第65話 決断の時
――えーっと。じゃ、話を続けてもよろしい?
B「はいな♪」
――とりあえずいま、サキコが自供したところですね。
するとニンジロウが席を立ち、よろよろと彼女に歩み寄りながら、こういうでしょう。
ニンジロウ「ばかな……、き、きみがあの、アカリだっていうのかい?」
サキコ「気安く話しかけないで。あなたとはもう、終わったんだから」
ニンジロウ「そんなぁ」
――斬り捨てるような口調に、大男がドシンと膝から崩れ落ちます。
B「可哀想なニンジロウさん」
A「彼女の気持ちは、とっくの昔に離れていたみたいですね」
B「脳が……脳が破壊される!」
――続けて、ササオがこう叫びました。
ササオ「……何故だ。話によると、あんたらは親友だったそうじゃないか。どうして古里アカリの……じゃない、この場合は杉上サキコか。ややこしいな……とにかく、彼女の脳を奪った?」
サキコ「悪いけど、ここでは話さない。……また……後でね?」
――といって、彼女はあなたたちに意味深な目線を送ります。
あくむ「……あとで? それ、どういう意味ですの?」
サキコ「そのうちわかるよ。うふふふふ」
――するとササオが、渋い表情でこういいました。
ササオ「なんて女だ! 友だちを殺して、しかも自分の足を折るとは! アリバイのためとはいえ、正気の沙汰とは思えんな!」
――そしてサキコは男性陣に連れられ、自室にて軟禁されることになります。
A「……ササオさんたち、殺人犯だからって、いじめたりしませんよね?」
――そうですね。
ケンノスケ、ニンジロウあたりは何をしでかしてもおかしくないですが、ササオがそれを許さないでしょう。
A「ほっ。良かった」
B「イカレてるからって、野郎三人に虐待されてええ訳ちゃうし」
A「じゃ、そろそろ……エンディングの処理、かな?」
――いいえ。まだもう少し、物語は続きます。
A「あーっ。やっぱりか」
B「????? 犯人は捕まったのに? 他になにが……?」
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――その後、ペンションの人々はひとまず安心して夜を過ごすことができるでしょう。とはいえ美郷荘はいまも、猛吹雪の中にあります。
外に出ることも出来ず、かといって歩き回る気にもならず……ただ、ペンション内を漫然と時間が過ぎていきました。
A「えっと。その間、なにかしてもいいですか?」
――いいですよ。
ただし、あらかじめ言っておきますと、猛吹雪のため外に出ることはできませんし、サキコの部屋は頑丈に施錠されているので、彼女に会うこともできないでしょう。
A「うぬぬぬぬ……じゃ、どうすれば……」
B「? Aちゃん、あのその、そろそろ……あなたの目的を……」
A「のんのん。まだその時期はきていませんので!」
B「えーっ。もうそろそろ、シナリオが終わっちゃうと思うけど」
――さて。それはどうでしょう。
A「ほら。GMがこういう時は、まだ何か、仕込みがあるということです!」
B「……ふーむ。……言われてみればまだ、未回収の伏線が……。うう、なんだかまた、厭な予感がしてきた……!」
――では、あなたたちが美郷荘に来て、丸一日以上が経過した頃合いでしょうか。
深夜零時、なんとなく寝付けずにいたあなたたちが、ぼんやりと談話室で過ごしていると、ふいにペンション全体が暗闇に包まれます。
どうやら、電気が切れてしまったようですね。
べに「わっ。なに、なに、なに!?」
あくむ「……暗いですわね」
べに「ううううう……これ以上、私らの旅行、邪魔せんといてよぉ……」
――暗闇の中、あなたたちが周囲をうかがっていると、……そうですね。
判定不要で気づいていいでしょう。
部屋のあちこちから、ぶーん、ぶーん……という、羽音が聞こえてくることに。
B「ほらああああああああああああああああああやっぱりミ=ゴいるやんかあああああああああああああああ、んもおおおおおおおお」
A「えっ。なんでわかったんです?」
B「そらもう。親の声よりよく聞いた描写やし」
A「そんな馬鹿な」
――暗闇の中、じょじょに目が慣れてきたあなたたちが室内を見回すと、そこにいたのは、体長1.5メートルほどの、ピンクがかった色の動物でした。それは、甲殻類のような胴体に、背びれのような、膜のような翼に近いものが生えており、本来なら頭があるはずのその場所には、渦巻き状の楕円形がついています。
そんな得体の知れない怪物が、談話室の壁や天井、床などを所狭しと這い回り、あなたたちの様子を伺っているのでした。
あなたたちは、狂気値を【1D6-1】加算してください。
A「はあい。【ダイスロール:3】 二点加算」
B「……【ダイスロール:2】 こっちは一点加算、ですぅ」
A「別にいいけどこのシナリオ、狂気値については結構、控え目ですねー」
B「せやね。……それが逆に、不気味やけど……」
――そして、ふらりとあなたたちの前に、カンテラをもった車椅子の女性、杉上サキコが現れました。
彼女は、薄ら笑いを浮かべながら、こういう言うでしょう。
サキコ「こんばんは。ごきげんいかが?」
べに「わあ! 出たあ!」
サキコ「ちょっとぉ。そんな、オバケが出た! みたいに言わないでよぉ」
べに「ううううう……あ、あんた、閉じ込められてたはずちゃうのん? なんで外に……?」
サキコ「そりゃあもう。この子たちの力を借りて、ちょちょいっとね」
べに「……さ、ササオさんたちは?」
サキコ「ちょっぴり眠ってもらってる。……おしゃべりの邪魔をされたくなかったからね」
べに「おしゃべりって……。これ以上、なんなんよぉ……?」
サキコ「うふふふふ。心配しないで。私、頭のいい人たち、好き。別に、悪さしようって訳じゃないんだから」
べに「……わ、私知ってるもん! 神話生物がする親切は、ありがた迷惑なことも多いって!」
サキコ「安心して。私はただの人間よ」
べに「説得力がなさすぎる……」
――と、そこいらでサキコさんは、円筆あくむに向き直ることでしょう。
そして、こう話します。
サキコ「本当は、このままここを出ようと思ってたんだけれどさ。……まあ、現金の持ち合わせも欲しいところだし、せっかくだから一仕事してからがいいかなーって」
あくむ「…………………」
サキコ「ええっと……お仕事を依頼してくれたのって、……あなたで間違いない、なかったわよね?」
あくむ「…………ええ。そうですわね」
サキコ「もしあなたが望むなら、さっそく例の手術を行おうと思うんだけれど、どうする?」
あくむ「どうもこうも。まだ、迷っているところ、ですわ」
サキコ「あら、そ。……いずれにせよ、今夜でここは、店じまい。だから、大盤振る舞いしてもいいわよ? 健康な男の身体、美しい女の身体……。あなたが望む肉体に、あなたが望む人の脳みそを入れてあげる」
――そういって彼女は、妖しく微笑みます。
B「肉体交換……。ひょっとして、あくむちゃんの目的って……」
――さて。
いよいよ、決断の時がやって参りました。
【To Be Continued】




