第41話 狂信者たち
――さて。
無事に全ての取引を終えたイチローは、まず風呂に入って身なりを整えた上で、たっぷりあなたたちに感謝の言葉を言うでしょう。
一郎「うおおおおおおおん! 心の友よおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
正義「はいはい。友ですよ」
一郎「マジで……マジでありがとう! おれみたいなやつに、ここまでしてくれるなんて……! あんたにゃ、一生返せない恩が出来たぜ!」
正義「やれやれ。出会ったときはあんだけ不機嫌まき散らしておいて、現金な人ですこと」
一郎「へへへへへ。あの時はすまんかったな!」
――ではこの瞬間、あなたたちはキャラクターシートに、”コネクション:田中一郎(感謝されている)”を書き加えてください。
A「コネクション?」
――はい。あなたたちのキャラクターはこれから、彼に助けを求めることができます。冒険に行き詰まったときや、今回のような課題を解決する際、彼の手助けを得ることができるでしょう。
B「なるほど。……例えば、タブレット端末を仕入れたくなった時は……」
――ええ。彼から、安く端末を購入できます。
B「そりゃまたずいぶんと……GMのアドリブ力が必要なシステムですねえ」
――まあ、『えんぴつTRPG』は、あくまで身内向けのコミュニケーションゲームだからね。ゲームと言うよりは、創作に近いルールだと思うよ。
A「へー、そうなんだ。あたし、『えんぴつ』以外のルール知らないから……」
B「普段、こういうゲームで遊ぶから、Aちゃんの家系って、物書きさんが多いのかな」
A「……関係ないですよ。そんなの」
――いずれにせよあなたたちは無事、依頼をこなすことができましたね。
A「いやー、良かった良かった! では、そろそろ……エンディングに……?」
――いいえ。まだもうちょっとだけ、物語は続きます。
イチローはその後、改めて”転移者”グループへの加入を決め、森からトラックを移動させるための手配を申請します。
もはや、あなたたちにできることはないでしょう。
B「ほな、そろそろ街へ帰ろか」
A「……ホントに、それでOK? これ以上、やれることない?」
B「ないんとちゃう? GMがないっちゅーとるんやし」
A「あっ、そっか。じゃ、馬車に乗って帰りまーす♪」
――そうですね。ではあなたたちは、イチローに別れを告げ、ミッテの町への帰路につこうとした……その時でした。
”五感”判定をどうぞ。難易度は”難しい”、15以上で成功です。
A「おや? 【ダイスロール:11(+12)】」
B「……【ダイスロール:10(+9)】」
――では、聴覚の鋭いあなたたちは、草むらに紛れる”奴ら”の気配に勘づくことでしょう。
全身を黒装束に包んだ彼らの数は、4人。そのうち一人は、チーム・リーダーと思われるガタイの大きい男でした。
彼らは、素早くあなたたちの前に現れて、すらりとナイフを抜きます。
イチロー「おいおいおいおい。なんだなんだなんだ? ま、まさか、ライヒの手のものか?」
――イチローは顔面蒼白にして、トラックを庇うように後退ります。
シュリヒト「いや。ちがう」
正義「せやね。……ライヒは、完全に騙されとった」
イチロー「えええ……ってことは……?」
――そこであなたたちは、”知力”判定をどうぞ。
この世界の住人にとっては常識レベルの情報ですので、難易度は”超簡単”。
8以上で成功です。
B「……あー。うち、なんとなくわかったかも【ダイスロール:7(+8)】」
A「はい、【ダイスロール:7(+5)】」
――彼らは、邪神フォルターを信奉する者たち。
要するに、ヒューマンの敵ですね。
A「ヒューマンの……敵?」
――はい。
この世界ではかつて、邪神フォルターによる大量虐殺が行われました。
その衝撃はいまもなお、この世界の住人の精神に影響を及ぼしています。
正義たちが見たところ、彼らは明らかに、フォルターの信奉者であることが窺えました。
彼らの教義は、ただ一つ。
ヒューマンをあぶり出し、殺すことです。
B「ヒューマン。……この人たちひょっとして、”転移者”と”ヒューマン”をいっしょくたにしてる感じ?」
――はい。
”転移者”たちは、女神がこの世界に寄越した、ヒューマンに似た人種です。
彼らにとって”転移者”もまた、排除すべき敵なのでしょう。
A「なるほど。……じゃ、今回の場合、正義くんも標的、ですよね?」
――そうですね。逃がすつもりはないでしょう。
A「しっかしこれまた、唐突に現れたなあ。何か情報、取り逃したっけ?」
B「ま、ええんちゃう? ファンタジー系のシナリオやし。最後はやっぱり、バトルがないと!」
――まあ、そういうことですね。
A「この世界の秩序は、辛うじて保たれているに過ぎない。……そういうことかな」
B「敵は、こちらを取り囲んでいるんですよね?」
――はい。
B「まずったなあ。正義、死んでまうかも」
――黒装束の狂信者たちは無言のまま、じりじりと間合いを詰めています。
周囲は、森。助けを呼べる状況ではありません。
B「ふーむ。どないしたもんかな……」
A「戦闘は避けられないでしょ。シュリヒトはもう、武器を抜いて戦闘態勢に入っています」
B「もちろん、それは正義もそうなんやけどね。ロールプレイ的に……。ねえGM。この世界の冒険者は、ちゃんとした戦闘訓練を積んでいるって設定なんですよね?」
――そうですね。冒険者ライセンスは、ある程度の訓練を受けたものでなければ発行されません。
正義「ほなイチローさん。トラックの中へ隠れていてください」
イチロー「え? お、俺も戦わなくていいのか?」
正義「構いません」
イチロー「しかし……」
正義「我々は、冒険者なので。命を賭けるんが、仕事なんです」
――なるほど。では、イチローはみなさんから離れて、トラックの方へ逃げていきます。
B「ついでにいまの、《正義の味方》スキルを発動させて……いいです、よね?」
――もちろん。非常に誇り高い行動でした。精神力を上限値まで回復してください。
B「やった!」
――さて。ではそろそろ、……連中も、しびれを切らしたことでしょう。
黒装束の男たちは、あなたたちに一斉に襲いかかってきます。
戦闘です。
【To Be Continued】




