第10話 新たな物語
(過剰なまでに整理整頓されたワンルームで、二人の男女が向かい合っている。
片や、どこか哀しげな目をした中年男。
片や、十代半ばほどの、勝ち気な娘だ。
男が、フリー音源のBGMを流し始める。
再び、彼らの物語が始まるのだ)
A「さあて、本日もTRPGセッション、やっていきましょうか」
――はい。
A「それで今日は……その、くとぅるふてぃーあーるぴーじー? っていうのをやるんで?」
――そうだね。でもきみ、今日もぜんぜん、ダイス持ってきてないね?
A「うふふ……。まあね!」
――なんで得意げなの?
これじゃあきみ、いつまでたっても公式のルールで遊べないことに……。
A「でもあたし、気づいてましたよ? 前回遊んだ『えんぴつTRPG』のルール、例のその、クトゥルフがどうこうっていうバージョンもある、ってコト! あたし今日は、そっちをやりたかったんです」
――ああ、そうか。
どおりで前回、大量のえんぴつを置きっぱなしにしていたわけだ。
A「へへへ! 忘れ物したら、また来るきっかけになるでしょ?」
――なるほどね。
まあ、そんなこともあろうかと思って、現代編のシナリオでも遊べるよう、調整しておいたよ。
A「ほーら。GMはお見通しだ!」
――ところできみ、クトゥルフ神話についてはどの程度知識があるのかな?
A「えーっと……。ぶっちゃけ、ユーチューバーの人がときどき話すなーって程度の知識しか」
――そうか。YouTuber。それも時代か。
A「でもおじさんも、アレ好きでしょ。萌え系配信者の……」
――……ごほん。
ええと、話が逸れたね。クトゥルフ神話っていうのは、ハワード・フィリップス・ラヴクラフトという小説家の作品を元に生み出された、架空の神話大系のことだ。
基本的には、我々が生きるこの世界の裏には様々な神話生物が息づいていて、人類は彼らの手のひらの上で弄ばれている。……なんていう世界観の作品群を指す。
だから現代編は、ちょっとホラーっぽいシナリオが多めかな。
A「ふうん」
――新しいルールを追加した『えんぴつTRPG』は、そうしたラブクラフト作品群を元ネタにしたルール設定を行っている。
具体的に、追加される要素は2つだ。
”狂気値”と、”スキル”。
”狂気値”は、きみのキャラクターがどれくらいストレスを溜め込んでいるかを現したものだ。
キャラクターが恐ろしい目にあうほどに溜まっていって、そのキャラクターのロールプレイに影響を及ぼすだろう。
A「ほうほう。もう一つの”体力”、ってかんじですね」
――その通り。
次に、”スキル”だ。この”スキル”というのは、そのキャラクターが覚えている特技……あるいは得意なこと全般を指す。
これをによりきみのキャラクターは、特殊な技や術を使用できるようになるんだ。
A「それってつまり、……いつでも魔法を使えるようになるって、コト?」
――ものによってはね。ただ、今回の『えんぴつTRPG』は、それほど魔法が一般的ではない世界が舞台だ。だから、最初から魔法を覚えていることはないだろう。
A「ふーむふむ。ちょっぴり難しそうだけど、……ま! いいでしょう。とりあえず、やってみればわかる!」
――そうだね。ではまず、キャラの基本パラメータを決めてくれ。
A「はあい。……うわ。結構あるな。……ふむふむ……」
(カキカキ……コロコロ……)
A「はい! おーけー、きまりましたよ!」
『キャラ名:円筆 黒男
出身:日本
体力:3
精神力:6
筋力:2
知力:12
五感:10』
――……これまた、偏ったキャラだなあ。ひ弱な天才キャラってところか。
A「へへへ……!」
――あ、ちなみに今回から、能力の合計が平均値の35以下だった場合は、足りない分のパラメータを自由に割り振って良いよ。
A「え! いいんですか?」
――うん。むしろ前回のキャラメイクが間違いだったんだ。
改めて確認したところ、詰み防止のために弱すぎるキャラを強化するルールがあった。
A「ほー、ほー。……つまり前回は、実質縛りプレイだったと?」
――まあね。GMも間違えることはある。
A「そっかぁ。では、シュバルツにごめんなさいしないといけませんね。……まさか、あんな死に方をするなんて……」
――いやまあ、死亡したのは、プレイヤーさんサイドに原因があったような……。
A「ん? 何か?」
――いや。なんでも。
……では次に、さっき話した”スキル”を、9つまで覚えて欲しい。
覚えられる”スキル”には条件があるから、よく注意してね。例えば、《剣技(中級)》を覚えられるのは、《剣技(初級)》を覚えたキャラだけだ。
A「はあい。……って、うわ。結構たくさんありますね」
(かきかき……かきかき……)
A「これに、パラメーターを割り振って、と。……完成!」
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キャラ名:円筆 黒男
種族:日本人
体力:3
精神力:8
筋力:2
知力:12
五感:10
設定:名門、円筆家の次男。
パソコンとかめっちゃ使うのがうまいひと。
哀しい心を持っているが、それを表に出さないクールガイ。天才なので、パソコンがうまい。現在、家のくだらないしがらみから逃れ、現在はフリーのなんか……パソコンを使う仕事とかして暮らしている。
●覚えたスキル
《ナイフ(初級)》:ナイフを使った命中判定に+1D6する。
《連続攻撃》:精神力を1消費し、1ターンに二回メインアクションを行う。
《根性》:致命的なダメージを受けた時に使う。精神力を全て消費して、どのようなダメージでも”体力”1で生き残る。
《応急手当》:【1d6-1】のダメージを回復する。このスキルは一日に一回しか使えない。
《超集中》:”五感”を使った行為判定の難易度が3段階下がる。1セッションにつき1回しか使えない。
《魅了》:異性との交渉に使用可能。行為判定の難易度が1段階下がる。
《読心術》:相手が嘘を吐いているかどうかを判別する。このスキルの判定は、ダイスをGMが振って、出目を説明せずに結果だけを言う。
《電脳知識》:コンピューター・スマホを利用した行為判定の難易度が2段階下がる。
《雑学》:三種類まで、そのキャラが詳しい雑学を設定する。それに関連した行為判定の難易度が1段階下がる。
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――ふむふむ。攻撃系、探索系、交渉系と、なかなかバランスよく出来上がったね。
A「えっへん」
――ちなみに、プレイヤーの宣言がないと、スキルの効果を発動させないから、よろしくね。「うっかり」は通じないので。
A「りょーかい!」
――(今度こそ、死亡させずに済むだろうか)
ええと……それではさっそく、セッションを始めたいと思う。
現代編チュートリアルシナリオ:『おまえは だれだ?』。
よろしくお願いします!
A「よろしくお願いしまぁす!」
【To Be Continued】




