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無題のシナリオ。~ぼくとあの娘のTRPGリプレイ~  作者: 蒼蟲夕也
1章 ファンタジー編『終焉の儀式』
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第9話 TRPG初心者、エンディングを迎える

A「わくわくわくわくわくわくわく!」


――ええと。……ですね。


A「わくわくわくわくわくわくわく!」


――その、ですね。


A「さあ! どーなる!?」


――シュバルツが、全ての精神力を注ぎ込んだ、その時です。

 祭壇の中から、黒い霧が噴き出しました。

 霧は、それそのものが意志を持っているらしく、聖杯に溜まった血と魂を美味そうに平らげていきます。

 すると、サボターが高笑いを上げました。


サボター(GM)「ふふふ……ふはははは! な、なんだかしらんが、ぜんぶ上手くいったぞ! 奇跡だ! やはり神は、我々に味方してくれていた!」

シュバルツ(A)「…………………ほへ?」


――そしてサボターは、とくに聞いてもいない動機を、嬉々として語り始めます。


サボター「ずっと……ずっと貴様らヒューマンが憎かったのだ! うじゃうじゃうじゃうじゃと、ネズミのように交尾して増える、短命のものたち! 虫唾が走るわ!」

シュバルツ「……な、なんだとぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」

サボター「さあ、フォルターよ! 忌むべきヒューマンどもを、根絶やしにしていただきたい!」


――するとどうでしょう。黒い霧が、シュバルツの身体を覆っていきます。

 直感的に、あなたはわかるでしょう。

 恐るべき邪神を前にして、自分にできることはもはや、何もない、と。


A「………っ! くそおおおおおお! サボターに攻撃します!」


――こ、攻撃? 逃げるんじゃなくて、サボターを攻撃しちゃうんだ。


A「せめて、道連れにしてやるー!」


――ええと、……いいでしょう。あなたの剣が、サボターに振りかざされます。

 まさかこの状況下で襲われるとは思わなかったサボターへの攻撃は、自動成功。ダメージは……【ダイスロール:6】……ふむ。では、サボターの右腕が吹き飛びます。血が辺りに舞いますが、彼はまだ生きているようですね。


A「もう一回!」


――いいえ。

 残念ながら、あなたにはもう、……残された時間はないようです。

 あなたは、全身にある穴という穴から、黒い霧が取り込まれていくことを感じています。

 あなたの身体は、徐々に自分のものではない何かに侵食されていくことでしょう。

 その意識はやがて、深淵の中へと呑み込まれていきます。

 サボターの、引きつったような笑い声が遠く、あなたの耳に聞こえていました。


A「ふええええええええええええん」


――(さすがに、このままではあんまりか)

 では、ここで”五感”のダイスロールをしましょう。

 難易度は、”難しい”。出目5以上で成功します。


A「うーん……【ダイスロール:6】。成功、です!」


――それでは、意識が消えゆくほんの一瞬前に、ヘルディンが放った弓矢が、サボターの額に突き刺さる……そんな場面を、あなたは垣間見ます。

 それが、あなたにとっての慰めとなるかはわかりません。

 しかし少なくとも、シュバルツ・ハオプトロレ・クーゲルシュライバーの仇は取られました。


シュバルツ「ごめん…………ヘルディン………」


――そうしてあなたの意識は、暗闇の中へと溶けていく。

 もちろん、被害はあなたの命だけに留まりません。

 なにせ、人間(ヒューマン)のみを殺す、恐るべき邪神が世に解き放たれてしまったのですから。

 この世界がその後、どうなってしまうのか。

 それは、誰にもわからない。


A「しょぼん」


――はい、お疲れ様でした。

 BAD END『ヒューマンの終焉』です。



(少女が席を立つ)

(彼女は半べそになって、子ザルのようにきいきい言いながら、こう叫んだ)


A「くっそおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!

 い、いいか、覚えてろ! あたしがここで死んだとしても、第二、第三のクーゲルシュライバーが現れるだろう! ……そう! この世に悪がある限り!」


――なんか、悪者の捨て台詞みたいな。


A「ぶーぶーぶーぶー!」


――なんだか、思ったより遅くなってしまったね。今日はもう、お帰り。


A「はあい!」


――じゃあね。


A「あ」


――?


A「あの……」


――どうかした?


A「……それで……そのぉ……」


――ん?


A「もしよろしければぁ……次のセッションは……?」


――ああ。また付き合ってくれるのかい?


A「……も、もちろん!」


――では、次は……クトゥルフ系のシナリオを回してみよう。

 

A「ほうほう。クトゥルフ、とは?」


――えーっと。……それはまた、次に来た時に教えるよ。

 あとこの、大量のえんぴつ、ちゃんと持って帰ってね。


A「うん! わかりました!」


――はいはい。それでは、また。


A「……あ! それと!」


――ん?


A「今日はその……、とっても刺激的でしたので! ありがとうございました!」


――(やれやれ。そんなとこまで、母親譲りか)

 うん。それは良かった。


A「それじゃあまたね、お・じ・さ・ん!」


――おじさんではない。ゲームマスターだ。


【See You Next Session】


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


チュートリアルシナリオ:『終焉の儀式』解説

 『終焉の儀式』は、新規プレイヤー向けに作成された、ルール解説のためのシナリオです。

 基本的には2名以上でのプレイを想定しており、もしプレイヤーが足りない場合は、エルフ族、ドワーフ族、ホビット族の中からランダムでお助けキャラが登場する仕様になっています。


・シナリオ概要

 ゴブリン退治の依頼は、邪神フォルターを蘇らせようとするダークエルフ、サボターの謀略でした。

 邪神フォルターの復活には、上質な人間の生け贄が必要です。そのため、定期的に「これだ」という”冒険者”に依頼を出すことで、生け贄を集めていたのでした。



・以下、簡単な疑問点の解説です。

Q:フォルターは何者?

A:サボターが信仰している、ヒューマンだけを殺す邪神です。

 それ以上のことは、特に設定していません。


Q:赤いローブの魔術師は何者?

A:サボターの協力者です。この世界のヒューマンはとてつもなく数が多く、ヘイトを集めやすい存在ですので、同志を集めるのは容易いことでした。

 なお彼は、プレイヤーたちのことを「新米冒険者」と表現するようにしています。「なぜ、プレイヤーが”新米”であることを知っているのか?」⇒「裏で情報を流している者がいるから」という根拠になるようにしたつもりでした。


Q:ゴブリンたちはなんであそこにいたの?

A:彼らは魔術師の支配下にあったようで、通常のゴブリンよりかなり知性的な存在でした。大抵の新米冒険者は、協力して狩りをする彼らの餌食にされてしまっていたことでしょう。


Q:縛られていたゴブリンメイジはどこにいったの?

A:たぶんサボターに助けられて、どこかへ逃げました。いまも元気に暮らしています。


Q:助けられなかった牢屋のおじさんは?

A:サボターが裏切り者であるという情報をくれる人です。ゴブリンに囚われた冒険者の一人で、無事シナリオをクリアできた場合、彼から報酬をもらう手筈になっていました。

 なお彼は、バオアー村で寄り道していた場合、救出が間に合わず死亡します。


Q:魔術師、強すぎない?

A:もし戦闘で敗北しても、そこでキャラクター死亡(ロスト)にはならない予定でした。邪神復活のためには、儀式的な手順に則った方法でヒューマンを生け贄に捧げなければならなかったためです。

 そのため、気絶したキャラクターは、死なない程度の治療を受けた状態で牢屋に閉じ込められてしまいます。

 そこで、先着していた↑のおじさんと協力して牢屋を抜け出し、武器庫で装備を取り戻した上で(すっかり油断している)魔術師と再戦する……という展開が待ち受けていました。


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