第48話 美郷荘殺人事件
――まず、大前提の設定から確認しておきます。
あなたたちは『最近お付き合いを始めた恋人同士』です。
今後は、このことを前提にロールプレイをお願いします。
あくむ(A)「きゃっきゃ」
べに(B)「うふふ」
――では、導入のシナリオを読み上げましょう。
ある日のこと。円筆あくむさんは、とある旅行計画を立てます。
滞在先は、G県T市にあるという美郷荘。
そこで二人は、年末の休暇を満喫しようとしていました。
あくむ「ねえ、べに。再来週とか、あいてる?」
べに「……え? もちろん空いてるよ! 空いてなくても、空ける! 何かのおさそい?」
あくむ「最近わたくし、スキーに凝ってましてね。美郷荘ってところが良いって噂を聞きつけましたの。それで……、一緒に、スキー旅行に行きませんこと?」
べに「えっ、えっ、えっ。ぜったいいく! わあい! あくむちゃん大好き!」
あくむ「わたくしたち、付き合って一ヶ月ほど経ちますけど、まだ恋人っぽいこと、一つもしてきませんから、ね」
べに「えー? 別に私は、……いつ手を出してもろても……かまわへんけど?」
あくむ「こら。淑女たるもの、はしたないこと言わないの。どこで誰が、いやらしい目を向けているかわからないんですから」
べに「だってぇ、あくむちゃんったら、すっごい奥手なんやもん。……き、き、き、キスとか。……私はその、いつでも、ウェルカム、的な……」
あくむ「もう! いくらなんでも、冗談が過ぎてましてよ、べにったら」
べに「うふふふふふふ♪」
――……………じー……っ。
A「…………」
B「…………」
A「……ええと、GM?」
――えっ、あっ。はい。
A「そろそろ、次のシーンを……」
――……ごほん。失礼しました。
このままずっと観ているのもいいかな、と思って。
A「狂気! 家から出ないまま終わるセッション!」
B「それ、一部界隈では嫌われるロールプレイと聞きますけど」
――ええ、そうですね。ただ、ついつい。
話は変わるけど、二人はLINEやってる?
A「え」
B「あっ、はい」
A「なに、急に……? ナンパ……? こわ……っ」
――ええと、違います。
情報を個別に送るのに必要なのです。
A「あーはいはい。そういうことか」
――昔は手作りのカードとかでやったんだけど、いまは便利なツールがあるからね。
きみたちはこれから、それぞれ取得した情報をロールプレイで共有しながら、物語を進めていくんだ。
B「あい」
A「りょーかい!」
(ゲームマスター~プレイヤー間で、連絡先の交換が行われる)
――……はい。OKです。
ではまず、べにさんのみ”知力”判定。
難易度は”普通”、合計13以上で成功です。
B「べにちゃん賢いからね。失敗せんよー。【ダイスロール:6(+11)】 ほい、成功」
――ではBちゃんにだけ、情報を共有しますね。
B「ん。……(ポコン、という着信音)……はい。きました」
――今回のシナリオではこのように、情報を個別に扱う。なお、送られてきたデータを直接相手に見せることはできないことに注意してね。
B「はあはあ。……承知しました」
A「ねえねえ、どんな情報? どんな情報?」
B「ええと……せやね……」
――共有は、ロールプレイでお願いします。
べに「ねえねえ、あくむちゃん。……ちょっと気になったんやけど、なんでスキー旅行なん? あくむちゃんってあんまり、活動的なこと、好きやないよね?」
あくむ「ん? 意外?」
べに「うん。あくむちゃんならきっと、映画とか水族館とか、最初はそういう感じのデートかなって、そう思ったから」
あくむ「あら? 厭なようなら、別のところでも構わないけれど」
べに「ううん! 違うの! 厭やなくって……その……わ、私はその……お泊まりデートなら、……綺麗な下着を買っておいたほうが、ええんかな、って」
あくむ「ば、バカいわないで。あなた、脳みそピンク色じゃないの!?」
べに「えへへへへへ」
――などという微笑ましい会話が行われた、一、二週間後でしょうか。
準備を整えたあなたたちは、まずT市の駅に向かい、そこから少し歩いたところにあるロープウェーに乗車します。
その後、十数分。
あなたたちは無事、美郷荘へ到着するでしょう。
先日の豪雪の影響が色濃く残る美郷荘は、すでに雪が降り積もっているような状態です。
雰囲気のあるログハウスの前には、いかにも”山男”といった感じの男性が、雪かきを行っている最中でした。
男はあなたたちを見かけると、笑顔で話しかけてきます。
男「やあやあ、遠いところ、よくいらっしゃいました! 私はこのペンションのオーナー兼管理人の、古里ニンジロウです!」
あくむ「はい、どうも。しばらくお世話になります」
――するとニンジロウは、白い息を豪快に吐き出しながら、
ニンジロウ「はっはっは! これまた美人なお嬢さん二人組ですなあ! こちらこそ、よろしくお願いします!」
――と言って、握手を求めるでしょう。
べに「…………(ぎゅっとあくむの二の腕を掴んで、男を警戒する)」
――あ、べにちゃん、そういう感じなんだ。
B「はい。色式べには、むかし男の子にいじめられていたので、男が嫌いなんです」
A「では、べにの代わりに、あくむが握手に応じます」
――なるほど。ではニンジロウは、続けてこう言うでしょう。
ニンジロウ「さあ、とりあえず部屋に荷物を置いて、ゆっくりしていってください! ……ようこそ、美郷荘へ!」
――そして二人は、それぞれの部屋に案内されます。
B「えっ。それぞれの部屋? 一緒の部屋じゃないの?」
――そうですね。
B「くそーっ。せっかくの同衾チャンスが」
A「なんだろう。Bちゃんの圧がすごい」
B「ぐへへへへ」
A「……ヒエッ」
――荷物を置いた二人は、さっそく美郷荘の探検に向かいました。
お金持ちのあくむが取った宿なだけあって、美郷荘はかなり広い間取りの建物ですね。
べに「いえーい! それじゃ、さっそくいろいろ、観ていこっ!」
あくむ「ちょっとべに、引っ張らないで。ちゃんとついていくから」
――現状、あなたたちが探索できる場所は、”談話室/1F廊下/2F廊下/キッチン”の四箇所ですね。
A「けっこう広いペンションって設定なのに、調べられるのが四箇所だけとはこれいかに」
――いろいろ歩き回ることはできますが、イベントがあるのがそこだけ、ということです。
A「時短ってことですか」
――そうです。
別に、気になるところがあれば指定してもらってもいいですよ。
B「ほな、お言葉に甘えて。美郷荘周辺をぐるっと回ってみてもよろしい?」
――いいですよ。美郷荘は、ごく一般的なログハウスでした。
B「怪しいところは、特になし?」
――はい。……ただ、そうですね。美郷荘から歩いて100メートルほどの距離のところに、倉庫のようなものがあることに気づいていいでしょう。
A「お。秘密情報?」
B「まじ? ダメ元やったんやけど」
――とはいえ、別におかしなところはありませんね。
山小屋に倉庫があるのは普通のことでしょうし。
B「でもでも! わざわざ描写したからには、何かあるはず! 攻略RTAや! 《体操》スキルを使って忍び込みます!」
――ああー……いや。別にそこまでしなくても、中を覗けたことにしましょう。
倉庫内は、普段使いしないような資材とか工具とか、普通のものしか置かれてません。
B「ずこーっ」
A「なーんだ。隠しアイテム的なものがあるかと思ったのにー」
――人生、そこまで甘くないですね。
【To Be Continued】




