第38話 自力救済
一郎(GM)「うう、ぐすっ。……すまねえな、湿っぽい話をしちまって」
シュリヒト(A)「おっさんが泣くの、よくない。とてもきたないから」
一郎「……この、縫いぐるみみたいなねーちゃん、辛辣だな」
シュリヒト「事実だし」
――などというやり取りの後、あなたたちは、改めて一郎の抱えている問題を確認します。
要するに彼は、『雑貨屋のライヒに奪われた損害を取り戻したい』ようですね。
そこのところをなんとかしない限り、彼はここを動くつもりはなさそうです。
A「なるほどなるほど。……ねえGM。ちなみにそれ、解決方法は、自由なんですか?」
――そうですね。自由な発想で決めていただいてもいいですよ。
こちら側で、なんとか対応します。
B「ふつーに考えれば、ライヒっちゅうやつの倉庫に突撃して、品物を奪い返せって話だけど。……うーん、でも一応、一郎さんが取引して手に入れたもんなんやろ? それってほとんど、犯罪なんとちゃう?」
A「さすがに、犯罪の片棒を担ぐほどの義理もないですからねえ」
――そうですね。その場合、ことが公になったら犯罪者の仲間入りでしょう。
恐らくそこまでのことは、一郎さんも望まないかと思われます。
A「じゃ、ライヒさんを説得して、差額を返してもらう、とか」
B「うーん。でも、ああいう”お金大好き”系のキャラって、説得に応じるかしら」
A「厳しいかなあ」
B「だってほら、さっきGMに、キ●タマがどーとか、わざわざロールプレイで言わせるくらいやろ? たぶん、なに言ってもダメ系のキャラな気がする」
――(いま、普通にキン●マって言わなかった?)
B「それか、裁判をやるしかないけど」
A「裁判、かあ。……この世界ってなんだか、自力救済が当たり前の世の中な気がするんですよね~」
B「自力救済?」
――個人の財産が法律によって保護されておらず、実力でのみ権利を取り戻すしかない状態のことですね。国家が法律を強制するだけの権力がない時、往々にして社会はそのような形になります。
B「へー。Aちゃん、よぉ知ってるねえ。そんな言葉」
A「たまたま、本で読んで知ってただけです。……暇なので」
B「ほな、もっと学校来ればええのにー」
A「最近はけっこう、行ってるじゃないですかぁ」
B「もぉ、Aちゃんったら。学校って、気が向いた時に行くもんとちゃうねんで!」
A「ぶぅ……」
――(良かった。学校でもちゃんと仲良いんだな、この二人)
A「ええと……それで、どういう感じですか?」
――え? 私もなるべく、学校には行った方がいいと思うけど? せっかく学費払ってるんだし。
A「……いやいや、そっちじゃなくてぇ! この世界、ちゃんとした司法組織は存在しているのかな、って」
――いいえ。実を言うとこの世界、Aちゃんが話してくれた通り、法律がまともに機能していません。魔神フォルターによる大量虐殺以来、世界は混沌としていると言って良いでしょう。
A「うううっ。前世の記憶のせいで、胸が痛いッ」
B「……でもそうなると、どうしたものかしら……」
――ではGMから、過去のプレイの解法をひとつ、提示しましょう。
かつてこのシナリオをプレイした人は、このような手段で目的を果たしました。少し変則的なやり方ですが……。
A「ほう。聞きましょう」
――その人は田中一郎さんに、……恋人を与えたのです。
A「どういうこと?」
――要するに、田中さんの抱えている問題の、本質はこうです。「得体の知れない世界に放り出されて、疑心暗鬼に囚われている」。もっと単純に、「世の中に絶望している」と言い換えても良いでしょう。そんな彼に必要なのは、希望です。
A「ええっと。それじゃあ、ライヒさんに奪われたタブレットPCは?」
――諦めてもらいました。そもそも、まだ品物は残っている訳ですから。残った分で細々と暮らしていけばいいわけです。
B「えーっ。……それってどーなん? 悪者をやっつけずに終わってしまうやないですか」
――その辺は……まあ、確かにスッキリしませんでしたが。
常に悪が裁かれるわけではないのでね。
A「うーむ……」
――不潔な見た目を整えて、リセットされた人生経験を一からやり直させる。
彼には、そうするに足る”希望”が必要なのですよ。だから私は、彼の”恋人を見つける”という方法を選びました。
幸い、ここは田舎の開拓村。金さえ出せばついてくる女は山ほどいて……。
B「ん」
A「おおお?」
――え?
A「いまGM、”私”って言いました?」
――あ。……えーっと。ごほん。そうですね。
いま話したのは、私が過去に行ったロールプレイの例です。
とはいえ、それが”正解”とは申し上げません。
この物語の結末まで話してしまうことになるので。
B「恋人捜し作戦。……Aちゃん、どう思う?」
A「個人的には、ナイですね」
B「うちも」
――そんなぁ。
A「すでに誰かが通った道である、というのもなんか厭ですし。それに恋人は、その人の裁量で手に入れるべきものです。誰かにあてがわれるようなものじゃない」
B「せやね」
A「あたしたちは、あたしたちの解決方法を見つけ出しましょう」
B「うん。……せやけど、どういう方法があるかなぁ?」
A「そりゃーもう。――いま、GMの話を聞いていて、一つ良い方法を思いつきました」
B「ほうほう」
A「やるべきことは、単純です。ただ、あたしが思い描いている方法が、果たして実行できるかどうか……ねえGM。一つ、お聞きしてもよろしいですか?」
――一つと言わず、なんでもどうぞ。
A「この森の近くに住んでいる村人たちは、なんの種族なんですか? ……特に描写がありませんでしたが、この世界にはもう、ヒューマンがいないんですよね? ってことは、人間ではないってことだ」
B「ホビット族とかやないの? ライヒさんがそーやったし」
――そうですね。よくお気づきになりました。
この村の住人は実を言うと、……ホビット族ではありません。
A「やっぱり。……で、何者なんです?」
――ダークエルフです。
A「……ほう。それってたしか、サボターと同じ……」
――そうですね。
Aちゃんには一度話した情報なので、判定不要で説明してしまっていいでしょう。
ダークエルフは、純潔を重んじるエルフとは真逆の存在で、多種族との混血を好み、根っからの武闘派です。様々な魔法を巧みに操るが、小狡い側面もある。
A「……よおし。了解」
――では、お聞きしましょう。
あなたたちの依頼は、『オスト村のもめ事を解決すること』です。
解法は、GMの裁量の及ぶ限り、自由でいいでしょう。
さあ、あなたはどうしますか?
【To Be Continued】




