第18話 浪費家の節制と無気力な星
――それでは、改めまして。
太った女は、ヨダレまみれの顔面に引きつった笑みを浮かべながら、紙切れを一枚、黒男に手渡します。その内容は、以下のようなものでした。
『タロットカード表』
0 愚者/I 魔術師/II 女教皇/III 女帝/IV 皇帝/V 教皇/VI 恋人/VII 戦車/VIII 正義/IX 隠者/X 運命の輪/XI 力/XII 吊された男/XIII 死神/XIV 節制/XV 悪魔/XVI 塔/XVII 星/XVIII 月/XIX 太陽/XX 審判/XXI 世界
黒男(A)「やはり、ここの患者にタロットカードが関係しているのは間違いないな。そうなると……『おまえはだれだ?』の答えは……?」
――と、あなたが考えている間に、太った女は満足して眠ってしまいましたね。
A「いいでしょう。では、この辺りにあるもので、何か使えそうなものはありますか?」
――先ほど言った通り、この部屋のものは全てガラクタですね。
A「……ちなみに、自分の顔を映せそうなものは?」
――ありません。
A「なるほど、ずるはできない、と。……でもこの感じなら、武器として使えるものもあるのでは?」
――そうですね。投擲するのに都合の良いものなら、いくつかあるでしょう。
A「ゲットだぜ!」
――はい。ではあなたは、”五感”判定をお願いします。
難易度は”普通”、出目3以上で成功です。
A「はいはい! 【ダイスロール:6】ほいっと」
――ではあなたは、投げるのに手頃な……なんか、壊れたゲームボーイみたいなのを拾うことができました。
A「ゲーム……ボーイ……? なんです、それ」
――え? あなたゲームボーイ知らない?
A「はあ」
――マジか。突如として死にたくなってきた。
……じゃ、ニンテンドースイッチです。壊れたニンテンドースイッチでいいです。
A「えっ。スイッチを!? もったいないなぁ」
――壊れてるのでゴミです。
A「ふーむ。それでは、もう一つスイッチは落ちてませんか?」
――なんで? 対戦したいの?
A「いや、そーじゃなくて、恋人ちゃんの分の投げ物を用意しておきたいな、と」
――ほう。いいでしょう。では似たような重さのものを探すとして、難易度は”難しい”。出目5以上で成功とします。
A「ほい。【ダイスロール:8】 はい成功」
――では、壊れたゲームギアが手に入ります。
A「ゲーム……ギア……? また、未知のアイテムが」
――要するに、手頃に投げられる、そこそこ重みのある何かということです。
A「それでは黒男は、恋人ちゃんにゲームギアを渡して、部屋を出ます」
――はい。ではあなたたちが次に向かうのは、15号室です。
A「タロットカードで言うなら……次は……うーん、ちょっと待った!」
――おや?
A「”悪魔”の部屋は、後回しにしましょう。なーんか厭な予感がするし」
――構いませんよ。そうなると次は、16号室ですが。
A「ええと、16は”塔”の暗示かぁ。……確か”塔”って、ろくなことが書かれてなかったような……」
――へえ。よく知ってるじゃない。詳しいのかい。
A「お友だちに、オカルトに詳しい娘がいましてね。……――うーん、どうしよ。とりあえず、罠の感じがする15と16号室は保留して、もう一つの廊下へ向かいます」
――良いでしょう。では、受付を経由して2F西側の廊下へ向かいます。
17~21号室と繋がっている廊下ですね。
A「それではまず、散らばっている紙を……」
――あ、ごめんなさい。ここ、紙が散らばってないんですよ。
A「え。ほんと?」
――はい。
A「うーん。どっかで情報を得る必要があるのかな……。ではまず、”星”を暗示する患者さんから会っていきましょうか」
――それはつまり、17号室へ向かう、ということですか?
A「もちろん!」
――ではあなたは、17号室の扉に手をかけます。扉は問題なく開くでしょう。
中は、見慣れた病室です……が。
そこにいたのは、一糸まとわぬ姿でベッドに横になっている、一人の女性でした。
A「いっしまとわぬ……?」
――裸ってことですね。
A「きゃあ! えっち! セクハラ!」
――勘弁して下さい。そういうシナリオなんです。
なお裸の女は、金髪の白人女性に見える仮面を被っていますね。
黒男「ハレンチな女だな……おっぱい丸出しじゃないか!」
――ちなみに裸の女は、あなたを見ても反応も示さず、一人でぶつぶつと何か言っています。
裸の女(GM)「ああ、いやだいやだ! ……何をやってもうまくいかないし、死んでしまいたい。……でも私、死ぬ気力もないわ……」
黒男「おいおいあんた、おっぱい丸出しだぞ。服を着ろ」
裸の女「いやよ、面倒くさい。私はずーっとここで、こうしているの」
黒男「ふつうにお腹こわすと思うけど」
裸の女「そうなっても構わないわ。私ここで、静かに朽ち果てていくのよ」
黒男「そういう訳にもいかんだろ……」
――そこで女は、話し疲れたのか押し黙ります。
黒男「男の前で、こんな無防備な姿をさらすとは……とりあえずこの、丸出しのおっぱいが目につかないよう、布団を被せよう」
――では黒男は、女に布団を被せるでしょう。
黒男「よし。これで落ち着いた。おっぱい丸出しなんだものな。困るよ」
――裸の女は、相変わらずぼんやりしています。
A「ねえ、GM。ちなみに一連の出来事、”恋人”ちゃんはどういう感じで見ていますか?」
――仮面越しなので、表情はよくわかりませんね。
A「《読心術》を使います」
――では、GMがダイスロールして、出目を伝えず内容のみ伝えます。
【ダイスロール:??】 ……ふむ。
恋人ちゃんは、なんだか厭そうな感じですね。
黒男にはあまり、ここに長居して欲しくなさそうです。
A「それは……ヤキモチ焼いてるって感じ?」
――そんな感じですね。
A「あらカワイイ。なでなでします」
――恋人ちゃんは、うっとりしてますね。
黒男「ぼくは、おっぱい丸出しの女より、おっぱい丸出しじゃない女の方が好きだぜ」
――では黒男たちは、裸の女を前にして、思う存分イチャイチャしました。
黒男「……おっと。こんなことばかりしている訳にはいかないな。……ここで得られる情報はもうなさそうだし、そろそろ次に行こうか」
――そうしてラブラブカップルの二人は、18号室へ向かいます。
A「……と、その前に、恋人ちゃんを止めて、推理を発表しましょう」
――ほう。いいでしょう。
黒男「無気力な”星”と、浪費家の”節制”。……この二人の一件で、おおよその状況がわかってきた。どうやらここの患者は、”逆位置”の暗示を受けているらしい」
恋人「………………………?」
黒男「もちろん、全員がそうとは限らないけどね」
――恋人ちゃんは、しきりに感心した様子です。
A「ほんとに?」
――少なくとも、あなたにはそう見えています。
A「ふむ。……わかりました」
――では、彼女はぴったりと、あなたの腕に抱きつきますね。
A「えへへ。かーわーいい。……なでなでします」
――少女は、黙ってそれを受け入れます。
A「では、次の部屋へ向かいましょうか。”月”を暗示する患者の部屋へ」
【To Be Continued】




