第35話 雑貨屋のライヒ
――では二人は、残った探索箇所……雑貨屋に行く感じでよろしいでしょうか。
A「はぁい」
B「あい」
――ではあなたたちは、酒場を後にするでしょう。
雑貨屋はこの村の物流を一手に請け負っているようなところで、実に多種多様な道具を扱っているのがわかります。
ここで二人は、”知力”判定を行うことができるでしょう。難易度は”難しい”。15以上で成功とします。
A「よしきた。【ダイスロール:8+5】 ……へへへ! シュリヒトちゃん、ばかだったー!」
B「はいな。【ダイスロール:6+8】 ……うふふ! 何にもわからへん」
――では二人には、大したことはわかりませんでしたね。
とはいえ、都会で冒険者をやってるあなたたちには、これくらいのことはわかって良いでしょう。……ここで売ってる武器と防具、使う気にはなれないな、と。
A「粗悪品を売ってるってこと?」
B「かも、わからへんね。まあ、都会の武器屋に比べて見劣りするんは、しゃーない気もするけど」
A「にゃるほど」
――そこで品物を見ていると、店主と思われるホビット族の男が、何やら店の奥で金切り声を上げていることに気づきます。
……ええと、ごほん。
店主「キ●タマがよお! 潰れッちまうよお! モノを馬車で運ぶ程度のことにそんだけ掛かっちまったらよお! 商売あがったりなんだよお!」
――相手の声は聞こえませんが、何やら話しているようです。
A「あらあらあら」
B「まあまあまあ」
A「うら若き女子二人を相手にして、お下品ですことよ。GM」
――そのようにロールプレイをしろと書かれているんです。
A「まあ、どんな方が書いたお話なんでしょ」
――きみのお母さんが書いたやつやで。
B「ちょっと待ってください。ホビット族の男が店の奥にいるということは、いま店番は誰もおらんのと違います?」
――えっ。あ、どうなんだろう。……特にその辺、描写はないな……でも、この店はホビット族の男が一人で切り盛りしてるみたいだし、たぶん店の方は空っぽのようだね。
B「では、店のアイテムをいくつか拝借しましょか」
――シナリオの穴を突くロールプレイ。大変結構です。
とはいえ、ホビット族は五感が鋭敏な種族です。しかもどうやら、相手は金にがめついタイプらしい。気づかれずに品物を盗めるかどうか、”筋力”判定で行います。難易度は”すごく難しい”、16以上で成功します。
A「16。シュリヒトでぎりぎりってとこかな?」
B「手に入れられるアイテムは選べますか?」
――大きなものを盗むと、さすがに気づかれるでしょう。盗めるのは下級の消耗品のみとします。
B「ほな、治癒ポーション手に入れとこ。いっちゃん費用対効果がええ」
――ちなみにきみのキャラ、”超勇者正義”って名前であることを思い出してね。
B「悪者の財産を奪うのは、善行ですぇ」
――……うん。だんだん、Bちゃんのことがわかってきた気がするよ。
A「じゃ、行きます。【ダイスロール:5+7】 ……ありゃー残念」
B「ほなら、うちも。【ダイスロール:9+4】 うーん。やっぱ無理か」
――では、ポーションを手に取っているシュリヒトに気づいたホビット族の店主が、店の奥から現れます。
店主「おい、てめえら! まさかとは思うが、店のものに手を付けようとしてるんじゃねーだろーなあ!?」
正義「ほよよ? 何を仰いますやら。それとも、この雑貨屋は、アレですか? 客がもの買ったらあかんっちゅうんですか?」
店主「ああいや……そういうことはないが……」
正義「それよか、このロングソード、ちょい出来が良くないですねえ。仕入れ先、変えた方がええんとちゃいます?」
店主「それは……安くモノを仕入れるには仕方ない、というか……」
正義「ぼくの故郷じゃ、安物買いの銭失い、ちゅう言葉がありますけど。……土壇場で役に立たないかもしれん武器なんて、買う意味、あります?」
店主「うう。……ああ、いや! こちとら忙しいんだ! 用がないんなら、さっさと出て行ってくれ!」
正義「用事? もちろんございますとも。……なあ、おじさん。あんた、ライヒさんで間違いありませんよね?」
店主「あ、ああ……たしかに俺が、ライヒだが」
正義「最近あんた、”転移者”からもの、盗んだりしてません?」
――おや。
A「え? そんな情報、出てましたっけ」
B「いーや。まあ、カマをかけたろうと思ぅて」
――なるほど。いいでしょう。
するとライヒは、渋い表情をして、
ライヒ「あん? いきなり、なにわけわからんこと言ってやがるんだ?」
シュリヒト「うそつけー、てめー! ”転移者”、かわいそう! きっと、ないてる!」
ライヒ「な、なんだ。あんたら、あの野郎の知り合いかい?」
シュリヒト「知り合い、ちがう! だけど、なんとなく、わかる!」
ライヒ「だったら、第三者が口を挟まねーこった。あいつと俺の問題は、こっちで解決する」
正義「そういうわけにはいかない。ぼくたちはギルドの依頼で、もめ事の仲裁にきたんだからね」
ライヒ「なんだ、てめーら。冒険者ギルドの人間か」
正義「そうだ」
――ギルドの名前を出されて、店主はちょっぴり顔色を変えます。
B「……冒険者ギルドって、名前を出すだけで顔色が変わるくらい権威があるんですか?」
――うん。この世界のギルドは実質、秩序維持のために派遣される異能集団、といった趣だからね。きみたちはレベル1の冒険者だけど、それでも常人よりはるかに強いと思って良いだろう。
B「なるほどぉ。Aちゃんのおかーちゃんは、いろいろ考えはる方やったんやねえ」
――そうですね。
A「………………………………」
――それでは、ギルドの権威を利用した二人は、店主から話を聞くことができそうです。
正義「さて。一つ聞きたい。あんたが”転移者”の第一発見者っていうのは本当かい?」
ライヒ「あ、ああ……」
正義「それで、そいつはいまどこにいる? この村の宿にはいないようやけど」
ライヒ「あ、あ、ああ。そいつはいま、すぐそこにある森の、”動く箱”の中で暮らしてるぜ。あんたも”転移者”なら、知ってるはずだろ?」
正義「動く箱……? ああ、車のことかな」
ライヒ「車、……じゃない。トラックとか言ってたかな」
正義「トラック? あんたら、トラックごと転移してきたんか?」
ライヒ「ああ」
正義「ううむ…………」
シュリヒト「どーした? マサヨシ」
正義「ああ、いや。過去のトラウマが……」
――そういえば正義は、トラックに轢かれて転生したんですっけ。
A「まさか、同一人物の可能性?」
B「いや、さすがにないやろ。ハンドアウトがあった訳でもなし」
A「はんどあうと?」
――GMから事前に手渡される、物語の資料のことだよ。
あ、でも、アドリブでいいなら、関係者設定を採用してもいい。
B「へえ。そんなことしていただけるんですか?」
――うん。
そもそも『えんぴつTRPG』自体、えんぴつ二本を転がして作った即興劇だからね。
登場させるキャラクターは、自由度が広く作られているんだよ。
A「それじゃ、やってみましょう。トラックの運転手は、正義を轢いた張本人ってことで」
――承知しました。
正義「……ふーむ。トラックの運転手。なーんか、厭な予感がするんよなあ。……ぼくの気のせいならええんやけども」
【To Be Continued】




