第26話 最後のゲーム
――では”世界”は、ゆったりとした仕草でテーブルにつきます。
そして……タロットカードをランダムに引き、そのうちの三枚を裏向きで並べました。
黒男(A)「あー、はいはい。正体当てっこクイズの時間か」
世界(GM)「……まあ、そう言われると身も蓋も無いが、その通りだ」
黒男「言っておくが、天才であるぼくはすでに、自分の正体に気づいている。ぼくは天才だからな。だから、もう、これ以上このクイズを続ける理由はない、これっぽっちも」
世界「さて。それはどうだろう。ひょっとすると、単なるはったりかもしれないし」
黒男「いやでも、タイムイズマネーというし。もう良いだろ? 帰らせてくれよ」
――さすがにここは、ロールプレイで誤魔化せる場面ではないですね。
黒男「じゃあ、言わせてもらおう。ぼくの正体は……」
世界「そこまでだ」
――そう言って彼は、黒男の言葉を遮ります。
世界「全ては、ゲームによって決定しよう。きみの質問に答えるのは、その後だ」
――焦らないでください。
メタ的な話ですが……このタイミングで答えを言われても、手順をスキップしたりはできませんから。
A「なるほど。そーいうもんですか」
――そーいうもんです。
世界「ゲームのルールは単純だ。これからきみに、三枚のタロットカードを見せる。
それを見てきみは、自分の立場が『高い』か『低い』かを宣言してもらいたい。
全問正解することで、ゲームクリアだ」
黒男「ゲームクリアって、自分から言っちゃうのか……」
――比喩的にね。
黒男「わかった。ちなみにそのゲーム、失敗したらどうなる?」
世界「そうだね。……有り体に言わせてもらうと、ゲームオーバーになる」
黒男「ゲームオーバー。……ゲームオーバー、ねえ」
――言い換えると、”死亡”エンドということです。
A「えっ、えっ、えっ。……それ、ホントに言ってます?」
――はい。
A「万一のときは、暴力で解決したりは……」
――できませんね。ぶっちゃけるとそのナイフ、もう用済みです。
A「ふええええええ。……それ、すっごく厭なんですけども」
――え?
A「だってだって! ここまで一生懸命頑張ってきたんですよ!? これで黒男が死んで物語が終わったりしたら……! 今夜きっと、悔しくて眠れません!」
――お昼寝すればいいのでは?
A「そーいう問題じゃないよお!」
――まあ、シュバルツの時は悲惨な結果に終わりましたからねえ。
とはいえ、いくら頼まれてもシナリオに変更は起こりません。
クイズに正解するか、死ぬか。そのどちらかです。
A「ぐぬぬ……。き、緊張してきた……!」
――っていうか、何をそんなに渋ることがある?
だいたい答えはわかってるんだろ?
A「わかってます! わかってますけど! ちびっこ相手とのスマブラ勝負で、絶対勝つって自信があっても……命がかかってるってなると、手が震えるでしょ。崖際の攻防とか、怖くてできなくなっちゃうでしょ? それと一緒ですよお」
――自分を信じ抜くことだよ。
世界「……では、ゲームを始めよう。まず、こちらが提示するのは、このカード。『IX 隠者』だ」
黒男「ええっと、ええっとぉ。……なんか、頭おかしくなってきた……。IXってそもそも、いくつだっけ……?」
――天才キャラの発言とは思えないんだけども。
A「ええっと……その。あ、そーだ! 恋人ちゃん! 恋人ちゃんはどういう雰囲気?」
――彼女、なんだか床の方を見ていますね。
A「やっぱりヒントはないかーっ!」
――さて、どうでしょう。
黒男「うーんと、うーんと。さすがに……、『同じ』って答えなきゃいけないみたいな、そーいうずるな問題じゃないよな?」
世界「当然だ。私は”魔術師”とは違う。そういう意地悪問題は出さないよ。きみに求める答えは、『高い』か『低い』か。それだけだ」
黒男「わ、わ、わかった。……正解は……『低い』、だとおもう」
世界「……ふむ。では、次の問題を」
黒男「ちょっとまて! いまの問題の成否は?」
世界「それを答えると、次の問題のヒントになってしまうだろ」
黒男「うううううう…………」
世界「それでは、次の問題。――『XIV 節制』だ。このカードが示す数字は、きみのそれよりも『高い』か、『低い』か?」
黒男「……………………」
――…………………。
A「……………………なんか、お腹痛くなってきた…………」
――…………………。
A「……………………」
――…………………。
A「……………………」
――いや、悩みすぎでしょ! 日が暮れちゃうよ!?
A「だってだって……大切な大切な、ひとつの命が……」
――ゲームに感情移入してくれるのは嬉しいことだけどね。そこはもうちょい、気軽に……。
A「恋人ちゃんを……いったん、ナデナデしても良いですか?」
――ほう。いいでしょう。
あなたたちはこの、異常な空間の中にいて、イチャイチャしています。
……さらにあなたは、”五感”判定。”簡単”です。ファンブル以外で成功とします。
A「……? 【ダイスロール:6】」
――ではあなたは、とある事実に気づいて良いでしょう。少女がなんだか、天井の方を見上げたまま、ぴくりとも動かないことに。
A「上の方……? そういえばここ、天井はどうなってるんです?」
――暗闇が広がっているだけで、なにもありません。あなたが最初に窓の外を見たとき同様に、不思議な空間ですね。
A「さっきは下の方を見ていた。今度は上を向いてる……。そっか、恋人ちゃん! それとなく、あたしに答えを教えてくれていたのね!」
――さて。それはどうでしょう。
黒男「がぜん勇気が湧いてきたッ! 答えは『高い』だ!」
世界「いいだろう。……ところで、いま気づいたのだが、……”恋人”の仮面を被った少女よ。きみ、ひょっとして、”選ばれし者”に、それとなくヒントを出していたね?」
黒男「……ぎくり」
世界「次の問題、きみは後ろを向いていなさい」
――すると少女は、しぶしぶ二人に背を向けます。
世界「”選ばれし者”も、下手なイカサマはしないことだ。次にそういうことに私が気づいたら、強制的にゲームオーバーとさせてもらう。いいね?」
黒男「わかった。……いいだろう」
世界「最後の一枚は、――これだ。『XX 審判』のカード。このカードが示す数字は、きみのそれよりも『高い』か、『低い』か?」
黒男「もう、迷わないよ。答えは、『低い』だ」
世界「……なるほど」
――すると、”世界”の仮面を付けた者はタロットカードを片付けて、席を立つでしょう。
世界「きみの意見は、よくわかった」
黒男「あってる、かい?」
世界「まあまあ。そう急かすなよ」
――それでは、エンディングの処理に入ります。
【To Be Continued】




