大司教の言葉
色々あってから数日、今日は12月31日、前世で言うところの大晦日である。どうもこちらの世界でも年末に大掃除をする習慣があるようで、私とママは朝から家の掃除に追われていた。
ちなみに王城に行ったあとから今までは、1度エドガス様の屋敷に行って呪力視の指南を受けたくらいで特筆するようなことはしていない。
「カナ〜そろそろ夜ご飯にしましょ〜」
「はーい」
――――
「ねえカナ、明日一緒に教会までお祈りに行かない?」
「あ、そうだね。行こっか」
日本では、正月は神社にお参りに行く習慣があったが、こちらの世界でも似たような習慣があるようだ。これに限らず、この世界には所々日本と同じような習慣や物があったりする。「Amour Tale」が日本で作られたものだからそんなに不思議なことでは無いのだが、そもそもあの乙女ゲームとこの世界の因果関係は分かりきっていないままだ。まあ気にしてもしょうがないが。
――――――
翌日、私とママは朝から教会へと向かった。
「よし、着いた!」
教会前に着くと、多くの人で賑わっていた。私たちは人混みを掻き分けながら教会の中へと入る。
教会の前に行くことは度々あったが、中に入るのは地味に神の啓示のとき以来である。
教会の中に入ると、外と同じく多くの人でごった返しており、教会の中央には長い行列ができていた。
「あらら、やっぱり司教様のところは混んでるわねえ…推薦のお礼がしたいんだけど…でも、せっかくだから並びましょうか。」
「そうだね」
ママが言うように、行列の先にいるのは神の啓示のときと魔術学院の推薦入学のときにお世話になった司教だ。どうやら彼からお言葉を貰うために並んでいるようだ。
先程から"司教"とは言っているが、後々調べたら彼は大司教だったらしい。要するにリアムール王国にいる聖職者の中で1番偉い人である。
大司教は一応分類上は貴族ではないが、実質的に侯爵か公爵クラスの権限を持っている。私を魔術学院に推薦できたのもそのおかげだろう。
そして凄いのは権限だけではない。魔力視で確認してみると、エドガス様に準ずるレベルの魔力量だ。噂によれば魔導師としての練度も相当のものらしい。
「司教様とお話したら、神様にお祈りしないとね!」
「そうだね」
…ところで、私は"神"の存在をいまいち信じかねている。別に無神論者では無いのだが、なんとも現実味が無いのだ。
神の啓示のときにしても、大司教がそれぞれの魔法適性を伝えていたのは、神のお言葉などではなく魔力視で見ていただけなのではないかと思う。
魔力視を使うと、魔力が光って見えるようになるのだが、私が見るとかなりぼやけていたり動いていたりであまり細かい魔力量は分からない。しかし、エドガス様によると、極限まで使いこなせれば魔力の正確な数値、属性はもちろん傾向までわかるようになるのだそうだ。大司教ならそれができてもおかしくはない。
とはいえ"神の啓示"は魔法適性を教えるだけでなく、魔法を使えるようにもするので、それを大司教1人でやっているとも考えづらい。…そのうち怒られない程度に調べてみたいものだ。
――――――
しばらく並んでいると、やっと私たちの番となった。
「次の方は…おや、ベルナールさん。」
「はい、お久しぶりです。」
「では、おひとりずつどうぞ。」
まずママが先に出て、大司教からのお言葉をもらう。普通は悩み事を打ち明けてそれに答えてもらうのだろうが、ママの場合"推薦ありがとうございます"とか、"娘は立派にやってます"とか、ほぼ世間話だった。
「では次、カナ・ベルナールさん。」
「はい」
ママは順番が終わったようで、いつの間に遠くの方でこちらを待っていた。
「あなたは、何か気にかかっていることがありますか?」
しまった、これだけ待っていたのに何を聞くか考えていなかった。そうだな…
「私が今できることは何か、ですかね。」
大司教は一瞬考えてから口を開く。
「今この瞬間、あなたができることは非常に限られています。しかし、やがて時期が来れば自然と機会は巡ってくるでしょう。」
「なるほど…」
「…あなたは、非常に稀有な存在です。まるで複数の命の運命を引き継いでいるかのような…」
それはあれですか、乙女ゲームの各ルートで"ヒロイン"が色んな人と結ばれてることを言ってるんですか、それとも"カナ・ベルナール"の中に"ヒロイン"と"私"の両方存在していることを言っているんですか。
神の啓示のときもそうだったが、この人の発言は的を射すぎていてちょっと怖い。
「それに、魔術学院に入学したことはそのどの運命とも離れています。ですから、そのことは元の因果とは大きな変化をもたらすでしょう。しかし…それがあなたにとって善か、悪かは私には判断できません。」
「…そうですか…ありがとうございます。」
「他には何かありますか?」
「…いえ、もう大丈夫です。それでは。」
――――――――――
「カナ、何をお話してきたの?」
「まあ…ちょっとね。それで、神様にお祈りするんだっけ?」
「あらそうだった、行きましょ!」
その後私たちは、神様にお祈りしてから家に帰ってきた。今はダイニングで談笑中である。
「そういえば、大司教様に"どうしてカナを推薦してくださったんですか?"って質問したら、不思議なこと言ってたわ〜」
「なんて?」
「"私は彼女が新たな運命を切り開く手助けをしたにすぎません。…見てみたいのです、彼女が何を成し遂げるのか。"だって!運命ってなんのことかしらね?」
「そう、だね…なんだろ」
やはり、あまり神だとか占いだとかは信じ過ぎないタチだが、どうにも大司教の発言は的を射すぎている気がする。もはや、大司教が"実は私が神です"とか言い出したら割と信じるレベルだ。
…まあそれは置いておくにしても、大司教の言うように、しばらくは躍起になって行動しようとはせず、己の強化にでも時間を費やしていくとしよう。




