第49話 ペンション客たち
A「ええっと、そんじゃー、順当に談話室から行きましょっか」
B「せやねー。こーいうときって結果、GMが提示した探索順が正規ルート感、ある」
――では、あなたたちはペンション内に戻って、談話室へと向かいます。
談話室は、五、六人くらいなら余裕でくつろげるようになっていて、暇つぶし用のボードゲームや本の類がずらりと並んだスペースでした。
そこにはいま、一人の男が険しい表情で座っていて、彼は煙草を吸いながら、何やら奇妙な機械を操作しています。
あくむ「はあい、どうもこんにちは!」
べに「……………(ぎゅっとあくむの二の腕を掴んで、男を警戒する)」
あくむ「ちょ、ちょっと、べに。わたくしだって、それほど社交的な性格じゃないのよ? あなたも挨拶しなさいな」
べに「べつにええやん。男なんかと話さへんでも」
あくむ「そういうわけにはいかないでしょう……」
――と、二人が痴話喧嘩していると、男は渋い表情でそっぽを向きます。
べに「なんやこいつ」
あくむ「こらっ。……ご、ごめんなさいね。連れが人見知りなもので」
男「……別に構わん」
あくむ「あら、そ、そうですか。……ちなみにわたくし、円筆あくむと申します。こっちは色式べに。滞在中は五月蠅くするかも知れませんが、ご容赦くださいませね」
男「……それも、べつに構わん。他人の素行が気になるタイプじゃない」
――そういって彼は、「山城ササオ」と何かのついでのように、名乗ります。
B「ふうん。ワイルド系おじさんって感じやね」
A「たぶんこの人、シナリオのタイトル的に、容疑者ポジションですよね……」
B「わからんで? 被害者かもしれへんし」
A「ちなみにこの人、『機械を操作』してるんですよね? その機械にあたしたちは見覚えがありますか?」
――ぱっと見ただけではわかりません。
さらに、あなたの視線に気づいたらしいササオは、機械を懐にしまってしまいました。
A「なんだーっ。けちーっ」
――さらに彼は、「さっさとどっかいけ」的な雰囲気を纏いながら、煙草を吸い始めました。
B「はあはあ。そういう感じね」
A「……これ以上、情報もなさそうですし、次行きましょうか」
B「ほな、1F廊下へ」
――では二人は、ペンション内を移動して1F廊下を歩きます。
するとその道中、車椅子に座った女性とすれ違いました。
とりあえず、”知力”判定。難易度は”難しい”、15以上で成功です。
A「ほい。【ダイスロール:7+8】 ギリギリ成功」
B「はいな。【ダイスロール:8+11】 楽勝で成功」
――では二人とも、彼女が中の下程度の知名度のユーチューバー、すぎさっきーこと、杉上サキコであることに気づくでしょう。
すぎさっきーは、その線の細い容姿に似合わぬ、身体を張ったネタでウケを取るタイプの芸風で、最近怪我をして休止中だったはずです。
べに「……あっ」
あくむ「あなたひょっとして、すぎさっきー?」
――すると彼女は困ったように笑って、
サキコ「あらあら。私のこと、知ってるの? 『はろはろ~、すぎさっきーだよ~♪』なんてね!」
――と、ファンサービス込みの返事をしてくれるでしょう。
A「おお、配信者の鏡」
B「せっかくやし、サインもらってええ?」
――では、ミーハーな二人がサインをねだると、彼女は残念そうに頭を下げて、
サキコ「ごめんなさい。いまはプライベートだから、そういう要望には応えないことにしてるの。でも、握手とか写真なら大丈夫よ!」
――と、答えますね。
A「しょぼーん。……握手と写真がオッケーなら、サインしてもらってもよくなぁい?」
B「まあ、サインは転売目的で使われることもあるからねぇ」
A「あ、一応、その足について聞いてみてもいいですか?」
――いいでしょう。
サキコ「ああ、この前の撮影で怪我しちゃってね」
べに「へえ? やっぱりユーチューバーって、危険なこともするんですか?」
サキコ「ええ。私みたいなのは特にね。見た目のギャップで売ってるところ、あるから」
――改めて補足しておくと、杉上サキコさんはいかにも「文学少女」という感じ女性です。
A「図書委員とかやってそうな?」
B「黒髪の乙女ってかんじの?」
――はい。
あくむ「でもでも、ちょっぴり不思議。どうしてそんな足の状態で、こんな雪山までやってきたんですか?」
サキコ「ああ。……それはね、このペンションが、古い馴染みのところだから」
あくむ「古い馴染み? ……ってことは、古里ニンジロウさん?」
サキコ「いいえ。その奥さんの、古里アカリ」
あくむ「ああ、そういうこと。それで、療養に?」
サキコ「まあ、それだけじゃないけど……」
あくむ「それだけじゃない、というと?」
――ええと。情報はここまで。
廊下ですれ違っただけですから、あんまり長話はできないこととします。
べに「あ、あ、よろしければ、あとでまた、おしゃべり、したいんですけど……」
サキコ「もちろん。機会があったら、いつでもお付き合いするわ」
――そういって彼女は、車椅子を転がして談話室の方向へ向かっていくことでしょう。
A「…………………へー。なるほど」
B「ん。どうしたん?」
A「いいえ。別に………」
B「?????」
――では、次はどこへ向かいますか?
A「そうですね。ではまず、キッチンの方へ行ってみましょう」
B「キッチン? 2F廊下ではなく?」
A「はい。……こういうとこのキッチンってたいてい、1Fにあるイメージなので。とりあえずそこから回っていこうと」
――仰るとおり設定上、キッチンは1Fにあります。
A「ほらね」
――では二人は、ペンション内にあるキッチンへと向かうでしょう。
そこには、食器棚の前で佇んでいる、一人の中年男がいました。
あくむ「あら?」
べに「……コックさん?」
――いいえ。ぱっと見でわかるのですが、どうもそういう感じじゃないですね。あなたたちと同じ、お客の一人のようです。
彼はあなたたちに気づくやいなや、さっと頭を下げて、
男「あ、すいません! ……って、なんだ。ここのお客さんか」
――と、ばつが悪そうにしています。
あくむ「そこで、何をされてるんですか?」
男「あ、ああいや、ぼくはほら、ここで何か、食べれるものがないか探してたんだよ」
あくむ「食器棚で? それなら、もうちょっと別のところを探った方がいいのでは」
――すると彼は、視線を宙に泳がせて、
男「あ、そっか! ぼくって馬鹿だな。あはははははは」
べに「っていうかそもそも、無断で取ったらあかんやろ。泥棒やで」
男「た、確かにその通りだ。ただここ、お菓子の一つもなくって、……お腹が減っちゃってね」
べに「事前に買ってくるべきやろ、そんなん」
男「かさばるのが面倒だったんだよ」
――そこで男は、簡単に身分を明かします。
彼の名前は、古見ケンノスケ。G県内にある、ネジ工場の社員、とのこと。
A「おやおや。美女二人が相手とみて、唐突に名乗ってきましたよ、こいつ」
B「ふつう、旅行先のお客に、自分の仕事まで話したりする?」
A「婚活かな?」
――ええとそれは、プレイヤーが男であっても同様の動きをしますので、ゲーム的な情報開示だと思っていただきたい。
A「はあああああ。なるほど、了解です。……まあどっちにしろ、不気味な感じですね」
B「百合の間に挟まろうとする男は、死あるのみ」
――(なんだか、こっちまで責められている気がしてきた)
【To Be Continued】




