第58話 第二会議フェイズ
――では、あなたたちは談話室へ戻ってきました。
第二探索フェイズを終了します。
第二会議フェイズ、開始してください。
A「とりあえず、情報共有しましょっか」
B「うん。……でもその前にちょい、メタ的な話、してええ?」
A「どうぞ」
B「たぶんやけど、ササオさんはシロやね」
A「ですね」
B「この手のキャラが犯人役ってオチ、たぶんナイと思うんよ」
A「ササオさんみたいなキャラって、創作の世界ではコミック・リリーフと言います。緊迫感のあるシーンが続くとダレちゃうから、こういうキャラクターを出してバランスをとる。……シェイクスピアなんかも使ってる手法ですね」
B「Aちゃん、相変わらず、わけのわからんこと知ってるねぇ」
A「もちろん、そういう予想を逆手に取る手法もないことはないですが、今回の場合は違う気がしますね」
B「うん」
――ではササオさんは、あなたたちが自分を見ていることに気づいたのでしょう。
まず、ケンノスケさんを呼び出します。
A「ん?」
――そしてあなたたちに、このような話をしました。
ササオ「……俺は、犯行時刻の20~21時の間、トランプをしていた。それはこの、ケンノスケさんが保障してくれるはずだ」
ケンノスケ「あ、あ、ああ! た、確かに! その時間はぼくたち、ずっと一緒だったよ!」
ササオ「これで少なくとも、俺とケンノスケさんのアリバイは確定したことになる」
――ササオさん、「どんなもんだい」って感じの笑顔を浮かべてますね。
あくむ「ああ、そう……」
べに「ぶっちゃけどーでもいい」
――NPCに冷たい。
あくむ「っていうか、これが普通の対応でしてよ」
べに「そうそう。化け物とか、怪異とか……突拍子がないねん」
――するとササオは、にやりと笑って、あくむとべにを見るでしょう。
ササオ「その割にはあんたら二人とも、この状況に順応していたようだが?」
あくむ「…………」
べに「…………ふん」
――あなたたちの間に、ピリリと不穏な空気が流れます。
あくむ「その話はいったん、置いておきましょう。……いまはまず、情報共有を済ませてしまいましょうよ」
べに「うん」
あくむ「わたくしの情報としては、以下の三つです。
・オーナー夫婦の寝室
アカリさんへ送られた手紙。『私のことはそっとしておいて。さもないと”ビジネス”の話を警察に話すわ』とのこと。何かに怯えている感じ?
・杉上サキコの部屋
スケジュール帳。どうもYouTuberのスケジュールとは思えない。
ひょっとするとこれ、古里アカリさんのものなんじゃないかしら?
・山城ササオの部屋
様々な怪物に関わる情報。ミ=ゴ、食屍鬼、ゾンビ、ニャルラトホテプ、ノーデンスなどの名前。事件に関係ありそうなのは、『脳を抜く』という記述があることから、ミ=ゴでは?」
――と、そのタイミングで、あくむは”精神力”判定を。
難易度は”普通”。13以上で成功。
A「あたしだけ……? 【ダイスロール:7(+6)】 ギリギリ成功」
――では、あくむは気づいていいでしょう。
色式べにの射るような眼光が、山城ササオを見つめていることに。
A「えっ? なんで? …………恋?」
――それは、Bちゃんから聞くしかないですね。
べに「…………こいつッ、そないなことまで…………ッ!」
あくむ「えっ。どういうことどういうこと?」
べに「んーん? べつに……。それよりはよぅ、情報の共有を済ませよ!」
あくむ「えぇー…………」
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『色式べにの情報』
・オーナー夫婦の寝室の本棚
あなたは本棚の中に、弁護士との相談記録と『離婚届』を発見する。どうやらオーナー夫婦の仲は数年前からずっと、冷め切っていたらしい。署名しているのはアカリだけで、あとはニンジロウのサインを待つだけのようだ。
・杉上サキコの部屋 注射器
調べたところ、どうやらそれが局所麻酔用の注射器であり、すでにその内の一本が使用済みであることがわかる。またあなたはさらに、「Vicodin」と名付けられた鎮痛剤を一週間分ほど見つけるだろう。
「Vicodin」は、タイガー・ウッズやエミネムなどが薬物依存になってしまったことで有名な、海外産の強力な鎮痛剤だ。
・山城ササオの部屋 スマートフォン
LINEを調べたところ、『怪異探偵 友の会』なる怪しいグループのメンバーであることがわかる。
あなたが内容を読み進めたところ、とある記述を発見するだろう。
『友だちの魔術師さんからシュブ=ニグラスの呼び出し方教えてもらったので、共有しておきまーすwwwww
(1)清めた石の祭壇を用意する。
(2)10トンくらいの血液を用意する(爆)。
(3)呪文は、「アジャラカモクレン テケレッツのパー」
それではみんな、試して味噌~♪ ←って、オイオイ!』
このユーザーはのちにBANされている。
どうやら怪異探偵たちは、コンプライアンスに厳しめらしい。
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べに「……って感じ」
あくむ「あー……。それでさっき、取り乱したんですのね」
べに「そゆこと」
――するとササオは、あなたたちの間に割り込むように、
ササオ「……そぉかあ? いくらなんでも、過剰反応が過ぎる気が……」
あくむ「なあに? あなた、わたくしの恋人に何か文句でもありまして?」
ササオ「いや別に、そういう訳じゃねーけどさ」
――(うわ。Bちゃんの目、キラキラ輝いてる……)
べに「あくむちゃん、……カッコいい……! 好き!」
――(この子、全力でロールプレイするタイプなんだな)
ササオ「……………ええと、話を続けてもいいか?」
あくむ「どうぞ」
ササオ「一応このタイミングで、俺視点での情報をまとめるぞ
ひとつ、ニンジロウさんとアカリさんの関係は冷め切っていた。
ふたつ、アカリさんは何者かに脅されていた?
みっつ、この事件には、ミ=ゴが関わっている?
……こんな感じだな」
あくむ「ミ=ゴ。ノートを見たときも気になっていましたが、なんなんですの、それ?」
――では、そう訊ねられたササオは……、
B「あ、キーパー! ……ゃない、GM!」
A「えっ。きーぱー? だれ?」
――ああ。……『クトゥルフ神話TRPG』では、GMのことを”キーパー”というのです。
A「へー」
B「恥ずい。……学校の先生を『お母さん』って呼んだ気分」
――(そこまでじゃないと思うけど)
で? なんですか?
B「質問ですけどこの卓、リアル知識の共有はセーフってことでよろしい?」
――ああ、そうですね。プレイヤー同士の会話ということで、べつに構いませんよ。
A「なにか知っているの? Bちゃん」
B「うん。ミ=ゴは、クトゥルフではお馴染みの悪役なんよ。初出はラブクラフト先生の、『闇に囁くもの』だったかな?」
A「へえー」
B「羽の生えた甲殻類っぽい生き物で、暗黒星ユゴスってところからやってきたエイリアンやねん。我々人間よりも遙かに進んだ科学技術を持っていて、テレパシーで会話するんやって」
A「へえええええええ」
B「一応、メタ的な発言するなら、一対一なら人間の方が強いくらいの戦闘力……ってかんじ」
A「じゃ、襲ってきたらぶん殴って良いってことだ」
B「そゆこと」
――とはいえその知識、円筆あくむと色式べにが知っているわけではないことをご注意ください。
A「わかってます」
――では、それはそれとして、ササオがその場にいた皆に、話し始めるでしょう。
ササオ「では今のうちに、この情報を共有させてもらおうか。……ミ=ゴと呼ばれるエイリアンの実在について」
あくむ「エイリアン。……にわかには信じられない話ですけれど」
ササオ「そう思うのも無理はないが、これは事実だ。俺は実際、連中を目の当たりにしたことだってある」
べに「うそ。あんた、ミ=ゴと戦ったことがあるん?」
ササオ「ああ」
べに「まじか。……思ったより、ガチの怪異に出くわしてるやん……」
ササオ「そこで俺は、こう思った。恐らく犯人は、ミ=ゴのスパイだろう、と」
あくむ「スパイ?」
ササオ「そうだ。奴らは時折、普通の人間をスパイとして人間社会に送り込むことがあるからな」
あくむ「どうして、そのように断定できるんですの?」
ササオ「理由は単純。……俺の持っている、この”機械”さ」
あくむ「あー………。ありましたわね。そんなん」
ササオ「こいつは、怪異探偵の間で取引される優れものでな。数キロ以内にいるミ=ゴの存在を感知できちまうってアイテムなのさ」
あくむ「なんじゃそりゃ」
べに「便利すぎて草」
ササオ「連中、テレパシーで会話するからな。これは、そのテレパシーに反応するようできてる。……このペンション、“美郷荘”なんていかにもな名前だったから、まさかとはと思って持ってきていたんだ」
べに「『みごうそう』……ああ、そういうこと……」
――そうですね。《読心術》を使うまでもなく、わかっていいでしょう。
彼がここに来た動機は、どうやらその名前を怪しんだためのようです。
B「たしかに、タイトル聞いた時、『おや?』とは思ったけど」
A「あ、そうだったんだ」
B「うん。ミ=ゴは、クトゥルフ・プレイヤーならまず頭に浮かぶキャラやからね」
――続けて彼は、こう話します。
ササオ「だが、すべては杞憂だった。この辺りに奴らがいたなら、すぐに俺の機械が反応を示すはずだ。少なくとも、『この事件にミ=ゴは関わってない』ってことだな」
あくむ「えーっ」
べに「ほんとにぃ?」
ササオ「信じられないかもしれんが……。ホントにホントなんだよ!」
【To Be Continued】




