第56話 百合の間に挟まる男
A「ちなみにGM、一ついいですか?」
――なんでもどうぞ。
A「ちょっとだけメタ的な質問かもわからないんですけど……あくむとべには今回の件、絶対に犯人ではないんですか?」
――ええと……、それに関しては、返答を控えさせてもらいます。
A「げっ。……マジか。……び、びーちゃん?」
B「ちょっとちょっとちょっと。GMはん、人が悪いですよ。うちらはずっと、同じ部屋で過ごしてた。人を殺してるような時間はなかったはずです」
――私から言えるのは、少なくともあなたたちは、犯行時刻である20~21時の間、ずっと一緒だったということだけです。
A「…………………。いや、これもきっと、オイシイニシンのなんちゃら」
B「燻製ニシンの虚偽、やね」
A「そう、それ。……『殺人現場から美郷荘まで、往復で十分はかかる』。それだけ席を外していたら、なんらかの描写があるはずです」
B「そうそう。うちらはお互い、信じ合お! それが一番!」
A「……………それは、それとして……。疑わしいことは、別にありますけど…………」
B「えーっ。そーお?」
――では、次にどこを探索しますか?
A「残った探索箇所は、……『杉上サキコ、山城ササオ、古海ケンノスケ、PL1、PL2の客室、オーナー夫婦の寝室』……ですね」
B「せやね。うちは……”オーナー夫婦の寝室”を調べたいな」
A「私も!」
B「あとは普通に、提示されている順番でええか。サキコ、ササオ……って感じで」
――承知しました。
あなたたちがオーナー夫婦の寝室の扉を開けると、ずいぶんと乱雑に散らかった部屋だということに気づきます。
どうも、まともな人間の寝ていられるところではないですね。
A「ゴミ屋敷、的な?」
――そうです。
ちなみに探索可能な箇所はこちら。
・ベッド:”精神力”判定
・本棚:”知力”判定
・書きかけの手紙:”知力”判定
・寝室用のミニ冷蔵庫:”五感”判定
A「……げぇ。四箇所か。一箇所、探索を諦めないといけませんね」
B「どうする?」
A「あくむにとって都合が良いのは”冷蔵庫”ですが……何か在りそうなのは”本棚”と”手紙”なんですよね」
B「キッチンの”冷蔵庫”は大した情報やなかったしねぇ」
A「どうもこのシナリオ、失敗情報も重要みたい。行為判定の難易度が一律で高いところを考えても、下手に判定の成功を狙うより、情報収集に集中した方がいいかも」
B「2D6の期待値は7。……普通に振っても成功しない確率が高いことを考えると、ありえるね」
A「ってわけであくむは、”書きかけの手紙”を調べます。【ダイスロール:7(+8)】 うん! よゆーの失敗!」
B「じゃ、うちは”本棚”を。【ダイスロール:7(+11)】 こっちは成功」
※円筆あくむの情報:書きかけの手紙
『アカリへ』と題された書きかけの手紙だ。その内容は以下のものである。
『ごめんなさい、アカリ。
わたし、もう耐えられない。
もう二度とあれを繰り返すつもりはない。
こわいの。こわいの。こわいの。
わたしの全部をあげる。お金もあげる。
だから、二度と関わらないで。私をそっとしておいて。
さもなければあなたの”ビジネス”の話、全部警察に話すわ。
わたしはもう、二度と、にどと、にどと、にどとにどとにどとにどとにどとにどとにどとにどとにどとあれとかかわりたくないのあれと』
ササオ「……聞かれる前に、先に俺の情報を話しておく。『どうも古里夫婦は、別々のベッドで寝ているらしい』」
あくむ「やっぱり、あの夫婦の仲が冷え切っていたことは間違いなさそうですわね」
ササオ「よし。べにの方も探索し終わったみたいだし、次に行くか」
――そう言ってササオは、部屋を出るでしょう。
べに「ちょっとまって。おっさん」
ササオ「あん?」
べに「私のこと、下の名前で呼んで良いのはあくむちゃんだけ。おっさんは呼ぶな」
ササオ「……。ああ、わかった」
べに「わかればええ」
ササオ「……難しいお嬢ちゃんだな……」
べに「なんか言った?」
ササオ「いや、何も」
――ではあなたたちは、杉上サキコの部屋へ向かいます。
部屋は一般的な客室で、テーブルの上には注射器が置かれていました。
・注射器:”知力”判定
・スケジュール帳:”知力”判定
・旅行鞄の中の服:”知力”判定
・クローゼット:”精神力”判定
A「さくさく行きましょう。こっちは”スケジュール帳”を調べます。【ダイスロール:9(+8)】 お、成功」
B「ほな、うちは”注射器”を。【ダイスロール:10(+11)】 こっちも成功」
※円筆あくむの情報:スケジュール帳
内容を見るに、どうもYouTuberのスケジュールとは思えない。どうやらこのスケジュール帳、古里アカリのものなのではないか?
さらにあなたが内容を確認すると、
『仕事依頼:一件あり。恋人の件。依頼料は現金で持ち込む、とのこと(時間的に厳しい? 場合によっては時期の延長を交渉すること)』
……というメモを発見する。
あくむ「あっ。……これ……ひょっとして……」
べに「どしたん、あくむちゃん? 何か見つけた?」
あくむ「いいえ。……べつに、何でもありませんことよ。おほほほほほほ」
――(どうやらAちゃん、この『仕事依頼』、自分がしたものだと気づいたみたいだな。変に掘り下げられる前に、会話に入っておくか)
ササオ「じゃ、俺の情報。”クローゼット”を調べたところ、『ハンマーが一つ、見つかった』」
あくむ「ハンマー?」
ササオ「ああ。かなり頑丈なハンマーだ。人くらい簡単に殺せるやつだな」
あくむ「でも今回の殺人は、ハンマーが凶器ではないでしょう?」
ササオ「まあ、……たしかにな」
べに「これも、ある種のミスディレクション……なのかも」
――ここで調べられるところはそこまで。
次は山城ササオの部屋に向かいます。
少したばこ臭いその部屋のテーブルの上には、何かの機械が置かれているようです。
あくむ「言っておきますけれど、下手に隠しごとしないようにしてくださいね」
ササオ「わかってるさ」
――では、さっそく探索を……、
A「あ、ちょっとGM!」
――はい?
A「探索する前に、彼を《魅了》して悪さしないようにすること、できます?」
――え? ……あー、……そうですねー……いいでしょう。
B「じゃ、その間、『………………百合カップルに挟まるおっさん……万死に値する……コロス……』ってかんじで、ササオを睨んでます」
A「こわい」
――こわい。
A「……ひょっとしなくても、べにちゃんって……、重い子?」
B「うふふふふ」
――では、”精神力”で行為判定をどうぞ。
ファンブル以外で成功としていいですよ。
A「とりゃ。【ダイスロール:5(+6)】 成功!」
――ではササオは、あくむの美しさに、ついつい見蕩れてしまいます。
あくむ「うっふん」
ササオ「……ポッ」
――詳細な描写はともかく、だいたいそんな感じの流れですね。
結果、彼からうっすらと漂っていた敵意が和らいだ気がします。
B「…………ギリリ……!」
――(いま、すごい歯ぎしりの音がした気が……)
ササオ「……なあ、お嬢ちゃん。なんか勘違いされているようだから、一応言っとく。俺はこういうとき、壁に徹するタイプの男だぜ」
べに「あんたが存在していること、そのこと全てが邪悪なのよ……!」
――こわい。
A「こわい」
B「うふふふふ」
【To Be Continued】




