これは大体ただ『百合』全体が増えていくおかげだけでしょう。『TS百合/全部』は増えるわけではないのです
試しにTS百合と全体の割合を描いてみましょう。
図2.7
薄桃色は図2.3と同じ数字です。TS百合だけなら下の方の茜色。思った通り、TS全体は減っていくのだから、結局TS百合の割合も減っていくみたいです。
他の登録必須キーワードも見ていきましょう。次は『R15』と『残酷な描写あり』
図2.8
これは最近あまり変わっていなくて安定しているようです。やはり『R15』は大体60%で、『残酷』は50%です。TSの見どころは色々エッチなことが多くて性的な描写が関わるから普通ですね。
実際にR18ものもあるはずですが、ここで得られたデータはR18サイトに投稿されている作品を含んでいないので全部非R18です。
ちなみにちょっと余談ですが、私の書いたTS作品は全部R15無し、残酷描写無しで、健全なものばかりですよ。だから誰でもどうぞ気軽に読んでみてください。
次は異世界関係のキーワード、つまり(異世界)TS転生とTS転移はどうでしょう?
図2.9
どうやら異世界ものはこの数年ではピークですが、2021年時点でもう最盛期が過ぎたところっていう感じです。
次はこの6つのキーワードを一緒にグラフを描いてまとめます。
図2.10
上の方は図2.6, 2.8, 2.9と同じものです。つまりTSものの中だけの割合。下の方は図2.7みたいに作品全体全体に対する割合となります。
どうやら全体を見るとどのキーワードも本当に減っていくようですね。これは現状です。
以上、今回で年別による作品の数の考察はしましたが、まだ色々考え甲斐があることがあります。例えばなろうのランキングで重要な『総合ポイント』です。多ければいいというわけではありません。数だけでなく、品質も大事なのです。なろうの作品……特にTS作品の獲得ポイントの傾向はどうなっているのか気になることですね。
ということで次回はポイントについて考察します。