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無題のシナリオ。~ぼくとあの娘のTRPGリプレイ~  作者: 蒼蟲夕也
3章 ファンタジー編『終末の再会』
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第38話 自力救済

一郎(GM)「うう、ぐすっ。……すまねえな、湿っぽい話をしちまって」

シュリヒト(A)「おっさんが泣くの、よくない。とてもきたないから」

一郎「……この、縫いぐるみみたいなねーちゃん、辛辣だな」

シュリヒト「事実だし」


――などというやり取りの後、あなたたちは、改めて一郎の抱えている問題を確認します。

 要するに彼は、『雑貨屋のライヒに奪われた損害を取り戻したい』ようですね。

 そこのところをなんとかしない限り、彼はここを動くつもりはなさそうです。


A「なるほどなるほど。……ねえGM。ちなみにそれ、解決方法は、自由なんですか?」


――そうですね。自由な発想で決めていただいてもいいですよ。

 こちら側で、なんとか対応します。


B「ふつーに考えれば、ライヒっちゅうやつの倉庫に突撃して、品物を奪い返せって話だけど。……うーん、でも一応、一郎さんが取引して手に入れたもんなんやろ? それってほとんど、犯罪なんとちゃう?」

A「さすがに、犯罪の片棒を担ぐほどの義理もないですからねえ」


――そうですね。その場合、ことが公になったら犯罪者の仲間入りでしょう。

 恐らくそこまでのことは、一郎さんも望まないかと思われます。


A「じゃ、ライヒさんを説得して、差額を返してもらう、とか」

B「うーん。でも、ああいう”お金大好き”系のキャラって、説得に応じるかしら」

A「厳しいかなあ」

B「だってほら、さっきGMに、キ●タマがどーとか、わざわざロールプレイで言わせるくらいやろ? たぶん、なに言ってもダメ系のキャラな気がする」


――(いま、普通にキン●マって言わなかった?)


B「それか、裁判をやるしかないけど」

A「裁判、かあ。……この世界ってなんだか、自力救済が当たり前の世の中な気がするんですよね~」

B「自力救済?」


――個人の財産が法律によって保護されておらず、実力でのみ権利を取り戻すしかない状態のことですね。国家が法律を強制するだけの権力がない時、往々にして社会はそのような形になります。


B「へー。Aちゃん、よぉ知ってるねえ。そんな言葉」

A「たまたま、本で読んで知ってただけです。……暇なので」

B「ほな、もっと学校来ればええのにー」

A「最近はけっこう、行ってるじゃないですかぁ」

B「もぉ、Aちゃんったら。学校って、気が向いた時に行くもんとちゃうねんで!」

A「ぶぅ……」


――(良かった。学校でもちゃんと仲良いんだな、この二人)


A「ええと……それで、どういう感じですか?」


――え? 私もなるべく、学校には行った方がいいと思うけど? せっかく学費払ってるんだし。


A「……いやいや、そっちじゃなくてぇ! この世界、ちゃんとした司法組織は存在しているのかな、って」


――いいえ。実を言うとこの世界、Aちゃんが話してくれた通り、法律がまともに機能していません。魔神フォルターによる大量虐殺以来、世界は混沌としていると言って良いでしょう。


A「うううっ。前世の記憶のせいで、胸が痛いッ」

B「……でもそうなると、どうしたものかしら……」


――ではGMから、過去のプレイの解法をひとつ、提示しましょう。

 かつてこのシナリオをプレイした人は、このような手段で目的を果たしました。少し変則的なやり方ですが……。


A「ほう。聞きましょう」


――その人は田中一郎さんに、……恋人を与えたのです。


A「どういうこと?」


――要するに、田中さんの抱えている問題の、本質はこうです。「得体の知れない世界に放り出されて、疑心暗鬼に囚われている」。もっと単純に、「世の中に絶望している」と言い換えても良いでしょう。そんな彼に必要なのは、希望です。


A「ええっと。それじゃあ、ライヒさんに奪われたタブレットPCは?」


――諦めてもらいました。そもそも、まだ品物は残っている訳ですから。残った分で細々と暮らしていけばいいわけです。


B「えーっ。……それってどーなん? 悪者をやっつけずに終わってしまうやないですか」


――その辺は……まあ、確かにスッキリしませんでしたが。

 常に悪が裁かれるわけではないのでね。


A「うーむ……」


――不潔な見た目を整えて、リセットされた人生経験を一からやり直させる。

 彼には、そうするに足る”希望”が必要なのですよ。だから私は、彼の”恋人を見つける”という方法を選びました。

 幸い、ここは田舎の開拓村。金さえ出せばついてくる女は山ほどいて……。


B「ん」

A「おおお?」


――え?


A「いまGM、”私”って言いました?」


――あ。……えーっと。ごほん。そうですね。

 いま話したのは、私が過去に行ったロールプレイの例です。

 とはいえ、それが”正解”とは申し上げません。

 この物語の結末まで話してしまうことになるので。


B「恋人捜し作戦。……Aちゃん、どう思う?」

A「個人的には、ナイですね」

B「うちも」


――そんなぁ。


A「すでに誰かが通った道である、というのもなんか厭ですし。それに恋人は、その人の裁量で手に入れるべきものです。誰かにあてがわれるようなものじゃない」

B「せやね」

A「あたしたちは、あたしたちの解決方法を見つけ出しましょう」

B「うん。……せやけど、どういう方法があるかなぁ?」

A「そりゃーもう。――いま、GMの話を聞いていて、一つ良い方法を思いつきました」

B「ほうほう」

A「やるべきことは、単純です。ただ、あたしが思い描いている方法が、果たして実行できるかどうか……ねえGM。一つ、お聞きしてもよろしいですか?」


――一つと言わず、なんでもどうぞ。


A「この森の近くに住んでいる村人たちは、なんの種族なんですか? ……特に描写がありませんでしたが、この世界にはもう、ヒューマンがいないんですよね? ってことは、人間ではないってことだ」

B「ホビット族とかやないの? ライヒさんがそーやったし」


――そうですね。よくお気づきになりました。

 この村の住人は実を言うと、……ホビット族ではありません。


A「やっぱり。……で、何者なんです?」


――ダークエルフです。


A「……ほう。それってたしか、サボターと同じ……」


――そうですね。

 Aちゃんには一度話した情報なので、判定不要で説明してしまっていいでしょう。

 ダークエルフは、純潔を重んじるエルフとは真逆の存在で、多種族との混血を好み、根っからの武闘派です。様々な魔法を巧みに操るが、小狡い側面もある。


A「……よおし。了解」


――では、お聞きしましょう。

 あなたたちの依頼は、『オスト村のもめ事を解決すること』です。

 解法は、GMの裁量の及ぶ限り、自由でいいでしょう。

 さあ、あなたはどうしますか?


【To Be Continued】


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