第62話 私だけの物語
――さて。
では、お二人に推理を披露してもらう、その前に……。
A「?」
B「???」
――いま、べにちゃんに、情報を一つ、送信しました。
B「……ええっと、なになに……?」
A「??? 色式べにだけが気づく何かがあった、ってことかしらん」
B「……! ……ッ。……。…………??? ……………! …………」
A「わ。Bちゃんが百面相してる」
B「これは…………これは…………っ。うちは、どうすれば……」
A「えーっ。なになに? どんな情報が?」
B「それは……、まだ、言えへん」
A「ぐむーっ」
――色式べにはいま、険しい顔つきで談話室の面々を睨んでいることでしょう。
B「で、でもこれ…………うーん」
A「?」
B「ねえ、Aちゃん。ちなみにAちゃんの推理って、どれくらい自信、ある?」
A「もちろん、100%、です」
B「えっ」
――すごい自信だ……っ。
B「……なんでGMはんまで驚いてるん」
――え……いや……。
B「ぶっちゃけうち、どーいうロールプレイすればええんかわからんくて……。TRPGの場合、そういう時ってほとんど、情報が不足していることがほとんどなんよ」
A「そうなの?」
B「うん。……ゲームってさ、なんでもそーなんやけど、基本的に『クリアしてもらうため』に存在してる。だから、全ての情報が開示されれば、自然と謎が解けるような作りになってるのが普通なんよ」
A「……TRPGに、現実的な推理力が必要になることはない、と?」
B「というかこんな、魔術と化け物が跳梁しとる世界で謎解きなんで不可能、ってこともある。今回の事件かて、『犯人は魔術師で、転移魔法で殺人現場までワープした』みたいな情報が出てきたら、真面目に考えるだけ無駄やろ?」
A「あー。……なるほど」
B「せやから、『TRPGの推理系シナリオはグダるから辞めた方がいい』って意見もあるくらい」
A「そうなんだ」
――(たしかに、姉さんってわざわざ面倒なテーマに挑むタイプの人だったな)
B「……で。その上で。……ひとつ、プレイヤーとして、聞きたいことがあるん。実はうち、スキルの力を使って、謎を完全に解くことが出来るんよ」
――(おや。それ言っちゃうんだ)
B「……でもそうすると、ちょっとしたリスクを伴う……かも。色式べににとってのリスクが」
A「謎が解けなかった場合は、PL2が探偵役になる。ただしそうすると、PL2が損をする羽目になる。……そういう仕掛けってことですか」
B「そーいうこと」
A「ふーん。……お母さん、いろいろ考える人だったんだなあ」
――……………………。
B「えっ。この話も、Aちゃんのお母様が……?」
A「はい。キャラの台詞回しとか展開の考え方とか、前回のシナリオと同じ雰囲気がします」
――(気づいていたか)
B「うーん。そうなってくると、いよいよ失敗できへんな。やっぱりスキル、使っておく? そっちが正規ルートなのかも知れんし」
A「いいえ。……ここは、私たちだけの物語をやりましょう。謎を、自分の手で解くんです」
B「それでもし、バッドエンドになったとしても?」
A「覚悟の上です」
B「……わかった。それなら、うちに言えることは何もないな。推理はAちゃんに任せる。それでええ?」
A「お任せあれ」
――(なんだか、こっちまで緊張してきた)
A「あっ。GMが『魔神を蘇らせた時みたいなこと、しないと良いけど』みたいな顔してる!」
――ぎくり。
A「ご安心召されよ。今回は大丈夫。……たぶん」
――(その、”たぶん”が怖いんだけど)
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(GMがPCを操作し、謎解きにふさわしいBGMを流す)
(少女の推理が始まった)
あくむ「ええと……。まず、どこから話し始めましょうかしらん」
ササオ「何か言い逃れがあるなら、時間はたっぷりある。思うままに話してみろ。そっちはあくまで、シロウトなんだからな」
あくむ「そう言っていただけると助かりますわ」
ササオ「それで? お前ら以外に、誰が犯人だって言うんだ?」
あくむ「それをいまここで言うと、少し突飛に聞こえてしまいます。……ので、順を追って話していきましょう」
ササオ「犯人の特定は、最後にするってことか。……なんだか、ミステリー小説に登場する探偵役っぽいことをするじゃないか」
あくむ「うふふふふ」
――あくむの自信満々な様子に、その場にいるみんな、視線が釘付けでしょう。
A「ふっふっふ。ここまで、想定通り」
B「どういうこと?」
A「推理を披露するときは、とりあえず『何もかも想定通り』って顔しとけば良いんです。そしたら誰でも、名探偵!」
B「……えーっ……」
――まあ、物語の中の探偵役は、推理の成功が確約されてるところがあるから。
あくむ「まず、この事件を読み解くのに重要な情報がひとつ、ございますわ。……この美郷荘では人知れず、『肉体交換』の手術が行われている、ということ!」
ササオ「……はあ?」
べに「……え?」
――(あ。秘匿ハンドアウトの情報、ここで言うのか)
べに「ちょっとちょっとちょっと、あくむちゃん。私それ、知らない。どこで手に入れた情報?」
あくむ「それはもう、事前に調べておいた情報です!」
べに「??? あくむちゃん、それを知った上でこの美郷荘に来たの?」
あくむ「そうですとも!」
べに「嘘でしょ……。何のために?」
あくむ「特に、理由はない!」
べに「いやいやいや。信じられへんけど」
あくむ「ただの好奇心! それだけ!」
べに「えええええええええ……」
――(この娘さては、誤魔化しかたが雑だな?)
ええと……では、ササオが、二人の間に割り込むように、口を挟みます。
ササオ「ひとつ、いいか?」
あくむ「はい、どうぞ」
ササオ「ミ=ゴのスパイは、肉体を入れ替えて身元を消すことがあると聞いたことがある。その手術をここで行っていた、ということか?」
あくむ「ええ。すでにネットでは有名な情報でした」
ササオ「マジかよ。インターネットってスゲーな」
あくむ「インターネットには、なんでも載ってる。やろうと思えば、神様とだっておしゃべりできますの。若者の間では有名な事実ですわ」
――へー。そうなんだ……。
B「GMはん、騙されたらアカン。この子、適当なこと言ってるだけ」
――へ、へー。……そうなんだ……。
あくむ「そして、……そうした”肉体交換”によって利益を得ていたのが、……そう! 古里アカリさんだったのです」
ニンジロウ「えっ。アカリがそんなことを?」
あくむ「ええ。さっきサキコさんの部屋から”スケジュール帳”を発見したでしょう?」
ニンジロウ「あ、ああ……。それが何か?」
あくむ「あれは恐らく、アカリさんが書いたものでしょう。内容を確認すると、『仕事依頼:一件あり。恋人の件。依頼料は現金で持ち込む、とのこと(時間的に厳しい? 場合によっては時期の延長を交渉すること)』とあります」
ニンジロウ「ほう……」
あくむ「この、『恋人の件』。恐らくわたくしたちのことで間違いありません。実はわたくし、事前に匿名サイトを通じて、美郷荘にいる誰かと連絡していましたからね。その証拠に、”肉体交換”に必要な費用である百万円を、ずっと鞄の中に入れて置いたのですわ」
――ニンジロウ、メモ書きを検分して、
ニンジロウ「言われてみれば、妻の字に似ているが……」
――とはいえ、彼の表情は浮かない感じです。
どうも、いまいち信用し切れていないようですね。
B「……ねえ、話の途中やけど、ちょっとええ?」
――もちろんどうぞ。
B「……なんだかうち、今度はAちゃんのことが信用できへんくなってきたんやけど……」
A「細けーことは、気にするな!」
B「うそやん……」
――では、推理を続けて下さい。
【To Be Continued】




