第24話 細い勝ち筋
A「……おおおおおおおおおおおおお! 【ダイスロール:5】 成功っ!」
――では、あなたは果物ナイフを手に入れます。
ええと……果物ナイフって……どんなんだっけ……。
(GM、PCを起動し、果物ナイフについて検索する)
――うわっ。結構強そうなんだな。普通のナイフくらいの威力はありそう。
じゃ、通常のナイフと同じ設定を採用します。
『果物ナイフ……片手武器/攻撃力1D6-1/命中率8/射程:接近』
A「……では! すかさず! このナイフを”吊された男”に叩き込むッ」
――いいえ。あなたはいま、18号室に飛び込んでしまいました。
射程距離内に敵がいないので、自動失敗です。
A「うっそでしょ!? おい!」
――間髪入れず、”吊された男”が殺意を漲らせながら室内に飛び込みます。そして、一瞬だけ”月”とあなたを見比べて……、む。考えてみれば、どっちを攻撃するか迷ってもおかしくないな。では、1D6振って、5以上の出目がでたら、敵は”月”に飛びかかったことにしましょう。【ダイスロール:2】 うん、ダメですね。敵はあなたに夢中です。
A「こわい!」
――【シークレットダイス:??】 しかし、攻撃ははずれ!
黒男「お前みたいなやつの攻撃、当たるわけないんだよなあ!?」
――(さっき当たったばかりだけど)
まあ、ぶっちゃけメスの攻撃成功率は、かなり低めに設定しています。
黒男「では、改めて……手にしたナイフで、攻撃……する前に、サブアクションで、その辺の果物を食べて回復したりとかは……?」
――そんな馬鹿な。
ゲーム世界の出来事じゃないんだし、食べ物を食べた瞬間に傷が癒えたりしませんよ。
A「おや? 『えんぴつTRPG』はゲームではなかった……?」
――では、ナイフ攻撃のダイスを振って下さい。《ナイフ(初級)》が発動しているので、3D6ですね。出目8以上で成功します
黒男「喰らえやあああああああああああああ! 【ダイスロール:14】 決まった!」
――まだ決まってません。ダメージロールを。
A「【ダイスロール:4】 ……ってことは、3点ダメージ!」
――はい。黒男のナイフは、”吊された男”を深く傷つけますが、まだ彼は生きてますね。
黒男「おまえ、空気読めよ!」
吊された男「絶対にお前を殺すッ!」
――と。その時、ですね。18号室の扉が開け放たれました。
黒男「えっ?」
――そして……【シークレットダイス:??】 ふむ。吊された男の顔面に、ゲームギアが叩き付けられます。ぐらりと彼は身体を横たえて、その場に倒れ伏しました。
黒男「その、ぜんぜん見慣れない携帯ゲーム機……! これは!」
――そうですね。置き去りにされていた恋人ちゃんの投擲攻撃です。彼女は、傷ついた身体を引きずりながら、この場に駆けつけたようです。
黒男「好きだ!」
――では、黒男は嬉しそうに恋人ちゃんを抱きしめます。
黒男「結婚しよう……」
――そして二人は、倒れた男を前に思うさまイチャイチャ……、
黒男「って、やってる場合じゃない。今のうちにこいつを拘束しておかないと! なあ、”月”の人! この人、病院の人たちを殺しまくっていた犯人なんだ! だから何か、縛るものをくれないか!」
――問題なく”吊された男”を捕まえることができました。
A「あ、”月”の人、手伝ってくれたんだ」
――はい。(もともと彼女、お助けキャラだったし。これくらいはね)
月(GM)「さすがにこの状況だと、あなたを信じるしかないから……」
黒男「ありがとう、お姉さん。これで極悪犯人を捕まえることができたよ」
月「……そうね」
――答える”月”は、どこか物憂げですね。
黒男「なんだ。何か言いたいことがあるのかい?」
月「ある」
――彼女は、そうはっきりと断じて、
月「彼がしたことは結局、私たちの終わりを早めただけに過ぎないわ。どうせ私たちは、いずれ消えゆく命なのに……」
黒男「消えゆく命? ……そういやずっと、なんでここが病院なのか気になってたけど。――あんたたちは、先が短いのか?」
月「そうね。……すべて、あなた次第だけれど」
黒男「ぼく次第? どういうことだ?」
月「それはさっき言った通り、私からは言えないわ」
黒男「……なんかそーいうの、物語の世界じゃわりとありがちだけどさ。知ってることがあるなら、今のうちに話してくれよ。……ぼくのことが嫌いなのはわかるけど、それでもあんた、根はいい人なんだろ? だったら、混乱しているぼくの気持ちを、少しくらい考えてくれたっていいじゃないか」
月「………………」
――では”月”は、じっくりと考え込んだ後、こう言うでしょう。
月「……そうね。あんた”悪魔”から、この世界がイメージの中にある空間だって聞いたわよね?」
黒男「なんでそれを?」
月「言ってたでしょ。私たちはみんな、記憶を共有する関係なんだって」
黒男「ふむ……記憶を共有していたのは、”悪魔”だけじゃない。ここにいる、みんなのことだったのか」
月「そういうこと」
黒男「それで結局、あんたらは何者なんだ? エスパーなのか?」
月「そうね。では、言ってしまいましょう。私たちの正体は……――」
――と、その時でした。
それまで、薄暗かった院内が、ぱっと明るく照らされたのは。
見上げると、部屋の電灯に光が灯っています。
同時に、院内放送で、このような声が響き渡りました。
『“選ばれし者”へ。“世界”が、一階出口前にてお呼びです』
――そして”月”は、肩をすくめて、
月「『まだ、言うな』ってさ。ごめんね」
黒男「くそっ」
――どうやらこれ以上、彼女から話を聞くことはできなさそうです。
A「なんてこった。GMのお芝居をもうしばらく見ていたかったのに」
――きみねえ。
A「GMって、女性の演技、得意ですよね。なんだか不思議な艶があるというか……」
――かんべんしてくれ。
それより、次にどうするかの情報をください。
A「もちろん、待合室へ向かいますよっと。……もう、あのエレベーターも通電しているでしょうしね」
【To Be Continued】




